これから黄祖戦までに、あの筋骨隆々になります。
おまたせしました。かなり短めですが、よしなに。
頭痛が酷くて文章が書けないってのがツラい。
謁見の間での評定も終わり、自分は炎蓮さんの自室に呼ばれていた。
「呼び立てて悪かったな。呼んだのは他でもない。一慶、貴様……名前を考えろ」
「……すみません炎蓮さん、説明を
説明が悪いと分かっているのか、炎蓮さんはため息を一つ。
「一慶を二人に分ける」
「もっと分からなくなったんですが」
物理的に真っ二つにしそうな、そんな鋭い目を向けてきた。
「何を勘違いしているバカ者。天の御遣いとしての一慶と、医者としての一慶を分けるということだ。さすがにこの屋敷の中でも、何が起こるか分からん」
炎蓮さんは、自分の首を手刀で切るジェスチャーをする。つまり、殺される可能性があるということだ。
比較的平和な現代日本よりも、もっと物騒な後漢末期……間諜が襲ってくることも当然考えられるわけで……。
つまり、炎蓮さんの提案は、御遣いとしての自分と、医者の自分の一人二役で分けさせ、安全を図ろうというものだろう。
「……漢風、って言っていいのか分からないですけど、皆のような風合いの名前を考えろってことで良いですか? ここで働く医者としての」
「そういうこった」
とはいえ、これからずっと使っていく名前にもなる。適当に考えるわけにはいかない。
「さすがに悩みますね……」
「だろうな、オレも娘の名付けには悩んださ。まぁ時間はある!」
客間を使っていいから、しっかり考えてこいと言われ、最初に目覚めた部屋に戻ってきた。見慣れない、中華っぽい意匠の部屋。ホントに三国志の世界に来てしまったのかと、改めて実感する。
ここまで、炎蓮さんに会っても冷静だったのは、あまりにも現実から乖離していたからに過ぎないからだ。夢にしてはリアルすぎて、胡蝶の夢というものを考えてしまう。
過去、ホームシックにもならなかった自分であっても、日本と中国の距離とは全く異次元の、1800年という抗いようのない距離は、精神に大きな影響を与えているに違いなかった。
自分という人間を誰一人として知る者のいない、完全な孤独。二度と戻れないのかもしれない。
伊沢はどうしているだろうか。病院は大丈夫だろうか……患者も大勢押し寄せて、凄惨な現場になっていることだろう。
テーブルの上にはバッグから取り出した薬品の数々と、様々な手術道具を並べた。すぐに戻れても対処できるように……なんて考えるが、ここに来た方法も分からないのだ。戻り方なんて分かるわけがない。意味のない事をしたと思って、すぐにバッグに戻した。
「なんや、戻ってたんか……って元気ないなぁ……大丈夫か?」
部屋に入ってきたのは霞だった。
余程酷い顔なのだろうか、自分の顔を覗き込んできた。
「ちょっと考え事……炎蓮さんから、医者のときに使う名前を考えろって……色々と頭の中では考えてるけど……」
これも悩みの種なのは間違いないけど、酷い顔していたのは、嘘なのがバレてるんだろうなぁ。
「名前かぁ……アテはあるんか?」
それでいて話に乗ってくるとこが、本当に優しい人なんだろうなと思わせる。これがあの、泣く子も黙る張遼とは……。
「元いた時代の遠戚に、劉姓の人がいるから……」
「あとは、名と字と真名っちゅうワケか」
「そういうこと。でも、その前に気分転換したいかな」
名を呼んでは失礼だからと字のシステムができたが、親しい者以外が呼ぶと失礼だとか。解釈によって様々な受け取り方がある。でも劉さんなんて沢山いるから余計にややこしい。更に超絶面倒なところに真名ときた。
習俗に従うと、どうにも難しいものである。
とりあえず、霞を連れて外に出た。立派な杏の樹が植えられている。
「一慶は、お医者様なんよな……あの治療は凄かったわ。頭に鑿で穴開けるなんて思いつかへんわ」
武官の自分でも、気を失うかと思ったなどと霞は言う。だが驚くべきはその手術に対して邪魔をせずに見ていたことだ。冷静なのも、武将として肝が据わっているからだろう。
「天の御遣いっていうよりも、神様みたいなもんや!」
「いや、神なんて……そんなもんじゃないよ。全部完璧に成功するなんてこともない」
「それでも、助けたことに変わりあらへん! アンタは凄いわ。それでいて牢獄に放り込まれても、全然怒らへん。一慶は、仁の心を持った優しい人なんやな」
「いや、牢獄にブチ込まれて怒ってはいたからね……?」
自分の時代のこと、自分の仕事のこと、色んな事を霞に話した。
自分の孤独を感じ取ったのだろう。霞は静かに聞きながら歩みを進める。
ひとしきり話しきって客間に戻る頃には、窓から陽光が斜めに差し込んで来ていたのだった。