「ディック・アレン少佐であります。アルビオン着任の挨拶に参りました」
「艦長のエイパー・シナプスだ。要請に応えて貰い感謝する、アレン少佐」
「いえ、自分も他人事ではありませんから」
敬礼しつつ俺はそう答えた。実際問題として2号機の強奪は様々な人間の人生を狂わせることになる。特にコロニー落としの阻止失敗は後の過激なスペースノイド弾圧に繋がるのだ。俺の平穏無事な今後のためにも絶対に阻止せねばならん。
「そう言ってくれると助かる。…格納庫での一件はすまなかった。己の不明を恥じるばかりだ」
そう言って制帽を脱ぎ頭を下げるシナプス大佐。自分より年齢も階級も下の俺にそう出来るのを見て、つくづくこの人は謀に向いてない人だなと思う。同時にこれから一緒に戦うクルーの前でそんな事をされて許さないなんて言えるわけがないと思うんだが、多分そんな事考えずに頭を下げてるんだろうなぁ。
「いえ、小官も軽率でした」
そう言い返せばシナプス大佐は安堵した表情になる。いやもう本当に独立部隊の艦長とか向いてない人だな。
「そう言ってくれると助かる。早速だが少佐にはMS隊の指揮を頼みたい」
「宜しいのですか?」
俺は別派閥の人間だ。そんな奴に対して簡単に戦力の指揮権を渡して良いのかと聞いたつもりなのだが、シナプス艦長は笑いながら頷いた。
「少佐の経歴については私も理解しているつもりだ。その上で適任だと判断したまでだよ」
OK把握した。少なくともシナプス大佐は派閥の論理を優先しないってこったな。…そりゃ事件後に詰め腹を切らされる訳だ。少なくとも大佐という階級でこの思考は無い。
「了解しました。微力を尽くさせて頂きます」
「頼む、今日中にはコーウェン中将からの増援も到着する予定だ。合流が済み次第我々も宇宙へ上がる」
「トリントン基地の防衛はどうなるのですか?」
「チャールビル基地の守備隊から一部転用されるとのことだ。アデレードからも1個中隊が増援として送られてくる、基地の防衛に関しては十分対応出来るだろう」
…チャールビルとアデレードの部隊は確かコリニー閥の部隊だったと記憶している。加えてチャールビルは核貯蔵施設のあるトリントン基地防衛のために居る筈の部隊だし、アデレードには海軍と空軍が駐留している。にもかかわらず基地襲撃に対し即応もしなければ、ジオンの潜水艦やコムサイも素通しときたもんだ。こりゃアナハイムだけじゃなく多分コリニー閥からも情報が流されているな。多分この後は核弾頭の強奪と部隊の損害を理由に基地司令は更迭、代わりにコリニー閥の人間が着任と言う所だろうか。正直派閥争いをするのは結構だがもうちょっと手段を選べと言いたい。多分状況をコントロール出来るなんて考えていたのだろうが相手は頭のおかしいテロリスト共だ、思い通りになるなんて考えるのはあまりにも楽観が過ぎる。
「もう一点質問宜しいでしょうか」
「何だね?」
「運用しますMSの件です。率直に申し上げてザクでは難しいと考えますが」
補充されてくる連中は機体ごとだろうが、トリントンから転用される試験部隊は俺以外自機を損傷させてしまっている。残っている予備機はザクだけだから、補給を受けられなければ彼等はザクを使う事になるだろう。
「その件だが上は1号機の投入を決定した。また人員に合わせて機体も補充される。故にMSについての心配は無用だ」
「補充はともかく、1号機も使うのですか?」
「それについては私から説明させて貰うよ、アレン少佐」
そう言って話に割り込んできたのは艦橋の入り口に立った女性だった。
「情報部のアリス・ミラー少佐だ。お会い出来て光栄だよ、英雄殿」
笑いながら敬礼する彼女に俺は慌てて答礼する。そして疑問を口にする。
「大丈夫なのですか?」
「ジャブローのエンジニアを連れて来て確認させている。まあ、連中からすれば1号機はただのガンダムだからな。時間的にトラップを仕掛ける暇も無かっただろうし、チェックが終われば使っても構わないだろう」
「いや、気にしているのはそちらではありません」
俺も1号機にトラップが仕掛けられているとは考えていない。スパイのオービルはメカニックだし、OS周りはニナ・パープルトンが担当しているはずだ。問題はこのまま運用するならば整備が必要不可欠であり、その為にはアナハイムの人間を使う必要があるだろう事だ。実際今回の試験にはアナハイムから相応の人数の派遣が行われている。つまり、モーラ中尉達では十分に対応出来ないという事だ。俺が言い返すとミラー少佐は目を細めつつ笑顔のまま口を開く。
「そちらも問題はなさそうだよ。既に同行を志願している者が居るしね。主任開発者の彼女が居れば取り敢えず事足りるんじゃないかな」
「大丈夫なのですか?」
全く同じ質問を繰り返す。するとミラー少佐が近付いてきて俺の肩に手を置きつつ再び答える。
「アナハイムを信用しろとは言わないが、我々については信じて欲しいものだな少佐。大丈夫、彼女は白だよ」
言いながら彼女は身を寄せて耳元で囁く。
「情報部は計画発足前からこの件には注目していてね。主要人物の身元くらいはちゃんと調べていたんだよ。まさか重要な手がかりがあそこまで大胆だとは読み切れなかったんだ、済まない」
それを聞き俺は溜息を吐く。原作知識で俺はニナ・パープルトンがかつてアナベル・ガトーと恋仲であった事を知っている。だがそれはあくまで原作知識であり、確かな情報に裏付けされたものではない。同時に少なくとも彼女がアルビオン隊の不利益になるような行動を取らなかった事も知っている。ウラキ少尉とガトーを天秤にかけてガトーを取った挙げ句死んだからとウラキの元に戻ってくるというビッチムーブのせいで三大悪女呼ばわりされている彼女だが、ただのクソ女というだけで実害はコアファイターを盗んだ事くらいなのだ。そう言う意味でいえばヴァル・ヴァロの修復を手伝ったウラキ少尉の方がよっぽどテロリストを幇助しているだろう。
「納得して貰えたかな?」
「はっ、失礼しました。大佐殿、早速で申し訳ありませんが、補充される人員の確認をしておきたいのですが」
「ああ、機体と一緒に君の端末へデータを送っておく。頼んだぞ」
シナプス大佐の言葉に敬礼を返すと俺は一歩下がる。そして今度はバニング大尉達が着任の挨拶を始めた。その間に端末が震えてデータが送られてきた事を告げる。まあ、見なくても来る連中の事は知っている訳だが。
「厄介な事になりやがったな」
シナプス大佐に激励されるウラキとキースを見ながら、俺はそう小さく呟いたのだった。
「後ちょっとだったんだぜ!?久しぶりの休暇に思う存分姉ちゃんの尻に乗っかろうって矢先にこれだよ!巫山戯やがって宇宙人共!」
「もう三度目だぞ。いい加減酔いを覚ませ、モンシア」
ベルナルド・モンシア中尉がそう愚痴を漏らすと呆れた様子でそれを聞いていたアルファ・A・ベイト中尉がミネラルウォーターのボトルを投げつけてきた。それを器用に受け取りつつ彼は大きく息を吐く。
「今回こそはイケる筈だったんだよ、ディナーだってバッチリ決めてよう。さあこれからだって時に…」
「軍人ですからね、仕方ないでしょう」
手元の小説をめくりながらもう一人の同僚、チャップ・アデル少尉があっさりと切って捨てる。モンシアが肩を落とすとベイト中尉が溜息交じりに口を開いた。
「まあ、いい加減にしろってのには同意するがな」
地球連邦政府とジオン共和国の間で終戦協定が結ばれて既に3年が経過した。しかし未だ各地に潜伏したジオン軍残党によるテロリズムが横行しており平和とは程遠い状況が続いている。そしてモンシア達の様な所謂優秀なベテランはその度にテロ鎮圧に駆り出されている。同意を得たことで多少気持ちを持ち直したモンシアは逃した女から今回の討伐相手へと意識を移し口を開いた。
「それで今回は基地の襲撃犯だって?しかもテスト中の新型機を強奪たぁ随分と舐めてくれているじゃねえの」
「これまでみたいなMSを持っているだけの連中とは別物と考えた方がいいな。基地の守備隊も返り討ちにあったって話だしな」
「軍事基地を襲撃出来た時点でそれだけの戦力を有している訳ですから、油断は出来ませんね」
「オマケに敵にはソロモンの悪夢が居たって話だろ?油断出来る相手じゃねえな」
ベイト中尉の言葉にモンシアは鼻を鳴らして反論する。
「けっ、悪夢だろうが俺達不死身の第四小隊に敵うもんかよ」
「慢心はよくありませんよ」
アデル少尉の忠告にモンシアは鼻を鳴らして窓の外へ視線を移す。すると雲の切れ間からトリントン基地が見えた。
「へへ、ペガサス級の新型か」
「確か新型のガンダムも積んでるって話だったか」
ベイト中尉の言葉にモンシアは自然と口角を吊り上げる。先の大戦におけるア・バオア・クー攻略戦、その最中にモンシアは彼を見た。圧倒的な力を以て敵の防衛線を食い破る白い流星、ガンダムの勇姿に彼は奮い立たされると共に強い憧憬の感情を覚えた。
「良いじゃねえか、そろそろ夢を叶えるのも悪くねえやな?」
ガンダムのパイロットになる。あの光景を見て以来、モンシアの心にその思いは確かに根付いていた。そしてそれを叶える絶好の機会に彼は自然と笑みを深くする。
「待ってろよ、宇宙人共。このモンシア様がガンダムで手前らのちんけな野望を吹っ飛ばしてやるからよ」
アルビオンにはそのガンダムを駆って一年戦争を戦った英雄が乗っていることをまだ彼は知らない。
気が付いたら100話ですよお客さん。
0083編はサクッと終わるはずだったのに…。(いつもの