『白いMS!?が、ガンダム!?』
『落ち着け!二つ目ならどれも同じとは限らん!』
『隊形を維持しろ!少佐を守れ!!』
動揺を強引に押し切る様な声音と共に同道していたリックドムが増速する。それをガトーは奥歯を噛みしめながら黙って見送る。この作戦において最も重要なのは、自機が無事発射点に辿り着くことだからだ。その為に敵を引き付けて貰い、更には出撃を悟られぬよう信号弾も上げないという屈辱まで飲み込んだのだ。ここで飛び出せばその全てが無駄になるし、護衛を務めてくれている彼等の心意気を踏みにじる事になる。
「すまんっ!」
向かってくる敵機の頭を押さえる様に機動する友軍機、リックドムとF型で構成される彼等はパイロットこそベテラン揃いであったが、旧式の機体であることによる不利は否めない。
「1号機!?あの艦の部隊か!」
更に敵機が頭だけあの悪魔に肖ったまがい物では無いと相手に交ざっている機体から判別した彼は思わず叫ぶ。
「連中は本物だぞ!注意――」
シーマ・ガラハウ中佐からの報告によりあの艦への増援として、憎き木馬艦隊の片割れが合流していることは聞いていたし、連中が茨の園を襲撃したことも知っている。だからこその警告だったが、それはあまりにも遅すぎた。敵部隊とは明らかに異なる方向から放たれたビームによって陣形の両端を構成していた機体が一瞬で火球に変えられたのだ。
「伏兵だと!?」
ガトーは素早くセンサーを確認するがそれらしき反応は無い。そして状況は加速度的に悪化していく、接近してきた敵機が攻撃を始めたからだ。先制で2機を失い数的有利すら失った味方機は、次々と手足を撃ち抜かれ行動不能に追い込まれる。そして遂に個々の機影が十分判別出来る距離にまで敵機が近付いたとき、ノイズ混じりの一般回線にその声が響いた。
『死にたくなければ投降しろ!テロリスト共!』
「クソっ!改のビットは融通が利かないか!?」
爆発する敵機を見て俺はつい舌打ちをしてしまう。ララァ・スン中尉とライト・グリーンリバー少尉が搭乗しているNT-1改にはサイコミュ兵器である有線式ビットが装備されているのだが、こいつはジオン製の物とは少々機能に差がある。ジオンの物はパイロットであるNTがビットをフルコントロールしているのだが、彼等の機体に装備された物はパイロットは目標を選定するのみで後は専用の射撃システムが全てを行うのだ。まあ射撃システムなんて言ったが要はNT達が行った動作を学習させた教育型コンピューターなのだが。要は原作世界でインコムと呼ばれていた装備と有線式サイコミュの中間のような装備である。コンピューターの教育担当がアムロ・レイとララァ・スンというこれ以上無い環境だったから原作のそれに比べ動作は洗練されているし、何より非常にいやらしい攻撃をしてくる。問題は先程俺が口にしたとおり展開から照準までをコンピューターが勝手にするから手加減なんて出来ない事だ。器用に手足だけを撃ち抜いて行動不能にするなんて芸当は不可能だ。
『少佐!?』
「気にするな!一人残っていれば十分だ!」
ララァ中尉が躊躇いを含んだ声を上げる。ブリーフィングで捕虜を取る事を伝えていたからだろう、だから気にせず撃つように命じる。どうせ最後にはあの野郎が残るだろうからだ。しかし流石と言うべきか彼女達は即座に敵へと接近し、手持ちの武装による戦闘に切り替えてあっという間に敵機を無力化してしまう。本当に頼りになる奴らだ、戦闘ならもう俺とか要らないんじゃないかね?
「死にたくなければ投降しろ!テロリスト共!」
俺は投降を促すが当然従う奴は居ない。それどころか連中は信号弾を上げて仲間を呼び寄せ始めた。どう足掻いても2号機を送り込むつもりらしい。
「この距離で見つけてんだ!行かせるかよ!!ウラキ少尉!ロッテで追い込むぞ!!」
『了解!』
突破を試みる2号機に俺のMkⅡとウラキ少尉の1号機が食らいつく。牽制で放たれる90ミリマシンガンを回避しながら俺は挑発するように口を開いた。
「南極条約だなんだと喚いておいて自分達も使うんじゃねえか!よっぽど人殺しが好きと見えるなジオン野郎!」
言いながら俺も射撃を加えるが残念ながら外れてしまう。しかし強引に回避した2号機は大きく減速する事になった。
『行かせる訳にはいかない!!』
更に1号機の攻撃が加わった事で俺達は絡み合う様に機動を続ける。当然集中力を削ぐ為に罵倒も欠かさない。
「何がスペースノイドの心からなる希求だよ!?手前ら程スペースノイドを殺した連中なんていねえじゃねえか!反対する奴らを皆殺しにして代表面とは流石独裁者の狗はやることが違うな!?」
応答は無い。しかし奴が怒っているだろう事は解る。少しずつではあるが機体の動きが荒くなっているからだ。故に俺は奴にとって最も言われたくないであろう一言を口にする。
「挙げ句に国が決めた終戦協定を無視してテロリズムときたもんだ!それが一端の軍人がする事かよ!?」
明確な殺意を孕んだ射撃がMkⅡを襲う。咄嗟に構えた盾で防ぎつつ、更に俺は言い放つ。
「どうした?何も言い返せねえのは、手前も自覚しているって事か!?だとしたら救いようがねえ馬鹿野郎だな!」
『言わせておけば!』
…かかった。
『元を正せば貴様ら連邦がスペースノイドを蔑ろにしたのが原因ではないか!』
「はっ!だったらなんで他のサイドはお前達に同調しなかった?そしてお前達はそんな大多数のスペースノイドをどうしたんだよ!ああ!?」
『っ!』
なんだよ言い返せないのか?俺はまだまだ言いたいことが山ほどあるんだぜ。
「おっと悪かったな!ジオンにしてみりゃ連邦市民である事を望んだ奴なんてスペースノイドじゃなくて敵だもんなぁ!?それでこの後はサイド3でも襲うのか?自分の言う事を聞かない奴らは皆殺しがお前達のやり方なんだろう!?」
『私達を侮辱するか!』
「事実だろうが!そうじゃないというなら何故お前達は戦っている!?」
『独立戦争は終わってなどいないからだ!』
マジかよこいつ。俺は急速に心が冷えていくのを感じた。本音を言えば俺は少しだけ、本当に少しだけだがアナベル・ガトーに期待していたんだ。義理に篤く情がある、それでいて常に己を厳しく律する。そんな侍みたいなこの男は前世で俺のお気に入りの一人だったんだ。真面目過ぎたから、義理堅い男だから、命を救われた恩義に報いるためにエギーユ・デラーズなんかに間違っていると解っていて従っているんじゃないかって。自分の行動の歪さを指摘されれば、或いは思いとどまるまで行かなくてもこの場から逃げるくらいはするんじゃないかと思ってしまったんだ。だけどどうやら彼は完全にテロリストであるらしい。
「正気を疑う言葉だな、アナベル・ガトー。お前本気でそれを言っているのか?」
『何が言いたい!?』
「それを決めるのは軍人じゃない、政治家だ。ジオンはそんな事も知らない連中を軍人と呼んでいるのか?」
俺達軍隊は国家の暴力装置であり、その力が行使される戦争とは外交における最後の手段だ。つまり俺達は外交問題を暴力で解決するための手段であって、問題の是非を決める権利などありはしないのだ。そしてそれは民主主義国家だろうが独裁国家だろうが変わらない。
「それにお前達は重大な勘違いをしている。お前達はジオン共和国の連中を裏切り者の売国奴と批難したが、裏切ったのは彼等じゃない。お前達の方だ」
『我々を愚弄するか!』
愚弄?冗談じゃない。寝ぼけた連中にいい加減目を覚ませと言っているのさ。まあ、当人は夢から覚めたくないみたいだがな。
「戦争が外交の一手段である以上、その状況を踏まえて国家運営をするのが政治家の仕事だ。順序が逆なんだよ、彼等が降参してしまったから戦争に負けたんじゃない。お前達が負けて、もう駄目だとなったから政治家達は終戦協定にサインしたんだよ」
素早くビームライフルのマガジンを交換、射撃を加えつつ俺は距離を詰める。
「解るかアナベル・ガトー?お前達が勝てると信じたから政治家は戦争をした。だが負けたから降伏したんだ、次の機会へ繋げる為にな。それともお前は老人から幼子まで悉く戦って死ねとでも言うつもりか?お前達の失敗に付き合って全員潔く散れと?」
1号機の放ったビームを避ける為に2号機が強引な軌道を描く。そのせいでリミッターが掛かったのだろう、奴の動きが一瞬だけ単調なものに変化する。十分な隙だった。
「そう思っているなら今のお前達は何なんだ!?軍人としての責務も果たさず!敗北の現実も受け入れずに暴れる所業が!本当にスペースノイドの未来に繋がると考えているのか!?断言するぞアナベル・ガトー!お前達の行動はスペースノイドとアースノイドの軋轢を増やすだけの愚行だ!」
究極的に言うならば。彼等は1年戦争を引き起こした時点で間違っていたのだ。何故なら戦前は人類の過半数である90億人が宇宙に住んでおり、経済の中心は宇宙に移りつつあったのだから。敏感な商人の多くは名前こそ地球に残していたが、実質的な活動の中心はコロニーになっていたし、それに伴う資源の確保先だって宇宙になりつつあったのだ。もし戦争なんて起こらず、あのまま各サイドが存続していれば、地球は後70年なんて時間を掛ける事もなく地球とコロニーの力関係は逆転していただろう。尤もその時、スペースノイドが快適な生活を捨ててまで独立したいと考えるかは解らないが。
『っ!私達はっ!!』
「違うとでも言いたいか?だったらその足りない頭でよく考えてみろ!こんな事が本当にスペースノイドの未来に繋がるかをな!」
俺の言葉に2号機が振り返ると、奴は蔑むように口を開く。
『…ふっ、所詮貴様も視野の狭い連邦の走狗か』
「何だと!?」
俺が困惑の声を上げたのが余程彼の琴線を刺激したのだろう。調子を取り戻した口調で予定通り彼はこちらを罵ってきた。
『その様な近視眼的な思考で我らの行いを語るなど笑止千万!星の屑成就の暁に己の不明を恥じるがいい!!』
良し、上出来だ。後はこいつの核発射を止めるだけでいい。そしてそれはもう半ば達成している。
「そうかい!」
言うべき事は言い終えていた俺も短く返すとビームライフルを再び放つ。それは狙った通り2号機の脚部を撃ち抜いた。
『なっ!?』
おいおい、驚いている暇は無いぜ?
『撃て!撃墜許可は出ている!』
『包囲して集中砲火!!』
追いついてきたコリンズ少佐がそう叫ぶ。2号機に対する包囲は完成しようとしていた。
いったった。