真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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みなさん、アンケートに色々と答えて頂きまして、誠にありがとうございます。
恋姫を書くに当たっての資(史)料が膨大すぎて大変なことになってきました。

本来は最後にまとめて参考文献を書こうと思っていたのですが、資料等をその都度小説情報に書いていこうと思います。
その方が見栄えも良いですし。気になる方はぜひご覧下さいませ。


密偵〈1〉

 華琳を送り届け、屋敷に戻ってぐっすりと寝ていた自分を覚醒させたのは、董卓の悲鳴だった。

 

 窓から外を見てみると、珍しく曇天。サーっと雨の降る音が薄く聞こえている。

 寝台から跳ね起きたと同時に、炎蓮さんが部屋へと入ってきた。

 

「慶! オレに着いて来い!」

 

 有無を言わさぬ炎蓮さんの声。これだけで緊迫した状況が発生していると分かる。

 

「炎蓮さん……何がありましたか」

 

「殺しだ」

 

「分かりました。すぐ行きます」

 

 

 屋敷の門前には男性が一人息絶えていた。随分と長い時間放置されていたのだろうか。雨に濡れる前から冷たくなっていたことは間違いない。地面の血溜まりもドス黒く変色していた。

 見て分かる通りではあったが、頸に手を当てて脈を探るも反応はなかった。瞳孔にもライトを当てて確認するが縮瞳されることはない。

 

「脈もありません……亡くなっています」 

 

 胸にあるたった一つの傷、それが致命傷となったのだろう。矢を撃たれたのだろうか。心臓を一突き、背中まで貫通している小さい傷だ。

 

「なぜこのような所で亡くなっていたのかは分かりませんが、急ぎ警備隊に連絡して身元の確認を行いましょう」

 

 どうせ分からないだろうが、と自分は小さく呟いた。

 

 

 

〈洛陽城 医局〉

 

 

 

「劉仁」

 

 報告に現れたのは賈駆だった。今日は一緒に書庫へと行く予定であったため、こうして報告役を買って出てくれている。董卓には感謝しなければ。

 しかしこのような状況であれば、書庫に行くのはやめて、早めに賈駆を董卓の所に戻してあげたほうが良いかもしれない。

 

「予想通り、身元の確認は出来なかったわ。つまり……董卓様を襲撃しようとした刺客であると、そう言ったわね?」

 

「その可能性がある、というだけですよ」

 

 誰かに追われていたような形跡もなく、手持ちの荷物も少なかったが盗られているわけでもなかったため、物盗りでもない。偶然にも董卓の屋敷の付近で突然死をしたのならば、穿(うが)たれた傷の説明に矛盾が生じる。

 となれば予想されるのは、董卓を暗殺しようと動いていたホトケが返り討ちにあったとも考えられるだろう。

 しかし、理由がわからない。もし刃が向くのならば傾や何太后、そして自分だろう。まだ反董卓連合が組織されるような事件を起こしてもいない。

 

「誰の差し金か分かりませんが、一人だけしか見つかっていないというのにも疑問が残ります。もう一人か二人、見つかると思うのですが」

 

「そう簡単に見つかるかしら? 既に洛陽から出て姿をくらましているかも」

 

「いや、それは考えにくいですね。まず被害者は争った形跡が一切なかった。おそらく遠距離からの一撃で即死したと考えられます。それほどの手練が刺客を逃がすとは到底思えません」

 

 

 賈駆が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ノックの音が聞こえた。

 

 

「……どうぞ」

 

「失礼致します。お茶と菓子をお持ちしました」

 

 入室してきたのは一人の侍女だった。自分のデスクに二人分のお茶と菓子が置く。焼き菓子だろうか、甘い香りが鼻腔を(くすぐ)った。

 

「ありがとうございます。美味しそうですね。文和殿、頂きましょうか」

 

「そうね」

 

「では、私はこれで」

 

 (うやうや)しくお辞儀をすると、侍女は医局から出ていこうとするが、自分はそれを呼び止めた。

 

「侍女さん、良かったら一緒にお茶でもいかがですか? 後で書庫にも行きたいので、時間があればお供して頂きたくて」

 

「あら、どうやら太医令様は自ら侍女をお口説きになられるようですわね」

 

「へぇ、アンタはこういうのが好みなのね」

 

「いえ、そんなわけでは!」

 

 慌てて否定をするが、侍女は手を口に当てて静かに笑うだけだ。賈駆も面白いものを見たという感じで笑っている。

 

「では、このお菓子を一つ頂けるのなら、書庫にお供致しましょうか」

 

「えぇ勿論です。どうぞ」

 

「それじゃあ私は董卓様のところに戻るわ。仲間が見つかったら伝令を寄こすから、書庫はこの侍女に案内してもらいなさいよ」

 

「既に呂布様と張遼様にお伝えして、董卓様のお屋敷に向かっておりますわ。お早めにご移動くださいませ。道中は他の侍女がつきますので」

 

「分かったわ」

 

 そう言って賈駆は医局から出て行ってしまう。

 

「……随分手回しがお早いですね。侍女のお仕事は大変そうだ」

 

「いえ、私はこういった仕事が性に合っておりますので。劉仁様のお医者様というお仕事の方が、より大変だと思いますわ」

 

 お茶を飲み、菓子を手にする。焼かれた餅菓子で、中にはほんのり甘い餡が入っている。正直甘いものは苦手な(たち)だったが、これぐらいの甘さなら問題ない。この時代の茶も高級品なので味わって頂く。雨のせいで下がっていた体温が、お茶のおかげで少し戻ったようだった。

 皿と湯呑みが空になってから窓を少し開けて、煙草に火を点けた。

 

「侍女さん」

 

公祐(こうゆう)と、そうお呼びくださいませ」

 

 

 ……え、この人が孫乾なの? 孫乾と言えば徐州の陶謙に仕えて、後に劉備に仕えた外交官じゃなかったか。なんでこんなメイドみたいなことを。

 

 

「では公祐殿。陶謙殿の治療は私が行うことになりましたのでご安心ください。貴女のことは何も聞いていないし、何も知らない。ただの侍女だ」

 

「感謝致しますわ」

 

「では、最後に一つだけ」

 

 煙を孫乾に被せないように向きを考えながら、静かに吐き出す。

 

「気配を消しすぎて、とても怪しく見えますよ。それではまるで自らを密偵だと名乗っているようなものです。恐らく刺客を返り討ちにしたのもあな──」

 

 そう、最初に孫乾がお茶菓子を持ってきた時だ。足音と気配の一切を絶っていた。余程の人間でなければ出来ない芸当である。

 

 しかし、その先は言えなかった。

 孫乾が自分の手を取り、強く握ったからだった。

 

 

 

『家事に密偵、夜伽までお任せください』

 

『私は、メイド失格です……』

 

『お支え致します。いつまでも』

 

 

 

「……ご主人様、またお逢いできて嬉しゅうございます。公祐改め美花(みーふぁ)、とお呼びください」

 

 美花の声が聞こえて、それからは雨音しか耳に入ってこなかった。




記憶の甦った者たちについて

曹操/華琳
趙雲/星
張角/天和
呂布/恋

孫乾/美花(みーふぁ)

皆さんご存知、スーパーメイド。
革命シリーズからの新顔である。
密偵〈1〉にて慶が記憶の一部を思い出す。
美花は劉仁の名前だけ知っていた様子。
隠密行動、密偵、妨害工作から家事全般をこなして、更に夜伽までやってしまう凄い人。現在は陶謙の下で侍従として仕えているが、密偵として洛陽に潜入中。ひと目だけ、劉備と劉仁を見たら街を去る予定だったらしい。

白月の灯火、プレイしたよね?その感想求む。(暴走気味)

  • 漢帝国編の続きはよ!
  • 月と詠、良かったなぁ!
  • 華雄……お前、真名あったんかぁぁぁぁ!!
  • 株爆上りの傾さん最高!
  • 傾さんもだが、瑞姫も良かっただろ!
  • 霞とのローマ(大秦)編まだ?
  • 真紅の呂旗のタイミング最高か!?
  • 他はぜひコメントやツイッターにでも。
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