真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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太祖〈2〉

 とっぷりと日は暮れ、これから夕食というところで、自分は炎蓮さんの部屋を訪ねていた。

 

 思っていたよりも屋敷は広くて、侍女の一人に聞いてやっと場所が分かった。実は小一時間は探していたりする。

 散歩をしたことで広さは分かっていたが、こんなに見つからないとは思わなかった。

 

 軽くノックをすると、入ってこいと一言。まるで自分が来ることを分かっていたかのようだった。

 

「扉を叩いて入室の許可を得る。お前の国の礼儀か? なかなか良い。突然入られたら困ることもあるからな」

 

 そうか。ノックする文化は無いのか。こういうところでも、異国に来たことを実感する。

 

「考えてきたか」

 

「はい。お待たせしました」

 

 夕食前だというのに、炎蓮さんは一人で酒盛りをしていた。まるで良い肴が入ったと言わんばかりににこやかな顔をしている。

 

 

「炎蓮さん、俺はここが夢の世界だと思ってます」

 

「……それで?」

 

「でもさっき、霞に連れられて城壁の上に登って街を見ました。街の人にも出会いました……治療した兵士の様子も見てきました」

 

 術後の容態も問題なく、麻酔の影響で目は覚ましていなかったが、それも時間の問題だろう。

 

 昼間の光景を思い返せば、城壁から見上げた空は果てしなく広がり、排気ガスで薄汚れたものなんかではない、本物の蒼穹だった。

 空を飛ぶ鳶も気持ち良さそうで、自分がちっぽけな存在であることを思い出させる、この世が夢であることなんてどうでも良くなる、そんな広い空だった。

 

「その街で、炎蓮さんの街で、人は生きているんですね。夢の世界なのに、とても夢とは思えない、不思議なものでした」

 

 現代社会ではあまり感じられないような、人と人が密接に関わり合っている街だったように思う。

 

「オレが治める街だ。良い所だろう? 多少、荒っぽいヤツらはいるけどな。だがオレは、そんな民に平和を見せてやりたいんだ。そしてここで、貴様は生きていく。天の国に戻るまではな」

 

 こんなの、オレのガラじゃあねぇなぁ、と言いながら、炎蓮さんは盃に口をつけた。そのまま、もう一つ空いていた盃を自分に差し出す。

 受け取れば、間髪入れずにトクトクトク……と薄い黄金色の酒が注がれていく。飲め、と顎で示され、一気に呷った。少しばかり喉が灼ける。

 

「俺は、俺の持ち得るもの全てを以て、炎蓮さんの街を助けていきます。それが、俺の医者としての存在意義です。拾ってくれた恩、しっかり返します」

 

 先程の酒で、揺れかけていた覚悟が決まったのかもしれない。夢が覚めるまで、元の時代に戻れるまで、自分のできることをしよう。全力で、傷つき倒れる人を救け続けよう。

 それは、一族がずっと続けてきたことだ。どの時代でも、例え夢の中であろうとそれは変わらない。治すことを辞めた時、自分の存在意義は跡形もなく崩れていくに違いないだろう。

 

「そうだ……人の為、国の為に将は集い、我が覇道のために……突き進むッ!」

 グイッと炎蓮さんは酒を飲み干した。

 

 

「……なかなか時間が掛かったな、で、どんな名だ?」

「姓は劉、名は(じん)、字は……杏林(きょうりん)

 

「ほう、杏林……意味は?」

 

「俺の国では、優れた医者のことを杏林と……でも正直言うと、庭にあった立派な杏の樹を見て、自戒の念も込めて決めました」

 

 杏林というのは、呉の時代の医者である董奉が由来であるが、名乗らせてもらうことにする。名前に驕れることなく、この人の元でひたむきに医の道を進もう。

 

「仁の心を持つ立派な医者か、いいじゃねぇか! 嫌いじゃねぇ!」

 

 更に酒を飲み、その先を炎蓮さんが促してくる。

 

「……俺の一族はずっと医者を続けてきました。その中でも、その一族の名を背負って立つ者の名を真名にしようと思います」

 

「言うてみよ」

 

 

 

 

 

「真名は――()

 

 覚悟の元、三国時代にKの一族が産声を上げた瞬間だった。

 

 

 そして、一族の太祖として連綿と劉の名が継がれていくのは、また別のお話。




あくまで医者としての名が慶、でありますが……近藤でも一慶でも、杏林先生でも慶でも、呼ばれる分には良いわけです。

許貢のような裏切り者への対処法の1つと思ってください。

時々、番外編を挟みますがご容赦ください。
恋姫にもある、インターバル(列伝)のようなものです。

閲覧頂き、ありがとうございました。
また次回、お楽しみにお待ちくださいませ!
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