WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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ただいま。


108.0083/08/11

時間は少しだけ巻き戻る。地球から離れたアステロイドベルトでは一つの混乱が収まり、一時の平穏が訪れていた。

 

「我が父ながら勝手な男だわ。私のことを何だと思っているのかしら」

 

集中治療室で眠るマハラジャ・カーンを恨みがましい目で見つめながらマレーネ・カーンがそう口にした。

 

「気の毒だとは思うが、しかし私も同意見だ。今アクシズをまとめ上げられるのは君以外居ないだろう」

 

「あら、私の前にもう一人居るように思えますけれど?」

 

即座に返ってきた皮肉にシャア・アズナブル中佐は苦笑を浮かべつつ頭を振った。

 

「買いかぶりだ。私にその様な器量は無いよ。それはここまでの道程で十分知れていたと思うが?」

 

彼の言葉にマレーネは詰まらなそうに鼻を鳴らした。

 

「一人のパイロットで居る方が気楽だからでしょう?」

 

「それを言われると耳が痛いな」

 

サングラスで目元を隠したまま笑う彼を見て、マレーネは素直に己の疑問を口にする。

 

「それで貴方はこれからどうしたいのです?まだザビ家への復讐を続けるのですか?」

 

シャア・アズナブル中佐の真実をマレーネは父から聞いていた。父にしてみれば本当に忠誠を捧げたかった相手の忘れ形見だ、また以前の様に自分を送りつけてアクシズの指導者へ祭り上げたかったのだろう。どうやら固辞されたようだったが。そうした背景から彼女は彼がジオン公国へ潜り込んだ本当の理由も知っている。だからこそ現在確実にザビ家の血を引く娘が存在するアクシズに彼が居るのは、そうした理由からではないかという疑念を捨て去る事が出来なかった。

 

「親の罪を子が背負うべきでは無い。その位の分別は持っている、今更だがね」

 

そう言って彼は小さく息を吐いた。

 

「ガルマが死んだあの瞬間、私が覚えたのは達成感などではなく後悔だけだった。滑稽だろう?そうしたくて態々人を殺してまで身分を得て、ザビ家に近付いておきながら私は後悔したのだ」

 

ガルマ・ザビ。一年戦争において最初に死亡したザビ家の人間であり、シャア・アズナブルの友人だった男。彼の死は目の前の男に多大な影響を与えたようだ。

 

「ザビ家への復讐などというのは所詮八つ当たりだった。自分が手にしていた幸福を奪われた子供が嘯いた建前だよ。他人の幸福を壊した所で自分の幸せは戻ってなど来ない、そんな当たり前の事に気付く為に私は一番の友人を失うまで気付けなかった」

 

「復讐は愚か者のする事だと?」

 

「そうではないさ、復讐によって前へ進める者だっている。家族を殺した人間がのうのうと生きているなど許せる者の方が少ないだろうし、復讐を遂げて初めて前に進む起点に立てる者も居るだろう。ただ私はそうでは無かったと言うだけさ」

 

そう言うと彼は清涼飲料水のチューブを備え付けられた販売機から取り出すと口を付け、言葉を続けた。

 

「子供の頃の体験のせいかな、どうにも私はじっとしているのが怖いんだ。その恐怖を紛らわせるために動いていたのだな、復讐も都合良く目の前にあった程度の理由だよ」

 

「成る程、では今のシャア・アズナブルは何のために動くのです?」

 

マレーネが問うと、彼は苦笑しつつ口を開く。

 

「それが困ったことに動くべき理由が何も無いのだ」

 

「その割にはあれこれと心を砕いていらっしゃる様に見えますけれど?」

 

地球圏から逃亡して3年、アステロイドベルトに存在するアクシズも決して平穏だった訳では無い。地球連邦艦隊による追撃やジオン本国からの亡命者の受け入れ、更には穏健派と武闘派による内紛と中々心安まる日々とはいかない日常だった。その中で穏健派の父を支持し、更に中核戦力として武闘派の鎮圧でも功績を上げた男がシャア・アズナブルである。そんな彼がまるでこれまでのこともただの成り行きだと口にするなら、一言くらい言い返したくなるのも道理だろう。特にその行動によって彼女はアクシズの指導者に祭り上げられているのだから。

 

「アクシズは快適とは言い難いが、私には居心地がいい。そんな場所を守ろうと思うのはそれ程おかしな事では無いと思うが?」

 

武闘派の主張は概ねあのエギーユ・デラーズに近いものだった。最後のザビ家であるミネバ・ザビを擁立し、正当なジオン公国として連邦と武力闘争を継続。その先に独立を勝ち取るというものだ。ア・バオア・クー戦を経験したマレーネからすればその主張は滑稽を通り過ぎていっそ哀れにすら思えた。そもそもアクシズの戦力で戦える程度の相手ならジオン公国が敗北などしていないと言うことから彼等は目を背けている。ここに居る戦力などア・バオア・クー戦に投入された戦力から見れば鼻で笑ってしまうほどの数だと言うのに。故にここで生きようと思うなら武闘派を止めるのは確かに当然と言える。

 

「それであの様な提案を?」

 

マハラジャ・カーンは穏健派であり、闘争を嫌う人間ではあったものの指導者としての資質には些か問題のある人物だ。闘争を厭うあまり武闘派の跳梁を抑える事も出来なかったし、同じジオンのよしみを断ち切れずデラーズ達のような人間からの支援要請にすら応じてしまう体たらくだ。自分達が武装勢力であるという認識にも欠けているし、地球連邦軍がアクシズを相手にするのは面倒だからと目こぼしされているだけだという事すら認識していたか怪しい。戦争とはどんなに片方が平和を訴えた所で、相手がその気になってしまえば簡単に始まるものだと自分達がやって見せたというのにすっかり忘れてしまったらしい。

 

「武闘派の連中は戦争を経験していないだろう?自分達が戦おうとしている相手を一目くらい見せておいた方がいい。ついでに少しでも連中の武器を放り出せばこちらがやりやすくなる」

 

マレーネやシャアからすればエギーユ・デラーズからの支援要請など無視以外の選択肢などないのだが、前任であるマハラジャが承知してしまっていること。そして武闘派の急先鋒であったエンツォ大佐を処断したことで表面上は収まっているものの、アクシズの実に7割が武闘派側である事が問題だった。味方を見捨ててアステロイドベルトに引き籠もる臆病者だなどと都合良く解釈され、再びクーデターなど起こされては目も当てられない。その為にも一度地球圏へ部隊を派遣する必要があった。尤も何の策も弄さずにのこのこと出て行けば地球連邦軍に蹴散らされて終わりだ。何せアクシズ側がどう自称した所で連邦軍からすれば共和国に帰属せずに抵抗を続けている武装勢力に過ぎないからだ。交戦国でもない以上、戦えば軍人としての扱いすら望めないだろう。そうした現実を武闘派にもしっかりと認識して貰う必要があると彼等は考えていた。

 

「表向きは連邦軍への捕虜返還、その見返りとしてジオン共和国での物資調達になる」

 

以前受けた襲撃の際に少なくない人数の連邦兵が捕虜としてアクシズに囚われていた。生存に必要な資源の全てが貴重であるアクシズにしてみれば一刻も早く放り出したい存在であったが、立地的に気楽に放り出せる訳もなく扱いに困っていた彼等を返還するという名目で一時的な地球圏への滞在と、水や空気といった生活資源の購入を許可する旨の協定を連邦政府と結ぶ事に成功していた。これが無ければそもそも艦隊を派遣するなどという事すら出来なかっただろう。

 

「その間にエギーユ・デラーズの部隊と接触し、戦力を譲渡。それが限界だな」

 

「ユーリー・ハスラー少将ならば問題ないでしょう。それに手伝って下さる方もいるのでしょう?」

 

地球圏への滞在は許可されたものの、共和国への寄港は許されなかった。その際にジオン共和国から提案されたのが仲介としてアナハイムエレクトロニクス社を利用することだった。そしてそのアナハイムからは、デラーズへ譲渡する機体のデータを提供する代わりに受け渡しを請け負うとの申し入れがあったのだ。

 

「正直に言えば危ない橋ではあるが、物も人も出さんでは支援をしたと納得するまい」

 

「そして渡すのが武闘派の虎の子であるMAならば例え1機でもそれなりに誠意ある態度に見える、ですか?」

 

「代わりにMSを何機も持って行かれる方が困る。戦闘用でもMSならば作業にも使える」

 

人員の増加に伴いアクシズ内は急速に拡張が続けられている。重機の代わりとなるMSは幾らあっても困らない状況だ。清涼飲料水をもう一度口に含み、シャアが続ける。

 

「問題は連中の生き残りだ」

 

協力にあたりデラーズからはある程度詳細な作戦内容が説明されていた。そしてその最終段階を確認する限り、彼等が地球連邦艦隊の追撃を受けることは確実である。

 

「受け入れぬよう厳命はしましたけれど…」

 

「難しいだろうな。目の前で逃げてくる同胞を見捨てられる人間は少ない」

 

問題はそんな追撃を受けている彼等をアクシズの艦隊が受け入れたときだ。なにしろアクシズは第三国でも何でも無く、連邦軍からすれば同じジオン残党の別動部隊に過ぎない。つまりデラーズの残存兵を一人でも連邦軍の前で収容すれば、連邦軍にテロリストとして攻撃する格好の口実を与えることになるのだ。

 

「ユーリー少将が上手くやってくれるのを祈るしかありませんね」

 

マレーネの言葉にシャア中佐は苛立たしげに息を吐き、口を開く。

 

「今更コロニーを地球へ落として状況が好転するものか。それどころかスペースノイドの立場を益々追い詰めるだけだと何故解らん!?」

 

「中佐…」

 

「コロニー落としを軍事行動だなどと嘯けるのは無知なスペースノイドだけだ。地球規模での環境変動などと言う生存そのものを脅かす行動が、やられる側にどれだけの恐怖を与えるか想像出来んから平気でそんな事が出来る!」

 

スペースノイドにとって環境とは制御されていて然るべきものである。だからこそ環境が悪化するという意味がもつ影響を軽んじているのだろう。あるいはエギーユ・デラーズは地球連邦に一矢報いたという実感が欲しいだけで、後は何も考えていないのかもしれない。

 

「…いっそのこと、我々から連邦へ作戦の内容をリークしては?」

 

捕虜返還などの交渉を行ったため、アクシズは一応ではあるものの連邦軍との間に窓口が存在する。一見すれば身内を売るような行為だが、マレーネにしてみれば同じ会社に勤めているだけの馬鹿がとんでもない犯罪を企てているのを、その犯行相手に伝える位の感覚だ。こちらの迷惑を一切考慮していない連中を仲間と思える程マレーネは寛容ではないからだ。

 

「そうしたいのは山々だが、この状況で連邦軍と繋がれば武闘派に我々を排除する格好の理由を提供することになる。そうなればデラーズの次にアクシズが潰されるだろうな」

 

つまりアクシズ内の大半も、現状そんな馬鹿ばかりだと言うことである。頭痛のしてきた額を押さえながらマレーネは口を開く。

 

「一年戦争の際、連邦軍の大将がジオンに兵無しと謳ったと聞きましたがあれは嘘ですね、兵どころか将も居ないではないですか」

 

「今回ばかりは連邦軍の健闘を願わずにはいられないな」

 

漸く訪れた平穏は長く続きそうにない。そんな予感をマレーネは覚えずには居られなかった。




取り敢えずルビコン一週目終わり。さあ装備集めだ。
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