【プロハンター】ハンター試験官になったから安価で試験内容決めるわwww【専用掲示板】 作:普通科高校の劣等生
「参加、あ、り、が、と、う……っと」
目にも止まらぬ速度でキーボードを操作し、掲示板に書き込んでいく人影がひとつ。
いわゆる「オタクの部屋」のイメージとは異なり、個室にしては広い室内は明るく照らされている。
雑多な機械類が乱雑に置かれてこそいるが、最低限片づけが行き届いていた。座っているのは高級そうなゲーミングチェアだが、本人が小柄なので若干サイズをもて余し気味である。
「よしよし。いい感じじゃね?」
3時間あまりの"協議"を終え、画面内のテキストエディタには「第283期ハンター試験 第四次試験概要」の文字が映し出されている。
先ほどまで掲示板内で行われていたやりとりを書き出し、自分用の注釈とメモ書きを加えたもの。ネット掲示板の書き込みなどという、恐らくは史上最も胡乱な方法で定められた試験方法が、この文章だ。
画面を見ながらニヤついている
ややボサっとした長い黒髪を揺らしてケラケラ笑う姿からは、如何にも愉快犯的な喜色が漂っている。
容姿に頓着がないらしく、暖を取るのは空調に任せてラフなワンピース一枚でイスに腰掛け、行儀悪くクルクル回りながら悪だくみを続ける姿は、ある意味可愛らしくはあるかもしれないが、あまり褒められたものではないだろう。少なくとも、この絵面から彼女がプロハンターであると認識できる者はまずいないに違いない。
全世界で600人ほどしかいない超難関試験を突破したスペックを持ち、顔のパーツだけ見ればかなり整っているにも関わらず、どうにも残念な雰囲気を隠しきれない少女がそこにいた。
「って訳だから、その調子で準備よろしくゥ!」椅子の回転を止め、横に3枚繋がったモニターを背にして言い放つ。イタズラっぽい笑顔とサムズアップが蠱惑的だが、少なくとも言われた方は呆れが先に来ているようだった。
「俺が帰って来るなりそれか……」
応えたのは彼女の眼前に立つ青年。小柄なノーラと違い、天井が近く見える長身と、服越しでもわかる鍛え込まれた筋肉を持つ。
仕立ての良い青色のスーツ姿に黒髪のオールバック、銀色の自動巻き腕時計(数百万ジェニーするブランド品である)、日焼けした肌と精悍な顔つき。いかにも体育会出身の若手商社マンというような風体。
――実際の経歴は体育会どころではなく血生臭いが、少なくとも見た目からアウトローの雰囲気は出ていない。
「でも試験官は
「まぁな。実際、中々面白くなったじゃねえの」
人によっては委縮してしまいそうな男を前にしても、ノーラのふてぶてしさは変わらない。兄貴と呼ばれた男もまた、それが当然といった具合で話を進める。
ノーラの兄、カシウス=グレイ。
18歳にして既に
「兄貴がこれ言いに行った時のネテロ会長、私も見たかったなァ」
「ノーラお前、俺以外の前じゃ『ッスゥー』と『あっ』しか喋れねえじゃん」
「なんだとぉ?」
ニヤニヤしながら指摘する兄に対し「そこまでじゃないぞー」と冗談めかして言いながら立ち上がり、兄の脛に向けてローキックを繰り出すノーラ。
見る者が見ればわかるが、"纏"どころか"流"で調整された攻防力を纏った一撃である。当然、インドアな見た目からは想像もつかない破壊力と重たい音が出ているが、少なくともカシウスはビクともしていない。彼らからすると、その威力がじゃれ合うのに相応ということだ。
「悪い悪い……しかし、ネットの連中ってのも案外面白いモンだな」
ノーラのローキック攻勢を意にも介さず、カシウスは少しかがんで手を腰と顎にそれぞれ当て、10秒ごとに自動更新されていくスレッドの様子をしげしげと眺める。
元々、ハンター協会から試験官のオファーを受けたのはカシウスである。
妹と同レベルの愉快犯気質である――ノーラと違って、作ろうと思えば外面を作れるというだけで――彼はそれを二つ返事で引き受け、何かネタはないかとノーラに話したところ彼女が安価での内容決めを思い付き、今に至る。
規定上、協会に許可さえ取れば、試験官本人以外に協力を頼むことは可能だ。それを盾に取り、妹自身14歳で試験をパスした実力者であることを合わせれば、最早文句を言える者は誰も居なかったのである。
もっとも、「安価で決めてもいいか」とストレートに(安価というものの説明とともに)伺いを立てられたネテロは、かつてないほどの爆笑と共に二つ返事でGOサインを出したのだが。
「だろ~? こういうのは皆でおもちゃにするのが一番面白くなるんだヨ」
すると蹴りに飽きたのか、ノーラが横から割り込んでふんす、とドヤ顔。
安価の最中際立って対応が早かったのは、スレッドの進行&スラング翻訳担当(ノーラ)と安価捌き&実務担当(カシウス)が協力体制を確立していたからだ。
現にショッピングモールの都合をつけたのも、高すぎる難易度に文句を言いに来たハンター協会最高幹部、チードル=ヨークシャーに対して(ネット掲示板を大真面目にチェックする姿勢を暗に煽りながら)落としどころを探ったのもカシウスである。
今年の試験周りの取りまとめを行っている(つまり、カシウスの直属の上司に当たる)チードルは本人の頭越しに話が進んだのもあって少なからずイラついているようだったが、彼女は感情を仕事に持ち込むべきではないと知っているし、そのべき論を実行できるから十二支ん、そして
「ネット絡みはあんま詳しくないが……お前が入り浸るのも分かるな、これは」
>>1の居なくなった今も話を聞きつけた者達と初期から参加していた者達の雑談でにぎわうスレッドを見ていたカシウスは、ふと隣の画面に映し出された概要を見返す。
「で、今チードルさんともういっぺん電話してきたんだが」
「だいたい何か言ってくるのあの人だよなー」
「アレはもうああいうキャラだからなあ……十二支んにキャラ変無しで馴染んでんのあの人くらいだろ」
「ふへっ」
カシウスの物言いがツボに入ったらしく、座り直し、素足をパタパタさせながら笑うノーラ。
話しながら、カシウスは手持ちのスマートフォンを何やら操作し、メッセージアプリのいくつかの通知に目を通してさっと返信を済ませる。主にソフトウェア面で兄の手伝いをして小遣いを稼ぐノーラと違い、彼は本職の商人だ。
世界を股に掛けて活動する兄と、家に引きこもりネット三昧の妹。正反対の二人だが根の性格はかなり似通っており、傍目からは想像できない程度には仲の良い兄妹である。
プロハンターになるような人間にとって、社会的地位を作り、金策ついでにそれを維持する程度のことは片手間で済ませられる些事に過ぎない。
そうして生まれる余暇をいかに楽しく過ごすかが、彼ら兄妹にとって一番の重大事であった。
生まれついて同じ「退屈」を持ち合わせた者同士、また常人を逸脱した能力を持つ者同士、通じ合う所があるのかもしれない。
「んで、チードルさん何て?」
半笑いで尋ねるノーラだが、カシウスは微妙に真面目そうな顔を作り答える。
「……これ陣営の意味無くね? って」
「…………ライブ感こそ安価の華よ」
「それでゴリ押しすんのちっと辛くね?」
「やっぱり?」
結局この後、二人してああでもないこうでもないとルールの改訂(という名の言い訳づくり)に苦心する羽目になるのだが、事態の深刻さに比して終始楽し気な空気が絶えなかった。
◇◇◇
「はぁ……」
ハンター協会最高幹部、十二支ん。
その一席、"戌"を預かる
「ハンター試験を何だと思ってるのかしら→カシウス」
忌々し気に吐き捨てると、隣の机で書類仕事に勤しんでいたビーンズが苦笑するのが視界に入った。
「あはは……彼は相変わらずですか」
「むしろ悪化しています→ビーンズ。なり立ての頃はもう少し殊勝だったはずですが→カシウス」
1年ほど前。まだ
折角顔立ちが整っているのに、ああも人を食ったような態度では台無しだ。彼を知る協会内の女性陣の評価は、概ねそれで一致している。
「会長もどうしてあんな人に試験官を……→ネテロ」
「あの二人はけっこう波長が合っている様子ですからね……」
ハンター試験の試験官は、概ねネテロ会長か十二支んが選定している。
ネテロが1人程度「外してくる」のはチードルとしても(不本意ながら)想定内だが、カシウスという人選は寝耳に水であった。
チードルの手元には、彼女の権限で調べたカシウスについての資料が整然と並べられている。
彼が元サヘルタ海軍の父と傭兵の母との間に産まれ、13歳でライセンスを取得し、その直後に運送会社を立ち上げ実業家として名声を博するまでの18年間のことが事細かに記されているが……彼女はその資料を一瞥して全て頭に入れると、被りを振って再びため息をついた。
「駄目。通り一遍のことしか書かれていないわ→資料」
チードルの求める情報はそこにはない。
「いくら調べても詳細な活動内容が虫食いのように所々見えなくなる。見えないという事実が、そのまま隠蔽の証明になります」
戦場にスーツ姿でいるような男がまともな商売に終始する訳がない。
試験官抜擢を期に本腰入れて身辺調査をする、という程度だった筈が、彼女はいつのまにか躍起になっていた。
シジマ共和国の紛争を終結させた功績で星を得た"
それは正義感であり、当てつけであり、執着だ。
自分よりずいぶん若く、確かな実力を持った天才がなぜああもしょうもないことばかりやっているのか、彼女は知りたかったのだ。
「まあ、仕事の合間にやる分には止めはしませんが……あまり深くツッコむものでもないと思いますよ?」
ビーンズはあくまで中立。彼は卓越した能力を買われてこそいるが、あくまで等身大の事務員である。
チードルほど広い視野で物事を見ている訳ではないが、それ故個々人の性質をよく見られるタイプだ。故にこそ、ネテロ会長の人柄に強烈に惹かれ、今もこうして協会にいる。
「何故です? 高い能力があるのだから、妹共々もっと人々に貢献することもできるでしょう→カシウス」
「案外、何も考えずに楽しんでるだけかもしれませんよ?」
そんなビーンズが冗談めかして放った言葉にすら目くじらを立てるチードルが、彼らの行動原理を理解できる日は遠いだろう。
なお、このしばらく後にジン=フリークスが十二支ん入りして彼女の心労が倍増することを、チードルはまだ知らない。
さらに数年後、パリストン=ヒルが副会長に就任して「小憎らしいスーツのあん畜生」が2人に増えることもである。
※年齢は1994年11月時点のもの
【ノーラ=グレイ】
スレにおける「イッチ」その人。15歳。身長4フィート9インチ。
サヘルタ国籍。ネット文化に疎い兄に代わり、スレッド上での進行役を担当する。趣味はネットサーフィンとジャポンアニメの鑑賞。ハンターライセンスを取得できている通り、かなりどもるが全く他人と喋れないわけではない。
【カシウス=グレイ】
「イッチ」の有能さの根源。18歳。身長6フィート4インチ。
サヘルタ国籍。それぞれ父親似(カシウス)と母親似(ノーラ)のため髪と眼の色以外は似ていない。
自称商人。正確な取引内容は、ある程度裏社会に詳しい者なら普通に察することができるが、正道から出て自分の手を汚さない限り証拠を掴むことは出来ない。