WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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昨日5k有り難うって言ったら、今日もう6k行ってるんですよ。
…そんなに、…更新がっ、見たいんか!?(アスロック○倉顔で)


11.0079/09/22

「サラミス2隻にマゼランまで、ホワイトベースを入れればちょっとした艦隊ですね」

 

「パオロ中佐が随分骨を折ってくれたようだ。護衛と言うには些か語弊があるみたいだけどな」

 

ホワイトベースを取り囲むように展開する友軍艦艇を窓から眺めながらそう言えば、同じように外を見ていたキタモト中尉がそう応えた。

 

「同道してくれるのは変わりないのでしょう?十分じゃありませんか」

 

こちらを護衛する意思がなくとも艦隊が組めれば火力は向上するし、狙いが分散すればそれだけホワイトベースの被害は抑えやすくなる。だから居てくれるだけで十分彼等は役に立つ。そう考えていると、キタモト中尉が苦い表情で口を開いた。

 

「アレン少尉、貴様は優秀だが割り切りが過ぎる。もう少し視野を広げろ」

 

「買被りです。自分はそんなに大それた人間じゃありません」

 

そう返すがキタモト中尉は聞き入れないとばかりに頭を振った。

 

「お前はもう隊を預かる身なんだぞ?」

 

そんなことは解っている。そして俺が絶対に守らなければならないのはこのホワイトベースとそのクルーだ。成程このディック・アレンの体は優秀だ。恵まれた体に出来の良い頭まで貰った。けれど中に入っている俺は、もう以前の名前さえ思い出せない俺はどうしようもなく凡人なんだ。これ以上を望めるような才覚なんて持ち合わせていない。ならば確実に守るべきものを守る為に、それ以外は諦める。

 

「だからこそです。自分は部下を守る為に最善を尽くしているつもりです」

 

言い返せばキタモト中尉は益々表情を険しくした。

 

「勝手に自分を小さく纏めるな。お前なら皆を守れるエースにだってなれると俺は思っている。だというのに」

 

無茶を言ってくれる。俺は中尉の言葉に対して食い気味に言い返す。

 

「そうして手を広げて、いざという時に本当に大事なものを取りこぼすなんて俺は御免です。ホワイトベースと仲間を守る。それが大事で何がいけないんですか?この艦には中尉の娘さんだって――」

 

乗っている。そう言い切る前に俺は胸ぐらを掴まれ言葉を遮られた。間近に迫った中尉の顔に浮かんでいたのは、怒りでは無く悲しみの表情だ。なんだよ、なんでそんな顔をする?

 

「そうだ、この艦には俺の何よりも大切なものが乗っている。彼女を失った俺には、もうあの子しか居ない。あの子にも俺しか居ない。けどな、それを守る為なら何でも切り捨てて良いと言うのは違うだろう?」

 

「そんなのは、出来る奴の理屈でしょう。俺は」

 

違うという言葉は、更に力の込められた襟元で止められる。そして中尉は俺の目を見たまま口を開く。

 

「違わない。それに本当はお前も気付いて居るはずだ。そうじゃなきゃ、あの子達に仲間の大切さなんて話せない。子供は俺達が思っているより遙かに聡い、本気で言っていない言葉に従う程愚かじゃない。あの子達の態度が、お前の本心を証明してる」

 

掴んでいた手からゆっくりと力を抜き、中尉は俯いて言葉を続ける。

 

「アレン少尉、これは本当の軍人で、そして才覚を持つ奴にしか頼めない事だ。ほんの少しでいい。もう少しだけ、周りの奴に手を貸してやってくれ。お前の仲間を広げてくれ。切り捨てる奴は、いつか自分も切り捨てられる。その時に死ぬのは、お前だけじゃない」

 

無重力だと言うのに、肩が重くなったような気がした。最悪の気分だ。

 

『本艦はこれより第一種警戒態勢に入る。パイロット各員は速やかに機体に搭乗せよ。繰り返す、パイロット各員は――』

 

その時、俺を助けるように艦内にアナウンスが流れる。俺は此幸いにと中尉の手を退かして出口へと向かう。

 

「済みません中尉、失礼します」

 

「アレン少尉!」

 

「続きは帰ってきてから伺います」

 

尚も言い募ろうとする中尉に向かって俺は視線も合わせずにそう告げると、俺は格納庫へと逃げ出した。

 

 

 

 

「急速突入は難しいか?」

 

マニュアルを開きながら唸るネイサン曹長に対し、ブライト・ノアはそう問い掛けた。

 

「申し訳ありません、大尉。確認しておりますがその様な項目は見受けられません」

 

ミノフスキークラフトによる速度制御を前提とした大気圏突入。その可能性を思いついたブライトは、それが可能であるか操舵手であるネイサン曹長に検討させていたのだ。しかし返ってきた言葉は残念なものだった。

 

「この艦の性能ならば出来ると思うんだが」

 

「なにぶんこの艦は新造艦ですから、まだ装備も未知数の部分が多いんです。連邦にはこれ以外にミノフスキークラフトを搭載した艦艇はありませんし、コイツ自身大気圏突入は初めてなんですから」

 

そう言ってネイサン曹長は困った顔で続ける。

 

「大変申し上げ難いですが、自分も伍長もこの艦を扱うには経験が不足しています。トラブルが発生した場合に対処出来るとは思えません」

 

操舵輪を握っているミライ・ヤシマ伍長を見ながらそう告げてくるネイサン曹長に、ブライトは頭を抱えたくなる衝動を堪えて頷いて見せた。何でも出来ないと答える部下を持つ事は不幸ではあるのだが、同時にそれは少なくとも自身の能力を過大に見積もっていないという事である。ならば彼が出来ると答える事は絶対に出来るのだと信用がおけるし、途中でやはり無理だったなどという最悪の言葉を聞くことはないという事である。そう強引に前向きな思考を自身に念じながら、ブライトは伝えられている作戦を再度思い返した。

 

(この作戦におけるホワイトベースの役割は囮だ。出来れば最低限に済ませたかったが)

 

ルナツー司令のワッケイン少将から伝えられたのはこうである。状況から鑑みるに、敵が軌道上で待ち構えている事は間違いない。ホワイトベースの護衛に戦力を割くわけにはいかないが、この敵艦隊に対する攻撃を意図した共同作戦ならば吝かではない。

軌道上の兵站線に対する攻撃として連邦側が主に採用しているのは機雷の散布だ。装甲の薄い補給艦や投下ポッドならば十分損傷が与えられるし、投入する艦艇も少数で済む。だが一方で効果の程は今ひとつである事は否めなかった。攻撃可能な位置に艦艇を送り込めない状況では当然敵もミノフスキー粒子を散布せずにレーダーを利用するから十分な密度の機雷原を設置すれば即座に回避されてしまう。かといって艦艇を派遣すれば、軌道上を遊弋するジオンの戦闘部隊に捕捉されてしまうのだ。ミノフスキー粒子下での戦闘用に改修は施されているものの、マゼランやサラミスでMSを有する敵艦隊と戦うのは些か荷が重かった。

 

「つまり、本艦に敵MSを誘引せよ。と言う事でしょうか?」

 

「難しい話では無いはずだ。元々連中はその為に待ち伏せているのだろう?ならば諸君が何もしなくても勝手に敵から寄ってくる」

 

MSが居なければ艦隊同士の純粋な殴り合いになる。そして個艦性能ならば連邦軍が優越しているのだ。ルナツー艦隊にしてみれば艦隊戦を強いる好機と言えた。

 

「ホワイトベースとしても単独で事に当たるよりは負担が少ない、これが現状で出せる最善だと考えるが?」

 

ワッケイン少将の言葉に、ブライトは敬礼を返す他に選択肢は無かった。総司令部の直轄部隊とはいえ、ホワイトベース隊に戦力を徴発する権限は無く、出来るのは彼等のような指揮官の善意に訴えるのみだ。だからこの提案を蹴るという事は、ルナツー側から一切の協力が得られない事を意味している。

 

(MSを引きつけた後、高速で突入態勢に入ってしまえばザクは追って来られない。ホワイトベースの安全を考えれば、それが最善だったのだが)

 

収容している民間人の下船も断られたために艦内の状況は非常に悪い。ただでさえ練度が低下しているというのに民間人が事あるごとに説明を求めるなどして兵士の行動を妨害するのだ。許されるならば一所の倉庫に全員押し込めて鍵をかけてしまいたいくらいだとブライトでさえ考えてしまっている。そんな有様で長時間敵の主力を引きつけるなど、死ねと言われているようなものだ。

 

「軌道上到達後は時間との勝負になる。降下シークエンスを頭にたたき込んで置いてくれ」

 

ブライトは自分へ言い聞かせるようにネイサン曹長へそう告げた。

 

 

 

 

「いいな?展開後は必ず係留ワイヤーを接続しろ。それで少しはマシになる」

 

「少し、でありますか」

 

テム・レイ大尉の言葉に、リュウ・ホセイ曹長はそう返した。

 

「コアファイターを外したから教育型コンピューターの補助をタンクは受けられん。その分は情報量を増やす事でカバーする」

 

小難しい理屈を説明されたがリュウには半分も解らなかった。取敢えず係留ワイヤーを繋いでおけばホワイトベースと僚機の双方とデータリンクが構築され、射撃精度が増すらしい。溺れるほどミノフスキー粒子が撒かれた戦場で仲間との確実な通信が確保されているのも指揮官としては有り難い。

 

「それから万が一艦から滑落した際は即知らせる事。スラスターを増設したがホワイトベースの航行速度に追いつけるものじゃない。改造の際耐熱フィルターカプセルも取り除いてしまったからな。そのまま放置されたら大気圏で燃え尽きるぞ」

 

その言葉に驚いた表情を彼が浮かべると、レイ大尉は面白く無さそうに鼻を鳴らして言葉を続ける。

 

「そもそもMSを単独で大気圏へ突入させようという考えが浅はかなんだ。そりゃ燃え尽きんようには出来るが、機体の推進剤は有限なんだぞ?MSをそのまま何万メートルも降下させて、無事に着陸させるのにどれだけ推進剤が要ると思う?」

 

リュウは当然その様な計算をした事は無かったが。彼の口調と表情だけでそれがどだい無理な話である事は理解出来た。

 

「追加した武装に関しては頭に入っているな?腰部に旋回機能を追加した分、腕部の可動域を減らして装弾数を増やした。本体前面にも機関砲を追加している。瞬間的な火線の形成能力は向上させているが追従性は高くない。あくまで近づけさせないための牽制程度に考えるように」

 

「…了解であります」

 

これから出撃するというのに不安になる事ばかり言わないで欲しい。そう思いながらリュウが返事をすると、レイ大尉は肩を叩きながら笑ってみせる。

 

「タンクの本領は地上戦だ。だが技術者として宇宙でもザクごときに負けるような機体は造っていないから安心したまえ。そして無事に帰ってこい」

 

「は、はい!有り難うございます、大尉殿!」

 

自信に満ちたレイ大尉の言葉に背を押されつつ、タンク隊は宇宙へとその身を躍らせた。




なお、今作のコンセプトは読者を曇らせです(ニチャァ

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