WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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12.0079/09/23

「辛うじて間に合ったか、中将には感謝せねばな」

 

「は、しかしこの戦時標準艦というのはどうにも粗の目立つ艦ですな」

 

シャア少佐の言葉に同意しつつもドレンはそう受領した艦を評した。凡そ8ヶ月ほど前に発生したサイド5宙域における戦闘、通称ルウム戦役においてジオン軍は連邦宇宙軍に対し保有艦艇の8割を喪失させるという大戦果を挙げた。国民へはその事が積極的に喧伝され、ルウム戦役は勝利で飾られたように伝わっているが、実態は異なる。そもそもサイド5を攻撃したのは2発目のコロニー落としに使用するコロニーを確保するためであったのだ。つまりジオン軍は敵に損害は与えたものの、自軍の戦略目標は達成出来なかったのである。更にこの戦闘ではミノフスキー粒子下の戦闘に連邦側がある程度の備えを行っていたこと、加えてコロニー落としのための準備作業を行っていた工兵部隊を守る為に戦力の多くが拘束されたために、ジオン側も艦艇そして多くの熟練MSパイロットを失う結果となったのである。

戦時標準艦はこの時の喪失を回復するために設計された性能を維持しつつ生産性を向上させたモデルという触れ込みであったが、残念ながら実情は異なっている。

 

「安かろう悪かろうとまでは申しませんが」

 

そう言って彼は艦橋から船体へと視線を巡らせた。まず最初に違和感を覚えるのは主砲だろう。従来が3基6門であったのに対し、この艦では2基4門に減じている。新型砲の採用により発射速度が向上しているため火力は減じていないという触れ込みであるが、冷却系が原因でその発射速度とやらは1分程しか維持出来ない。これに加えて推進器の変更だ。効率向上型などと耳心地の良い言葉に置き換えられているが、要するに推力を落として推進剤の消費を抑えたものに過ぎない。加速性は維持されているが、これは船体の見直しという名目で各部の装甲が薄くなっているからだ。MSの運用能力こそ維持されているが、逆に言えば改善もされていない。流石に配備先からの改善要求が頻発したらしく、現在慌てて改良型も並行して建造されているらしいが、そちらは突撃機動軍やギレン総帥直属の本土防衛部隊や親衛隊に優先配備されている。宇宙攻撃軍に回されてくるのは当分先だろう。

 

「ファルメルが直るまでの辛抱だ、それに今回の戦いはMSが主体となる。キャメルだったか?この艦は主砲の射程ギリギリで敵艦を牽制すればいい」

 

「偵察によれば木馬には護衛が付いているとの事ですが」

 

「あの新型MSの性能を考えれば不自然ではないな。だが幾らMSが優秀でも母艦無しで戦えはすまい」

 

艦艇に対しMSの優位は揺るがない。それはジオン軍人にとって常識であり不変の事実だ。今回は軌道パトロール艦隊の精鋭も作戦に参加する事を考えれば、確かに多少護衛の艦艇が付いた所で問題は無いように思われた。

 

「問題はあの新型の鹵獲だ。捕まえるならあのデモカラーの方が良いだろう、もう一機は戦い慣れしているように見えた、アレは私が相手をしよう」

 

「難しいタイミングの戦いになりますな」

 

敵の新型がザクよりも遙かに高性能である事はドレン自身も2度の戦いから痛感していた。あれを抑え込むとなれば確かに少佐の力が必要だろう。同型にも相応の戦力を張り付けると考えれば、敵艦を狙えるのは10機程だろうか。制限時間こそシビアではあるが、たかが一隻の空母モドキを沈めるには十分な数だとドレンは考えた。

 

「では艦を任せる。頼んだぞ、ドレン」

 

そう言ってブリッジを出て行く少佐をドレンは敬礼で送る。先の戦闘とは異なり、敵は大気圏突入のために著しく行動が制限される。特にMSは艦から離れることが困難であるため、この艦の安全は確約されたようなものだ。

 

「今度こそ木馬も終わりだな。よぉし貴様ら!戦闘準備だ!」

 

 

 

 

『後方のムサイより敵機発進を確認!前方の艦隊群からもMSと思われる噴射光!総員戦闘配置!繰り返す、総員戦闘配置!』

 

『敵のMS、分かれませんね』

 

戦闘配置を告げるアナウンスに交じって、ジョブ・ジョン曹長からそう通信が入る。

 

「こっちの読み通りって事だな。良い始まりだ、キャノン隊は位置を維持しつつタンク隊と協同し敵機を牽制!無理に墜とす必要は無い!攻撃点に着かせなきゃいい。アムロ伍長!」

 

『はい、アレン少尉』

 

「伍長と俺は攪乱に回るぞ。遠慮は要らん、積極的に当てていけ」

 

『了解です!』

 

そう言いながら俺は緊張で口が渇くのを自覚する。後方のムサイから発進した機体は4、目の前の敵は3隻からなるジオンの標準的な任務艦隊だ。ただし編成にチベ級を含んでいる。アレの搭載機数は最低でも8機、事実確認出来た噴射光は16にもなった。総勢20機のMSによる攻撃。大盤振る舞いにも程がある。

 

『撃ち方始め!』

 

リュウ・ホセイ曹長が叫び、それに呼応してホワイトベースの主砲と甲板に展開したタンク隊が120ミリ砲を発射する。口径こそザクのマシンガンと同じだが、タンクの主砲は砲身長も装薬量も段違いだ。加えてしっかりとした足場の上からとなれば、その砲撃は極めて脅威となる。距離を考えればまだ艦砲の射程である事からの油断だろう、余裕綽々で隊列飛行などをしていた敵MSにホワイトベースの主砲よりも早く到達した120ミリ弾が突き刺さる。僅か6門とは言え統制された射撃は正確に飛翔し、敵機を火球へと変えた。

 

『は、今更びびってんのかよ!』

 

威勢の良い言葉と共にカイ一等兵がビームを放つ。流石に初弾は外れたが放たれる度に精度が上がり、4発目には遂に敵を捉える。流石に撃墜には至らなかったが損傷した敵は大きく姿勢を崩した。

 

「いいぞ、このまま敵を抑え込め!アムロ伍長、俺達は後方から来る奴らをやるぞ、行けるな!?」

 

『了解です!』

 

ガンダムは他の機体に比べ推力もあるし推進剤にも余裕があるから、多少はホワイトベースから離れても十分に戻る事が出来る。それに敵は数による飽和攻撃を考えているだろうから、ここで足止めするだけでも敵の思惑を崩す事が出来る筈だ。増速して敵に向かう俺の後ろをアムロ伍長のガンダムがぴったりと付いてくる。こちらをフォローしつつ、敵機を全て射界に入れる良い位置取りだ。

 

「赤い機体が居ない?」

 

先制すべくスコープを覗いた俺は、敵の機体を見てそう訝しんだ。だがそんな事を考えている間に後方からビームが飛翔し、右端を飛んでいたザクを貫いた。

 

『一つ!』

 

「忙しないな!ホワイトベース、聞こえるか!?敵に赤いヤツが居ない!警戒してくれ!」

 

言いながらおれは先頭を飛んでいる角付きのザクへ向かってビームライフルを放つ。しかしそれは素早く回避されてしまう。どうやら腕の良い奴が乗っているらしい。ならお前は後回しだ。

 

「巧いっ!?伍長っ、いつものやつで行くぞ!」

 

『はい!』

 

シャアの存在が気になるが、かといって目の前のこいつらを放置するわけにはいかない。

 

「そら、今日はこっちも危ないぞ!」

 

こちらが狙いを変えた事に気がついて、動きの悪いザクが慌てて回避行動に移るが遅い。マシンガンのそれよりも遙かに高速で飛翔するビームの塊が右足を吹き飛ばす。そしてバランスを大きく崩した敵機の胴をアムロ伍長の放ったビームが捉え、真っ二つに引き裂いた。あっという間に同数となった事に残りの角無しは動揺した動きを見せるが、角付きの方は躊躇無くこちらへ突っ込んで来る。こちらの連携を崩すつもりだろう。だが舐めて貰っちゃ困るんだよ!

 

「アムロ!片付けるぞ!」

 

角付きの放つバズーカを避けながら俺はそう叫ぶ。お返しにビームライフルを撃つがやはり当たらない。だが問題無い、角付きは俺に集中している。

 

『三つ目っ!』

 

角付き、お前はパイロットとしちゃあ優秀だったが指揮官としては落第だな。尤も、こっちは大した指揮をしなくても戦果を挙げてくれるチートな部下だから比べるのは違うだろう。まあ、今回は運が無かったと思って死んでくれ。アムロの叫びが再び通信越しに聞こえ、宇宙空間に火球が生まれる。後はコイツを仕留めるだけだと言う段階でホワイトベースから悲鳴のような通信が入る。

 

『ガンダム聞こえるか!?敵機が取り付きつつある!至急援護に戻ってくれ!』

 

そうそう上手くは行ってくれないらしい。俺は舌打ちを堪えてアムロ伍長へ向けて叫ぶ。

 

「アムロ、ホワイトベースへ戻れ!コイツを片付けたら俺も戻る!そろそろ高度に注意しろ!万一の緊急手段は覚えているな!?」

 

『は、はい!』

 

「よし行け!」

 

最悪なのはこのタイミングでシャアが奇襲をかけて来る事だ。だが未だに奴は姿を現わさない。まさか追撃をこの連中に任せて後退したのか?

 

(いや、それはあり得ない。あのプライドの塊みたいな男が、負けっぱなしで誰かに任せるなんて選択をするわけが無い)

 

だとしたら奴は何処だ、何処に居る?

 

「クソっ!」

 

集中が乱れたせいで、敵のバズーカを避け損ねる。強引に機体を捻って直撃こそ免れたものの、手にしていたビームライフルに当たり吹き飛ばされてしまう。

 

「調子に乗るなよ!」

 

再度バズーカを放とうとする角付きへ向けてバルカンを撃つ。ザクの装甲を抜くのは難しいが持っているバズーカなら別だ。運良くマガジンに当たり吹き飛ばす事に成功、これで距離の不利は無くなった。問題は、

 

(俺が格闘戦が苦手って事だよな!)

 

ビームサーベルを引き抜きつつも俺は顔を顰める。角付きは躊躇無く距離を詰めてくる、ジオンの腕利きの例に洩れずコイツも格闘戦に自信がお有りらしい。

 

「ぐっがっ!?」

 

振り上げられたヒートホークに対応すべくサーベルで受けようとするが空振りに終わる。衝撃が機体を揺さぶり、体がシェイクされて漸く自分がフェイントに引っかかり蹴り飛ばされたと認識する。

 

(蹴り、だと?)

 

その違和感は、即座に肉薄してくる敵機の動きを見て確信へと変わる。そうこうしているうちに踏み込んできた相手へ向かって慌ててシールドを突き出すと、上半分がヒートホークに断ち切られた。最悪、最悪だ。

 

「コイツ、シャアじゃねえか!」




予定:地球降下は一話で終わらせる

現実:非情である

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