恋愛汚染者参加型ライアーゲヱム 一話   作:yuki_leno

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グノーシアの夢小説です。
ラキオ×女主人公(名前なし)
夢小説に抵抗のある方はご閲覧をお控え下さい。


恋愛汚染者参加型ライアーゲヱム

 

*一日目*

 

 ――航海日誌。ループ136回目。

D.Q.Oの乗員は「私」、「セツ」、「ジナ」、「SQ」、「ラキオ」、「しげみち」、「ステラ」の計七名。このうち、グノーシア汚染者は二名だ。

 午前中の討論で「宇宙人」「残念だから」という理由(?)でしげみちのコールドスリープが決定した。

なお、私は“エンジニア”権限を持っているため、今晩一人を調査してグノーシアか否か判断できる。

対抗として名乗りを上げたのはSQだ。

今回は「AC主義者もバグもいない設定」だから……私の目から見て、SQがグノーシア確定になる。

 このループパターンは、過去に何度も経験済みだった。

並行宇宙のデータはすべて航海日誌にメモしてきた。しげみちのコールドスリープを見届けた後、自室で日誌を遡って確認しよう。

そうすれば過去の傾向が分かるし、潜伏中のグノーシアの確率が割り出せる。

あとはその統計に沿い、今夜調査する疑わしい人物を決めるだけだ。

 

(でも珍しいな。この設定で、過去のパターンと同じ展開になるなんて…)

 

 セツに言われた通り、私は各ループでなるべく乗員の情報収集に専念している。

その甲斐あって「特記事項」は殆ど埋まってきたが――みんなのことを知れば知る程、触れ合う時間が長ければ長いほど…別れる瞬間の切なさが募った。

 

この宇宙でのグノーシア騒動が解決すれば、私はもうここにはいない。

 

 

 コールドスリープ室では、すでにしげみちがポッドに入った後だった。

(一足遅かったな…)

 室内に充満する冷気に頬を刺され、小さく身震いする。

(しげみち、ごめん。すぐにグノーシアを見つけて終わらせるから。少しの間、おやすみなさい)

 私はしげみちのポッドの表面を手のひらで軽く撫で、別れの挨拶をした。

これで“この"ループのしげみちとは二度と会うことはできない。

今朝食堂でしげみちとらーめんを食べながら談笑したことが、すでに遠い昔のできごとに思えた。

 

 現実感が乏しい。一日一日の展開が、映写機の虚像みたいに遠く感じるせいだ。

――130回を超えるループをした。人間としての感覚が狂っていても可笑しくない。

あるいは夕里子のいうように、私自身が「歪み」そのものだからだろうか。

(それでも引き返せない。私はセツと一緒に、この運命を止めるって決めたんだ) 

私よりも早くループに閉じ込められたセツの苦悩は、きっともっと深いはずだ。

 

途方もないくらい、みんなを欺いて来た。

途方もないくらい、みんなを守って来た。

忘れてしまいたいくらい、みんなが大好きだった。

辛い。怖い。悲しい。寂しい。痛い。苦しい。暗い。冷たい――愛しい。

全ての感情を凝縮させた数多の宇宙が消滅する瞬間を、この目で見届けてしまった。

泣き言をいう資格なんて、とっくの昔に失くしている。

 

「君か。こんな所で何してるンだい?」

「…っ、え?」

 

感傷に更けっていると、背後から声をかけられて反射的に振り返った。

 

「へぇ、意外だな。君がしげみちに同情的だったとはね。そう言えば、今朝は二人して会議に遅れて来たじゃない?不審者が揃って侵略計画でも練っていたのかな?」

「ラキオ」

 

 ――コツリコツリと、こちらに近付いてくるヒールの足音が響く。

ラキオは歯に衣着せぬ物言いで追及すると、眉を顰めて私を覗き込んだ。…疑われているようだ。

「たまたま食事の時間が一緒だったんだよ。遅れたのは、しげみちのトイレ休憩を待ってたから」

 疑惑を向けられ謂われない中傷を受けるのも、もう慣れたものだ。

今となっては動揺一つできない自分が少し嘆かわしい。私はラキオを見上げながら、ごく平静に返答した。

「ふぅん。やけに互いを庇うから協定でも結んでいるかと思ったンだけど…。想定通りの返答で面白みに欠けるな。実に期待外れだ。まぁ、元々知性の欠片もない君に“僕の想像を越えろ”と要求すること自体、酷だったかもしれないね!」 

「はは…。私はラキオみたいに論理派じゃないから。ただ、コールドスリープした人にちゃんとお別れしたかっただけだよ」 

 ここで無用な疑惑を向けられて、ラキオに嫌われたら面倒だ。

エンジニアという立場上すぐ襲撃されるわけにいかないし、コールドスリープも避けたいところ。

「それじゃまた明日。おやすみ、ラキオ」

「……ちょっと待ちなよ」

 当たり障りない会話で終わらせようとすると、立ち上がった私の額にこつんと衝撃が走った。驚いてピクリと肩が跳ね上がる。

「イタっ…?」

――額に、ラキオの人差し指が突きつけられていた。

なぜ今の話の流れでデコピン(?)されたんだ。理解できない。ついでに押し付けられたラキオのネイルが皮膚に食い込んで痛い。

「何、急に!?」

「はっ…使い物にならない人間を見舞って自己管理を怠るなンて、愚の骨頂とは正にこの事だね。間違いなく君は、論理的思考に欠けるお人好しだよ」

 状況が予想外過ぎて、捲し立てるラキオの言葉の半分も耳に入ってこなかった。

「あの…、どういう意味?」

 罵倒される覚悟で恐る恐る聞き返すと、ラキオはあからさまな溜息を吐いて私の額に手のひらを当てる。

「えっ?」

「同じ説明するのは好きじゃないンだけど?やれやれ。君のレベルに合わせてあげる僕に感謝するんだね。…君、熱があるんじゃないか」

 そういえば、コールドスリープ室に入ってから寒気が止まらなかった。冷気には慣れていたから、特に気にしていなかったけれど。

「全然気づかなかった…。でも、一晩寝れば大丈夫だよ」

「へぇ。医学知識もない素人が、何の根拠があっての判断かな?大人しく医務室でステラにでも診て貰えば?」

「そんな大事じゃないよ。ステラはLABで忙しそうだったし、邪魔したくないから」

 実際、体調は今のところ悪くない。悪寒と倦怠感はあるけれど、微熱程度なら問題なく動ける。

それに、空間転移が始まる前に航海日誌を確認したい。医務室に寄っている時間が惜しかった。

「随分と強情じゃないか。ああ、そうか。ステラが嫌いで顔も合わせたくないというなら、無理にとは言わないけどね?」

「ち、違うよ。好きとか嫌いとか、そういうわけじゃなくて――」

「あははっ!慌てて否定するから怪しまれるんだよ?やましいことがないのなら、拒否する理由もないだろうにね?」

「う…」

 ああいえばこう言うとは、まさにラキオのための格言だ。

私が何を言っても疑惑が深まるか、ややこしい誤解を与えて明日の討論が不利になる気がする。

「ま、君の個人的感情なんてどうでもいいンだけどね…。ついて来なよ」

「え?」

「聞こえなかったかい?ついて来いって言ったんだけど?」

「……」

 ラキオは呆然とする私から手のひらを離すと、くるりと背を向けてこう言った。

 

 

 

 こんな展開、今までのループでは無かった…気がする。

ククルシカ騒動やコメット粘菌事件ほどじゃないけど、これだけ印象的なら記憶に残っていそうなのに。

私はラキオに言われるがまま個室4へ着いて行った。

あの状況では断る方が手間取りそうだったし――もしかすると、ラキオの方が私に用があるのかもしれない。

 ループが100を超えてから“銀の鍵”について探るため、ラキオと何度も交流を持った。でも、接触する時はいつも私の方からだった。

ラキオが個人的に私を誘うこと自体珍しい。 

「扉の前でぼうっと突っ立ってられると目障りなンだけど。取り合えず座っててくれない?」

「あ、うん」

 なんだか落ち着かない。ラキオの個室に入ったのは初めてじゃないけど、寝台に腰を下ろす許可が出たのは初めてだ。

 特記事項とは関係ないけど、あとで日誌に付け足しておこう。

ラキオはベッドサイドにあるディスクの引き出し二段目から、錠剤とカプセルが入った小瓶を取り出して、私の隣に座った。

「これだ。ほら、とっとと口開けなよ」

「?」

「…思考力だけじゃなく、聴覚まで鈍くなったの?口を開けろって言ってるンだよ」

「え?なにを、……!」

 突然のことに呆けていると、半開きになった唇の間にラキオの指先が触れた。

――正確には、琥珀色の錠剤ひとつぶを摘まんでいる指が、だけど。

至近距離から食い入るように見つめられ、一瞬どきりと鼓動が跳ねた。

 

「っ…、んむっ?」

 

 あまりにイレギュラーな状況に動転した私には、正常な判断ができなかった。

抵抗することもできず、口に押し込められたそれをごくんと飲み干してしまう。

 

「あははは!いいね、その間抜け面!餌を待つ健気な実験動物のようだね!」

「ぷは…ちょっと、さっきの錠剤はなに?」

「フン。ただのサプリメントじゃないか。まさか本気で飲み込むとは思わなかったけどね。全く、君の危機管理能力の低さはいっそ尊敬に値するよ。…僕がグノーシアで、君を始末する心算だったらどうするつもりだい」

「無理やり飲ませたのはラキオの方だけどね!」

 さきほどから予想外のイベント続きで、私の理性は宇宙の彼方へ飛んでいる。正常な判断を求めるなら、不意打ち「あーん」はやめてほしい。

 それにしても吃驚した。まだ唇に、ひんやりした感触が残っている。きっと私の顔が火照っているせいだろう。ラキオの指は、氷のように冷たく感じた。

 

「やれやれ…。単なる健康促進のサプリだよ。気休め程度の解熱作用がある。医務室に行きたくないんなら、これで数日は騙せるんじゃない?」

「え…」

「ほら。僕の用は済んだから、もう出ていきなよ。そろそろ空間転移の時間だ」

「ラキオ」

 

――私には、この宇宙での0日目の記憶がない。

 航海日誌の一ページ目にざっと「仲の良い人物」と「仲の悪い人物」の記載だけは残されているけれど。

私はこのラキオとはどのように出逢い、どんな「最初の一日」を過ごしていたんだろうか…。

 みんなと親しくなれるのは嬉しいけれど、やっぱり胸が痛かった。

特記事項を埋めるために接近しているとはいえ、誰かに肩入れしたらその分辛くなる。

 

ラキオのこともそうだ。

ループを繰り返す内に内情を知り、棘のある言葉の中に秘められた不器用な優しさを知った。

情が移ってしまったのも、惹かれ始めている気持ちも否定できない。

だからこそ、これ以上深入りはしないと心に決めた。

 

「ありがとう、ラキオ。心配かけてごめん」

「なんだい、それ。君は本気で気色が悪いな…」

「気色悪くて結構です!私がお礼を言いたかっただけだから」

「フン…」

 私は寝台から立ち上がり、ラキオに笑顔でお礼を言った。

ラキオは瞼を伏せ、私が部屋を出て行くまで目を合わせてくれなかった。

でも、私は知っている。扉が閉まった瞬間に顔を上げたラキオが、ほんのわずかに微笑んでいたことを。

 

 

 

*二日目*

 

 ――昨夜はラキオの個室に立ち寄った後、航海日誌を確認する時間がなかった。

 過去のデータに頼れないなら、エンジニアとして疑わしい人物を調べてみるしかないだろう。

私情を挟めばループが長引き、無用な犠牲を出してしまう。それなのに、ラキオを信じたい自分の感情が邪魔をしていた。

 結局、私はステラを調査して彼女が汚染者でないことを知り、SQはラキオが汚染者ではないと宣言した。

 間の悪いことに、昨晩襲撃されたのはステラだった。現段階では私派とSQ派で、それぞれ票が割れている状態だ。

 私の視点ではSQがグノーシア確定だが、信用に足る証拠がないのはもどかしい。なるべくなら、人間側の勝利で決着をつけたい。

 

(仲間が一人一人減っていくのは、何度ループしても苦手だな)

 二日目が終わり、ジナがコールドスリープすることになった。

 私はジナの冷凍睡眠を見届けるため、一緒にコールドスリープ室に向かった。

ジナは入り口前の通路で「ここでいいよ、ありがとう」と微笑むと、私にだけ聴こえる小声で囁く。

「ねえ、気づいてる?」

「え?」

「ラキオの様子が、変だった」

「……」

「嘘を吐いているかまでは分からないけど…、何か隠してる気がする。気を付けて」

「うん、わかった…」

「私はあなたが人だって、信じるから。…おやすみなさい」

 ジナは別れ際に、控えめながらも私を励ましてくれた。

本人に自覚はないみたいだけど、ジナは直感が鋭いタイプだ。これまでのループでも、幾度となく彼女の感覚に助けられてきた。

信じてくれたジナのためにも、早くこのループを終わらせなければ…。

私はジナに「ありがとう」と感謝を告げてから、廊下を引き返した。

 

――今夜は真っすぐ部屋に戻ろう。

SQがラキオを「グノーシアではない」と判定した以上、それは私にとって疑惑の種になる。

個室に戻る通路を直進していた時だった。

「ああ、いた」

「ん?」

 正面から歩いて来る人物に呼び止められ、私は思わずその姿を凝視した。

「あっ、ええと………ラキオだ?」

「そうだけど。僕以外の誰に見えるっていうンだい?」 

「あはは、うん。喋ってくれれば、ラキオだってすぐ分かるよ」

「…は?」

 一瞬判別に迷ったのは、顔を彩る華美なメイクが落ちていたせいだ。

銀の長髪から伝う水滴が、上気した白い肩を濡らしている。どうやらシャワーの後だったらしい。

シャツ一枚に膝丈パンツスタイルのラキオのことを、私の中で「レアラキオ」と呼んでいる。いつぞやのように裸体でふらついていないなら一先ず安心だ。

「まぁ、君の感想なんてどうでもいいか。ちょっといいかい?話しておきたいことがあるんだ」

「…ラキオが、私と?」

「単なる退屈しのぎさ。大体、君こそこんな時間に一人でうろついているンだ。余程人望のない不審者か暇人だろう?」

「ぐっ。ラキオより人望はあります!…たぶん…」

「ははっ!不審者については否定しないンだ?因みに僕は、この船の連中の信頼を得ようとは端から思ってないけどね!」

 ――憎まれ口を叩くのは結構だが、さすがに人望と信頼ではラキオに負けたくない。

ムキになって反論する私を見たラキオは、愉快そうにけらけらと笑った。ご機嫌麗しそうで何よりだ。

「で、どうするンだい?」

「……」

 ループ開始後の記憶はいつも「一日目」から始まっている。当然、私にはそれ以前の記憶はない。

 この宇宙の私はラキオと懇意な様子だ。もしかしたら、何か特別な情報が得られるかもしれない…。

 

「わかった、付き合うよ」

 

 特定の誰かに肩入れしないなんて、自分が傷つかないための綺麗ごとだ。

結局私は、ラキオから向けられた好意を拒むことなどできなかった。

 

 

 

 これまでのループでは、素顔のラキオと廊下で鉢合わせることはなかったし、部屋に誘われたのは片手で数えるほどしかなかった。

(100回以上ループしてるのに、初めて体験することもあるんだ…)

 これだけ回数を重ねれば私の経験値と記憶も揃ってきたが、新しい展開が起こると好奇心には勝てない。我ながら複雑だ。

「話って何?」

 手持ち無沙汰の私は、昨夜同様ラキオの寝台の上に浅く座った。

身じろぐと肩が触れそうな距離にラキオも腰を下ろす。なんだか変な緊張で体が強張った。

 ――ドキドキしている場合じゃない!コレは偵察なんだから!

 

「時間もないしね。単刀直入に言おうか」

「……っ…」

 ラキオは寝台に手をついて身を乗り出し、私に顔を近づけて来た。

(近い…!)

 長い睫毛に縁取られたブルーの双眸に吸い込まれそうになる。目を逸らせないまま硬直していると、ラキオの白い指先が私の顎を持ち上げた。

「な、なに?」

「君、グノーシアかい?」

「!」

 食い入るように品定めされて、背筋がぞくりとする。後ろ暗いことはないのに、微かに唇が震えた。

ラキオに怪しまれている事は一日目から分かっていたことだ。

…信頼されていなくてもいい。ただ、私はこのループでの役割を果たしたい。 

「私は人間だよ。この船のエンジニア」

「ふぅん…」

 ラキオの顔を正面から見据えながら、真実を口にする。

ラキオは暫く私を眺めると、それから顎先に添えた指先を離した。ほっとして、私の全身から力が抜ける。背筋に一筋汗が伝い落ちた。

「ふっ、あはははは!」

「……へ?」

「たかが人間宣言に、滑稽なほど必死じゃないか!……面白い、面白いよ君は!あはははっ」

「くっ…そりゃ、疑われてるんだから真剣にもなるよ!」

 私を[[rb:揶揄 > からか]]って正体を暴こうと思ったのか。ラキオの本心は分からないが、こちらとしては常に本気だ。…誰だって疑われたくない。

「いつ、僕が君を疑っていると言ったんだい?」

「え?」

「フン。見くびって貰っては困るな。疑心を抱く対象を招き入れるなンて自殺行為、僕がする訳ないだろう」

「じゃあ、私が本物のエンジニアだって信じてくれた…?」

 ラキオの表情に嘘はなかった。私は知っている。ラキオは他人に辛辣だけど、決して非効率な行動はしない。

「…勘違いしないで貰いたいンだけど。僕は他人を信じるとか信じないとか、非論理的な感情論は好きじゃないンだ。結局は、価値ある者が生き残る。結果がすべてなのさ。いいかい?君がもしグリーゼに生まれていたら、――」

「…うん。テラホーミング弾頭に詰め込まれてるんだよね?」

 ラキオの故郷グリーゼ船団国家の話なら、ループの中で度々耳に挟んでいる。

階級制度のある国で、熾烈な競争社会を勝ち抜いてきたのは想像に難くなかった。

いつかラキオとグリーゼを訪ねたいと思う反面、私では実力不足に感じて言い出すことはできなかった。‟無能な人間は一山いくらのモノ扱い”なんて、やっぱり恐ろしい。

「へぇ、君にそんな事まで話したっけ?いや、今それはどうでもいいね。君を信用するよ。我ながら非論理的な判断だけど、ね」

「ラキオ…」

「君が人間であると分かった以上、僕らが議論する必要はないだろう。明日でこの騒動も決着がつく。…今の内に渡しておくよ」

「え?」

 私が首を傾げていると、ラキオはサイドテーブルの上にあったイヤリングを手に取った。

 ラキオの頭部を飾るアクセサリーと同じ色合いの羽根が二枚対になっており、プラチナの金具にぶら下げられている。

艶やかな色の羽根が一際目を引く、絢爛な耳飾りだった。

「綺麗…。これ、ラキオの?」

「君、前に物欲しげな顔でこれを見ていただろう。もう僕には不要な物だから、譲ってあげるよ」

「え…!」

 

 昨日はサプリを(強引に)飲まされたけど、耳飾りの話はしていないはずだ。

ということは、私の知らないラキオとの思い出がこの宇宙であったに違いない。

記憶を共有できないことは残念だけど…ラキオから贈り物を貰えるなんて、私にとっては奇跡に等しい。

「いいの?嬉しい…!」

差し出されたラキオの手から耳飾りを受け取ろうとすると、ラキオは「行儀が悪い。大人しくしなよ」と私の手を払った。

 私が目を丸くしていると、伸ばされたラキオの両手が私の耳朶に触れた。

次いで金具の無機質な感触が皮膚に掠め、驚いて飛び上がりそうになる。

「…っ」

「動かないでくれる?手元が狂って耳朶が千切れても知らないよ。…ああ、君が苦痛に快楽を感じる類の人種なら、暴れて貰って構わないけど」

「なっ?私、そんな変態じゃないから…!」

「あはは!それはどうかな。自分では自覚していない悪癖ってあるらしいからね?」

「だから、違うってば…」

 軽口に慌てて反論すると、ラキオは楽しそうに声を上げて笑った。

自分でもラキオに甘い自覚はあるけど、笑ってくれるならそれで良い。

このループが終わる時、ラキオとの未来も消える――せめて笑顔を目に焼きつけていたかった。

 ラキオは「何笑ってるの」と問いながら、指で私の横髪を梳いた。

香料の甘い香りが目に染みる。口調とは裏腹の繊細な触れ方が妙に擽ったく感じた。

 

「さぁ、できたよ。僕より見劣りするけれど、悪くはないンじゃない?」

「それは、ラキオの方が似合うに決まってるよ。…でも、ありがとう」

 左右の耳に揺れる耳飾りに手を触れると、胸にじんわり温かいものが込み上げる。

ラキオは短い眉を寄せると、目線を逸らして不機嫌そうに言った。

「なんで、泣くんだい」

「え?」

「…理解に苦しむな。君は僕の常識の範疇外の反応をする。実に不可解で…不愉快極まりないよ」

 ラキオの一言で、私は始めて自分が泣いていることに気づいた。

嬉しくて泣くなんて、一体いつぶりのことだろう。

「あ…。ちがう、これは、…」

 ラキオは再び、私の方へ身を寄せてきた。狭い寝台の上で距離を詰められ、私は壁際へ追い詰められる。

「ラキ――…」

何も言わないラキオの唇は私の耳の羽根にふわりと触れ、撫でるように首筋に移動する。

「な、…っ?んんっ」

 ちくっと肌を刺す鋭い刺激に、ぞわっと全身が粟立った。

ラキオに噛まれたのだと気づくまで、そう時間はかからない。

と、同時に。焦れたように朱く燃える双眸に、私への狂気が宿っていることを悟った。

 

「愚かな人間への嫌悪を感じながら、ずっと衝動を抑えて来たよ。だけど、一日また一日と経過する内に、偉大なるグノースが僕に囁くのさ。本能の示すまま、全てを破壊しろ、ってね」

「………」

 ラキオの左目が、血に飢えた深紅色に染まっていた。

私は凍りついたようにその場を動けず、ラキオに抱き寄せられたまま顔を背けた。

 

分かっていた。

だけど、最後の日まで目を背けていたかった。

ラキオと一緒にいられる「嘘」を選んだ。私のワガママだ。

 

「――僕は、グノーシアだよ」

 

 しなやかなラキオの指先が、震えながら私の頬に爪を立てる。

……ラキオが泣いていた。

セルリアンブルーの右目から宝石のような涙が浮かび、私の頬に滑り落ちていく。

「うん、知ってる…」

「ハッ!正体を知りながら、僕にのこのこ付いて来てたの?それとも、僕に取り入って信用を得れば、自分だけは消されないと思ったかい?残念だったね!あははっ!」

 ラキオが初日から汚染されていた以上、グノーシアとしての衝動に抗いながら私の傍にいたはずだ。襲うチャンスなんて、吐いて捨てるほどあった。

 

それなのに。回りくどい真似をして私に情けをかけた。

理性と本能の間で葛藤して苛立ちながら…一体どこが論理的だったんだろう。

こんなに人間らしい「嘘つき」、憎むなんてできない。

 

「今夜君を消して、僕はこの船の権限を奪う――」

 

 恐怖はない。驚くほどに私の心は凪いでいた。

覆いかぶさってきたグノーシアの背を抱き返すと、シーツに散った自分の髪と耳飾りをぼんやりと眺める。

「――……!」

 ラキオが目を見開き、小さく身じろぎした。

私は力を込めてもう一度その背中を抱き寄せると、そっと両の瞼を閉じる。

 

ラキオへの想いも肌を焼く痛みも耳飾りの記憶も、私は決して忘れない。

この宇宙の記憶を抱きしめて、また巡り逢う――ループが終わる、その瞬間までは。

 




こちらの作品は現在最新話までpixivで公開中です。
他にも二次創作小説を多数公開しておりますのでよろしくお願いいたします。

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