次回から特別編3本となります。
名前の分からないこのギターもどきを持って、華琳の後について部屋に戻った。
「ようやく戻ったか! オラ、歌えぇっ!」
「いやいや、まずは公瑾と孟徳殿の琴を先にしましょう。私はチューニングしないといけないので」
炎蓮さんは首を傾げた。
「貴様の時折話す天の言葉も、そろそろ覚えんといかんな。……調整したいなら、あまり待たせるなよ?」
もうほとんど分かってるんじゃないかな。
「私のことも、おだてるのは辞めてくれ」
そして始まった冥琳と華琳の演奏。
耳朶を打つ琴の音は心地よく、先程までの賑やかな雰囲気が落ち着きを見せた。自分には、何を歌っているのかは分からない。しかし、音色に乗って届く歌声を沁み入るように聴くのだった。
「劉仁殿は多彩ですね」
「むしろ、出来ることより出来ないことを探したほうが早いんじゃないかしら?」
宴を終え、同じく董卓の屋敷。
緊張の中、演奏を終えて宴はお開きとなった。冥琳は飲みすぎた傾を介抱するために先に炎蓮さんと共に部屋へと戻っていた。
片付けも早急に終わらせて、董卓、賈駆と共にお茶を啜る。さすが高級官僚の屋敷と言うべきか、お茶がとても美味しい。
「私の下に欲しいぐらいだわ」
「……孟徳殿も、酔ってますね? お茶どうぞ」
「酔ってないわよ」
華琳は夏侯姉妹を始めとした部下たちの元の戻らず、自分たちの輪に加わっていた。
「帰らなくて良いんですか?」
特に返答もなく、お茶を受け取り席につく華琳。それを見て微笑む董卓。
「孟徳殿は、劉仁殿のことを気に入ってらっしゃるんですね」
「そうね、能力も随分と買っているわ。天も、なぜ孫文台の下に送ったのだか……。でも、それは貴女も同じでしょう?」
そう言われるも董卓は微笑んだままだ。その笑顔はまるで顔に貼り付けられているかのように微動だにしない。脈拍でも動かず、ジッと華琳の目を見つめる。完全なるポーカーフェイスだ。
「そろそろ、お開きにしませんか? 孟徳殿も部下たちの所に戻らないと。きっと心配されてますよ? お二人もお早めにお休みになられては?」
「……そうね。私は戻るとするわ。杏林、送ってくれるかしら?」
「分かりました」
華琳は立ち上がると、自分の手を引き屋敷の外へと出たのだった。
「……行かせて良かったの、
「うん……まずは劉仁殿を徐州まで無事に送り届ける。そこからだよ、
灯りが無いと道も分からないような暗闇。蝋燭の灯りも乏しいため、スマートフォンのライトを頼りに歩いていた。
「かなり明るいわね」
「これでも弱いぐらいだよ」
「そう……」
どちらかが口を開いても、会話は長く続かない。
月も見えない新月の夜。夜空を見上げれば、一面に星の瞬きがあった。1800年前の夜空にも同じ星座が輝いている。
「董卓は何かを隠しているわね」
「え」
「分からなかったの?」
「いやぁ、空気が悪いことは分かったけど……」
華琳は小さい声でポツリポツリと話し始めた。
「彼女は何を言いたかったのかしらね」
「さぁ……。あ。明日のことじゃないのかな?」
「バカね、それならあんな顔しないでしょ」
あんな顔とは、先程の冷たい笑顔のことだろうか。
「……酔って気分が悪かったんじゃない?」
「なんか、慶と話していると悩んでる私がバカみたいに思えてくるわ」
「難しく考えすぎってことでしょ。ラフになろうよ」
あ、気楽って意味ね。そう言おうとした時には遅かった。
「らふ……? らふ……裸婦!? 慶、私に道のド真ん中で脱げって言うの!? 悪趣味すぎるわよッ!」
「違う、そうじゃない! 気楽って意味で、あだッ!」
頬を紅く染めた華琳がジャンプしたかと思えば、脳天に手刀がクリーンヒットする。重力加速度の加わった一撃。痛くないわけがない。
そこから華琳は目的地に着くまで無言だった。
「華琳様、お帰りなさいませ」
出迎えたのは夏侯淵だった。
「えぇ、ただいま。慶……さっきは悪かったわね」
「い、いや……自分も悪いから」
互いに謝る姿に夏侯淵は首を傾げる。
「じゃあ、自分も帰るから。また明日、城で」
このまま夏侯淵に事情を説明しても帰る時間も更に遅くなってしまうだけだ。早く切り上げてしまおう。場合によっては矢の的になりかねない。
「分かったわ。妙才も明日、城までお供なさい」
「御意」
「じゃあ、おやすみ」
「
「はい! 華琳様!」
「遅いお帰りですわね、お姉様。まさか、あの男と!?」
「バカを言うのはよしなさい」
静かに夜は更けていく。
場所は変わり、董卓の屋敷周辺。闇夜に紛れて動く影は二つ。更にその背後から近づく影が一つあった。
二つの影は、背後からの影に気が付くことなく組み伏せられた。仲間の一人は風切り音のした後、一瞬で沈黙し、そのまま流れるように頸を締められてしまい身動きが取れない。呼吸が出来るギリギリのところ。締めてくる腕を剥がそうにも全く力が入らない。
「だ、誰だ……いつの間に……」
「この状況で質問が出来るとは、随分と余裕ですね。このような時間に董卓殿に来客とは、誰の差し金ですか? ……答えろッ!」
怒号と同時に、冷たく鋭く硬い感触が首元に来た。刃物が当てられているようだ。捕まったが最後、答えようが答えまいが殺される運命だ。
「黙っているつもりでしょう? 結構。どうしても答えたくさせますから」
「へっ、やってみやがれ。何があっても俺は口を割らねぇ」
「貴方は、董卓殿の屋敷に侵入しようとした?」
男は緩んだ顔をしながら声を発した。
「うん」
ヘラヘラと笑う男に更に訊ねる。
「何でこのようなことを?」
「なんで? この国をダメにしたのは董卓だって聞いたからだよ」
「何進殿ではなく?」
「そうさ、何進じゃない。アイツは欲に
「……劉仁?」
「知らないの?」
「えぇ。お恥ずかしながら、初めて聞きました。噂の天の御遣いとやらが、劉仁と」
「そうそう。得体の知れない、どこからともなく現れた変な医者らしいけど、会ったこともねぇから詳しいことは分かんね」
更に訊ねる。
「では、貴方たちの最終目的はなんですか?」
「えー、それも知らないの?」
「はい、知らないんです。教えてくれますか?」
「仲間はみんな言ってる。最後の目的はこの国を造り直して……皇帝にするんだってさ。笑っちまうかも……しれねぇ、けどさ……」
男はうたた寝をし始めた。
「おい……おい、寝るなッ!」
「うるさいなぁ。知らねぇよ。眠い」
肩を掴んで強く揺さぶると、男はキレた。
「うるせぇ、うるせぇうるせぇ! 寝させろよ!」
「……最後の質問です。貴方達の首領は誰ですか?」
「知らないなー。見たこと無いから」
項垂れながら答える。
「よく思い出して。これが最後の警告です」
「だーかーらー、知らないって言ってるだろ。バーカ!」
男はひとしきり悪態をつくと、いびきをかいて寝始めるのだった。
アンケートの結果、祭さんルート、董卓・賈駆ルート、華琳様ルートを順次公開します。
楽しみにお待ちくださいませ。