WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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10.0079/09/22

「この様なことになって、本当にすまない」

 

「はい、いいえパオロ中佐、中佐はまだまだ連邦になくてはならないお方です。どうぞご自愛下さい」

 

本音を押し殺してブライト・ノア大尉はそうベッドで横になるパオロ中佐の手を取って応えた。野戦任官で二階級特進の上に新造艦の艦長を拝命するなど、士官学校を出たてのひよっこにして良い采配ではない。ではないのだが、ならば他に適任が居るのかと言われて挙げられる名前がないのも現実だった。そして一時は意識不明の状態だった人物にこのまま指揮を執れと言えるほどブライトは無情になりきれない性格だった。

 

「レイ大尉、キタモト中尉。どうか彼を支えてやってくれ。そして必ずジャブローへたどり着いて欲しい」

 

「お任せ下さい」

 

「最善を尽くします」

 

その言葉に満足するようにパオロ中佐は寝息を立て始めた。鎮痛剤が効いてきたのだろう、それを見て三人は黙って部屋から退出する。

 

「実際の所、どうでしょうか?」

 

不安を隠せなかったブライトは、率直に二人に問う。

 

「ガンダムとキャノンの整備は完了している。タンクの方は2機は完了、軌道上に着く前には3号機も改造を終えられるだろう」

 

「キャノンの3号機にはカイ一等兵に乗って貰う。リュウ曹長にはタンク隊の指揮をして貰う必要があるからね。コアファイターは一応2機編隊で訓練をして貰っているが、期待しない方が良いね」

 

「…民間人より期待出来ないのですか?」

 

コアファイター隊には正規の軍人からパイロットが選出されている。伝えられていた人員はワッツ少尉とニカウ伍長の二名だとブライトは記憶していた。

 

「航法やらを知っているだけ素人よりはマシ程度だね。…正直単純な技量だけで言ったらあのセイラって子の方が上なくらいだ」

 

キタモト中尉の言葉にブライトは頭を抱えたくなったが、それは仕方のない事だった。ワッツ少尉は元々ブリッジの補助要員であるし、ニカウ伍長に至っては整備班の人間なのだ。コアファイターに他の人員より慣れている程度でしかない。

 

「それでも素人を乗せるよりはいい。戦闘前に迷子になられては目も当てられん」

 

待ち伏せが予想される以上、軌道上近傍ではミノフスキー粒子が散布されている可能性が高い。レーダーに頼らない飛行はどうしても知識と経験が必要だ。残念ながら一日や二日で覚えられえるものでは無かった。

 

「代わりと言っては何だが、ガンダムとキャノンは期待してくれていい。データの統合をしたから、これでキャノンの射撃精度も大分向上するはずだ。本部のサーバーが使えれば個人用に最適化まで出来たんだがね」

 

そうレイ大尉が悔しげに語るが、ブライトからすれば漸く聞くことが出来た吉報だった。教育型コンピューターの真価は学習後のデータの統合にある。集積されたデータによって機体の動作に始まりFCSに至るまで最も優秀な値に自身の制御を改善していくのだ。誤解を恐れずに言えば、教育型コンピューターが十全に運用されたなら、エースパイロットを擬似的に量産出来るのだ。無論これには幾つもの課題が残っている。例えば機体側が最適化されたとしても、パイロットがついて行けないと言う問題だ。MSの部品において最も均質化が出来ないのがパイロットである。個々の身体能力によって動作速度の限界はばらつくし、単純な操作技量によって入力スピードにも差が出てしまう。これら個々のパイロットの最適値を導くには莫大な演算が必要であり、残念ながらそのような機器は連邦軍でも備えているのは本部くらいのものだ。現地では精々パイロットの負担を無視して最適値を更新する程度である。

 

「パイロットはジョブ曹長とカイ一等兵になる。中々筋が良いよ、彼等は」

 

「…シャアに勝てますか?」

 

慰めるような言葉にブライトはついそう返してしまう。ガンダムとキャノン2機、それだけの戦力でも仕留められなかった相手だ。こちらが補給をしている間に相手が補給しなかったとも思えない。炸裂したグレネードによって艦橋が破壊された恐怖は彼に植え付けられていた。

 

「勝てると言ってやりたいけれど、難しいな。何せ情報が少なすぎる」

 

「アレン少尉の言うように仕掛けて来るでしょうか?その、言っては何ですが」

 

「前例の無いタイミングかい?」

 

ブライトはその言葉に頷く。ザクやジオンの主力艦であるムサイに大気圏突入能力は無い。軌道上ならばまだしも突入高度での戦いは少しのミスでも命取りになりかねないのだ。事実今日までその様なタイミングで襲撃を受けた事例は報告されていなかった。しかもホワイトベースはミノフスキークラフトを搭載した新型艦だ。突入速度の制御には他の艦艇より遙かに融通が利く。それこそ高速で大気圏内まで一気に高度を下げ、その後急減速をかけるなどという芸当だって出来るのだ。しかしキタモト中尉は苦笑しつつ口を開く。

 

「前例なんてものに囚われすぎない方が良い。考えてもみろ、俺達人類は宇宙戦争を始めてまだ一年も経っていない。戦いのやり方も常識もまだまだ構築している最中なんだ。それに…」

 

「それに?」

 

ブライトが聞き返すとキタモト中尉は言いにくそうに答える。

 

「アレン少尉があると言っているのがな。元々聡い事を言う奴だったけれど、サイド7以降気味が悪いくらい予想が当たっている。まるで未来を知っているみたいに」

 

その歯切れの悪い言葉は、妙にブライトの脳裏に残ることになる。

 

 

 

 

「つまりだな、徹底して2機編成で戦うんだ。それが最も確実なんだよ」

 

「機体の性能が勝っているのにですか?」

 

不思議そうに聞いてくるアムロ伍長に対して応える。

 

「カタログスペックで勝っていても性能を何処まで引き出されているかが重要だろう?残念だが俺は単独で赤い彗星に勝つ自信はない」

 

だってあの野郎ビーム避けるんだぜ?教育型コンピューターが移動予測までして補正してくれているのにだ。あれでまだニュータイプとして覚醒すらしていないとか、チートにも程があるだろう。

 

「だから技量差を物量で補う。如何に技量が優れていても機体の限界以上の動きは出来ないからな」

 

ビーム兵器の実用化に加え、ミノフスキー粒子下における戦訓の蓄積によって開戦時に比べ射撃兵器の命中率は急速に高まっている。それこそ当初はAMBAC制御だけで回避出来たような攻撃も今ではアポジモーターの補助が必須だ。そして回避に推進剤が必要ならば、搭載された推進剤分しか避けられないと言う事でもある。勿論そう簡単に推進剤切れまで追い詰められるものではないが、推進剤の残量を気にする必要があるという心理的負担は重要だ。

 

「それだけじゃ無い。猟犬と狩人で解ったろう?火力を集中した方が結果的に早く敵を墜とせる」

 

落ち着きの無い赤い奴みたいなのは例外で、大半の敵は連続して複雑な回避機動なんて行えない。何故ならミノフスキー粒子下でそんな事をすれば即行で空間識失調に陥るからだ。加えて回避に用いるアポジモーターの噴射は多くて2~3パターン程度しかない。これはレーダーによる自機の位置が把握出来ない為に母艦との距離をスラスターの噴射量・角度と噴射時間、そして発進してからの時間経過から位置を算出しているからだ。機体に頼り切っている相手であれば、教育型コンピューター搭載機がほぼ100%の命中を出せるのはこれのせいである。だから一度回避を強要すれば、高確率で2発目は命中させられる。

 

「そう言えばアレン少尉もアムロ君も射撃はFCS頼りですよね?」

 

そうジョブ曹長が聞いてくる。

 

「ガンダムのFCSは優秀だからな。余程の天才でもない限り言う通りにした方が当たる」

 

それこそニュータイプに覚醒したアムロ伍長とかな。

 

「ちょっとタイミングがズレる事がありますけど、そこは自分で調整が利きますしね」

 

おっとナチュラルな天才発言。

 

「よーするに射撃のコツは機体に任せろ、勝手に撃つなってことね」

 

そう皮肉気に口角を上げるカイ一等兵に俺は真面目な表情で頷いた。

 

「そうだ、そしてそれが難しい」

 

なにせ自分を殺そうとする相手が迫ってきたり、銃をぶっ放してくるのだ。そんな中で冷静に機体が射撃許可を出すまで待つと言うのは非常にストレスのたまる行為だ。今撃っても当たるんじゃないかなんて誘惑を受けるのはしょっちゅうである。

 

「FCSの優秀さはシミュレーションで十分実感しただろう?後は何処までそれが信用出来るかだな。こればっかりは他の奴に言われてどうなるものでもないな」

 

ルナツーには4日滞在できたのでその間にパイロット組はみっちりと訓練をさせて貰った。正規のパイロット達と比較してもやはり原作組の連中は腕が良い。寧ろ既存兵器の固定観念が無い分、MSの操縦に関しては吸収が速いように思える。遮蔽物が無く攻撃への対処手段が純粋な操作技量に依存する宇宙空間ならば十分実戦で戦えるレベルだ。後はそれぞれのメンタル次第だが、これに関しては随分と落ち着いているように思える。

 

「良いのかい?土壇場でびびって逃げ出しちまうかもよ?」

 

「カイさん!」

 

挑発するようにカイ一等兵が口を開き、それをアムロ伍長が窘める。そのやりとりは随分と打ち解けたように見える。好意的に考えれば4日も同じ軍事訓練を受けたんだ。それなりに連帯感くらいは芽生えていてもおかしくない。

 

「それはまあ、何というか仕方がないんじゃないか?」

 

「へ?」

 

厳しい言葉が返ってくるとでも考えていたのか、カイ一等兵だけでなく聞いていた全員が驚いた表情になる。お前らまだまだ俺に対する理解が足りていないねぇ。

 

「最初からやばくなったら逃げてやろうなんて考えている奴はそんな事は口にしない、警戒されて逃げにくくなっちまうからな。そんな奴がもうダメだ逃げよう、なんて考えなきゃいけない状況になってるってのは、何もかもが失敗してもう逃げなきゃ死ぬって段階だ」

 

「兵隊は最後まで戦うのが仕事じゃねえのかよ」

 

「勿論そうだ。だから絶対死ぬ状況で戦い続けたら、最後まで戦えないだろう?」

 

カイは言動や行動から軟派な奴だと思われている。事実彼は軟派ではあるが、かといって仲間を見捨てられるような薄情者でもない。寧ろ見捨てられないと自覚しているからこそ、彼はあの様な態度で仲間を作らないようにしているのだろう。

 

「それにそんな状況になるとしたら、作戦と部隊の指揮官がヘボだったって事さ。気に病むくらいなら恨み言の一つも言って、次に備えた方が幾らか建設的だろう」

 

そう言って俺は手を叩き口を開く。

 

「さて、パイロット諸君。そんな無様な指揮官に俺はなりたくないので、訓練に励もうと思うんだが。付き合わんかね?」

 

俺が率先して立ち上がると全員が苦笑してそれに続く、そして俺達は連れだってハンガーへと歩き出した。決戦の時は近い。




10話でルナツーを出港、これまでに無いくらい想定の話数で話が進んでいますよ!作者だって成長するんです!

問題は総話数を全然想定してないって事ですかね!

あ、いい加減更新速度は下がります。

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