WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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一年戦争編
1.0079/09/10


人類が増えすぎた人口を宇宙へ移民させるようになり暫く経った頃の話である。人類は統一政権である地球連邦を樹立しそれなりに平和な時代を過ごしていたのだが、残念ながら人の業を葬り去る事は出来なかった。

宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3がジオン公国を名乗り独立戦争を仕掛けてきたのである。

喧嘩を売られた地球連邦は何の冗談かと耳を疑った。昨今そうした麻疹がサイド3で流行していたことは知っていたが、本気で殴り掛かってくるなど誰も考えていなかったのだ。何せサイド3と地球連邦との国力は実に30倍もの開きがある。もし仮にサイド3が事前に他の宇宙都市を引き入れる動きを見せていれば、もう少し危機感を持ったかもしれない。けれど同調する他サイドの人員を受け入れはしても、軍事的な同盟どころか経済的な連携すら見せなかったのだ。

だから地球連邦政府は見誤った。何しろ宇宙移民が始まって70余年、独立を謳った活動がその間に無かったわけではない。けれど結局は今の生活を捨ててまで苦しい自立を欲する大衆などは存在せず、主要人物の幾人かを抑えれば瓦解するような泡沫組織が精々だったのだ。だがそんな甘っちょろい幻想は、宣戦布告直後に起きた他サイドへの核攻撃で完璧に打ち砕かれた。

しかしこの時点でもまだ大半の政治家、そして連邦軍人は楽観していた。体制が整わぬ内の奇襲、つまりそれは正面からぶつかるだけの戦力を持たない故の選択だと考えたからだ。無理もないだろう。何度も言うがサイド3と地球連邦では国力に30倍の開きがあるのだ。国民の生活に支障が出るほど軍事に予算を回したとしても地球連邦軍の軍事費には遠く及ばない。それはそのまま装備の質、そして規模に直結する問題なのだ。だから彼等は、地球への落下軌道に入ったコロニーを前にしても自分達が敗北するなどという未来を全く想像していなかった。そう、電子装備が無力化され、文字通り目に見えない距離で戦う事を封じられるという、致命的な問題に直面するその瞬間までは。

開戦から1ヶ月が経過した頃には、人類は総人口を半分まで減らす事になる。それでも戦いは終結する事無く続き、8ヶ月余りが過ぎていた。

 

 

 

 

「心配のしすぎじゃないかね?アレン少尉」

 

心底煩わしいと言う様子を隠さない目の前の男、テム・レイ大尉に対して、俺は真面目くさった顔で繰り返す。

 

「はい、いいえ大尉殿。ここは宇宙、言ってしまえば連中の領域であります。いくら警戒してもし過ぎとはならないかと。特に今はルナツーの艦隊が満足に哨戒が出来ておりません。万一に対する備えは必須であると愚考致します」

 

「しかしな、機体を分解せずにおけとは、それではメンテナンスに支障が出る」

 

渋るテム・レイ大尉に苛立ちを覚えるが俺はそれを必死で我慢する。原作知識を持つ俺からすれば、何を暢気なことを言っているのかと殴ってやりたい所であるが、そんな事をすれば営倉行きは確実であるし、何よりその理由が前世におけるアニメで覚えた知識だなどと言えば精神病院に放り込まれても文句は言えない。必死に立ち回ってここまでもぐり込んだんだ、そんな馬鹿な真似は出来ない。

 

「お願いします、大尉。ガンダムは連邦の勝利に必要不可欠です!万が一にも失うわけにはいきません!」

 

「解った、解ったよ少尉。全く君の熱意には感心させられるよ。メンテナンスのローテーションは組み直しておく、それでいいな?」

 

「はっ!有り難うございます!!」

 

テム大尉の言葉に敬礼で応じつつ部屋を出ると、通路で壁に背を預けていたキタモト中尉がこちらを見て溜息を吐いた。

 

「アレン少尉、真面目なのは良いが暴走はするな。スポーツマンのお前さんに今更チームプレーの重要さを教えるなんて事はしたくない」

 

「すみません、中尉。ですが…」

 

「貴様の気持ちは解らんでも無い、だが入れ込みすぎだと言っている。確かにガンダムは凄い機体だ。だが、一機のMSで覆る程戦争は甘くない」

 

そんなことは解っているさ。それどころかアンタや俺がいなくてもこの戦争に連邦が勝って、ガンダムが神話になる事だって俺は知ってる。けれどだからって指をくわえて眺めている訳にはいかねえんだよ。俺自身のために。

 

「…お言葉ですが中尉、確かにガンダムはたった一機のMSかもしれません。ですが、あれは連邦におけるMSの礎となる機体です。自分は万に一つが起きた時に後悔をしたくないのです」

 

そう言い返すと、中尉は苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。

 

「気負いすぎだぞ。四六時中基地に籠もっているからそうなるんだ、たまには外に出ろ」

 

「はっ」

 

短く答え敬礼をすると、何を言っても無駄だと悟ったらしくキタモト中尉は手を振って歩き去ってしまった。暫くそれを見送るが、彼が角を曲がったあたりで手を下ろし、俺は格納庫へと向かった。シミュレーターで訓練をするためだ。

 

(今日はもう9月10日、サイド7襲撃まで後一週間しかない)

 

できる限りの準備をしなければならない。俺が生き延びる為に。

 

 

 

 

「熱心なのは良いことだがね、もう少し何とかならないかね、中尉?」

 

夕食の席で珍しく声を掛けられたかと思えば、開口一番そう不満を口にするテム・レイ大尉に対してタツヤ・キタモト中尉は内心で溜息を吐いた。主語は抜けているが確認するまでもない。部下の一人であるディック・アレン少尉の事だろう。フットボーラーらしい体躯に反してナイーヴな所を見せることのある彼であったが、このサイド7での試験が始まってからは特にその傾向が顕著に表れている。開発責任者として意見具申を聞かされている大尉が愚痴を言いたくなるのも解らないではなかった。

 

「申し訳ありません、大尉。ですがその、少し大目に見てやって下さいませんか?アイツの故郷はオーストラリアでして」

 

キタモトの言葉にレイ大尉は顔を顰めた。オーストラリアは地球における今大戦最大の被災地である。ジオンのコロニー落としという人類史上かつて無い攻撃に晒された大陸は、落着した都市を湾に変え、飛散した破片と衝撃により広域にわたり甚大な被害を出した。更に地上資源の確保を目論んだジオンによってその後占領されており、住民の安否も満足に確認出来ない状態が続いている。戦いの主力である連邦陸軍も反撃の準備を進めてはいるものの、敵のMSへの対抗手段が無い現状では具体的な行動には移れていない。

 

「…そうか、その、彼のご家族は?」

 

「幸いと言うか、シドニーには居なかったそうです。ですが」

 

「安否が知れない、か」

 

そう言ってレイ大尉は視線を下げる。キタモトもレイ大尉も家族のある身だ、しかし両者とも家族の安否は確認出来ているし、子供に至ってはこのサイド7に避難済みだ。そして彼の気持ちが理解出来ない程薄情な人間でも無かった。

 

「真面目で不器用なヤツですが、根は良い奴なんです。今は大詰めで少しナーバスになって居るんですよ」

 

ディック・アレンは地球育ちでありその中でも裕福な家庭の生まれだ。旧世紀から続く慣習でそうした家の子息は軍に入隊するが、大抵の場合陸軍、それも兵站科に配属されるのが一般的だ。海軍や宇宙軍の様な艦内生活もなく、空軍のように操縦資格を取らなくとも格好の付く安全かつ敷居の低く、加えて経済界や政界の人間と交友の機会まであるのだから、キャリアを考えるなら理想的な職場である。だが彼は宇宙軍、それもパイロット課程という最も不人気なコースを選択していた。その事からキタモトは、軍務に関して誠実に当たろうという人柄であるとアレン少尉の事を評価していた。

 

「そうか、そうだな。ここまでは順調だ、だが好事魔多しとも言う。少しくらい警戒を強めるくらいで丁度良いかもしれん」

 

頷いて食事を口にし始めるレイ大尉に対し、小さく安堵の溜息を吐きながらキタモトも食事を再開しつつ問いかける。

 

「そう言えば、大尉のところはどうされるんですか?」

 

「ああ、まあ終わるまではここに住まわせる事になるだろうね」

 

何がどう、などとは言わなくても解る話であった。彼らの居るサイド7は開戦の12年前から建設の始まった最新の宇宙都市である。だがその内実はジオンに対する備えとしてルナツーをL3宙域に移動させるための口実と言うのが実情であった。既に宇宙移民計画自体が有名無実化して久しく、題目の為に建造されるコロニー自体に具体的な要求が決められる筈もなく、都市計画もサイド6の一般的なものを流用した物に過ぎなかった。建設されたのも1基のみであり、そのためこのサイドは自活能力に乏しく必要な物資を連邦からの支給で賄っている。そして住人の大半はキタモトやレイ大尉のような、このコロニーで極秘に試験を行っている軍人の家族か、政府の都合で疎開してきた人々である。だから彼等の試験が終了し、退去してしまえば戦略的価値は極めて低い。つまり未だに戦闘が続く地球より余程安全な場所であると言えた。

 

「少尉の言葉ではないが、ガンダムが量産化されればすぐ戦局は打開される。そう長いことにはならないさ」

 

レイ大尉は自信に満ちた笑顔でそう告げた。

 

 

 

 

「おいどうしたんだよ?お前今日は本当に変だぞ?」

 

宇宙世紀0079、9月17日。今日も俺は朝から変人扱いだ。別に良いさ、もう慣れた。

 

「何の騒ぎ?」

 

「班長!ディックのヤツが03を武装しろって」

 

早朝とは言えそれなりの人数が働いている場所で問答していたせいだろう。3号機の整備班長であるロスマン少尉が寄ってくるなりそう聞いてきた。俺が何かを言うより先に、捕まえていた整備員がそう口を開く。内容を聞いたロスマン少尉は眉を寄せて俺を睨む。

 

「ねえアレン少尉、後2時間もすれば迎えが来て、この子達は地球に運ばれるのよ?なんで今更武装させる必要があるの?」

 

「嫌な予感がするんだ」

 

俺の言葉に彼女の視線が険しくなる。

 

「予感?そんなあやふやなことで現場を混乱させるの?」

 

もし俺がニュータイプなら、彼女達を直に納得させられたのだろうか?逃避しかける思考を強引に戻して口を開く。

 

「昨日ルナツーが襲撃されたのは知っているよな?ザンジバル級を含むかなりの規模だったって話だ」

 

「それが?」

 

「おかしいと思わないか?それだけの部隊が展開していたのに、ジャブローから上がってきた新型艦がみすみす見逃されるか?」

 

「ルナツーへの攻撃は失敗したんでしょう?なら撤退して周囲にいなかったのかも」

 

「そうかもな、だが違ったら?戦闘で一番難しいのは負け戦の撤退だ、敵の追撃を躱しながら逃げなきゃならないからな。俺なら逃げるにしても追撃部隊がどの程度の規模か把握するために監視を残す」

 

「…悲観的な意見だわ」

 

そう返してくる彼女に向かって俺は言い放つ。

 

「戦場じゃ“こうなったら良いな”なんて都合良く行くわけが無い。相手だって必死にこっちを出し抜こうとしているんだからな。なら楽観して備えを怠るのをなんて言う?マヌケだ。俺はそんな死に方は御免蒙る」




筆休め第二弾。
水星の魔女を見てたらムラムラしてやった、後悔はしている。
あと、主人公のバックボーンは完全に作者の妄想です。
それと続けられるかは完全に気分次第です。筆休め!筆休めですから!!(予防線

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