恋愛汚染者参加型ライアーゲヱム 一話   作:yuki_leno

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シリーズ一話目の続き。
グノーシア(Nintendo Switch)ゲームの二次創作小説です。

ラキオ×オリジナル主人公♀の夢小説になります。
二話目から他のキャラクターとのやり取りや夢要素が若干含まれます。


第二話【等価交換】

 

*一日目*

 

 

 ――航海日誌。ループ137回目。

「イタッ…」

 ループが始まるや否やどすんっと尻餅をつき、私は激痛に身悶えていた。どうやら尾てい骨を強打してしまったらしい。衝撃のせいで腰が痺れて起き上がれない。

すぐには立ち上がれないし、まずはこの異常事態を確認することにした。

――ここはD.Q.O船内、娯楽室。私はビリヤード台の上に落下してきたらしい。

尚、LeViの解説ではビリヤードには「腕が四本」必要らしいので、私がプレイすることはないだろう。

(なんでこんな場所からループが始まったんだろう?エラーかな…)

 各ループごとに設定が入れ替わるのは周知の上だが、開始場所が意味不明なのはいかがなものだろうか。

 0日目の私が船で取っていた行動は読めないが、始まったものを嘆いても仕方ない。

「よいしょっと…」

 痛みが引くのを待ち、腰を摩りながらビリヤード台を降りた――その時だった。

 

「ヒュウッ!探したぜ、マイエンジェル!」

「うわっ?沙明…!」

 床に着地した瞬間。娯楽室のドアが開き、突入してきた沙明がいきなり私に抱き着いて来た。突然のことに驚き、一瞬全身が強張る。

「なっ、何?離して…」

「つれないねェ、昨夜は二人っきりでお楽しみだったじゃん?忘れっちまったなんて寂しいこたァ言わねーでくれよ」

「昨夜…?なんのこと?」

 こんなやりとり、過去にSQとも交わした気がする。

 繰り返すループの中で記憶は色褪せ、もう何十年も昔のできごとのように感じた。沙明は私の背中に回した手を移動させ、今度は尻のあたりを撫でてきた。

「――セツに激しく同意!」

「アウチッ…!」

 私は沙明の腕を振り払うと、手の甲を思いっきり抓って距離を取った。まったく。油断も隙もあったものじゃない。

「つか、なんでセツが出てくんのよ?…ま、セツに夜這いすっと返り討ちだし、ソコは俺も弁えてますけど?」

「弁えているんなら、どうして時々やられてるの?」

「ヤラれるって俺が?…アッハ!むしろアンタとセツはいつでもウェルカムなんだけどなァ。どうよ、このままフケって二人で――」

「とっとと議論に出席しよう」

 このまま沙明のペースに巻き込まれたら思う壺だ。

私が即否定すると、沙明は「チッ」と舌打ちをして分かり易く不貞腐れた。

なんで沙明が…いや、沙明が娯楽室に来るのは日常茶飯事。問題は異様に距離感が近いこの状況だ。

 いくら女好き(+セツ好き)の沙明でも、ここまで節操のないセクハラは珍しい。

敵であれ味方であれ、生き残るための警戒心は持っているタイプなのに。

「つか、アンタもさぁ…。よりによってラキオと協力すんのは止めといた方がイイんじゃね?」

「え?」

「ラキオってなァんかキナ臭ぇじゃん。俺を選んでくれんなら、アンタを守ってやりますよ?マイエンジェル」

(この宇宙の私って、ラキオと協力してたんだ…)

 ループ開始は常に「一日目」だ。

ということは「0日目」の私はラキオと何か約束していたんだろうか。

私とセツのようにループの情報を共有している関係なら、それも可笑しくはないけれど…。

 ループ回数を重ねたせいか、イレギュラーの回数も増加している。後で航海日誌を確認しておこう。

 とにかく沙明がサボらないよう連行しないと、セツがまたやってしまうかもしれない。

私はだるそうな沙明をなんとか説得して、二人でメインコンソールへ向かった。

 

 

 

 

 一日目の会議が終わった。

(エンジニアに名乗り出たのがククルシカとラキオで、留守番はシピとコメットか。守護天使がいるみたいだから、留守番は襲撃しないでおこう)

 今回の私はグノーシア陣営、味方は夕里子とレムナンの二人だ。

 ドクターはセツだが、由里子が対抗ドクターとしてカミングアウトしている。夕里子の疑惑を逸らしつつ、最終日までレムナンと潜伏していればいい。

 

 私は今夜冷凍睡眠するステラに別れを告げるため、コールドスリープ室まで同行することにした。

「ありがとうございます。ふふっ、わざわざ見届けて下さるなんてお優しいのですね」

「ううん。私にはこれくらいしかできないから…」

 ステラは柔和な微笑みを湛えて礼を言った。初日投票で決定したとはいえ、彼女が人間と知っている身として罪悪感がよぎる。

 すでに140近いループを重ねていても、無用な疑いを乗員にかける日々の繰り返しだ。

 全員生きているあの宇宙で、私がループを終わらせなくてはならない。

「グノーシアにもジョナス様にも、くれぐれもお気を付けくださいませ」

「うん、わかった」

「それから、沙明様にも警戒なさるべきかと…」

「沙明?」

 ステラは身を屈めると、私の耳元でこっそり囁いた。…甘く魅惑的な匂いがする。ステラがLABで育てているあの花の香りだ。

「ええ。沙明様は私から見ても、その…。見境ないところがおありの殿方ですので…」

「あはは、そうだね。気をつけるよ」

 ステラの心配はもっともだ。グノーシアでなくても警戒は必要かもしれない。

 

 ステラのコールドスリープを見届け、私は通路に出た。

今夜はシャワーを浴びてから就寝するつもりだ。特記事項を埋め始めてからループの連続で、気の休まる時がない。

命がけの騙し合いで、精神が擦り減っているのは事実だ。シャワー中は邪魔が入らないし、思考を纏めるのにちょうどいい。

 ブースに入って脱衣を済ませると、タオルを手早く体に巻きつける。

(それにしても、この船の乗員は無防備すぎるよね)

 裸体のまま廊下を歩くラキオや、ブースの施錠を忘れても気にしないジナ、裸の付き合いにノリノリのコメットに、積極的にシャワーを覗きたがるSQ――皆と交流する内に、私の感覚がズレている気がしてきた。

 衣類を纏めてロッカーに仕舞うと、こつんと音を立てて何かが落ちる。

「あっ」

 金の金具にぶら下がっているのは、ターコイズブルーとコバルトグリーンの鳥の羽根だ。鮮やかなグラデーションに目を奪われ、心臓が跳ね上がる。

 

――前回のループで、ラキオから貰った[[rb:耳飾り > イヤリング]]だ。

 

 てっきりループが終われば消えていると思っていたのに…まさか、持ち越してきたなんて。

 

(あれ、もう片方は…?)

 

 落ちていたのは一つだけど、贈られた時は両耳分あったはずだ。

私はイヤリングを拾い、シャワーを浴びるのを忘れて自分の衣類を探ってみた。

…ない。コートの内ポケットにも、携帯ポーチとベルトのポシェットの中にも、片割れは見当たらなかった。

(やっぱり、そこまで都合よくいかないか…)

 

 私と乗員の過去の関係は、ループごとに異なっている。

あのラキオとの夜は記憶が途絶えているけれど、これまでの経験上同じ展開は辿れないだろう。片方だけでもイヤリングが残ったのは奇跡かもしれない。

 気を取り直して衣類を畳み、施錠しようとドアに手をかけた――その時だった。

 

「沙明、君の生き汚さには辟易したよ。羽虫なら羽虫らしく素直に叩き潰されておけば?まがい物は醜態を晒してでも、この船を乗っ取りたいンだろうけどね?」

「だァーかーらァ…この俺を疑うなんてどうかしてるっつーの!アンタこそ、その可愛げのなさ何とかしたらどうよ!?」

「フン。君の個人的見解に興味はないな」

 言い争う二人の声が近づき、思わず身を硬くする。

「しつけェっての、ラキオ!セツはともかく、アンタにストーキングされんのはノーサンキューだぜ」

「自惚れないでくれるかい。沙明なんか視界の端にも入れたくないね。僕はシャワーを浴びたいンだけど?…消えてくれない?」

 私のブースの前でぴたりと靴音が止まり、勢いよく扉が開け放たれた瞬間――あろうことか、沙明がブース内に押し入ってきた。

「…な…!?」

「ウオッ、と!?……って、マイエンジェルじゃん。ヒュウッ!ラッキー!」

「でっ、出て行って!」

 狭い個室の中では逃げ場はない。沙明は壁面に手をついて、私の方に身を寄せて来た。

「つれないこと言わねぇでくれって…な?」

「…っ…」

 素肌に沙明の革ジャケットが擦れてくすぐったい。脳裏にデジャブが蘇ってきた。

コメットの粘菌が暴走した時、ステラの指示でメディカルポッドに避難した、あの時の――でも、あれは緊急事態でやむを得ずだ。今とは状況が違う。

「俺らの仲じゃねえの。アンタさえ一言〝欲しい〟って言ってくれりゃ、俺ぁ悦んでご奉仕しますけど…?モチロン、体でな!」

「っ、ひゃ…?」

 沙明は私の手首を掴み上げると、耳元で低く囁いた。恋人の名を呼ぶような甘い声音に、不覚にもドキッとする。

…って、動揺している場合じゃなかった。これ以上は貞操の危険を感じる。

「いいからっ、出て行って…!」

「…ウグッ!?」

 私は沙明のみぞおちを狙って肘打ちを放った。すっかり油断していたのか、沙明はブースの外に押し出され、尻餅をついた。

「ああ。まだそんな所で飛んでたんだ。…羽虫ってしぶといよね」

「ヌアッ!?」

 さらに、へたり込んだ沙明の後頭部に追い打ちをかけるように、ラキオが自分の手荷物を振り下ろした。

「ラ、ラキオ…アンタなぁ…」

 あれはいつも身に着けているラキオのリュックだ。個室に居る時くらいしか降ろしているのを見たことがない。

「イッテェんだよ、ドン器でぶん殴るなっての!せっかく俺の天使とヘブンの絶頂だったって時に…」

「へぇ。グノーシア汚染者って言語障害が進行するのかな?いくら概念伝達がままならないとはいえ、人間らしい知性が欠片もないよね!」

「だからッ、俺ぁグノーシアじゃねェから!」

 再び口論を始めた二人を尻目に、私はいそいそとシャツに袖を通し身支度を整えた。

とてもじゃないけど、この場でシャワーは浴びられない。今夜は諦めて寝ることにしよう。

「待ちなよ」

「え?」

 こっそり立ち去ろうとすると、ラキオに呼び止められた。

「明日の会議について話があるンだ。僕の個室に来てくれない?」

 そういえば、ラキオと私はこのループで協力していた。断るのは不自然かもしれない。

「わかった」と頷くと、ラキオは「一時間後にね」と言ってその場で服を脱ぎ始めてしまった。

ラキオに関しては、沙明とは別の意味で慎みを持っていただきたい。

「それじゃ、私はこれで!」

「オイ、俺を置いていくなって!――約束、忘れんなよ!」

 

 沙明に意味深に呼び止められたけど、ここに残ったら「ラキオのシャワーを覗く」か「沙明をやってしまう」かの二択しかない。

 なるべくラキオを直視しないよう、明後日の方向を見つめてシャワー室を出た。

 

 

 

 ――個室に通されたループはあっても、ラキオから協定を持ちかけられた数は少ない。ラキオは会議中、誰かに協力を求めないからだ。

「僕は誰も信用しない」と公言していたのを思えば、少なくとも今は信用されているらしい。…グノーシアは私だけど。

 勝手に入室するのは気が引けるので、個室前の廊下で待つことにした。

「一時間後」と言われたので、一度部屋に戻って航海日誌をまとめてある。

今日一日の出来事だけで、個人的な特記事項が三ページは埋まりそうだ。

 

「おや?わざわざ外で待ってたンだ?」

「さすがに勝手に部屋に入ったりできないよ」

「そう。コメットみたいに罠なンて張ってないけど?」

 

 きっかり一時間後。ラキオが個室前まで戻って来た。タオルで濡れた髪を拭く仕草は妖艶で、思わず目を引きつけられる。

――前回のループでラキオと関係を持たなければ、これほど意識はしなかっただろうけど。

見目が派手で口調もキツいのに、素顔は愛敬があって嫌いになれなかった。

 後に続いて入室すると、ラキオが寝台に腰を下ろしたのでその隣に座る。

ラキオは横目でちらりと私を見ると、大げさな溜息を吐いてから言った。

「いいかい?明日は沙明を潰そう。沙明なんて別にいらないしね」

「いらないって…。怪しいからとかじゃなくて?」

 正直、グノーシア側としては誰を凍らせてもいい。

むしろ、ラキオが本物のエンジニアだった場合が厄介だ。真っ先に排除するべきはエンジニアか守護天使だから。

 

――それなのに、この期に及んで私は選択に迷っている。

ループを繰り返すたび嘘が巧くなっても、心は違う意味で脆くなっていく。

 

「人望がない方が悪いんだし、凡愚は全員凍らせておけばいいンだよ。大体、沙明には知性の欠片も感じられない。動物的本能を自制できない、生き恥晒しだしね。残しておく価値ないンじゃない?」

「…そこまで言わなくてもいいんじゃないかな?」

 なんだかラキオの雰囲気が一段と刺々しい。

 ラキオは辛辣だけど論理的なタイプだから、感情だけで投票しないはずなのに。

 とはいえ、以前レムナンを守るために「SQ潰し」に参加させられた件もあるから、理論武装は感情を隠すためのラキオの鎧なのかもしれない。

「なんだい?僕に文句でもあるの?それとも、沙明に肩入れする理由でもあるのかい?」

「…ううん、ないけど」

 ラキオは私の反論にご立腹らしく、こちらに詰めて顔を近づけて来た。

指先で私の顎を持ち上げて、至近距離からじっと睨んでくる。

観察対象を見るように凝視されて息が詰まった。この状況、前回のループでも……。

(あれ…?)

 瞬間、背筋にぶるっと鳥肌が立つ。私の中をかき乱すグノースが、理性の糸を食いちぎる音がした――。

 

「ちょっ、……?」

 

 一瞬、自分でも何をしているか理解できなかった。

気が付くと私は、身を乗り出してきたラキオの肩を逆につき返し、寝台に押し倒していた。

シーツの上に散ったラキオの髪と、私を見上げて目を見開く表情を交互に見比べる。

 自分の体なのに、自分のものではない感覚。コントロールが効かない。耳の奥が煩い。内側で衝動が騒ぐ。

(抑えないと――)

 朦朧とする意識の中でラキオに覆い被さった私は、肩口に顔を埋めて頬を擦り寄せた。

「…ン、…ッ」

 ラキオは身じろぎして、私の後頭部に手を回してくる。

このまま私の頭をつかんで、突き飛ばしてほしい――そんな願いも虚しく、ラキオの手のひらは後ろ髪を梳きながら、柔らかい手つきで撫でていった。

 

『なんだか物欲しそうな顔をしているね。ご褒美だ、ヨクガンバッタネ、エライエライ』

 

 ラキオとグノーシアだったループで、こんなセリフを聞いた覚えがある。

今となっては「物欲しそうな顔」というフレーズは一段と恥ずかしかった。

 ――ラキオにあやすように「よしよし」されて、不思議と鼓動が落ちついていく。

煩かった耳鳴りが消える頃、私の意識と感覚はもとに戻っていた。

 

「は…っ?」

「……君、一体なンのつもりだい?」

「ごっ、ごごごご、ごめんなさい…っっ!!」

 

――まさか、「グノーシアの発作が起きました」とは言えない!

 私は大声で謝罪してラキオの上から飛び退くと、ドアにぴったり張り付いて距離をとった。

 セツや夕里子が言っていたように、どんなに気を付けても「人間を消したい」という強い欲求は抑えきれない。

 見つめ合った時にグノースが暴れたのは、〝感情〟が引き金になったのかもしれない。…私がラキオを意識してしまったせいだ。

「まだ僕の話は終わってないンだけど?」

「ええと、用事を思い出したから…。おっ、おやすみなさい!」 

「待ちなよ。…このまま逃がすと思ってンの?」

 ドアを出ようとすると、ラキオに腕を引かれて呼び止められた。

「っ…」

 汎とはいえ、ラキオの肉体は男性だ。想像以上に強い力で振り解けない。

このまま捕まって尋問されても言い訳できない状況だ。私がぎゅっと目蓋を閉じると、ラキオの両腕は私の背に回され、包み込むように抱き寄せられていた。

「……ラキオ」

 逃がさないと言ったくせに、抱きしめるときは優しいなんて反則すぎる。

「やれやれ…。君の言動は支離滅裂だ。手を組んだ以上、最低限人間らしい振る舞いをして貰わないと困るンだけど?…迂闊な行動で僕の身に危険が及んだらどうするつもりだい」

「驚かせてごめん。もう変なことしないし、会議では気をつけるから」

 下手な言い訳は逆効果だ。怪しまれても罵られてもこの場は乗り切るしかない。

「……別に、二度とするなと言った覚えはないよ。これだから言語のやり取りは好きじゃないンだよね」 

「…え?」

 耳元に落ちるラキオの呟きに、いつものような棘はなかった。恐る恐る顔を上げると、ラキオは私から目を逸らして言った。

「言っておくけど、僕を裏切ろうものなら君を徹底的に潰すからね?」

「そんなことしないよ。私たちは協力者なんだから」

 息をするように嘘を吐く自分が悲しかった。だけど、本音としては誰のことも裏切りたくない。たとえ今はみんなと敵対する立場でも。

「それと。君が沙明に近づいた場合も僕への反逆とみなし、二人まとめて潰してやるから。そのつもりでいることだね」

「近づいているつもりはないんだけど…」

「フン、どうだか…」

 

 そういえば、沙明はシャワールームで「約束を忘れるな」といっていたけど、一体なんの話だろう?

あとで確認しておくべきかもしれない。まだ私の知らない情報が得られる可能性がある。

 

「とにかく、だ。君は黙って僕の指示に従っていればいいのさ」

「うん…。わかった」

 私はラキオの背にそっと腕を回して抱き返した。

「……っ、」

 ラキオは会話が嫌いと言っていたけれど、たぶん触れ合うことに慣れていないと思う。抱きしめると微かに体が強張るのが伝わってきた。

それでもお互い離れ難くなり、無言のまま身を寄せ合う。

 

――もし私が人間だったなら、空間転移まで時間の許す限りこうしていたのに。

でも、私はグノーシア。いつ破壊衝動に苛まれるか分からないし、夕里子たちと相談して今夜の獲物を決めなくては。

 

「それじゃ、そろそろ戻るね。おやすみ、ラキオ」

 ラキオに小声で囁くと、ゆっくりと拘束が解かれた。

互いの距離が空くと、却って顔を合わせるのが気恥ずかしくなる。

目を合わせないまま部屋を出て行こうとすると、背後に添えられた手が私の代わりにドアを開けた。

 

「ラキオ?…どこか行くの?」

「誰かさんが雛鳥みたいにはしゃいだせいで、目が冴えたンだ。LABで研究の続きをしてから寝るよ。君と違って暇じゃないしね」

「うん…」

 

 隣り合って廊下を歩いている間、言葉を交わすことはなかった。今夜は私も、色々な意味で眠れそうにない。

 

 

*二日目* 

 

 

 守護天使は人間確定の留守番を守っているだろう。

相談の上、昨夜グノーシアはしげみちを襲撃した。

 二日目の会議では一つ情報を得た。ラキオがグノーシアの私を「人間」と報告したのだ。つまり、ラキオはAC主義者で間違いない。

後は味方の嘘がバレず、夕里子とレムナンの心証が悪くならなければ、今回のループでラキオを犠牲にせずに済む。協力者の立場としてはやりやすくなった。

 ただ、沙明に疑いを向けたものの土下座でコールドスリープが見送られ、グノーシア側としては美味しい展開とは言いにくかった。

 

 

「よォ、マイエンジェル。ちょっとツラ貸してくれよ?」

「沙明」

 先ほどラキオを援護射撃して沙明をコールドスリープに追い込んだ手前、二人きりは正直気まずい。

ラキオにも「沙明に近付いたら潰す」と死刑宣告されている。

 でも、一度のループで得られる情報はできるだけ集めたいのが本音だ。少しの時間なら平気だろう。

私は沙明に付き合うことに決め、展望ラウンジへ向かった。

 

「なにこれ…!?」

「アッハ!アンタと俺に相応しいシチュエーション投影して、スタンバってやったんだぜ?どーよ、スウィートな夜をアベックが過ごすのにピッタリじゃね?」

「こんなギラギラしてたら、落ち着いて話せないよ」 

 展望ラウンジには一面ガラス張りの室内が投影されており、天井から豪奢な間接照明がぶら下がっていた。

 中央に置かれているのは大型の丸い寝台で、シーツからクッションまでテカテカした真紅色だ。

おまけに床までライトが点滅するものだから、目が痛くて仕方ない。この場にいるだけで気が遠くなりそうだ。

「オゥケーイ!早くコッチ来いって」

「いいよ、話ならここで聞くから」

 沙明はベッドの上に飛び乗って手招きするけど、飛び込んでいく勇気はない。ここまで露骨に下心が透けるなんていっそ清々しい。

「ンー?なんだよ、お楽しみはコレからだぜ?安心しな、いきなり取って食いやしねぇから。コッチも取引はマジでヤりてぇのよ」

「取引…?なんの話?」

 話が読めず首を傾げていると、沙明はジャケットのファスナーから光る何かを取り出した。 

「約束したじゃん?アンタにコレを返してやるって――」

「!」

 沙明が指先でつまんで揺らして見せたのは、特徴的な羽根飾りのイヤリング。間違いない。あれはラキオから貰った物だ。まさか、無くなった片割れを沙明が持っていたなんて。

「沙明。それ渡してくれない…?」

「あぁ、モチロンだって。俺ぁカワイイ天使との約束は守るタチだぜ?たァーだーしィ、コッチの要求を飲んでくれたらの話だけどな」

「…望みはなに?」

 沙明はにぃっと笑って、もう一度手招きした。私が寝台の傍に近づくと、身を乗り出した沙明が自分の頬を指で差し示す。

「んじゃ、まずは一発ココに熱いベーゼ頼むわ」

「まずはって…」

「デキるだろ?そんだけ大事なモンだったんなら」

「……」

 一度沙明の要求を飲んでしまったらキリがない気がする。

 でも、目の前でちらつくイヤリングを見ると心が揺らいだ。あの耳飾りは一点ものだ。もう二度と手に入らない、ラキオとの思い出の品。

「…わかった」

 私は靴のまま寝台の上に乗り、沙明の頬にキスをした。

「――……!」

「返して、沙明」

 だが、私のキスに驚いていたのは要求した沙明自身だった。

「…アンタ…」

沙明は品定めするように私を見つめ、それからふっと微笑んだ。いつもみたいな軽薄な笑顔じゃない。取り繕った仮面の下に、悲哀が滲む沙明の素顔だ。

 

――オトメの水槽の前に立って見送っていた時。

――私に辛い過去を少しだけ語ってくれた時。

 

 時々、傷ついた彼の心に触れると胸が痛んだ。それでも、勝ち残るためにどんな手段も使うと決めて、セツとループを繰り返して…。

 

いつの間にか、一番生き汚くなったのはこの私だ。

 

「ヒュウッ!マジかよ…あーあー…妬けるねェ。アンタにそこまで想われてんだからコイツも本望だろ」

「……沙明」

「クソみてーなグノーシア騒ぎが解決したら返してやるよ。ただ、俺と生き残るって約束してくれね?」

「え?」

「今日みたいに凍らせようとしねェでくれよ?そうしたらコイツも返してやるし、アンタも俺も生きてハッピーエンドってワケだ。ァンダスタァン?」

「……」

「生き延びたらよ…。アンタと行ってみてェ星があるんだよ」

 

 沙明の言葉が胸に刃のように突き刺さった。

二重の意味で、私は彼の願いを叶えることができない。答えることができなかった。

だって。このループで私は、この船を――。

 

「うん…。生き残れたらいいね」

 

私に言えるのはいつも嘘だけだ。沙明はくっと笑うと、私の体を引き寄せた。

「ひゃ…っ?」

「トラスト・ミー!最初に言ったじゃん?俺が守ってやるから…ってな。心の底から信用してますよ、…マイエンジェル」

「…沙明」

 

 沙明は私をぎゅっと抱き寄せると、「アンタは暖けェな…」と呟いて胸元に顔を埋めてきた。

何も知らないほうが、幸せなこともある。

沙明がオトメを襲撃した時にそう言っていたように。

 

どうして私は今、気づいてしまったんだろう。

沙明は守護天使。グノーシアにとって最大の敵ということを。

 




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他にも二次創作小説(夢小説)を多数公開しておりますので、よろしくお願いいたします(*^^*)

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