「見つかりませんね」
「そう簡単にはいかんさ」
アデル少尉の言葉に俺はそう返す。アルビオンがフォン・ブラウンを出航して早くも1週間が経過しているが、はっきり言って状況は進展していない。
「折角戦力は整っているってのにな」
言っても仕方の無いことだが、つい口からは不満が漏れ出てしまう。ペガサス級2隻とサラミス3隻が徹底した準備砲撃を行えば話はもっと簡単に済むはずなのだ。けれどその案は上層部から却下されている。
「準備砲撃でコロニーを傷付ける可能性は否定出来ませんからね」
俺の言葉を聞いたバニング大尉が渋い顔で口を開く。彼の言う通り上層部は別に嫌がらせで砲撃を禁じているのではない。実は現在L1宙域ではコロニー再建計画に基づく損傷コロニーの評価及び移送計画が実施されているのだ。一年戦争においてこの宙域に存在したサイド5は二度目のコロニー落としを行うための弾頭確保を目的に襲撃を受けた。この時点でジオン側がコロニー確保の為にコロニーへの攻撃が消極的であったことと、連邦軍の反撃が想定以上であったために比較的コロニーへの損害が抑えられていた。そのため戦後の調査が進むとそれなりの数が修理すれば使い物になる事が判明したのだ。地球連邦政府はこれらをサイド3へ移送して修復再利用する事を思い付きコロニー再建計画の一環として組み込んでいる。その為に折角評価を済ませたコロニーに流れ弾を当てられてはたまらないというのだろう。現場の人間としては巫山戯るなと言いたいが地球連邦軍は文民統制された軍隊である。故に俺達の命よりも政府の都合が優先されるのだ。
「増援部隊の連中、大分ダレてきてますね。動きが悪い」
「仕方ないさ、地球軌道艦隊は宇宙軍でも気楽な部隊だからな」
ベイト中尉がモニターに映る味方部隊の動きを見ながらそう評したので返事をする。地球軌道艦隊はその名の通り地球の軌道上を防衛する部隊だ。宇宙における最終防衛ラインと言える艦隊なのだが、つまりそれは戦闘から縁遠い部隊であるとも言える。ここを抜かれれば地球に降下されてしまうから装備はしっかりと整っているのだが、一方で平時における出動は大半が商船航路の掃海や救命であるためほぼ彼等に出番はない。
そうした部隊に降りかかるのが予算問題だ。働いていない部隊に何故金が使われるのかと文官の皆さんは直ぐに文句を言って予算を削ってくれるのだが、そのとばっちりは大抵部隊の練度に影響を及ぼす。どうにも訓練をすれば装備は消耗すると言う事が理解出来ない人間が宇宙世紀にも一定数居るらしく、戦っていないのに維持費が高いと叩かれるのだそうだ。そして目に見える成果を提示しにくい部隊は費用対効果というお題目の下予算を削られる。そうして訓練時間を大幅に減らした張りぼて部隊が生み出されると言うわけである。尤も第3地球軌道艦隊はベテランも多く抱えているようだから大分マシな部類なのだが。
「だがいい加減連中も痺れを切らす頃合いだろう」
星の屑作戦。核弾頭搭載MSであるガンダムGP-02による連邦宇宙軍の観艦式襲撃を陽動に、地球へのコロニー落としを実行する作戦。原作では正にエギーユ・デラーズに天佑が味方したかのような推移によって作戦は成功、連中の思惑通り地球へ再びコロニーが落下する。まあその結果は連中の妄想したスペースノイドの権利拡大ではなく、弾圧へ繋がるのだが。さておきこの作戦において極めて重要な部分は観艦式への陽動とコロニー奪取のタイミングだ。連中の戦力は残党では最大規模であるが、連邦軍からすれば圧倒的に寡兵だ。だから観艦式へ核攻撃を行い戦力を漸減するか、あるいは攻撃が失敗することで星の屑作戦を防いだと連邦軍に誤認させ時間を稼ぐ必要がある。そうしなければ連中は移動するコロニーを守り切れないからだ。
そしてもう一つがコロニーを何処で奪うかである。これはコロニー再建計画にてサイド3へ移送中の物を狙うのだが、当然運行計画はコロニー公社が行っており彼等の都合など考えられていない。加えて問題なのがこれを落下軌道に乗せる方法だ。連中は2基セットで移送されているコロニーを奪い、これらをぶつけ合わせた反動で落下軌道へ乗せている。つまり連邦軍が察知しても間に合わないタイミングでコロニーを奪取後、目標地点に正しく移動するタイミングでコロニーをぶつけ合わせなければならないのだ。
観艦式が執り行われるのが11月10日、コロニーの奪取が11月11日の事である。原作ではアフリカを経由したため、例のお気持ち表明が行われたのが10月31日。つまり俺達は2週間以上多く連中の本拠地を引っかき回しているのだ。元々ここを放棄する予定のデラーズ本人は気にしないだろうが、それが末端まで徹底されているとは考えにくい。何故なら奴は後1週間だけ隠れて居れば良いと考えているだろうが、参加している兵士にとってはここが唯一の拠り所なのである。それを失うかもしれないという恐怖は筆舌し難いものであるに違いない。
「…纏まって敵意を向けてくれりゃあ結構簡単なんだが」
そうすればテキサスゾーンと同じ方法が使える。今回はアムロ抜きになってしまうが機体性能を考慮すれば問題ないだろう、グリーンリバー少尉も居るしな。
「ウラキ達とモンタ-ニュ特務少尉はまた訓練ですか?」
バニング大尉の問いかけに俺は頷きつつ口を開く。
「少しでも機体に慣れさせておくべきだからな。彼奴らのスクランブル分は俺が担当するよ」
シミュレーターによる模擬戦の結果ブロッサムはキースが搭乗する事になったのだが、同時にもう一つ問題が露見した。それがペッシェ・モンターニュ特務少尉の技量の低さだ。NT特有の勘の良さで命中精度は高いし、テストパイロットを任されているように身体能力と操縦技術もある。なのに技量が低いとはどういう事かと言えば話は単純で、彼女はその二つを同時にこなせないのだ。回避行動中の射撃は牽制にもならない程雑だし射撃に集中している時は大抵足が止まる。機体性能のおかげで何とか戦いになっているが、はっきり言ってジム・カスタムに乗った中尉達の方が遙かに頼りになる。この子NTでア・バオア・クー戦の生き残りじゃなかったか?
「ブロッサムの方はどうですかね?」
「あのセンサーは駄目だな、おかげで長距離狙撃なんかは無理だ。けどまあキースとの相性は良いみたいだし、1号機と組むならキャノンより合っているだろう」
1号機の運動性に対してジム・キャノンⅡは完全に劣っている。中尉達なら連携を意識して歩調を合わせられるがウラキ少尉ではまだ難しいだろう。そうなるとウラキを孤立させない為にはできる限り僚機のキース少尉にも運動性の高い機体を宛がっておきたい。弱気な言動や物腰の低さから侮られる事が多いキースだが、能力は決してウラキに劣っていない。彼自身は自己評価が低いのだが、そのおかげで増長せず機体の扱いは丁寧だ。更にちゃんと機体を信用しているから射撃の精度だけならウラキよりも優秀だったりする。そして何より評価したいのが諦めの悪さだ。大抵のパイロットは自機が大きく損傷すると戦意を喪失してしまうものだが、キースは最後まで足掻き続ける。この精神性は得がたい才能だと俺は考えている。
ブロッサムの方も改善したという言葉に偽りはなかったようで、問題点であった大型ビームライフルは連射能力が向上しているしセンサーモジュールが追加されて独立した運用が可能になっている。ただMPIWSなるセンサーも誤作動は低下しているのだが相変わらず信頼性に欠けるのでウェポンラックに換装、現状はハイパーバズーカを装備して完全に支援機として運用している。
「そろそろケリを付けたい所だな」
俺はそう呟きながらモニターを見つめるのだった。
「口惜しい、連邦の跳梁跋扈を前にただ黙って逃げ出すしかないとは」
ムサイ級巡洋艦ペールギュントの艦橋でアナベル・ガトー少佐は忌々しげにそう吐き捨てた。彼等の活動拠点である茨の園へあのペガサス級を中心とした部隊が迫っていることは既に察知されていたが、彼とその部隊に下された命令はL5宙域、即ちソロモン近傍への移動及び潜伏だった。
「大事の前の小事とは言え…」
不満を漏らすものの、ガトー自身理解はしていた。星の屑作戦はデラーズフリートの全力をもって行う作戦であり、余計な所に割ける戦力は一兵たりとも居ないのだ。そしてこの作戦に茨の園の失陥は影響を及ぼさず、あの部隊を撃退するには相応の犠牲が必要である事を考慮すれば選択の余地など無かった。
「空き家が手強い部隊を拘束してくれるのです。今はそれで良しと致しましょう」
「…そうだな」
この作戦が成功すれば多くのスペースノイドが自分達はまだ戦えるのだと思い直す、そうすれば再び本格的な軍事衝突が再開するだろう。エギーユ・デラーズ中将はそう考察し、そうなれば茨の園は役目を終えると防衛を訴える兵士達を説得した。
「全ては、星の屑成就の為」
ここで自分達が事を起こさねばスペースノイドは敗北者であるという諦観の中で牙を抜かれ、アースノイドの家畜へと貶められる。それはあの独立戦争で散っていった英霊達の死を正しく無駄死にとする所業だ。ならば一時の感情で作戦に綻びを生むことは断じて避けねばならない事だ。
「この恥辱は飲み込もう、しかし忘れはしない」
『さて、同道するのはここまでだね、少佐?』
彼がそう呟くと同時に近くを航行していたリリーマルレーンから通信が入る。モニターには何が面白いのか笑みを浮かべたシーマ・ガラハウ中佐が映っている。
「はい、中佐」
『まあそっちの仕事は成功しようが失敗しようが関係の無い楽な仕事だ、適当にやるんだね。こっちはしっかりと仕事をさせて貰うよ、ご友人の機体も託されて居ることだしなぁ?』
「っ!」
シーマ中佐の言葉にガトーは思わず奥歯を噛みしめた。ソロモンで共に戦った盟友であるケリィ・レズナー大尉へ行った星の屑作戦への参加要請は遂に返事を受け取ることは無かった。その一方で彼が秘匿していたMAはシーマ中佐の手に渡っており、それがケリィ大尉の出した答えであると雄弁に語っている。
「…中佐殿もご武運を」
『ああ、星の屑の成否は私達の働き如何だからねぇ。なに心配はいらないよ、この仕事は慣れているからね』
言いながらシーマ中佐は視線を手元で弄んでいた扇子へ移す。
『じゃあな少佐、生きてまた会えるのを楽しみにしているよ』
その言葉を最後に通信は切られ、リリーマルレーンがゆっくりと離れていく。それを見送るペールギュントの艦橋内は気まずい沈黙に支配されていた。適材適所、シーマ中佐の率いる海兵隊は一年戦争においてコロニー落としの弾頭となったコロニーを確保した部隊の一つだ。故に今回のコロニー奪取も任された訳だが、ガトーにしてみればデラーズフリートに参加している面々の中で最も信用ならない連中に作戦の中核を担わせているという認識だ。
「あの様な者まで使わねばならぬとは」
彼が思い出すのは独立戦争末期、ア・バオア・クーから撤退した部隊が集結したカラマポイントでの一幕だ。集結した彼等は今後の身の振り方を協議していたのだが、その中で彼女は突然上官の乗る艦へMSで詰め寄ったのだ。口論の詳しい内容までは把握していなかったものの、上官の下した判断を不服とした中佐が取り乱した様子でMSを持ち出したことに危機感を覚えた彼は彼女の機体の前へ立ちはだかり自分の艦へと戻るよう諭した。その回答は高笑いと共に独自行動を取ると言うものであった。
彼女がその後海賊として同胞の艦すら略奪の対象としていると耳にした時は心底軽蔑したし、その誇りもなにも無い行いは彼女への強い不信として今でも彼の中に残っている。
「…いや、閣下のお決めになった事だ。ならば私は己の役目を果たすまでのこと」
彼はモニターから目をそらすと自らに言い聞かせる様にそう呟くのだった。
そろそろ巻いていきますよー。