WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


115.0083/11/04

「どういう事だい、計画書はちゃんと届けたんだろう!?」

 

リリーマルレーンの艦橋にシーマ・ガラハウの怒声が響く。その矛先となった部下は萎縮した表情でしどろもどろになりながらも口を開いた。

 

『へ、へい。その向こうが言うには、解りやすい悪の象徴が要るとかで…』

 

解りやすい悪、それがコロニーの強奪である事は火を見るよりも明らかだ。その実行者が誰になるのかもシーマは提供した計画書に書き込んでいる。

 

「冗談じゃないよっ、何のために今渡したと思ってんだい!」

 

デラーズフリートの計画した星の屑作戦、それはコロニー再建計画によってL4宙域からジオン共和国へ向けて移送されているコロニーを奪取し、地球へのコロニー落としを行うという作戦だ。デラーズは普段彼女達に対して志も持たない破落戸集団という評価をしていることはシーマ自身も察していた。それでいて汚れ仕事が出てくれば、上から目線で仲間に入れてやるからお前達がやれときたものだ。謁見などと称して呼びつけられた時には、衝動的に奴へ引き金を引くことを自制するのに苦労したほどだ。だからこそ躊躇なく自分達のために連邦軍へ売り飛ばしたのだが。

 

「今更増えた所でって事かい?」

 

エギーユ・デラーズは中々に姑息な男だ。彼が直轄している艦隊はソロモンへの陽動やコロニー強奪には参加しない。これらが成功するまでは安全な位置で潜伏し、最終段階である地球へと落下軌道へコロニーが乗った所で護衛として合流する手筈だ。つまり奴を確実に捕まえようと思うならコロニーは奪われた方が都合が良いのだ。地球圏最大の武装勢力の首魁拘束という功績のためなら壊れたコロニーの一つや二つ安いもの、あの紳士気取り連邦軍大将はそう考えているのかもしれない。そんな都合で罪状を上乗せされるシーマにはたまったものではないが。

 

「どうしやすか?」

 

「どうするもこうするもあるかっ。こっちはもうサイコロを振っちまったんだよ!」

 

情報を提供した時点でこの作戦の失敗は確定している。何しろデラーズフリートの艦隊は戦闘能力の無い輸送艦までかき集めても50隻に届かないのだ。それこそ艦隊戦でも挑もうものなら、観艦式に参加していない艦艇だけで連邦軍はこちらを圧倒できるのだ。故に今回のコロニー落としについても直接地球を狙うのではなく一度月へ偽装コースを取り連邦軍の追撃を振り切る計画となっている。だがそれが欺瞞である事は他ならぬシーマの手によって連邦軍へ伝えられたのだ。デトローフ大尉の問いかけに対し、苛立たしげに髪をかき上げながらシーマは言い返す。デラーズの提示していた作戦参加の条件は作戦後はデラーズ旗下としてアクシズ行きを保証するというものだった。つまり連中はこの作戦を最後に地球圏から逃亡するつもりなのだ。しかし作戦が成功すればまだしも失敗した場合でも保証されると思える程シーマは楽観的ではなかった。恐らく、いや必ず作戦失敗の犯人捜しが行われ、シーマ達がその槍玉に挙げられることだろう。尤も、今回に限ればそれは正しいのだが。

 

「…襲撃中止の指示が無い以上、このまま動くしかない。準備しな」

 

これでまた数日は悪夢にうなされる事になるだろう。そう確信しながらシーマは低い声音で部下へ出撃を命じた。

 

 

 

 

「宜しかったのですか?」

 

「何がかね?」

 

参謀の言葉にグリーン・ワイアットはそう尋ね返す。勿論彼の言いたいことは理解しているが、議論によって改めて状況を再確認できるし、部下とのコミュニケーションは非常に重要な事柄だ。現にそれを怠った敵は致命的な離反者を出している。

 

「コロニーの件です。襲撃されると解っていてそれを黙認するのは…」

 

「何を言う、確かにその様な事が書かれた悪戯書きを回収はしたが、何の裏付けも無い情報を上げるわけにはいかないだろう?」

 

「はっ、いやそれは…」

 

「まさか君はテロリストの言葉を疑いもせず信じるつもりかね?」

 

「で、ですが万一コロニーを奪われれば問題に」

 

「ああ、問題だな。コロニー公社のね」

 

コロニー再建計画はコロニー公社が連邦政府から委託されて行っている。当然再生するコロニーの選定やその移送についてもだ。そして驚くべき事にそのコロニー公社から連邦軍に対して移送時の護衛等の依頼が一切なされていないのである。当然海賊などが存在する事は連邦軍から注意喚起がなされている。つまりその上で護衛を依頼していないのだからそれはコロニー公社側の怠慢である。

 

「ああ、勿論万一テロリストに奪われたなら我々が取り戻すとも、壊れているとは言えコロニーは連邦市民の大事な財産だからね」

 

そう言って彼は笑う。コロニー奪還とエギーユ・デラーズ拘束の功績があれば、連邦軍内部における彼の立場はより盤石なものになる。そして今回の一件を大々的に公表すれば、スペースノイドも人類の本当の守護者が誰なのか理解出来ることだろう。その頂点に立つのが自分であると言うのは悪くない心地であるに違いないとワイアットは考えた。

 

「ああ、けれどそうだな。もし観艦式が襲撃されたなら多少信憑性もあるだろうから、それから改めて警告しようじゃないか」

 

勝利を確信した目で彼は部下にそう告げた。

 

 

 

 

「動け動け!お前達が乗っているのは機動兵器だぞ!機動せずに戦いになると思うな!」

 

デラーズフリートの拠点を制圧した俺達は一度補給のためフォン・ブラウンへ寄港していた。予定では補給が済み次第、コンペイ島で行われる観艦式の警備へ向かう事になる。そして現在俺はと言えば、何故かペッシェ・モンターニュとシミュレーター訓練をしている。

 

『うぅっ!』

 

仮想の月面で彼女は俺のMkⅡに追い立てられながらうめき声を漏らす。振り返り様強引に射撃を挟み込むが、当てずっぽうのビームは回避する必要すらない。

 

「その集中力と体力は大したもんなんだがな」

 

振り返ったことで急速に減速したペッシェの機体にビームを放つ。度重なるNT達との模擬戦のお蔭で俺用に調整された教育型コンピューターはちょっと洒落にならない命中精度を誇っている。まあ問題はコンピューター側の要求する機体の反応速度が滅茶苦茶高い事と、発砲指示が極めてシビアなことである。正直現状でも割と手に負えないのだが、これで制御系や耐G性能が向上した暁にはもう手も足も出ないだろう。ぶっちゃけオールレンジ攻撃なんかよりも当たらなくて当ててくる方が遙かに怖い。

 

『ま、また!?』

 

ペッシェの問題は機体性能が高すぎることだろう。彼女の操縦技能自体は高いのだが、如何せん体の方が普通すぎる。結果彼女の入力に対して機体側がパイロット保護の為に動きに制限を掛けてしまう事が多々あるのだ。因みにリミッターを解除すればこの問題は解決するが、当然そんな事をした日にはペッシェが気絶すれば良い方で最悪負傷する可能性すらある。この辺りの問題はコックピット周りが改善されるまではどうにもならないだろう。

 

「モンターニュ特務少尉、機体はもっと丁寧に扱え」

 

良くアムロの回避が頭のおかしい行動呼ばわりされるが、あれも実は苦肉の策である。エンゲージゼロよりは多少マシではあるものの、ガンダムやNT-1も15歳の少年が乗ることを前提になんてしていない。だから彼が満足する反応速度で機体を操縦してしまうとパイロットへの負担はとんでもない事になる。だからアムロは直感的に移動距離を最小限にして身体への負担を最小限にしているのだ。因みにそんなアムロの模擬戦に最後まで付き合えるのがハヤト少尉である。本人曰く柔道で鍛えているからだとか。地味にフィジカルモンスターなハヤトである。

 

『扱っているつもりなのですが…』

 

まあそうなるよね。

 

「見た限り増設しているそのブースターは余計なんじゃないか?はっきり言って振り回されているようにしか見えないぞ?」

 

『ですがこれがないと少佐のMkⅡに追いつかれてしまいますし、1号機にも置いて行かれてしまいます』

 

「あー」

 

1号機はウラキの奴が特異体質だし、俺のMkⅡは実験段階とは言え全天周囲モニターとリニアシートを採用しているから一般的な機体に比べ耐G性能が高い。比較対象が悪いと言ってしまえばそれまでなんだが、彼女が乗っているのもガンダムなのだ。他と同等のポテンシャルを持っている自機が自分のせいで一段下に見られることが悔しいのだろう。もっと直近の問題として部隊運用の際に機体同士の速度差がありすぎると小隊として運用が難しくなる問題もある。実際キースがジムキャノンからブロッサムにコンバートされたのにもこの辺りが関係している。正直ジム・カスタムとキャノンですらギリギリなのに1号機はそのジム・カスタムが振り切られてしまうのだ。いつも思うのだがガンダムと名の付くMSを開発する連中は加減を覚えた方が良いと思う。

 

「そこまで懸念する内容では無いと思うぞ?」

 

そら加速性だって無いよりある方が良いが、パイロットが振り回されてしまうなら話は変わる。そもそも現在のように母艦とセットで運用される状況なら総合的な運動性能の方が重視されるからだ。1号機の様な推進力を運動性に転換出来る無茶な仕様ならばともかく、エンゲージゼロは加速専用のブースターユニットだ。正直旋回性能は低下しているし、大推力過ぎて普段使いにも気を遣う。そして現状ではそんな長距離をMS単独で向かわせる様な状況は起こらない、というか起こせない。何故ならMSの装備が極めて継戦能力に乏しいからだ。予備のライフルやバズーカを携行していても撃てるのは50発が精々、それがレシプロ機並の乱戦の中で戦うのだ。それこそ1機1発を地で行くNTでもなければあっという間に弾切れになる。加えてミノフスキー粒子散布下において長距離移動が必要になる状況は大抵が敵拠点への強襲である。レーダーが利かない上に母艦からの誘導も受けられない以上、固定目標を攻撃する位しか出来ないのだ。そして当然ながらそうした拠点はしっかりと防備されているから艦艇による支援が必要不可欠になる。故にMSは加速性よりも運動性が重要なのだ。特に数を揃えられる連邦軍ならば尚更である。

 

『そうでしょうか…』

 

何ともどんよりと思い詰めた顔になるペッシェに、俺は小さく溜息を吐きつつ口を開く。

 

「連携を気にしているならそもそも運動性能の良い方が合わせるのが正しいし、エンゲージゼロはノーマル状態でも十分な運動性能を持っている。少なくとも連携訓練は上手くいっているだろう?」

 

『でもそれは、少佐が合わせて下さっているからですよね』

 

何なんだこの子は。

 

「ペッシェ・モンターニュ特務少尉。君の向上心は評価するが、何でも人に迷惑を掛けていると考えるのは思い上がりだぞ。君に合わせた位で支障が出るほど俺は弱くないし、それはこの部隊のパイロット全員に言える事だ」

 

そもそも実戦経験豊富で現役のベテランパイロット相手にそれよりは信用出来ない程度の実力を彼女は持っているのだ。モンシア中尉に言った言葉ではないが、この水準のパイロットが足手まといだと言うならそいつはMS隊の隊長に向いていないと思う。

 

「ま、言われてはいそうですか、なんて切り替えられる奴なんてそうはいない。けどこれだけは覚えておくと良い。君は君が思っているほど弱く無いし、ちゃんと皆頼りにしているぞ」

 

『…そうでしょうか?』

 

そうですとも。

 

「じゃなきゃ態々訓練なんてさせずに適当な言い訳をして部屋に放り込んでおくさ。アルビオンは今任務中なんだぜ?さて、それじゃもう一本いこうか」

 

俺は笑って彼女へ向かってそう言うと、シミュレーションの準備を始めたのだった。




シーマ様、翻弄される(作者に
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