WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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一周回って誉れを捨てて遊ぶのが楽しくなってきました。


116.0083/11/10

「ソロモンであの様な物言いをするなど、散っていった英霊達への侮辱に等しいっ!」

 

ノイズ混じりの連邦軍の公共放送にアナベル・ガトーは思わず壁へ拳を叩き付けた。モニターに映し出されている映像はソロモンを背景に夥しい数の連邦軍艦艇が整然と居並ぶ様だ。地球連邦宇宙軍観艦式。圧倒的な軍事力を誇示する事でスペースノイドの反意を挫く事を目的としたそれを主導している連邦軍の大将は、自分達が正義の味方であるような口ぶりで演説をしている。その内容も業腹であるが、よりにもよってそれをソロモンで行う所にガトーは連邦軍の悪意を感じずには居られなかった。

 

「合図はまだ来ないのか?」

 

「はい、どうやら連邦の防御が想定よりも厚いようです」

 

時計を見れば想定していた出撃時間から既に30分が経過している。

 

「歯がゆいな」

 

苦々しい表情でガトーはそう呟く。友軍部隊が先制して観艦式を襲撃、敵の防衛戦力を釣り出した所で彼があのガンダムで強襲を仕掛ける。事前の予想では観艦式の開始から30分程で攻撃を実施、凡そ1時間程度の陽動で十分に隙が生まれるという見立てだったが現実はそう上手くは運ばない。

 

「どうか堪えて下さい。この作戦の肝はあの機体と少佐なのですから」

 

カリウス・オットー軍曹が穏やかな声音でそう諫めて来るのを見て、ガトーはその言葉に思わず弱音を漏らす。

 

「一体何時まで私はこうしているのだ。今この瞬間も私のために屍が積み上がっていく。その上に私は安穏と胡座をかいているだけではないか」

 

独立戦争におけるソロモンでの戦い、そしてそこからの撤退。上官、戦友、部下。戦いの中で多くを失いながら彼は未だに生き永らえている。その幸運を安易に受け入れられる程ガトーは割り切りの良い男ではなく、同時に積み上げた犠牲を理由に止まれる理性も持ち合わせていなかった。

 

「少佐、この海はまだ若いのです。波が収まるのは、まだ」

 

彼の弱音をカリウス軍曹が迂遠な言葉で否定する。温和な物腰であるが彼も自らの意志でこの場に参じている人間である。今更躊躇や逃避を許すような男ではない。ガトーは小さく息を吐くと改めて腹をくくる。

 

「そうだな、多くの英霊達が無駄死にでなかった事を、今ここで証明するのだ。私達の手によって!」

 

ガトーは自らに言い聞かせる様にそう言い放つと、悠然と放送を流し続けるモニターを睨み付けたのだった。

 

 

 

 

『あのー、少佐。良いんですかい?』

 

「まあ良くはないな」

 

如何にも消化不良といった声音でそう聞いてくるモンシア中尉に俺はそう返事をした。観艦式が始まって30分程だっただろうか?所属不明機が会場に接近しているとの一報から即座に状況はジオン残党との交戦に切り替わった。ミノフスキー粒子の散布と敵艦隊をコンペイ島の指揮所が確認したからだ。式には加わらず周辺の哨戒任務に当たっていた各部隊は即座にMSを展開して現在迎撃に当たっている。当然そちらに組み込まれている俺達アルビオン隊にもその情報は来ているが、俺は追加派遣されたコロンブスのMS隊のみを迎撃に充てているのだ。アルビオンどころかグレイファントムからもMSは出撃していないから、今頃シナプス大佐とローランド大佐は文句の一つも言われているだろうがそこは何とか上手く躱して貰いたい。

 

『いや、良くないなら出ましょうや?』

 

因みに交戦状態なのでパイロットは全員MSに搭乗待機している。俺の返事に呆れた声音で突っ込んだのはベイト中尉だ。自分達が優秀なパイロットである事を自覚しているからこその発言だろう。尤もだからこそ出し惜しみをしているんだが。

 

「…襲撃は式典の開始から30分後に始まった。中々考えているよな、開始直後じゃ何処もしっかり警戒しているから式典が始まって注意が分散された辺りで襲ってきたわけだ」

 

『その位は素人でも思いつきそうですが?』

 

俺の発言にアデル少尉が疑問を挟む。まあ聞きなさいな。

 

「ああ、思いつくのは素人でも出来る。だがな少尉、連中はそれを時間通りに、それも部隊単位で統率を保ったまま行っているんだ」

 

加えて迎撃部隊に徐々に押し返されているように見えるが、同時にそれは迎撃部隊が式典会場から引き離されていると言う意味でもある。まあ正直に言ってしまえば原作知識によるチートなんだが。

 

「更に言えばの襲撃方向だ、偏り過ぎていると思わないか?」

 

『そりゃ、艦隊襲撃のセオリーに則っている…!?』

 

言いかけてベイト中尉が息を呑んだ。連中は南天方向、つまり整列している艦隊の下側から攻撃を仕掛けている。宇宙世紀の艦艇は多少の差はあれど艦底方向の迎撃能力が低い。特に今は観艦式という事で艦を同一方向に向けて整列させているからコンバットボックスを構築している状況とではその差が歴然としている。だとしてもだ。

 

「これだけ戦力に開きがありゃ襲撃方向による防空能力の差なんて微々たるもんだ。なのに連中はご丁寧に教科書通りの戦いをしている。あれだけ統率が取れていて、ソロモンの悪夢が作戦に参加しているのにだ」

 

『つまりあの動きは陽動って事ですか!?』

 

「恐らくな、連中からすればMS1機をねじ込む隙間さえあれば良いんだ。なら陽動は散発的に行うよりも戦力を集中させて手薄な場所を作る方が理に適っていると思わないか?」

 

原作においてもガトーが出撃したのは連邦軍の手が飽和しかけた時だった。ただ問題は作中でガトーが新たに出現したポイントが正確に解らないし、今の状況が原作と同様とは限らない事だ。アルビオン隊の戦力が充実しているのもそうだが、コンペイ島の防空も原作より厚いように思える。同時に俺なら全体を監視できる位置に偵察機を置いて突入のタイミングを報せる位はするだろう。だから今この場に存在する最も足の速い部隊は温存する必要があるのだ。

 

『へっ、向こうの切り札にこっちも合わせるってぇ事ですかい』

 

『しかしこう隠れていては展開が遅れませんか?』

 

モンシア中尉が納得したのと同時にバニング大尉がそう懸念を示す。ペガサス級のMSカタパルトは2基で、これはアルビオンもグレイファントムも変わらない。そして格納庫から一旦エレベーターで持ち上げる構造だから格納庫で待機している全機体を射出するまで相応に時間が掛かるのだ。カタパルトと格納庫が直結しているムサイや後年のアレキサンドリアに比べれば瞬間的な展開能力は確かに劣っているが、あちらはあちらで出撃毎に格納庫の空気を回収するか、諦めて排気してしまうしかないため一長一短ではあるのだ。だから多少は頭を使う。

 

「だからこうして俺とウラキがエレベーター上で即応待機する必要があるわけだな。連中の狙いが2号機による核攻撃だとすれば、一番戦果を挙げられる所にぶち込みたいと考えるはずだ」

 

だから部隊で最も足の速い俺達が先行して行動を妨害する。その間に皆が追いついて包囲してしまえば無事終了というわけだ。

 

『ですが、少佐。この状況ではその発見自体が難しいのでは?』

 

既に会場の放送に影響が出る程度にはミノフスキー粒子もばらまかれているし、周辺のデブリが完全に除去出来ていないから光学的な索敵も万全ではない。そう、ウラキ少尉の言う通り普通の部隊ならここから1機だけで突撃してくるMSを見つけ出すのは極めて困難だろう、原作だって偶然攻撃衛星に引っかかったから見つけられたのだから。しかしそんなミリタリー風宇宙世紀の常識はオカルト全開のこの部隊には通用しない。

 

「大丈夫だ、ウチにはレーダーなんかよりよっぽど勘の良い奴が居るからな」

 

ララァ中尉とグリーンリバー少尉も俺達と同じ様にカタパルトで待機済みだ。向こうは防殻で覆われている分カタパルトが使えない場合の運用に難があるが、その分こうした隠蔽には向いている。艦同士のデータリンクも行われているから通信も問題ない。まあそんな不思議時空の常識なんて当然のように理解されるわけもなく、皆一様に怪訝な表情を浮かべる。おっとペッシェだけは微妙な表情だな、まあそうなるか。

 

「何というか、今のうちに慣れておくことを勧めるぞ?」

 

今回の一件でほぼ間違いなくコーウェン中将は失脚するから、その前にシナプス大佐を含めたアルビオン隊をオーガスタへ異動させるという取引があったらしい。流石にペガサス級を3隻も保有するのはヤバイのではと思ったが、上の方でエルラン中将が上手く立ち回ったのだろう。戦力が充実すればそれだけ色々と悪さも出来るからな。ともかく今後第13独立部隊に編入されるとなればこうしたNT頼りな戦法にも慣れて貰う必要がある。シミュレーターを玩具にしているせいでカミーユを筆頭にリタ達ミラクルチャイルド組やオーガスタの遺産達、挙げ句ムラサメ研の研究材料なんて出自の子供達が凄い勢いで操縦経験を積んでいるのだ。軍のNT研究にも繋がっているから止めさせる訳にもいかず日々NT同士がゲーム感覚で模擬戦を繰り広げている彼等は、今後間違いなく我が部隊が抱える戦力になるだろう。そんな彼等と隊伍を組むのだから、一々この程度で驚いていたら身が持たない。

 

『少佐!!』

 

「全機出撃!全機出撃!!」

 

『ちょ、アレン少佐!?』

 

そんな話をしている内に件の人物から通信が入る。俺は即座にそう叫びリフトを操作する。慌てた様子でオペレーターのピーター・スコット軍曹が声を掛けてきた。まあコンペイ島から何の連絡も無いし、当然アルビオン側の監視にも引っかかっていないだろうから当然とも言える態度だ。だが構わず機体を発進位置まで移動させれば、既にグレイファントムの方はNT-1改の発進を終えてエド達のジムスナイパーⅡが発進している。まあこの辺りは経験の差だろうから仕方が無いな。

 

「中尉!先導頼む!」

 

『はい!』

 

慌てて飛び出してきた1号機が俺の後ろに付くのを横目で確認しながら俺はフットペダルを踏み込む。追加装備で重量が増えていると言ってもララァ達が乗っているのはあのNT-1だ。現状リミッターを掛けられているMkⅡと比較しても遜色ない加速性を発揮し虚空を駆ける。それにしてもああいう手合いに対してNTは最悪の相手だとつくづく思う。なにせ連中は情動を優先して行動しているから思いの強さは人一倍だ。その大きな感情、特に害意を伴うものにNTは一際過敏なのだ。原作において強大な権限と軍事力を持ちながらも不安定な強化人間をティターンズが積極的に運用していたのは案外この辺りが理由だったりするのかもしれない。

 

「残念だったなテロリスト共」

 

連邦に一泡吹かせて凱旋か、はたまた気持ちよくあの世へ逝くなんて甘えた事を考えているんだろう?だが付き合わされるこっちはいい迷惑だし、そんな理由で殺されたんじゃ犠牲者だって浮かばれない。

 

「手前らの行く場所は天国でも地獄でもねえ、ブタ箱だ!」

 

モニターに捉えた不規則に動く光点達に向かって俺は叫ぶ。歴史の転換点は目前に迫っていた。




次回、遠慮会釈の無いガノタの口撃がガトーを襲う。
口喧嘩しながらのMSプロレスはガンダムの様式美だからね、仕方ないよね。
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