……………………………………((スライディング土下座
「沙月おねぇ、俊文おにぃ、待ってぇぇ〜‼︎お、置いてかないでぇ〜‼︎」
「大丈夫だって、千冬…お姉ちゃんが千冬を置いていく訳ないでしょ?」
爽やかな風が吹き抜ける江戸の街中で、私の声と千冬の声が響く。
千冬は明らかに大きさの合っていない下駄を履き、肩で息をしながら乱れた着物の裾を直し、上目遣いでこちらを見た。
「ふ、二人とも、気付いたら先に行っちゃってるんだもん…酷いよぅ…」
「…ええっと、お姉ちゃんは決して千冬を置いて行こうとした訳じゃないのよ?」
「嘘だ〜…‼︎ぜーったい、二人で一緒に千冬のこと置いてこうとした〜‼︎」
そう言って、両頬を膨らませて、怒った表情をする千冬。
私はどうしたら機嫌を直してくれるかを模索しながら、髪を指に巻きつける。
すると後ろから、空気を読まない馬鹿でかい声がした。
「おーい、沙月ー⁉︎千冬ー⁉︎早く来いよーっ‼︎」
「…むぅぅ…」
そしてその声に、千冬は更にむくれる。
私は焦って、手近にあった甘味処を千冬に指し示した。
「あぁ、ねぇ千冬?置いて行っちゃったこと、謝るわ。ごめんね?その…そこの甘味処のあんみつで許して…くれない?」
すると千冬は、その言葉を待っていたかの様に、むくれた顔から途端に花が咲いた様な笑顔に変わって、甘味処の方へ走り出した。
「えへへっ、お姉ちゃん大好き‼︎ほらほらっ、早く行こっ‼︎…っと、とっとっとっ?」
「全く、もう…現金な子なんだから。あと、下駄を履き間違えてるわ。それ、お母さんのよ」
「ほぇっ⁉︎…あ、ほんとだ‼︎履き替えてくるねっ‼︎」
そう言うと、千冬は下駄を脱いで裸足で家まで駆け出した。所々に落ちている石を避けながら走るその姿は、どこか滑稽で、かつ愛らしくもあった。
私は俊文の方を振り返り、聞こえる様に大きな声で俊文を呼んだ。
「俊文ー‼︎出かける前に、ちょっとだけあんみつ食べて行きましょー?」
すると俊文はあからさまに「えー」とでも言いたげな顔をした。
しかし、それでも駆け足でこちらに寄ってきてくれるのだから、愛されてるとでも言うべきなのだろう。
あんみつを食べ終えた私達は、甘味処を出て、あるところへと向かっていた。
あんみつを食べてご機嫌になった千冬は、鼻歌を歌いながら私の着物の裾を掴んでついてきた。
「…なぁ、沙月」
「んー?なぁに、俊文」
「あの…その、さ」
俊文はそこまで言うと、顔を赤らめて俯いた。
何を言いたいのか分からず、私は俊文に問いかけた。
「何よぅ、早く言いなさいよ」
私が急かすと、俊文はギョッとした様な顔をした後、言いづらそうに言葉を紡ぎ出した。
「えっと…その、三人で、手ぇ繋いで歩かねぇ?」
「…はぁ?また、なんでよ」
私は思わず怪訝な態度で俊文の顔を覗き込んだ。
すると俊文はもっと顔を赤くして、ぼそぼそと小さい声で言った。
「いや…なんかさ…俺と、沙月と、その間に千冬…って並んだら、………ふ、夫婦、とかに、見えたりしないかとか、なんとか…」
ーその言葉を聞いた瞬間、私は顔が熱くなるのを感じた。
そして、私と俊文の間に、奇妙な空気が流れ始める。
すると私の後ろから、千冬がひょっこりと顔を出して叫んだ。
「あー‼︎俊文おにぃ、沙月おねぇに何したのっ⁉︎沙月おねぇ、お熱でも出た…?」
「ち、違うのよ、千冬、お姉ちゃん熱なんか出てないから‼︎大丈夫よ‼︎」
私は反射的に千冬に返した。
すると千冬は心配そうな顔でこちらを見つつ、さり気なく私と俊文の間に入り、手を握った。
「俊文おにぃ、千冬のおねぇに変なことしないでよっ‼︎千冬からおねぇをとっちゃう俊文おにぃには、お仕置きなんだからっ」
千冬の左手は俊文と繋がれ、右手は私と繋がれている。
先ほど俊文が言った陣形になってしまった。
そして私達は、目的地に着くまでその状態で歩くことになった。
「…えっと、着いた、な」
俊文はぎこちなくそう言うと、千冬と繋いだ手を離して両手を目一杯広げた。
私と千冬も、それに習って同じ様なポーズをとる。
すると、先ほどまでいた、江戸の街中で吹いていたのよりも、もっと強く爽やかな風が吹き付けた。
目の前に広がるは青い海、青い空、そして草むら。
ここら一帯で、最も広い丘へと、私達は来ていた。
私達は一緒に草むらに倒れこみ、空を見上げた。
白い雲が浮かび、その合間を縫うかの様にして鳥達が飛んでいく。
そして緑の薫りが、私達の鼻腔をくすぐる。
「きんもちいー…」
犬の様に目を細めて笑顔を浮かべる千冬は、いつの間にやらほどいたはずの手をもう一度握り直し、私達3人を繋いでいた。
「たまにはこういうのもいいよなぁ…」
不意に俊文が呟く。
「そうね…提案してくれた千冬には、感謝しなくちゃ」
丘に来てのんびりするーこれは、千冬が昨晩突然思いつき、私達に言いに来た案だった。
お互い仕事や勉強の息抜きになるだろうということで提案を飲んだのだが…ここまで気持ちの良い行いであっただろうかと思う。
私達は、そのまま日が暮れてしまうまで、3人で手を繋いで空を見上げていた。
…うん。
取り敢えず沙月と俊文の恋人感満載の回にしたかっただけなんだ…。
テンションが上がったところで書いちゃっただけなんだ…。