真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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 思ったよりも筆がノッちゃったので、前のお話の閲覧数が1000を超えてないですけど、投稿しちゃいます。


式典〈2〉

 董卓たちと話しながら、到着した謁見の間の入口。

 西園八校尉(さいえんはつこうい)と州牧の任命式典を行うという風に聞いていたが、その入口の扉は固く閉ざされている。

 

 ドス黒いオーラが扉を覆っているように見えるのは気のせいだと思いたい。折角のハレの日でとてもめでたいはずが、この陰鬱な雰囲気は何だろうか。

 

 やはりここは伏魔殿、魔物(うごめ)く宮中だ。油断は禁物である。自分が殺害対象(ターゲット)である以上、無闇に動き回ることは避けるべきだろう。もしものことを考えて、常に気を張っていなければならない。

 

 隣を一緒に歩いていた董卓が、その歩みを止める。

 その視線の先、入口の隣に立っていたのは、何やら複雑な表情をしている何進だった。

 

 

 

 

 

 会いたかったが、どのような顔をして会えば良いのか、全く分からなかった。

 

 慶に手術をしてもらい、回復した後は不正を行う役人を罰してきた。(まいな)*1を受け取ることもしなくなった。

 

 

 それが問題だった。

 

 

 今までの行いが祟ったのだ。

 

 瑞姫(れいちぇん)が皇帝陛下に見初められ、市井(しせい)の肉屋だった私は、その恩恵で大将軍まで上り詰めた。結果、その向けられる嫉妬心はどれほどのものだったろうか。

 

 私に対して向けられていたものは、仕事に対する期待などではなく、立場や権力にあやかろうとするものだけだったのだ。分かってはいたものの、慶の手術によってそれは明白となった。

 

 何進は間もなく死ぬ。新たな権力を持つものに賄いを、と動く者たちが浮き彫りとなった。それが慶によって無駄金になったのだ。しかも復活した私は新たな賄いを受け取らなくなり、役人たちは虎の威を借る狐から、ただの獣となったのだ。

 

 

 そうなれば、私は用済みの人間である。暗殺を察知したら、瑞姫を連れて建業まで逃げてしまおう。そう考えていた時に影で聞いてしまったのだ。

 

 

『あの杏林とか名乗る医者、やはり消してしまおうか』

 

『それが良い。何進の心変わりはヤツが原因だ』

 

『何を言われようと、所詮は人。()りようは幾らでもある』

 

『何進、何太后共々……殺ってしまわんとなぁ……』

 

 

 だが、言うは易く行うは難し、という言葉があるがそれは真のようで、計画を立案すれど行動に起こす者はいなかった。いや、起こせなかったというのが真実だろう。建業まで動かせる人間がいないというのが本来の理由で、見事に漢王朝の退廃を表していた。

 

 私へ向けられる刃は(ことごと)く跳ね返してきたが、もう間もなく限界である。ぜひ次の大将軍や中郎将にと推薦文を送ってくる者もいる始末だ。

 

 

 しかし、そのような心配をよそに、慶は式典参加のため、洛陽に来る事になってしまった。するとどうだ、役人共は私を救った医者を饗そうと偽り、その毒牙にかけようと計画を始めた。

 

 それはならんと、止めようと思ったが時すでに遅し。大将軍の名で出されたお触れにより、民衆は真の善意で饗そうとしたのであった。

 

 私の権威は失墜したと言って良いだろう。十常侍の私へ向ける視線も、随分と下賤なものに変わり果てていた。

 

 

 話を戻そう。

 そんな時、私はどのような顔をして慶に会えば良い?

 

 

 どうせ、謁見の間で会うのだから悩んでも仕方ない。出迎えには董卓が出ている。私の出る幕ではない。

 

 曹操にも青州行きを奪われるぐらいだ。私の力はここまでである。

 もし曹操に奪われなければ、この場には孫堅とその側近だけが来るはずだったのに。それすらも曹操は跳ね除け、私が慶を守ると言い張って洛陽へと連れてきた。

 

 ならば、私は慶と言葉を交わすことなく、早く洛陽から無事に建業へと戻れることを祈るだけである。

 

 

 そうして向かった謁見の間、以前仕立てた正装に身を包み、いざ扉を開けようと思ったら、こちらに向かって歩いてくる一行が見えた。

 

 

「慶……」

 

 

 藍色から群青色、瑠璃色へと陽光に照らされて鮮やかさを変える青い衣と、キラリと光る金の模様。腕から袖にかけての純白は、見る者を飽きさせない素晴らしい出来だった。

 

 見惚れてしまっていた。以前見た純白の衣とは違い、立派な正装の彼は一段と凛々しく、そして良く似合い、格好が良かった。

 

 

「やぁ、傾。元気そうで何より……どうした、体調が優れないのか?」

 

 (ほう)けてしまっている内に、慶は私の顔を覗き込むように見てきた。

 

「い、いや大丈夫だ……色々と申し訳なかったな……。多大な迷惑を掛けてしまって、どのような顔で会えば良いのか分からなかったのだ……」

 

「そんなこと、簡単なことだ」

 

 董卓が扉を開け、曹操や孫堅は先に部屋へと入っていく。

 慶は私の肩を軽く叩き、部屋へと促しながら言った。

 

 

「笑っていれば良い。さぁ、行くぞ、大将軍殿」

 

 

 慶は私を置いて、孫堅の元へと向かう。その背中は大きかった。

 

 瑞姫、私はまだ死ねない。見事な徒花(あだばな)を咲かせようではないか。

 

「今晩は忙しくなりそうだな……(ゆえ)よ」

 

「えぇ、そうですね……傾さん」

 

 

 

 

 

 傾は凛々しい顔つきで、謁見の間に入ってきた。複雑そうな顔つきでないことからも、何やら吹っ切れたようである。

 

 自分は炎蓮さんから離れ、冥琳のいる臣下が集まる後列へと向かった。

 

 謁見の間に入れば、普通に会話をすることすら難しい。この静寂がより不気味に感じ、殺気も惜しみなく漏れている。その殺気も、人の視線も全て自分に向けられているように思えて仕方ない。

 

 そして不思議なことに、全体を見渡すと、以前はいたはずの盧植や皇甫嵩の姿が見えなかった。

 

「冥琳、盧子幹(しかん)殿と皇甫義真(ぎしん)殿がいないぞ」

 

 とにかく迷惑にならないように努めながら、小声で訊く。

 

「先の黄巾討伐で涼州へと行っているようだ」

 

 手で口元を隠しながら、ボソボソと答えてくれるが、その声も響きそうだった。

 

 

「遅くなりましたわ、失礼!」

 

 その静寂をブチ壊しながら入ってきたのは、一度庭で見た金髪ロール令嬢、袁紹だった。

 

「何者だ! 名を名乗れ!」

 

 流石にマズいと思ったのか、玉座の脇に立っていた傾が声を荒らげた。

 

「あら、この私が名乗る必要などありますの?」

 

「……早く席に着け、袁本初」

 

 怒られなかったが、袁紹は顔パスなのか。そしてその袁紹も、自分の服を頭の先から爪先までを舐め回すように見てきた。

 

「この男があの……。南方の田舎者もまともな服を着られるようですわね?」

 

「袁紹!」

 

「分かってますわ!」

 

 傾を何とも思わず、発言できる豪胆さは見習う所があるかもしれない。これが、三公を輩出した袁家の力か。一般市民から大将軍に成り上がった何進とは、また違ったプライドをさぞお持ちなのだろう。

 

「集まったな……では式典を開始する。天子様の御前である。控えよ!」

 

 

 この時代に来てから一番長い、神経を擦り減らす一日が始まった。

*1
賄賂のこと




アンケートを見てみますと、「記憶持ちキャラの解説」と「説明不要」が拮抗状態のようです。

これ、解説なしの方が良いんかなぁ。ただ、誰が記憶を保持しているのか分からなくなると思うので、誰が現在思い出しているかだけを書くようにしましょうか。
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