『じゃあその大尉が復帰してもそっちなんだな?』
「MS隊の指揮官なんか任されちまったからね。そっちはまあ問題ないだろ?」
俺がそう言うと通信相手のエドワード・コリンズ少佐が嫌そうな顔をした。
『馬鹿言っちゃいけねえよ。お前さんが出かけて以来姫さんはずっと不機嫌なんだぞ?半舷上陸の時でも良いからちゃんとケアしねえと俺は知らねえからな?』
バニング大尉が復調次第グレイファントムへ移動する旨を伝えたらシナプス大佐とバニング大尉に思いっ切り引き留められた。小隊規模の部隊指揮しか経験が無いから自分では能力不足だと大尉が言えば、派閥だなんだは気にしないで良いとかシナプス大佐がフォローする。いや、そっちが気にしなくてももっと上が気にすると思うんですよ。
『持ってきた機体はそっちに回して良いって事だから上手くやれや、ガンダムのパイロット』
「お前さんの所で使ってくれても良いんだぞ?リン大尉やウォルターの奴なら行けるだろ、何ならエド、お前が乗ったっていいぜ?」
『冗談じゃねえ、俺ぁまだ死ぬ気はねえし彼奴らに恨まれるのも御免だぜ』
酷い言い草である。
「へいへい、大人しく俺がモルモットをしておくよ。そういやアムロ達は元気か?」
『今頃はコンペイ島行きの準備中だろ。こんなことならグレイファントムもお呼ばれして欲しかったぜ』
「お偉いさんにも事情があらぁな。さて、それじゃそろそろ切るぜ」
『おう、またな』
通信を終えるとほぼ同時に落ち着かない様子のウラキ少尉が近付いてくる。当然のように苦笑したキース少尉も一緒だ。更に近くのキャットウォークではモンシア中尉達がさりげない風を装ってこちらの様子を窺っている。解りやすい連中だ。
「そんなに慌てなくたって後で好きなだけ見られるだろ」
「俺もそう言ったんですけど、なんせコウですから」
エアロックから運び込まれるデカいコンテナをクリスマスプレゼントを見る子供の表情で見つめるウラキ少尉に代わってキース少尉がそう笑いながら答えた。
「なにせアレの後ですから、なんか余計に期待値が高まっちゃってるみたいで」
「期待しない方がおかしいだろキース!こっちはあのテム・レイ博士が造ったガンダムなんだぜ!?」
コンテナから片時も目を離さずにウラキ少尉が興奮気味にそう言い放つ。テム・レイ少佐は連邦系MSの父みたいな立ち位置を確立したからな。気持ちは解らんでもないのだが。
「そんなウラキ少尉には残念なお知らせだ、あの機体の主任設計者はレイ少佐じゃないぞ」
「えっ!?」
機体の監修や設計の補佐はしていたから全く無関係ではないけどな。
「あれの主任設計者はフランクリン・ビダン中尉だ。安心しろ、ビダン中尉も優秀な技術者だぞ」
原作における非常に自己中心的な行動のせいで隠れがちであるが、ガンダムMkⅡを生み出したビダン中尉の設計者としての実力は本物だ。実際あのマッド…個性的な技術者達が悪乗り…全力を注いだプロトタイプは冗談のような性能を獲得している。カタログスペック上は。
「おお、…なんかアナハイムのより太いっすね?」
「いや、全体的なフォルムはジムと大差無いよ。太く見えるのは各部のスラスターが大きいからかな」
流石MSギーク、良い目をしている。
「見える範囲のだけでもあれは相当な推力を持ってるみたいだ。あんなの扱いきれるのかな?」
あ、やっぱり解っちゃいます?
「凄いだろ?なんせあいつの合計推力は417600kgだからな」
「よっ!?」
ふはは凄いだろう。なんせ宇宙世紀を見渡してもコイツより推力が上のガンダムなんて2~3機しかいねえからな。当然そんなものが現状の耐G機構で御し得るはずもなく、グリーンリバー少尉やレイチェル達のような体を物理的に強化された人間が専用の耐Gスーツを着込んでようやっと動かせるなんて代物である。勿論そんな機体を俺が動かせる筈もないから運び込まれた機体にはしっかりとリミッターがかけられている。それでもNT-1の8割くらいの性能なので専用の耐Gスーツは必須なのだが。因みに推進剤が尽きなければこの状態でも余裕で大気圏内を飛行できる。
「乗ったら死にそう…」
引きつった表情でそう口にするキース、まあ大体合ってるな。
「元々コイツは概念実証機でな?新しい機体構造の技術実証と、ついでに現行の技術でどこまでの機体が出来るのかってのを試したもんだったんだよ。まあ言ったとおりカタログスペックは破格だったから開発計画への競作機に選ばれたんだが」
おう、そんな嫌そうな顔するなや。テストパイロットの一人として悲しくなるだろ。
「競作に出す方はもうちょっとちゃんとしたヤツなんだが、少々開発が難航しててな。そっちは送れないって事でコイツが来た。まあリミッターがあるからキースの考えているような悲しい出来事は多分起こらん」
多分ね。そんな無駄話をしている間にもガンダムの梱包が次々と解かれ、周辺機器なども配置される。特に目を引くのはビームライフルの充填装置に接続された機材だろう。
「あれは?」
「検証中のEパック用の充填装置だな」
「何ですそれ?」
目聡くそう口にしたウラキに俺が答えるとキースが更に聞いてくる。別に隠す事でもないから俺は二人の質問に答えた。
「ビームライフル用の弾倉だな。1個あたり10発撃てる」
装弾数はグリプス戦役時に使用されていた物よりも多いのだが代わりにサイズは倍以上ある。それでも従来のライフルに比べれば随分と携行性は高くなっているから、間違いなく今後は原作と同じくビーム兵器が主流になっていくだろう。
「なんか、普通ですね」
その後に出てきたのはシールドとバズーカでどちらも馴染みがあるせいかキースがそう評する。まあちょっと前に核弾頭搭載ガンダムなんか見ていればそんな感想にもなるだろうか。そう思っているといつの間にか近くに来ていたモンシア中尉が声を上げた。
「なぁに言ってやがるキース!武器なんてのは相手を倒せりゃ良いんだよ、特殊で特別な装備なんてのを喜ぶのは戦場を知らねえ素人だよ。そうですよね、少佐?」
モンシア中尉の言葉に俺は思わず苦笑してしまう。彼の言い分は尤もだが、その対極のようなガンダムがグレイファントムに主力として搭載されていることを知っているからだ。だがまああれは実に希有な例だから同意しても問題なかろう。
「そうだな、特殊だとか特別な装備ってのは経験上扱いがデリケートになりがちだ。俺個人としては威力よりも多少乱暴に扱ってもちゃんと動く方が好みだな」
「革新性よりも信頼性が重要という事ですね」
ウラキ少尉の言葉に頷きつつ俺は続けて口を開く。
「あくまで戦場で使うならだけどな。散々に言っておいてなんだが、あのアナハイムの1号機だって技術的に見れば意義のある機体だよ」
実に間抜けな話であるが一年戦争終結後、連邦軍はジオン公国の技術を殆ど接収出来なかった。戦勝国側の軍人としては何をやっているんだという気持ちにもなるが、一応それなりの背景がある。それが終戦交渉の際に提示された民間企業に対して資産・資料の没収を行わないという取り決めだ。当初その項目を軍は問題視しなかった。ジオニックやツィマッド、MIPと言った主要な軍事産業が半ば公営である事は周知の事実だったし、それならば国家側の資産と見なされ接収出来る筈だったからだ。事実逃亡者を除いたフラナガン機関やダークコロニー、各宇宙要塞は連邦軍の手に渡ったのであるからその認識はある意味間違ってはいなかった。ダルシア・バハロがこれらの企業を民間企業だと強弁するまでは。勿論そんな物言いが通じる訳がないと連邦軍上層部は考えた、それは軍人の常識的な判断だったが現実はあっさりとそれを覆す。それだけのことが出来る程地球連邦政府は疲弊していて、月の資本は巨大になっていたのだ。
結果連邦軍はただで手に入るはずだった技術をガンダム開発計画という莫大な予算を掛けて回収する羽目になった訳だ。だから性能の如何に関わらず、あの機体を建造し連邦軍が入手する事自体に意味があるとも言える。
「さて、後1時間もすれば第3地球軌道艦隊の増援と合流だ。そうなりゃ本格的な捜索も始まる、今のうちに休んどけよ」
「あの、少佐は?」
「俺もあいつの調整が終わり次第休むさ。ほら、もう行け」
そう聞いてくるウラキ少尉に俺はそう笑って答えた。
「ガトー少佐、間もなく茨の園へ入港です」
「ふむ、予定通りだ。デラーズ閣下もお喜びになるだろう」
旧サイド5宙域、前大戦初頭の戦闘により壊滅したこの地は現在大量のデブリが滞留する暗礁宙域となっていた。その中を慎重に進んでいるムサイの艦橋でアナベル・ガトーは満足げに頷いた。
「少々の手違いもあったが…」
「オービルの件ですな」
艦長の言葉にガトーは頷いた。
「ああ、彼には今暫くアナハイムに居続けて貰いたかったが」
「確かに惜しいですが、十分に挽回の利く範囲でしょう。それに優秀なメカニックが合流するのは頼もしい事です」
「…そうだな、どうにもあの負け戦以来悲観的になっているようだ」
そう笑いかけた所で監視員が声を上げた。
「前方より艦隊!急速接近します!」
「なんだと!?何処を見ていた!?」
監視員を叱責しながら艦長はモニターを確認する。そこにはザンジバル級を中心とした艦隊が映っている。
「識別コード確認!リリーマルレーンです!」
「リリーマルレーン、シーマ艦隊か!」
依然として接近を続ける艦隊を睨みつつ、ガトーはそう呟くのだった。
書きたいこと書いてると話が進まないジレンマ。
以下作者の自慰設定
MkⅡプロトタイプ
ガンダム開発計画との競作機であるMkⅡは構造材料の問題が解決しておらず開発が頓挫していた。このプロトタイプは現在獲得できる材料にて建造された機体であり、構造材を全てルナチタニウムで製造するという製造コストを完全に無視した事で初めて目標としていた性能を満足させている。同機はNT-1よりも更に反応速度と運動性、機体出力の向上を図った結果常人では完全に制御不能な機体となっており、最大加速などを実行した場合パイロットに命の危険が及ぶ程である。テストパイロットのグリーンリバー少尉曰く世界最強の欠陥機。
同機は星の屑事件においてディック・アレン少佐への補充としてグレイファントムに配備されている。但しその際にパイロットが扱える範囲にリミッターが設けられたため、その性能はカタログスペックの3割程度となっている。これはNT-1と比較した場合80%程度の性能であったが、建造コストは5倍以上でありコストパフォーマンスは最悪に近い。
一方でそのカタログスペックは文字通り化け物であるため、設計者達は耐Gシステムと制御系さえ追いつけば100年先でも通用する機体であると豪語している。