最初で最後の   作:栞川七海

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今回はなるべく間を開けないように投稿してみました。

それにしても千冬ちゃん、ほんと人気ですね?

荒ぶる人まで出てきちゃったからね!

でも残念!今回ほとんど千冬ちゃん出てきませんよ!

千冬ちゃんファンの方々は、この話に終わりが来たら番外編で千冬ちゃんが主人公なので、それを楽しみにしててくださいw

今回は俊文目線ですよ~


数年の想い

「うっわぁ…久しぶりね、ここ来るのも」

 

「だろ?懐かしいよな」

 

俺はにっと笑い、両手を広げてはしゃいでいる沙月を見る。

 

俺の表情を見た沙月は、同じようににっと笑ってみせた。

 

東の方角から、涼しげな潮風が吹き付けた。風は、数尺しか離れていない俺たちの間を軽やかに吹き抜けていく。

 

沙月の長い黒髪が揺れた。

 

海沿いに建てられた建物の影、二十尺先は崖だ。

 

「ここ…いい思い出ばっかりじゃないけど、今ならあんなの怖くないわね」

 

沙月はケタケタと笑いながら「ね?」と俺の方をに向き直って言った。

 

あんなの、と言われて真っ先に思い浮かべるのは、八年前の事件の事だ。

 

「んな笑いながら話せることかよ?とても誘拐事件の被害者とは思えねーな」

 

八年前。8つだった俺たちは、親から『崖があって危ない』からという理由で、立ち入りを禁止されていたこの場所で、毎日のように遊んでいた。

 

 

 

土手で遊んだり川で遊んだりとしていたが、やっぱりこの場所のように、秘密基地のような感覚になるところで遊ぶのが楽しかった。

 

ちょっとのスリルは、子供の頃の俺たちにとって一種のスパイスだった。

 

―しかし、そんな俺たちの日常は『八年前』に起きた一つの『誘拐事件』によって壊された。

 

この場所で一緒に遊んでいた俺たちは、疲れ果てて崖に腰掛けながら話をしていた。

 

帰って何をするか、将来何をしてみたいか、次はどこに行ってみたいか。

 

そんな他愛もない話をしていた。

 

そして、話すこともなくなり、二人そろって海を眺めていたその時だった。

 

『-っ!?』

 

横に座っていた沙月の姿が消えたのだ。

 

俺はすぐに背面の地面に手をつき、足をあげながら立ち上がる。

 

目の前で起きていたのは、信じがたい光景だった。

 

一人の男が沙月の体を抱え上げて、どこかへ走り去っていく。

 

泣き叫ぶ沙月の口元は男の手で塞がれ、沙月は足をばたつかせて抵抗していた。

 

『沙月っ!?』

 

俺はほぼ条件反射で飛び出していた。

 

足には自信があった。ただ、見慣れぬ光景への恐怖と、崖に座っていたせいで足が脱力してしまっていた事から、俺は上手く走ることが出来なかった。

 

しかし段々と足はいつも通りに動くようになってきた。

 

幸い男の方はあまり足が速くなくて、足の調子が直ってきた俺は、何とか男の数尺後ろにつくことが出来た。

 

そして必死に手を伸ばし、俺はついに男の着物の裾を掴むことに成功した。

 

男は前につんのめり、沙月の体が前に放り投げられた。

 

俺は足のばねを最大に生かし、沙月の体が地面に落ちる直前、地面と沙月の体の隙間に滑り込んだ。

 

沙月の体は俺の上で小さくバウンドし、俺の横にどさりと落ちた。

 

すぐに俺は立ち上がり、沙月の手を取った。

 

『さ、沙月っ!大丈夫かっ!?逃げるぞっ!!』

 

『う、うん…!』

 

髪もぼさぼさになり、着物もところどころ土で汚れている沙月の手は震えており、幼かった俺は、とりあえず強く握ることで安心させようとした。

 

―その時だ。

 

『うぁっ!?』

 

俺の背中に激痛が走った。

 

情けなくも、俺はその場で倒れこんだ。

 

背中が焼けるように熱い。朦朧とする意識の中で、沙月の姿を見つける。

 

愚図り、戸惑い、オロオロしている沙月の元に、男の腕が伸びていく様子が見えた。

 

『沙月っ、走れっ!!逃げて、父さんたちを呼んで来いっ!!』

 

俺は出せる限りの大声で叫ぶ。でも、という沙月の愚図り声が聞こえた。

 

もはや声を出す気力も無くなりつつあった俺は、沙月を精一杯睨んだ。

 

俺の眼光にすっかりすくみ上った沙月は、勢いよく駆けだす。

 

男はそんな沙月を追おうとした。

 

―させてたまるか。

 

俺は背中に感じる痛みを余所に、男の足に掴みかかった。

 

汚いとかなんだとか言っていられなかった。

 

問答無用、むき出しにされている男の足の指にかみついた。

 

ぎゃあっ、という声が、俺の頭上で上がった。

 

噛み千切らんばかりの力で指を噛み、鉄の味がし始めたころに噛むのをやめた。

 

そして噛む位置を脛に移行、これでもかというまでにかみついた。

 

『こンの…くそがきゃあっ!!』

 

すると、今度は左腕に鋭い痛みが襲いかかった。

 

よく見ると、男は短刀を持っていた。

 

気が付いたら、俺の周りには小さな血だまりが出来ている。

 

短刀を刺された左腕からも、どくどくと血が噴き出ていた。

 

『この野郎、殺してやるッ!!』

 

男は思い切り短刀を振りかざした。

 

もう終わりだ、死んだ―

 

そう思った時、沙月の父さん…真一郎さんが飛び出してきた。

 

真一郎さんは男の短刀を薙ぎ払い、思い切り腕をひねりあげた。

 

よく聞いてみれば、周りに何人もの人の声がした。

 

しかし俺は、そこで意識が途切れた。出血多量だ。

 

そして何とか俺は一命を取り留めた。

 

しかし俺と沙月は、それぞれの家庭で厳しく罰せられた。

 

無論、立ち入りを禁じられていたところにいたことが知られてしまったからだ。

 

 

 

「あの時は怖かったよ、ホントに。でも、今だったら助ける側は、俊文じゃなくて私かなぁ」

 

沙月はいい思い出でも語るかのようにケラケラと笑いながら、俺の方に歩み寄ってくる。

 

そして俺の左腕に触れると、申し訳なさげな表情をした。

 

「…傷、残ってるんだよね」

 

「…ああ」

 

俺は端的に呟いた。沙月が何を気に病んでいるのかは、俺の左腕に触れている沙月の手から伝わってくる。

 

沙月はあげていた顔を下げ、俯いた。

 

左腕の着物の裾が、変色していく。

 

「ごめんね…背中にもあるんだよね、大きいの。私の、せいだよね…ホントに、ごめん…」

 

この場所で遊ぼうと言い出したのは沙月だった。

 

気に病んでいるのは、きっとその点だろう。

 

俺はあいた右手で、沙月のさらさらの黒髪を撫でる。

 

「沙月が気に病むことはないだろ?何悩んでんだよ…今じゃ俺は、お前に守られる立場なんだろ?」

 

すると、沙月は悪戯っぽい笑顔をして顔を上げると、白い歯を見せた。

 

「そうね。俊文は弱いもの、私が守ってあげなきゃね!」

 

「おま…調子に乗んなよ?」

 

沙月の濡れた睫毛に付着する雫を指で拭い取り、軽く沙月の頭を小突く。

 

「ちょっ、何すんのよ!もう…」

 

沙月は頬を膨らませて、俺から手を放した。

 

そして今更、心臓が大きく脈打っていたことに気が付く。

 

(…俺、そういや、告白するつもりでここに連れて来たんだったっけ)

 

実のところ、俺は八年間の想いを打ち明け、伝えようとしていた。

 

しかし、少し触れられただけでこんなに脈打ってしまうのだ。

 

(……もう少し、保留だな)

 

俺は告白を諦め、腕を組んでため息を吐いた。

 

すると、先ほどまでむすっとしていた沙月が、俺の方をじっと見ていた。

 

そして、突然にっと笑い、言った。

 

「…でも、俊文のそういう優しいとこ、大好きだよ」

 

「………はぁっ!?」

 

俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「何より俊文は私より弱いものね、私が守ってあげないと!」

 

「ど、どういう意味だよ!?」

 

俺は訳が分からず、ただ慌てふためいた。

 

すると、いきなり俺の動きは制限された。

 

沙月が抱き着いてきたのだ。

 

「だーかーらー。俊文のことが好きだって言ってるの!もう、なんで分かんないかなぁ朴念仁」

 

「…嘘、だろ?」

 

俺は自分より頭一つ分違う沙月を見る。

 

沙月は俺の胸元にうりうりと頭を押し付けると、怒った顔で俺を見上げた。

 

「嘘じゃないっ!嘘なんて言ってどうすんのよ!」

 

「ほ、ほんとに?沙月が俺を好きだって?」

 

俺がそういうと、沙月は俺から離れて顔をかすかに赤らめた。

 

「…だから、そうだって言ってんじゃん…」

 

俺は言葉を失い、沙月を見つめた。

 

長い黒髪。きめ細やかで、ほんの少し小麦色に染まった肌。

 

ちょっと気が強そうに見える吊り上がった瞳。

 

…俺の方が、先に告白しようと思ったのに。

 

俺は後ろから沙月に近づき、沙月の頭に手を乗せて撫でる。

 

「…沙月、ずるい」

 

 

 

俺から君へ想いを伝えるのは、もう少し先延ばしで。




長…

また長くなった…

でも連日投稿ですよ!誰か褒めて!
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