董卓たちと話しながら、到着した謁見の間の入口。
ドス黒いオーラが扉を覆っているように見えるのは気のせいだと思いたい。折角のハレの日でとてもめでたいはずが、この陰鬱な雰囲気は何だろうか。
やはりここは伏魔殿、魔物
隣を一緒に歩いていた董卓が、その歩みを止める。
その視線の先、入口の隣に立っていたのは、何やら複雑な表情をしている何進だった。
会いたかったが、どのような顔をして会えば良いのか、全く分からなかった。
慶に手術をしてもらい、回復した後は不正を行う役人を罰してきた。
それが問題だった。
今までの行いが祟ったのだ。
私に対して向けられていたものは、仕事に対する期待などではなく、立場や権力にあやかろうとするものだけだったのだ。分かってはいたものの、慶の手術によってそれは明白となった。
何進は間もなく死ぬ。新たな権力を持つものに賄いを、と動く者たちが浮き彫りとなった。それが慶によって無駄金になったのだ。しかも復活した私は新たな賄いを受け取らなくなり、役人たちは虎の威を借る狐から、ただの獣となったのだ。
そうなれば、私は用済みの人間である。暗殺を察知したら、瑞姫を連れて建業まで逃げてしまおう。そう考えていた時に影で聞いてしまったのだ。
『あの杏林とか名乗る医者、やはり消してしまおうか』
『それが良い。何進の心変わりはヤツが原因だ』
『何を言われようと、所詮は人。
『何進、何太后共々……殺ってしまわんとなぁ……』
だが、言うは易く行うは難し、という言葉があるがそれは真のようで、計画を立案すれど行動に起こす者はいなかった。いや、起こせなかったというのが真実だろう。建業まで動かせる人間がいないというのが本来の理由で、見事に漢王朝の退廃を表していた。
私へ向けられる刃は
しかし、そのような心配をよそに、慶は式典参加のため、洛陽に来る事になってしまった。するとどうだ、役人共は私を救った医者を饗そうと偽り、その毒牙にかけようと計画を始めた。
それはならんと、止めようと思ったが時すでに遅し。大将軍の名で出されたお触れにより、民衆は真の善意で饗そうとしたのであった。
私の権威は失墜したと言って良いだろう。十常侍の私へ向ける視線も、随分と下賤なものに変わり果てていた。
話を戻そう。
そんな時、私はどのような顔をして慶に会えば良い?
どうせ、謁見の間で会うのだから悩んでも仕方ない。出迎えには董卓が出ている。私の出る幕ではない。
曹操にも青州行きを奪われるぐらいだ。私の力はここまでである。
もし曹操に奪われなければ、この場には孫堅とその側近だけが来るはずだったのに。それすらも曹操は跳ね除け、私が慶を守ると言い張って洛陽へと連れてきた。
ならば、私は慶と言葉を交わすことなく、早く洛陽から無事に建業へと戻れることを祈るだけである。
そうして向かった謁見の間、以前仕立てた正装に身を包み、いざ扉を開けようと思ったら、こちらに向かって歩いてくる一行が見えた。
「慶……」
藍色から群青色、瑠璃色へと陽光に照らされて鮮やかさを変える青い衣と、キラリと光る金の模様。腕から袖にかけての純白は、見る者を飽きさせない素晴らしい出来だった。
見惚れてしまっていた。以前見た純白の衣とは違い、立派な正装の彼は一段と凛々しく、そして良く似合い、格好が良かった。
「やぁ、傾。元気そうで何より……どうした、体調が優れないのか?」
「い、いや大丈夫だ……色々と申し訳なかったな……。多大な迷惑を掛けてしまって、どのような顔で会えば良いのか分からなかったのだ……」
「そんなこと、簡単なことだ」
董卓が扉を開け、曹操や孫堅は先に部屋へと入っていく。
慶は私の肩を軽く叩き、部屋へと促しながら言った。
「笑っていれば良い。さぁ、行くぞ、大将軍殿」
慶は私を置いて、孫堅の元へと向かう。その背中は大きかった。
瑞姫、私はまだ死ねない。見事な
「今晩は忙しくなりそうだな……
「えぇ、そうですね……傾さん」
傾は凛々しい顔つきで、謁見の間に入ってきた。複雑そうな顔つきでないことからも、何やら吹っ切れたようである。
自分は炎蓮さんから離れ、冥琳のいる臣下が集まる後列へと向かった。
謁見の間に入れば、普通に会話をすることすら難しい。この静寂がより不気味に感じ、殺気も惜しみなく漏れている。その殺気も、人の視線も全て自分に向けられているように思えて仕方ない。
そして不思議なことに、全体を見渡すと、以前はいたはずの盧植や皇甫嵩の姿が見えなかった。
「冥琳、盧
とにかく迷惑にならないように努めながら、小声で訊く。
「先の黄巾討伐で涼州へと行っているようだ」
手で口元を隠しながら、ボソボソと答えてくれるが、その声も響きそうだった。
「遅くなりましたわ、失礼!」
その静寂をブチ壊しながら入ってきたのは、一度庭で見た金髪ロール令嬢、袁紹だった。
「何者だ! 名を名乗れ!」
流石にマズいと思ったのか、玉座の脇に立っていた傾が声を荒らげた。
「あら、この私が名乗る必要などありますの?」
「……早く席に着け、袁本初」
怒られなかったが、袁紹は顔パスなのか。そしてその袁紹も、自分の服を頭の先から爪先までを舐め回すように見てきた。
「この男があの……。南方の田舎者もまともな服を着られるようですわね?」
「袁紹!」
「分かってますわ!」
傾を何とも思わず、発言できる豪胆さは見習う所があるかもしれない。これが、三公を輩出した袁家の力か。一般市民から大将軍に成り上がった何進とは、また違ったプライドをさぞお持ちなのだろう。
「集まったな……では式典を開始する。天子様の御前である。控えよ!」
この時代に来てから一番長い、神経を擦り減らす一日が始まった。
アンケートを見てみますと、「記憶持ちキャラの解説」と「説明不要」が拮抗状態のようです。
これ、解説なしの方が良いんかなぁ。ただ、誰が記憶を保持しているのか分からなくなると思うので、誰が現在思い出しているかだけを書くようにしましょうか。