「皆のもの、此度は大儀であった。今後も
頭を垂れながら霊帝の言葉を聞くが……なんとも気怠そうな声で、早く終わってくれないかというような雰囲気を出しながら喋る。
本当に一人称が『朕』なんだな、というどうでもいい感想を持ちながら、霊帝が立ち去る衣擦れの音を聞いていた。
「続いて、
何太后の声が響く。
「皆のもの……お、面を上げよ!」
そう言われ、玉座を見ると、可愛らしい女の子がいた。彼女が劉協……献帝である。曹洪は先ほどの董卓の時のように声を出したが、すぐさま夏侯淵に窘められていた。
「孫文台、貴女に揚州牧の位を与える。これからもこの漢のために、力を尽くしてほしい」
「はっ!」
炎蓮さんも、後ろ姿でしか分からないが、我が事のように嬉しい気持ちになってくる。揚州牧となり、これから孫呉の地盤は更に安定することは間違いない。
「次に、劉玄徳」
献帝は劉備へと視線を移し、呼びかける。
「は、ひゃいっ!」
あ、噛んだ。自分と同じように臣下の列にいた関羽と、その隣にいた、羽毛扇を持った少女が複雑な表情をしながら
あの少女は諸葛亮か……? あの羽毛扇は間違いないだろう。
「貴女には、徐州に向かってもらい、陶恭祖*1と共に徐州をまとめてほしい。彼女は身体の調子が良くないと聞いたの」
「わ、分かりました!」
星や天和が呉軍にいることからも、自分の知っている歴史から少しずつ外れていることは認識していたが、劉備が徐州に行く流れは変わらないようである。
自分はこれからも、建業で医者として、炎蓮さんの下で頑張って、孫呉を盛り立てていこう。これからの流れを思い出してみるが、この先は董卓の叛乱によって連合軍を結成することになるはずだ。そこで、恐らく自分は本格的に軍医として行動していくことになるのだろう。
あの董卓が叛乱を起こすなど、到底思えないが。
「次に……劉杏林!」
本当の静寂というのはこういうものなのか。水を打ったように静まり返る謁見の間。劉杏林って誰だっけ? 私の名前は一慶です。医療技術使ってます。
「……おい、早く立たんか!」
「え? は、はい!」
隣の冥琳に肘でつつかれて、自分の名前だったことを思い出す。そして勢い良く立ち上がった。
いや、ここ臣下の席ですが。何で呼ばれたんですか。呼ぶなら前もって話を詰めておいてほしいものだ。
「劉杏林、もっと近くへ……!」
献帝に言われるがまま、近くへと歩いていく。集まる視線が痛い。組み分け帽子で振り分けられる時の生き残った男の子も、こんな思いをしていたのだろうか。
炎蓮さんを始め、華琳も劉備も董卓も、そして傾も『なんで呼ばれたんだ?』という感じで首を捻っている。
「前来た時には挨拶が出来なかった……。何遂高を助けてくれたこと、そして呂奉先を助けてもらって、感謝している」
「私は……当たり前のことをしたまでです。お言葉を頂けて、ありがたき幸せです」
緊張していても、ある程度の言葉は出てくるもんだなと、内心ホッとしていたら、献帝は何太后から一枚の紙を受け取った。もうお礼でお宝をもらうわけにはいかないため、辞退をしないと。
「貴方に
「なっ!?」
とんでもない爆弾が投げ渡された。背後で一瞬、華琳が声を上げる。
太医令、献帝の役職である尚書令と同じく、少府と呼ばれるグループに属する役職である。少府は宮中での衣服や御膳などを担当するところでもある。その中でも太医令は天子様や皇族の診療を行う侍医の官職だ。
つまり、この役職を受けると漢の禄を食む者となるわけである。この後漢末期の不安定な時代に官職になれと言うわけだ。劉備にも出来なかった、辞退不可能のヘッドハンティングである。
いや、なんでこうなった。さっき炎蓮さんの下で頑張ろうって思ったところなのに!
非常に困った。献帝はジッと自分の顔を見てくるし、周りに意見を求めようにも、振り返って炎蓮さんや冥琳、華琳に助け舟を求めることができない。
チラッと視線を横にズラすと、傾の顔が見えたが困惑していてどうにもなりそうにない。詰んだ。
そして、嫌なことを思い出してしまった。太医令の仕事は宮中での診療である。つまり、皇帝陛下の近くにいることになるわけだ。
さぁ、問題を一つ出そう。
皇帝陛下の近くにいる役人はどのような者たちだろうか?
常に皇帝の側にあるため、政治的な力を持つことの多い役人たちは、次世代にその権力を渡せないように去勢させられた。
そう、答えは宦官である。
ちなみに現代のような医療技術はもちろん無いため、施術後には細菌による感染症によって三割の者が命を落としていたらしい。そんな痛い思いで死にかけてまで得たい権力なら、自分は御免被る。
そんなことはどうでもいい。
(俺……まさか宦官に?)
先刻言われた、曹洪のチョン切るという言葉が蘇り、背筋が凍って股間がヒュッとした。赤壁まで行けず、ここで終わりか……。まだ三国志序盤も序盤だぞ。
この思考時間、わずか三秒。辞退すれば、炎蓮さんたちがどんな目に合うか分からない。孫呉のため……、孫呉のためだ。
決して、割り切れるようなものではないが……太医令になって、官僚の立場から炎蓮さんたちを助けていけば良い。気分はさながら
「……分かりました、お受け致します」
かつて無い悲愴感ある顔で臣下の席へと戻ったのだった。
冥琳が何かを話しかけてきたようだが、全く耳に入ってこない。
ただ、炎蓮さんが言った天の御遣いとしてのお役目、一度でも経験しておけば良かったという後悔だけがあった。
宦官、調べれば調べるほどすげぇ仕組みですわ。これからどうなる慶!
アンケートですが、多くの方に答えて頂き感謝です。
前回、前々回のアンケートはちゃんと反映いたしますので、結果が出るまでしばしお待ちを。
記憶持ちキャラなどのアンケートは先に25票を獲得したものを。タイトル画像は先に15票を獲得したものを採用ということに致します。
また、記憶持ちキャラの説明などはこの後書きを利用します。説明に一話分使える気もしないので……。
ではまた次回。