WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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「これは?」

 

「どうしたのか?」

 

オペレーターの不明瞭な言葉にグリーン・ワイアット大将は声を掛けた。ジオン残党の襲撃は予定通り行われ、対処は問題なく実行されている。しかし未だガンダム試作2号機は発見されていない以上、安易に油断は出来ない状況だ。

 

「はい、第6警戒区域に敵部隊が接触したのですが、既に友軍と交戦状態に入っています」

 

「第6か、近いな」

 

そう言って彼は頭の中の地図を探る。敵部隊の大半は第2警戒区域に集中しており、その他に散発的に仕掛けて来る陽動部隊もその両側にある区域だった。

 

「ヘボン少将の采配にしては随分と手際が良いな。交戦している部隊は何処か解るかね?」

 

会場の警備はコンペイ島鎮守府の司令官であるステファン・ヘボン少将が指揮を執っているが、ワイアットの中で彼の評価は低かった。実際ヘボン少将が采配している部隊は見事に陽動に釣られていたので間違っているとも言い難いのだが。

 

「確認します、…第3地球軌道艦隊所属、アルビオン隊です!」

 

「ふん?あの部隊か。存外鼻が利くのか…ああ、いや。確かエルラン中将のNT部隊が合流しているんだったな。成る程、使えるじゃないか」

 

NTと言う存在に懐疑的な人間は多い。ワイアット自身もア・バオア・クー戦で身を以て経験していなければ彼等の存在を信じなかっただろう。愉快そうに笑う彼に更なる朗報が届く。

 

「交戦中の敵に2号機が含まれている模様です!」

 

「おお、そうか!」

 

待ち望んだ報告にワイアットが弾んだ声で応じる。彼は一度咳払いをすると手を組み合わせモニターへと視線を送る。

 

「星の屑作戦か、言い得て妙な名だな」

 

星々の海に紛れ込んだ屑を引き寄せて一掃する好機。既にワイアットの思考は観艦式の先へと移っていた。

 

 

 

 

『少佐を守れぇ!』

 

『ジーク・ジオン!!』

 

『コイツら!?』

 

信号弾によって集まってきた残党が雄叫びを上げながらこちらへ向かって突撃をしてくる。それは端的に言って常軌を逸した行動だった。何しろ連中は2号機を逃がすために包囲していたこちらのMSに攻撃ではなく組み付く事を選択したのだ。標的にされたのはグレイファントムのペイカー中尉が率いている小隊だ。恐らく搭乗していたのがジム改で俺達の中で一番機体の運動性が低いからだろう。他からの攻撃も一切無視して行われた突撃で瞬く間に敵機が火球へと変わるが、その爆発による破片の雨を受けてペイカー隊は大きく回避してしまった。

 

「こっの!」

 

その隙を逃すほどアナベル・ガトーも間抜けではない。左脚を膝下から失いつつも2号機はバーニアを噴かせて突破をかけてきた。俺も即座にビームライフルを撃ちながら追撃を掛けるが、それを阻む連中がいた。

 

『ジィク!ジオォン!!!』

 

最初の攻撃で無力化されたと思っていたMSが強引に射線へ割り込んで来たのだ。

 

「しまっ!?」

 

手足を失ったリックドムが俺の放ったビームを諸に受ける。ガンダムのそれよりも出力の上がっているMkⅡのライフルは、そのエネルギーを存分に開放しリックドムの核融合炉も破壊した。恐らく最大稼働状態にしていたのだろう、視界が全て真っ白になる程の爆発が起きて、加速していた俺はその中へ飛び込んでしまう。機体が急激な温度上昇に警告をがなり立てるがどうしようもない。更にここで更なる不運が俺を襲った。

 

「バーニアがいかれただと!?」

 

MkⅡは現段階において突出した性能を持つMSだが、決してそれは問題が全くないという事と同義ではない。大出力のメインバーニアは高推力を実現した一方でAMBACでの制御が追いつかず、各部のアポジモーターによる補助が必須になってしまっている。勿論出力を絞ればその限りではないが、それでは2号機には追いつけない。

 

「ウラキ!キース!ペッシェ!追撃しろ!」

 

『ララァ中尉!お前も行け!』

 

俺の声にコリンズ少佐も同調しララァへ命じてくれる。

 

「すまん!頼んだ!」

 

更に寄ってくる手足を失ったMSを撃ち抜きながら俺はそう託さざるを得なかった。

 

 

 

 

『追撃しろ!』

 

アレン少佐の命令に、コウ・ウラキ少尉は躊躇なくフットペダルを踏み込んだ。後ろから蹴られたような加速が全身に掛かり、ガンダム試作1号機は彼の希望通りに前へと進む。

 

「アナベル・ガトー!」

 

追撃戦の最中、一度だけコウは彼と言葉を交わした事がある。その僅かな邂逅で彼がアナベル・ガトーと言う男に感じたのは強い信念と自信だった。高い技量を以て任務に挑む姿は正に理想的な軍人の様にすら思えたほどだ。

 

『ガトーさん!こんな事はもう止めて下さい!!』

 

一般回線にペッシェ・モンターニュ特務少尉の悲痛な叫びが響く。彼女は元ジオン兵だから、もしかしたら面識があるのかもしれない。そう考えるとコウは自分の中で不快感が増すのを感じた。

戦中奇跡的にも戦火を被らなかった上に戦後に任官した彼は戦争への考えが希薄だった。そもそも偶然輸送中のMSを目の当たりにし、興味を覚えなければ軍人にすらなっていなかっただろう。だからアナベル・ガトーが何を考えこの様な行為に及んだのか、アレン少佐がどんな思いでガトーを罵倒したのか、その多くを自分は理解出来ていないだろうと彼は考える。だがそんな事はどうでもいい事だ。

 

「当たれぇっ!」

 

彼等には彼等の正義があるように、コウにはコウなりの正義がある。戦いとはその正義を暴力によって押しつけ合う行為なのだ。相手を理解し妥協点を探るという地点はとうの昔に過ぎている。ならばコウとしても自らの正義を押し通せばいい。そして彼にとっての正義とはこの馬鹿げた虐殺を防ぐ事である。

叫びながら放ったビームはギリギリの所で躱される。その動きに彼は確信を持って二人に伝える。

 

「撃ち続けるんだ!」

 

2号機は包囲を突破する前にアレン少佐の攻撃によって左脚を失っている。単純な直進程度ならば推力の大半を腕部のバインダーに依存しているため問題はないようだが、複雑な回避となるとそうもいかない。これが仮に1号機であればまだ多少は誤魔化せたかもしれないが、2号機は既存の機体から大きく推力系のレイアウトが変わってしまっているため既存の機体からフィードバックされた損傷時の挙動変化を使用できず、制御側が処理しきれていないのだと彼は看破した。事実立て続けに攻撃を受けた事で2号機の挙動は次第に危うさを増し、そして遂にはシールドへビームが直撃する。

 

『あ、当たったのに!?』

 

戸惑いの声を上げたのはビームを放った張本人であるチャック・キース少尉だった。彼の言う通り確かにビームはシールドを直撃したが、シールド表面を僅かに変色させただけに留まる。

 

「もっとだ!」

 

しかしコウにしてみればこの程度は想定の範囲内だった。元々2号機は核攻撃の熱と衝撃に耐える設計なのだ、そこに加えてあの機体の側には専門の整備員まで控えているのだから、ビームに対する対策くらいはしてくるであろう事は想像に難くなかった。だがそれに対する解答は極めて単純である。

 

「まだだ!」

 

1発で無理ならば何発でも撃ち込めばいい。実際に2号機はアレン少佐の攻撃で損傷しているし、被弾しても問題ないのなら最初から回避などしていない。ならば後は壊れるまで繰り返すだけである。

 

『この様な所で潰えるわけには!』

 

苦しげな声が通信から聞こえてくるが、コウは躊躇なく引き金を引き続ける。アレン少佐によって訓練を受けた彼等は、テロリストへの対処を体に覚え込まされている。即ち、相手が武装解除して降伏を申し出てこないかぎり攻撃の手を緩めないと言うことだ。

 

『こんな事をして、何が変わるって言うんですかガトーさん!?』

 

『今更君と語る舌は持たん!』

 

まだ説得を諦めきれないのかペッシェが呼び掛けるが、返ってきたのは無情な言葉だった。

 

『そんなに戦争がしたいのかよ!?』

 

キースが涙声で叫ぶ。

 

『あれだけ殺して、殺されて!まだ足りないって言うのかよ!』

 

彼の使用しているビームガンは威力が低い。だからこそ敵は他の致命的なビームは回避し、避けきれないキースの攻撃をシールドで受けていた。だがそれは大きな判断ミスであった事をシールドが破壊される瞬間まで敵は気が付かなかったようだ。

 

『何!?』

 

操縦技能や状況判断、そして身体能力に工学知識。そのどれを取ってもキースはそれなりのパイロットだ。テストパイロットに選抜される程度には優秀であるが、一部のギフテッドやエースと呼ばれるような一流と比べればその能力はどれも見劣りすると言っていい。けれど彼はガンダムのパイロットに選ばれたのだ。たった一点、高い射撃技術を持っているというだけで。複雑に動き回る敵機のシールドヘピンホールショット並みの精度で撃ち込まれたビームによって、遂にシールドが耐熱限界を迎えて破壊する。格納されていたアトミックバズーカのバレルが虚空に飛び出し、それをつかみ取るべく2号機が手を伸ばす。

 

『させない!』

 

だがその腕はこれまで息を潜めていたララァ・スン中尉の放ったビームによって吹き飛ばされ、更にバレル自体も続けて放たれた攻撃によって真っ二つに折られてしまう。それを見て、コウは勝利を確信した。アトミックバズーカは砲口から発射することで核弾頭の最終安全装置を解除する構造だからだ。バレルを喪失した以上、2号機は搭載している弾頭を発射しても起爆する事が出来ないのだ。

 

「僕達の勝ちだ!」

 

『見事っ!しかし勝つのは私達だ!』

 

思わず口にした台詞にまさかの答えが返ってくる。そして2号機は腰に付けていたハンドグレネードを虚空へ放り、次の瞬間にはそれが炸裂して周囲を閃光が支配した。

 

『フラッシュバン!?』

 

『カメラがっ!?』

 

更にそこで予想外の事が起きる。

 

『っ!確保!』

 

2号機がコンテナから核弾頭を投棄したのだ。当然放置する訳にもいかず、唯一動けたララァ中尉が確保に向かう。その瞬間、ノイズ混じりの通信に緊張した声が響いた。

 

『未確認の大型機が急速接近!迎撃を!』

 

モニターが回復した瞬間、それはコウ達の前を高速で通過する。

 

「MA!?」

 

ジオン定番の濃緑色で塗装されたそれは観艦式の会場へ向かって一直線に向かっていく。そこへガトーの声が重なった。

 

『ソロモンよ!我々は帰ってきた!!』




アナベル君、ノリノリである。
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