真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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随分と現代編の幕間を書いていませんでしたので、投下します。


幕間:救命(たすけ)

「遅いぞ、内海(うつみ)

 

 湯川から渡されたメモには、近藤の知り合いだという者の名前と、所属の病院が記されていた。

 

「突然呼び出してどうしたんですか」

 

 部下の内海は、とても不機嫌そうであった。

 

「帝大附属病院の近藤って研修医が失踪したのは聞いているだろ。アレだ。関係者がここにいる」

 

「あの震災で行方不明者が大勢出ているのにですか?」

 

 メモを内海に渡して、目的の病院に入った。あの震災の後だ。未だ首都機能は完全回復に至っていない。一部では遷都計画が上がっているほどだ。ネットでは箱根案が盛り上がっているが、広島や岡山、博多と主に西日本の案が挙がっていて、日夜テレビを騒がせている。

 

 死傷者数、行方不明者数も有史以来、最悪の数字を更新した。確かに、このような状況下でたった一人の失踪者を探す方がおかしいと言えるかもしれない。

 そんなことはどうでもいい。湯川が言っていた医者から近藤の情報を訊き出して、少しでも手掛かりになるものを見つけないといけない。

 

「……近藤は、帝都大学出身なんですよね? この喜多見(きたみ)って人もそうなんですか?」

 

「いや、ニューヨーク医療大学らしい。近藤はここの救急医療チームの臨時メンバーだったこともあるそうだ。行くぞ」

 

 俺の後ろに内海が付いてくる。湯川が苦手だと言う医者、大体の想像がつくが、どのようなものか見てみたくなった。

 

 内海はメモに書かれている『東京海浜病院 喜多見幸太』の文字を見た。相変わらずそっけない走り書きの筆跡だった。

 

 

 

 

 

「近藤先生は、腕の良い先生です……まさか行方不明だなんて……」

 

 眼の前にいる男、喜多見はかなり驚いているようだった。いや、喜多見だけではなく、チームメイトの面々も動揺を隠せないでいた。

 

「喜多見さん、その近藤さんを探すために情報を集めています。ぜひご協力を」

 

「えぇ、分かりました。何でも訊いてください」

 

 

 それからこの救急医療チームのこと、喜多見自身のことを訊いていくが、なるほど。湯川が苦手そうな男だった。救命救急に尽力する熱血漢。しかし冷静に指示を出せる、言うなれば青く燃える炎を心に灯したような男である。俺は割と好きなタイプだ。

 スタッフルームを訪ねたら、室内の階段でトレーニングをしていたから、レスキュー隊の部屋と間違えたのかと思ったが。

 

「近藤先生も、よく筋トレされていましたよ。長時間の手術にも耐えられるようにって。同じ研修医とは思えないほど度胸もあって、チーフが二人いるような感じでした」

 

「そうそう、(まさ)しく『竹馬の友』がピッタリでした!」

 

「ミンさん、難しい言葉知ってますねぇ」

 

 

 いつの間にか、喜多見のチームメイトも巻き込んで情報提供をしてもらっていた。

 

「たった数年の期間でしたが、凄い方でした。その後は古巣の帝大、しかも高度救命救急センターに異動されたから……震災時には居てほしかったですね」

 

 蔵前(くらまえ)という看護師は、研修医とは思えない腕を持った近藤に対して関心を持っているようだった。

 

「そんなに凄い方だったんですか?」

 

「もし、ランクがあるならば、特A級と言っても差し支えありませんでしたね。即応対処を完璧にこなす研修医は見たことがありません。音羽(おとわ)先生はどんな印象をお持ちです?」

 

 チーム最年長……ロッカーにも『副チーフ』と書いてある冬木が、いかにもお硬そうな印象を持つ、音羽という統括官に話を投げかけた。

 

「爆発現場にも躊躇(ためら)い無く飛び込む精神は、喜多見チーフと何ら変わらない、ここのモットーを体現したような人です。呆れてモノも言えませんでしたが」

 

 内海も愛想笑いしか返せないようで、それは俺も同じだった。湯川からも近藤の武勇伝を軽く聞かされていたが、これでは蛮勇というか、命知らずと言われても仕方がない。

 出された緑茶を啜り、カフェイン摂取量を気にしながらも話を聞いていく。

 

 都知事の肝いりで誕生したこのチームの使命、『死者を一人も出さないこと』を体現したような喜多見と近藤に圧倒されたのだった。

 そして、近藤が帝大に戻ったのはかなり前のようだ。ここの情報も空振りだが、最後にこう質問した。

 

「最後、一緒に出動した案件は、どのようなものだったんです?」

 

 

 

 

 

「この近藤って医者、本当に研修医なんですか? 経歴だけなら、どう見てもベテランじゃないですか。年齢詐称? ……話、聞いてます?」

 

 本部に戻った俺たちは、近藤の経歴書と出動履歴を見ながらデスクで休憩をしていた。

 

「あの蔵前って看護師、美人だったな……。湯川に教えてやろうかな」

 

「は?」

 

 冗談を言いたくなるくらい、今日は疲れた。

 

「大学爆破事件、隅田川屋形船火災、東京湾アクアライン事故火災……最後の出動は、横浜みなとみらいのランドマークタワー爆発事故……近藤だけじゃねぇ。あの喜多見って医者も相当の命知らずだ……」

 

 出動履歴は箇条書きでたったのペラ紙三枚。だが、そのたった三枚に乗る命の重みが、喜多見らのチームの存在意義を現していた。

 

 もののついでにと教えてもらった、東京消防庁の千住(せんじゅ)という即応対処部隊の隊長に話を聞くと、驚きながらも静かに『命知らずのバカ野郎だが、とても良いヤツだ』という返答があった。誰も彼もが、近藤を心配している。

 

 

 

 光に包まれて、薬剤庫から姿を消した近藤。

 

 その方法も、唯一の頼みの綱だった湯川に訊いても分からない。

 

 そういえば、湯川はまた戻ってこいと言っていたな。

 

「内海、湯川にまた紹介してもらう。行くぞ」

 

 

 もうカフェインは摂らないでおこうと、備蓄で積まれていた水を拝借して、警視庁を後にしたのだった。

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