最初で最後の   作:栞川七海

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第一話の投稿から大分日が開いてしまった…

だってコメント少ないんだもの!寂しいんだもの!

コメント貰えなかったら寂しいですよ!?割と!!

誕生日プレゼント辺りにコメント欲しい((割と切実



変わる生活

私は相変わらず額をさする俊文を連れながら、二年振りに帰った我が家の廊下を歩く。

 

少し重心を傾ける度にキイキイと音を立てながら軋む古い床は、二年前から微塵も変わっていない。

 

廊下奥に見える『さなゑ長屋』の暖簾も、少し古ぼけて色が薄くなっているものの、特に二年前から変わったところは無いように思う。

 

「そういえば俺、沙月がいなくなってから沙月の家に一度も上がってねぇや」

 

別段長くもない廊下をのんびりと歩いていたら、額をさすりながら俊文がそう呟いた。

 

私がいなくなってから、というと二年前からということだろう。

 

ただ、私が出発する一年前あたりから、俊文の家がこれまでにない経営難に陥って、俊文も仕事漬けの毎日を過ごしていたのは知っている。

 

だから、俊文は推定三年前から私の家に上がっていないのだろう。

 

それなら、時折懐かしげな視線で私の家を見るのは仕方がない。

 

「…あれ?そういえば、俊文の家の経営難とやらはどうなったの?」

 

私はふと気になり、思ったことをそのままに聞いてみた。

 

すると俊文はバツの悪そうな顔になり、小さな声でぼそぼそと呟いた。

 

「経営難はちょうど一か月前くらいに回復したんだけどよ…それまでずっと仕事漬けの毎日だったんだぜ。遊ぼうにも体のいたるところが軋むわ、寝る時だって、寝転がれば関節のあたりから嫌な音は聞こえてくるわで大変だった。最近はやっと直ってきたところだな」

 

「そんな状態でこの荷物持ってこうとしたの?…呆れた…」

 

私が大げさなため息を吐くと、俊文は不満げな顔になった。

 

何かを言おうとしたのかもしれないけれど、今私たちの目の前にかけられた「さなゑ長屋」の暖簾の先には私の母がいる。恐らくいる。

 

私と俊文は、二人で並んで暖簾をくぐった。

 

 

 

「あらぁ沙月!お帰りなさい、元気にしてた~?」

 

暖簾をくぐるなり、私の姿を見つけた梅子母さん―母は大げさな態度で私を出迎えた。

 

そして一拍置いて、私の後ろに俊文がいることに気が付いた。

 

「あらあら、俊文君もいたのねぇ~、ごめんなさい、気付かなかったわ~」

 

「あ、いえ、お構いなく…」

 

俊文は何やら戸惑ったような素振りで会釈をした。

 

母さんののんびりおっとりとした話し方は、二年前から変わらない。

 

いつ聞いても眠くなる話し方だ。

 

私と俊文は、母さんと話す時間もゆっくりとらずに居間を抜けて、もう一つの廊下に移動した。

 

その廊下には、左側に計三つの部屋があり、奥に厠(今で言うトイレのこと)がある。

 

手前から、梅子母さんと真一郎父さんの部屋、私と妹の千冬の部屋、それから納戸という風になっている。

 

薬とかそういった類の物は全て母さんたちの部屋に置いてある。

 

というわけで私と俊文は、廊下に入ってすぐの部屋に入った。

 

様々な薬が保管されている薬箱は、二年前と同じ位置に置いてあった。

 

私はその薬箱に近づいて箱を開け、御目当ての薬を探す。

 

「えぇっと、打ち身に効く薬…あ、あった」

 

がさごそと探してみて数秒。私は『即療油』と書かれた小さな木製の入れ物を取り出す。

 

蓋を開けると、特有の匂いが鼻にツンとした刺激を与えた。

 

私はくるりと俊文に向き直り、きりっとした顔を作ってみる。

 

「はい、俊文。そこに座って座って。んで、おでこ出しなさい。塗ってあげるから」

 

「なっ!?じ、自分で塗るからいいよ!寄越せっ」

 

私が俊文の額を人差し指でつつくと、俊文は顔を赤くして私の手から薬を奪い取ろうとした。

 

しかし、その考えは甘い。額をつついた手で、もう片方の手に伸びていた俊文の手を掴む。

 

ついでにその手を軽くねじ上げてみる。俊文の顔は苦痛に歪んだ。

 

「イタタッ、おま、沙月っ!何すんだよっ」

 

「俊文が言うこと聞かないからでしょー?大人しくおでこ出しなさい、よっ」

 

仕方なく私は俊文の手を放し、空いたその手で軽く俊文の額にでこぴんをかます。

 

すると俊文は渋々といった感じで額を出した。

 

そして私は俊文の額に白い油を塗りつけていく。瞬く間に俊文の額がてらてらと光を反射し、鈍い光を放つようになった。

 

「ぷぷ、俊文、禿頭になったみたい」

 

「んだと!?人が大人しくデコ出してるってのに好き勝手言いやがって、このっ!」

 

私がそう笑うと、俊文はほんの少し眉をひそめて怒った。

 

そして手が伸びて来たかと思うと―

 

俊文の右手が、私の脇腹に触れた。

 

「ひゃっ!?」

 

驚いて後ずさると、俊文はニヤニヤと笑いながら手をわきわきと動かした。

 

「残念だったな沙月!俺だってやられっ放しでいてたまるかってんだ、脇腹弱いんだろ、ん?」

 

俊文が挑発的な視線とバカにした笑みでこちらを見てくる。

 

そしてジリジリと私の方に詰め寄ってきた。

 

すると突然、私の指先に壁が触れた。壁際まで詰められてきているのだ。

 

依然俊文は手をわきわきさせつつ詰め寄ってきている。

 

私は、やるしかない、と足の姿勢を正す。崩れた正座から、正しい正座に。

 

「この野郎…変態親父かっつーの、馬鹿俊文!」

 

右手を正面、左手を左斜め45度の位置。腰を浮かせ左膝で体を支え、手に力を込めて。

 

全身を使って勢いよく回転、右足をピンと伸ばして。

 

―見事に成功した私の回し蹴りが俊文の足元をすくう。

 

「どわっ!?」

 

俊文はその場に倒れこみ、私は立ち上がって着物の裾を正しながら俊文を見下ろした。

 

「ざまあみなさい、痴漢野郎め!」

 

そして廊下の方から聞こえてくる慌ただしい足音が一人分。

 

すぐに部屋の襖が開けられた。襖の向こうにいたのは、妹の千冬だ。

 

「沙月おねぇ、どうしたの!?すっごく大きな音がしたんだけど…」

 

「うん、大丈夫よ千冬。変態を成敗しただけだから。それよりも、ただいまっ」

 

大慌ての千冬に対して、私は笑顔で手を振る。

 

ついでに右足の下には俊文という名の変態が一人。

 

「あ、うん、おかえり沙月おねぇ!本草学、だっけ。勉強の方はどうだった?」

 

「んー、まぁボチボチって所かしらね?千冬はどうだったの?」

 

私の可愛い妹である千冬は、まだ十の寺子屋通いだ。

 

勉強が苦手なのか、二桁ずつの和算ですら出来ない困った子である。

 

「うっ……沙月おねぇ、意地悪」

 

「あらあら。ちゃんと勉強しなきゃだめよ?この長屋を継ぐって決めたんでしょう。千冬が出来ないなら、やっぱりお姉ちゃんが継ぐしかないわね」

 

私は意地悪い笑顔で千冬を見る。

 

実をいうと、私はこの「さなゑ長屋」を継ぐことになっていたのだ。

 

しかし、どうしても本草学に惹かれ学びたくなった私は、両親に無理を言って学者になろうとしているのだ。

 

もちろん継ぎ手がいなくなるかもということで、私が学者になりたいと言い出した時には家族会議が開かれた。

 

梅子母さんたちが、どうするかを決めあぐねていたその時、千冬が言い出したのだ。

 

『千冬っ!千冬がやるー!沙月おねぇがお勉強したいって気持ちはよく分かんないけどっ、それって千冬の踊りが好きでいっぱいしたいことと一緒でしょ!?だから千冬がやるー!』

 

私が十二、千冬が六の時だった。

 

私たち家族は、それを冗談だと受け取って受け流した。

 

そして私には、二年間という猶予が与えられた。

 

その間に、誰か一人の本草学者のもとに弟子入りし、その人を唸らせることが出来る位に学び取ることが出来たら、もっと遠くの地へ行き、本気で本草学者になる夢を追いかけてよい、という制約のためだ。

 

私は全力で学び、二年どころか一年で師匠である本草学者を唸らせることが出来た。

 

しかし一人旅をするのに、十三というのは危険だった。

 

そのために私は、一年間家で本草学を学んでいたのだ。

 

そして、ある時。私が本草学の勉強をしていた時のこと。

 

後ろから唐突に、千冬が話しかけて来たのだ。

 

『沙月おねぇ、頑張ってね!おうちは千冬が頑張るから、沙月おねぇもお勉強頑張ってね!』

 

―正直に、驚いた。

 

冗談だと思っていた一年前の言葉を、千冬がもう一度言ったのだ。

 

その言葉を信じ、私はこれまでの年月を過ごしてきた。

 

そして千冬は、まだその約束を覚えており、守るつもりでいてくれているのだ。

 

「あっ、駄目!それは駄目!私が長屋を継ぐから、沙月おねぇはお勉強!私も計算頑張るからぁ!」

 

そして予想通り、千冬は爪先立ちをして飛び跳ねながら抗議した。

 

何か利用してしまっているようで、ほんの少しの罪悪感が残る。

 

だけど、そういうと千冬はまた怒る。「私が好きでやってるの、沙月おねぇは関係ないんだからっ」と言って。

 

私は千冬を指で呼び寄せ、近づいてきた千冬を抱きしめる。

 

「ありがと、千冬。ただいま…」

 

「はぇ…?あ、えと、お帰り…」

 

しんとした沈黙が、部屋中に浸透する。外で走る子供たちの声がした。

 

すると、私の右足の下にいたモノがもぞもぞと動き出し、言いづらそうに言った。

 

「あ、あのさ…美しい姉妹愛は、俺が帰ってからやってくれると嬉しいんだけど…あの、沙月さん?足、痛い…」

 

変態は、必死の形相で私に懇願してきた。

 

私は踏みつけていた腹から足を退け、千冬からも手を放す。

 

「あ、ごめん。忘れてたわ、変態」

 

「俺の呼称、いつから変態になってんの!?ひどくね!?」

 

ひどいも何もない、変態。

 

そう言い返そうとしたが、私はクスリと笑って俊文を軽く睨み付けた。

 

「今回は千冬に免じて許してあげる。けど、次やったらタダじゃおかないわよ」

 

俊文は縮み上がって、うなだれた。

 

そんな様子がまた可笑しく、私は千冬とともに声をあげて笑った。




長っ。

書き終って気付いたけど、長っ。

そして千冬の性格が初期設定から九十度変わってる…中途半端だ…

お姉ちゃん大好きっ子にするつもりではあったけど…あるぇ?
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