最初で最後の   作:栞川七海

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前回が軽くグロかったので、今回から甘めに。

でも、私の甘めは他人にとって甘くないらしい…

…なんでだろ?



2年振りの再会

私とアイツの付き合いは、随分と前からだった。

 

呉服屋の長男だったアイツ。

 

小さな長屋を営む一家の長女だった私。

 

家がお向かいさん同士で、四六時中顔を付き合わせては二人で遊んでいた。

 

江戸の街を走る、カラコロという軽やかな下駄の音が二人分。

 

私達はいつも手を繋いで、お揃いの下駄を履いて、決まった場所で決まった遊びをしていた。

 

でも、そんな幼く楽しい日々は、あっという間に過ぎ去っていった。

 

ちょっとずつ時が過ぎて、二人ともちょっとずつ成長して、ちょっとずつ背丈も体格も変わっていって…。

 

いつの間にか手を繋がなくなった。

 

いつの間にか遊ぶことすらなくなった。

 

いつの間にか着物の裾がはだけるのを気にするようになった。

 

いつの間にか背丈がアイツよりも低くなっていた。

 

いつの間にか私達は、十六になっていた。

 

 

 

「…あれ、沙月。久し振り…だな」

 

久々に帰ってきた家の玄関先、ふとそんな声が聞こえて、顔を上げる。

 

するとそこには、久し振りに姿を見かけたアイツーもとい、俊文がいた。

 

2年振りに見かけた俊文の姿は、以前よりも肩幅が広くなり、男性的な身体になっていた。

 

「沙月…そういえば、久しく会ってなかったな。どこ行ってたんだ?」

 

俊文は首を傾げて、私にそう尋ねた。

 

私はまとめられた荷物の中から、何冊かの帳面を取り出して、俊文に手渡した。

 

「…これ、なんだ?」

 

俊文はパラパラと帳面を捲り中を見て、難しい顔をしながらさらに首を傾げた。

 

私は俊文から帳面を回収し、まとめられた荷物の中に入れ直す。

 

「本草学よ、本草学。俊文だって、聞いたことあるでしょ。本草学を学びに、ちょっと遠くまで行ってたのよ」

 

本草学というのは、要するに中国に由来する薬物についての学問の事だ。

 

多くの知識と勉強量が必要とされ、本草学者になるのは極めて困難であり名誉なことなのだ。

 

中でも、女性の本草学者は特に少ない。

 

日本ではまだ、薬草というものの資料が少なく、自ら海へ、山へ、崖へと薬草採取に行くことが多い。

 

そのため、薬草採取のために命を落とす危険性が高いのだ。

 

つまり女性の本草学者には、多くの知識と勉強量のみならず、並の男性にも劣らぬ体力と精神力を身につけることも必要不可欠となってくる。

 

だから、女性の本草学者は極めて少ない本草学者の中でも、特に少ないのだ。

 

「へぇ…沙月は学者様になるのか。すげぇなぁ…」

 

俊文は妙に感心した目つきでこちらを見た。そしてうんうんと頷く。

 

「俊文…あんた、馬鹿にしてない?」

 

私がそう言いながら軽く睨み付けると、俊文は顔の前で両手を横に振り、首を左右に振り回す。

 

「いいや!そっ、そんなっ、馬鹿になんかしてねぇよ!」

 

「…ふぅん、そう。ならいいけど」

 

私はぷいと顔を背け、おろしていた荷物をひょいと持ち上げ、抱えなおす。

 

さっさとこの荷物を、中に運び込んでしまわなくては。

 

すると、俊文は慌てた様子で私に話しかけてきた。

 

「あ、おいっ!沙月、そんなデカい荷物、無理して運ばなくたって俺が運んでやるって!」

 

俊文の手が、私の肩に触れる。

 

しかし私はその手を避けるようにして振り向いた。

 

私の肩にかかっていた髪が、勢いでさらりと落ちる。

 

「大丈夫よ、薬草採取で基礎体力はついてるんだから。お店の手伝いばっかりやってる俊文よりは、力があると思うけど?」

 

「んなっ…!?」

 

私が皮肉めいたことを言って笑った途端、俊文は眉間に皺を寄せ、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情になった。

 

「…畜生、馬鹿にされたまま引き下がれるかっての!ほら沙月、その荷物貸せっ!」

 

そう言って俊文は私から荷物をひったくる。

 

そして、その勢いのまま家の中に入り込もうとし―

 

見事に前につんのめって、そのまま盛大に転んだ。

 

「ほーら見なさい、紙って何百何千枚とも集まると、相当重いのよ?呉服屋の服の重さとは比べ物にならないんだから」

 

私は転んだ俊文を見下ろし、カラカラと笑う。

 

すると俊文は、強かに打ち付けた額を左手で押さえながらゆっくりと起き上がり、恨めしそうな目で私を見た。

 

「くっそぅ…沙月に力勝負で負けるなんて、思ってなかった…」

 

「ふふ、本草学者見習いをなめないでほしいわね。見てみなさい、この力瘤。並の男性だったら、余裕で腕相撲、勝てるわよ」

 

私は着物の袖を肩までまくり上げ、大きく盛り上がった力瘤を俊文に見せつける。

 

俊文は悔しそうに下唇を噛み、「いてて…」などと言いながら額をしきりにさすっていた。

 

そんな俊文の姿を見ていた私は、クスリと笑って手を差し伸べる。

 

「ほら俊文、そろそろ立って?薬持ってきてあげるわ」

 

私がそう言うと、俊文は渋々といった様子で私の手に掴まって立ち上がる。

 

まるで子供の頃に戻ったみたい。そういえば俊文はきっと拗ねるだろうから、言わないけれど。

 

私はもう一度、クスリと笑った。

 




うぇ~。

どうでしたでしょうか。

結構頑張った。

次回は沙月と俊文が沙月の家に入るところから始まります。
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