真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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遅くなってすみませんでしたぁッ!


特別編:お祭り騒ぎ?

 呂布が治療で建業に滞在していた頃のこと。

 

「安いよ安いよ! ウチの野菜は建業イチだ! さぁさ奥さん、見て行ってくれぃ!」

 

「新刊が入荷したよ~!」

 

「この反物、見て行ってちょうだい! 都から仕入れたばかりなんだから!」

 

 

 今日も元気な建業の街は、いつも活気に溢れている。

 

 

 単なる散歩というわけではない。往診の帰り道、城に戻るまでの見回りである。

 ただ、自分の見回りとは本職の警備隊の皆さんと違って、怪我人や病人を見つけては診察をするというものである。

 まだまだ医者の地位というものがドン底に近い三国時代、自ら医者に罹る人は稀有なのだ。それを自分が無償の形で初診と治療を行う。二回目からは家計に応じて、少しばかり頂くという流れだ。

 

「わははははははっ!!」

 

 真っ昼間から建業に響く豪快な笑い声。はて、どこから聞こえてくるのかと見回すと、通りに面した料亭から、もの凄く聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「それはお主が悪いわ。もっと旦那に気を遣ってやらんか」

 

「えぇ~、あの忘八(ぼうはち)にかい?」

 

「お主はその忘八の妻ではないか。ただ単に拗ねておるのよ」

 

「あの光ったハゲ頭が多少曇れば、ちゃんと相手してやるんだけどねぇ」

 

「かっかっかっ!」

 

 建業のマダムたちと会話に花を咲かせている祭さんを見つけたのが始まりだった。

 あとしっかり飲んでいらっしゃる。

 

 主婦仲間のランチを見ているような光景だ。巻き込まれないよう、そそくさとその場を後にする。

 

「あら! 慶先生じゃないですか~」

 

 息を殺していたのに、バレただと……?

 

「あ、あぁどうも。ご主人はもう大丈夫そうですよ」

 

「さっさとくたばっちまえば良かったのに。ねぇ?」

 

「ねぇって……残念がらないでくださいよ。ご主人、奥様に会いたがってましたよ?」

 

 

 いつの間にか周囲をマダムたちに囲まれてしまう。

 

 

「ねぇ、慶先生……次は診察じゃなくて、お客様として……お願いしますね?」

 

 奥方の柔らかいものが腕に押し付けられる。忘八……つまり遊女たちのいる女郎屋の主人を治療してからというもの、この美人の奥方からは常に色仕掛けをされていて困る。

 先程も昼間だと言うのに遊女たちからのお誘いが引っ切り無しに続き、主人がブチギレた末、治療が長引くことになってしまった。

 

 まさか治療を長引かせることが狙いとか言わないよな。

 

「おぉ、慶ではないか。仕事中かの? 見ての通り、奥方たちはこれから店のこともあるため茶を飲んでおるが……お主は飲むか?」

 

 普段なら無理やり飲ませようとしてきていた祭さんだが、今回に限っては酒を飲むか否かを問うてきた。どうせ今日は仕事も終わりだ。自分はそのまま祭さんの隣りに座って、酒を注文する。

 優しい穀物の甘い香りは、酒だけじゃ足らずツマミを寄越せと訴えてくるようだ。

 

 

「うむ、それでこそ男じゃ」

 

「公覆さん一人、怒られてるのも可哀想ですし。公瑾が来る前に飲み終えてしまいましょう。まだ仕事も残っていますよね?」

 

 

 たまにはマダムたちに混ざって、街の話を聞くのも良いことだ。そう自分に言い聞かせて。ツマミも注文する。今日は鮎のうるかだ。内臓と塩のみで作る塩辛で、これをチビチビ舐めるようにして味わうのだ。

 

 うん。酒との相性が抜群だ。疲れた身体に色が戻ってくるようだ。

 

「こいつらはこの後、家事があるから酒を飲まんのじゃ。来てくれて助かったわい」

 

「節約してるから、そこまで一緒に飲めるとは思えないですけどね」

 

 薬品や器具の開発資金が馬鹿にならないため、節約は必須である。飲みに出る分には問題ないが、大きく遊ぶことはできない。それぐらいの路銀しか使わないようにしている。

 

「案ずるな。儂が奢ってやる!」

 

「お姉さんたちも、慶先生なら奢っちゃうわ~!」

 

「お、お手柔らかに……」

 

 

 祭さんの周りには多くの町人が集まってくる。漁が上手く行っただとか、旨い酒を造れたとか、旦那と最近ご無沙汰だとか、新兵として仕えている息子は迷惑を掛けていないかだとか。話題は尽きず、各々が分け隔てなく祭さんと言葉を交わし、去っていく。

 

 他愛のない会話か途切れた時に、一人の町人が料亭に駆け込んできた。

 

 

「黄蓋さま、慶先生! 喧嘩が!」

 

「誰が喧嘩なんぞ……」

 

「警備隊同士の殴り合いです!」

 

 

 話を聞けば、盗人を捕まえた手柄で言い争い、殴り合いにまで発展しているようだ。最悪である。街の安全を守る立場の人間が何をしているのやら。

 

 

「行くぞ、慶!」

 

「分かりました。店主、お勘定はここに! 釣りは結構です!」

 

 飲んでいた卓に飲み代を叩き付け、店を後にする。

 

「毎度ありっ! お二人共、お気を付けて!」

 

 

 

 

 

「オラァ! もっと来い!」

「まだまだァッ!」

 

 警備兵二人の怒号と拳の応酬。お縄に付いた盗人をよそにギャラリーが歓声を上げて人壁を作っており、その中で殴り合いの喧嘩をしていた。

 もはや手柄などは忘れて、積もりに積もった不満を拳に乗せて殴り合っていた。

 

「あんのバカ共が……ッ!」

 

 ギリリと歯軋りする祭さんは腕捲くりの仕草をしながら壁に割り入ろうとするが、自分はその腕を抑えた。

 

「祭さん、どいてください」

「は……?」

 

 自分がスルリとギャラリーに入り込み、無言で警備兵の肩を掴んで避けていく。

 

「あ、劉仁様……」

 

 自分の姿、更に背後の祭さんを見て、海割りが如く人ひとり分の道が出来ていく。その様相に気付くことなく殴り合いを続けている。

 その瞬間、形勢不利だった兵が剣を抜いた。それを見て相手側も剣を抜く。ギャラリーが囃し立てるように歓声を上げた。

 

 このような状況、馬鹿げている。

 

 

 

 

 

 儂が腕を抑えられて困惑しているその隙に、ヤツは人混みを掻き分け、剣を抜いた兵士の顎を殴り飛ばして意識を刈り取り、もう一人を背負投げで制圧した。先程までの熱狂は霧散し、そのまま裸絞めして、その場の雰囲気を掌握する。

 

「仲間に刃物を向けるな」

「ぐっ……」

 

 慶は静かに言うと、更に頸を強く締めて気絶させてしまった。

 

「祭さん、全員を解散させてください」

 

「あ。あぁ……解散せい、解散じゃ! 三人を城に連れて行けぃ!」

 

 町人たちも解散し、警備兵たちもそそくさと気絶した二人を連れて退散しようとする。

 

「三人と言うておるじゃろうが! 盗人を忘れるな。馬鹿者が!」

 

 追加で祭さんの雷が落ちたのだった。

 

 

 

 

 

「ほう……慶もなかなかやるではないか」

 

 あれから何時間か経ち、日も落ちた頃。自分は炎蓮さんの自室にいた。

 

「慣れないことはするもんじゃありませんね……炎蓮さんも近くで見てたんじゃないんですか? 鎮めるのを手伝ってくださっても良かったのに」

 

 バレたか、とケラケラと笑う炎蓮さん。やはりあの人だかりを見ていたらしい。

 

「貴様と祭が手こずるようなら、加勢したさ」

 

「手こずるわけないじゃないですか。祭さんもいましたし」

 

「……アイツらも役に立ちたいから、あのような喧嘩に発展したのだろうな」

 

 しみじみと呟く炎蓮さん。

 

「あの兵たちはどうするんですか?」

 

「当分、祭と粋怜の隊でミッチリと訓練だ。その後は正規軍に編入しよう」

 

「それが良いんですかね……俺には分からないです」

 

「使い物にならないのなら、また警備に戻るか家に帰るだけだ。……一慶、明日は休め。ゆっくり羽根を伸ばすが良い」

 

「ありがとうございます」

 

 炎蓮さんの部屋を出て、医局へと歩みを進める。

 

 

 祭さんは明日も休みだったはずだ。飲み直しの提案をしようかな。祭さんの奢りで。

 

 なんだかんだで自分が代金を払っちゃったし。




次は清楚可憐、儚げな董卓と賈駆のお話です。
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