ミノフスキークラフト搭載艦の利点として大気圏離脱の容易さが挙げられる。大量のプロペラントも大仰なブースターも必要ない上に緯度による影響も考慮の必要が無い。更に艦艇の姿勢すら任意となれば、大気圏離脱中ですら機体の整備や訓練まで出来るようになっている。
「何故ですかアレン少佐!?」
「何度も言っているでしょう。戦力配分を考慮しての事です」
溜息を懸命に堪えつつ俺はニナ・パープルトンに再度理由を告げた。しかし残念ながら彼女の耳には届いていないらしい。
「この子がアナハイム製だからですか!?」
どうも彼女はガンダムに俺を乗せたいらしく、俺がそうしないのはアナハイムが信用出来ず乗りたくないのだと考えているようだ。なので説明しても全部言い訳に聞こえているのだろう。てかそもそも1号機はまだ陸戦仕様だから宇宙じゃ使えねえだろ。暗礁宙域で部隊を指揮するには俺もMSで出る必要があるんだから尚更乗れん。そもそもアナハイム製が嫌だと言ったらパワード・ジムにだって乗っていないだろうとは思わないのだろうか?まあ正直アナハイムは好かんけど。
「そうではありません。パイロットの特性と役割を考慮した結果です」
補充人員が到着した段階で部隊は2小隊に分けている。補充された中尉達を第一小隊、ウラキ少尉とキース少尉に俺が加わって第二小隊という解りやすい分け方だ。合流当初モンシア中尉がガンダムへの搭乗を希望したがそちらも却下している。貴重な空間戦闘経験者を艦内待機になんてさせてる余裕は無いのだ。
「でも、新人のテストパイロットなんて…」
あ?
「ウラキ少尉は優秀なパイロットです。彼が満足に扱えない機体なら使い物にならんでしょう」
そりゃあ確かにウラキの奴は新人だし、アムロやララァに比べりゃ見劣りはする。だがパイロットとしての才能は間違いなく俺よりも上だ。なにせ彼はその経験の浅い新米にもかかわらずガンダムに乗った程度でソロモンの悪夢と互角に戦える逸材である。
「なっ!?」
「パープルトンさん。アンタの気持ちは解らんでもないが、そういうのは平時の社内ででもやっていてくれ。それが納得出来んと言うならアレは使わん」
ここは戦場であって試験場じゃないと言外に伝えれば、彼女は苦虫をかみ潰した表情で走り去る。そしてホワイトベースのメンバーを思い出し、彼等はとても素直で良い連中だったのだと痛感した。そもそも民間人の技術者が部隊の編成や搭乗員について口出しする事が戦場でまかり通ると考える思考回路が理解出来ん。
「あーあ、良いんですか?」
一部始終を見ていたのだろう、ロスマン中尉がそう声を掛けてきた。寧ろ何が不味いんすかね?
「良いんだよ。グレイファントムには俺の機体も積んでくるんだろ?なら後でパイロットを入れ替えるよりも今のうちに専任させちまった方がいい」
「エロ中尉が文句言いそうですけれど」
「モンシア中尉か?」
整備をしていたら早速声を掛けられたらしい。ロスマン中尉の容姿に臆さんとか中々に豪の者である。いや、業の方かもしれんが。
「ガンダムに随分拘ってたみたいに見えましたよ?アレン少佐の事も知ったら借りてきた猫みたいに大人しくなったじゃないですか」
あれにはちょっとびっくりしたわ。年下だし普通に絡まれるかと思ったらめっちゃ下手に出られた。後俺のサインなんか貰ってどうすんだ?ネットで売るにしても大した値なんか付かんだろうに。
「本人が希望するなら宇宙用へ換装後にもう一度テストでもするさ」
多分あんなじゃじゃ馬嫌がると思うがね。そんな話をしていたら、話題にしていた連中が雁首揃えてハンガーへやって来た。なんぞ?
「へへ、あー、ウラキ達に空間戦闘の訓練を付けてやろうかと思いまして」
ほほう、自発的に訓練とか殊勝じゃないか。まあ背中を預ける相手だから少しでも上手くなって貰って困ることはない、寧ろ下手なまんまの方が困る。
「あの、それでですね。出来れば少佐にも参加頂けたらと…」
助けを求めるような目でキースがそう切り出してくる。多分俺を加える事で戦力のバランスを取ろうとか考えているんだろう。全くキース君、君は実にぬけているね。
「良いぞ。だがウラキ少尉の機体はどうするんだ?」
「その、ガンダムを使えればと」
はい?
「ウラキ少尉、あれは陸戦仕様だって聞いているだろう?」
「はい。ですが確認しましたが、制御用アポジモーターは装備されていますから全く使えない訳ではありません。制御プログラムを空間仕様に変更すれば十分対応可能です」
対応可能です、じゃねえよ。周りをちょっと見てみろ、中尉達が呆れた視線を送ってるのが解らないんか?…解んねえだろうなぁ、コイツの問題児ぶりも大概だからな。まあ丁度良いか?
「制御プログラムはあるのか?」
俺がそう聞くとウラキ少尉はあっと声を上げたかと思うと、ばつの悪そうな顔で頭を掻きつつ口を開いた。
「すみません、仕様上あると思うのですが確認していません」
やだ、この子思ったよりお馬鹿さんかもしれない。
「パープルトンさんに確認してこい。ああ、いいや俺も行こう。モンシア中尉、悪いが先に始めていてくれないか?」
「うっす、了解です。おらキース、行くぜ!」
一旦そうして彼等と別れると、俺とウラキ少尉は1号機の近くまで移動する。そこには先程の会話が後を引いているのか悔しそうな顔で機体をチェックしているニナ・パープルトンの姿があった。
「失礼、パープルトンさん。宜しいか?」
「…何か?」
おっと好感度がマイナスに振り切っていますねこれは。別に構わんから俺は用件を伝える。
「空間戦闘の訓練をしたいんだが、コイツは使えるかね?」
「お渡ししている資料の通り現在の1号機は陸戦仕様になっています。使えません」
「あの、良いかな?貰った資料からすると、1号機はこの状態でも十分な空間戦闘能力を持っている筈なんだ。制御プログラムさえ書き換えれば使えると思うんだけど」
渋るパープルトン女史に対して、滅茶苦茶気安く言葉を掛けるウラキ少尉。お前さぁ、ホントそう言う所だぞ?
「あれは、あくまで緊急時のものでこの子本来の性能は出ないわ。そんな半端な状態でパイロットを乗せる訳には…」
「いや、スペックを確認したけど、この状態でもガンダムはジムカスタムと同等の空間戦闘能力を持っている筈だよ」
「そんな簡単な話ではありません!今の状態ではこの子はジム以下の性能しか発揮出来ないわ!」
しまった、こいつら面倒臭いタイプのオタクだ。討論に白熱する二人を見ながら俺は自身の迂闊を呪った。こういう手合いが二人集まると延々と話し続ける。そして自分が正しいと確信しているから絶対にこの議論は終わらない。何故なら彼等は議論をしている風で実のところ相手の意見なんか聞いちゃいないからだ。既に自分の中にある答えをぶつけ合うだけだから、永久に話は平行線を辿り続ける。
「すまん、俺の言い方が悪かったな」
面倒になった俺はそう言って二人の会話をぶった切る。
「パープルトンさん、制御プログラムがあるなら入れ替えてくれ」
「ですからあれは緊急時のものでっ」
「今がその緊急時だ」
彼女の反論を一言で切って捨てる。
「俺達はコイツも戦力に数えているんだ。ベストの状態で使わせたいというのはいいが、ベストじゃないから使わせないじゃ困る」
「技術者としてリスクのある状態で運用させる訳にはいきません。パイロットの生死に関わることですから」
おい待て、お前さんさっきまでそんな機体に俺を乗せるつもりだったのか?いや、あれか。多分月で補給を受けながら暗礁空域の捜索をするはずだから、そこから乗らせるつもりだったのか?もうこいつ月に帰らねえかな、段々相手をするのが嫌になってきた。
「だそうだ、ウラキ」
「…はい」
あ、これ駄目ですね。全く納得していない顔してます。俺は頭を掻きながら溜息を吐くと、パープルトン女史へ頭を下げる。
「お話は理解しました。だが我々パイロットはこう思ってしまう、まだ動くMSがあるなら、それは使えるんじゃ無いか、なにしろ残っているのはガンダムだ、と」
「……」
沈黙する彼女に俺は言葉を続ける。
「失礼を承知でお願いします。使えないと仰るならば、誘惑に負ける馬鹿が死なないように我々の都合の良い幻想を潰して頂きたい」
「解りました。プログラムは入れ替えます」
心底嫌そうな溜息と共に彼女はそう了承してくれる。よし、これで後は横で無邪気に喜んでる馬鹿を解らせれば月でのトラブルを回避出来るだろう。そしてウラキ少尉が素直にそれまでジムカスタムを使ってくれればちゃんと戦力として数えられる。
「では、入れ替え次第シミュレーション訓練を行います。ウラキ少尉、準備をしておけ」
俺はそう言うと自分の機体へと向かった。
一応この作品における0083の原作はOVAなのですが、結構な人数がニナ・パープルトンの事が嫌いすぎて彼女の行動を誤って記憶しているように思います。
1.彼女はコロニー落下の手伝いなんてしてません。(説得だけでガトーを物理的に止めなかった事を手伝いだとされているなら申し訳ありません)
2.コウへの銃撃はコロニー落下の最終調整が終了した段階です。落下阻止を妨害したわけではありません。
3.コロニー落下の軌道修正を手伝いませんでしたが、この時点でウラキ少尉もそうした行動を取っていません。またコントロール室に細工などもしていません。
ガトーの逃亡を助けたことは間違いなく問題ですし、ウラキ少尉に発砲したのも大問題ですが、少なくともコロニー落としについて彼女が何らかの責任を問われるという事は無いと思います。まあクソビッチ過ぎて作者も嫌いなんですけどね。
0083のヒロインはシーマ様、異論は認める。