「何とかなったかね?」
『ええ、後はアレン少佐に任せて大丈夫だと思います』
シートに深く身を預けながらカイ・シデン少尉は深々と溜息を吐いた。
「ポンポン核撃ちやがって。なぁにが南極条約違反だよ、戦中通して連邦が使ったことなんか一度もねえよ」
寧ろカイの主観から言えばオデッサでの一件も含めジオンの方が条約違反を繰り返している。トラブルとして無かったことにされた81年のマスドライバーによる地球砲撃だって厳密には違反行為なのだ。更に反論するならば、連邦は確かに核運用の新装備を開発したが南極条約に核兵器及び運用機体の新規開発及び製造を禁止する項目は存在しない。使う気があるから開発したのだろうと言われれば否定は難しいが、少なくとも明確に戦場で使用した連中に批難される筋合いは無いし同列に並べるものでもない。その様な二枚舌を平然と行っていながら連邦政府の腐敗を糾弾しても、共感を得られないばかりかスペースノイドの評価をただ下げるだけだと気付かない辺りに救いようのない愚かさを彼は感じる。
「宇宙に住んだくらいで人は変わらないってね」
宇宙移民を恐れて地球に留まり続ける人々に向けてアレン少佐が口にした言葉をカイは皮肉気に唱える。正にその通りだと彼は思う、宇宙に出たくらいで人間は別のものになんか変貌しないし、その逆に素晴らしい何かにだって進化しない。事実100年近い年月が経過しても、スペースノイドはアースノイドと争いを起こした。それは価値観や思考が同じ水準だからこその結果である。
「にしても毎度毎度肝が冷えるね。何でこう、いっつも俺達は核攻撃を阻止してんだか」
『案外偶然じゃないのかもしれないですよ』
閲兵の為に居住まいを正しつつ、アムロ・レイ中尉が不穏な台詞を吐く。それに対しカイは眉を寄せて返事をした。
「おいおい、運命だなんだなんてオカルトは勘弁だぜ?」
『そんなのじゃないですよ。でも、僕達がここに居るのは偶然で片付けられる事じゃ無いと思いませんか?』
コーウェン中将の派閥が行っているガンダム開発計画に対して競作という案をねじ込み、オーガスタ基地にて始まった次世代MS開発。当初は仕様要求に基づき彼等の乗るMkⅢも核武装を想定していた。これに対し運用状況が限定的すぎる、継戦能力に不安があるなどと難癖を付けて同等の戦力評価となるビーム兵器の搭載に仕様変更をさせたのはアレン少佐だ。仮に軍の要求通りに機体を開発していたら今回の攻撃を防ぐのは難しかっただろう。
「いや、でもあれはアムロの親父さん達だって納得してたじゃないか」
『あれは納得したんじゃなくて上手く乗せられたんですよ。親父達にしてみれば今回のガンダムは自分達の技術の高さをひけらかす絶好の機会なんです』
技術的難易度が高い方法で条件をクリアする事が正にそれに当たるのだとアムロ中尉は言う。
『本音で言えば親父達はジム改とカスタムのアップデートで十分だと考えているんです。だからどの機体も好き放題しているでしょう?』
アムロ中尉の言葉通り、MkⅡとⅢは辛うじて次世代MSと言い張れなくもないが、基地で建造されていたMkⅣは明らかに巫山戯すぎていた様にカイにも思えた。
『そもそも計画自体がアレン少佐の発案ですし、観艦式に僕達が先行したのも理由がありそうじゃないですか?』
「そりゃ考えすぎじゃないか?俺達の参加は向こうからの要請だろ?」
『だとしても増援が僕達ではなくてグレイファントムだったのはアレン少佐からの要請じゃないんですか?となれば少佐は僕達をここに配置したい意図があったと言う事です』
「んー…」
深読みのし過ぎだと笑い飛ばすのは簡単だ。しかしアムロ・レイは傑出した才能を誇るNTであり、件のアレン少佐は戦場においては異様と思える精度で状況を言い当ててくる。尤も本人はNTである事を否定しているし、実際に行った試験結果でも違うとのことだ。
「あれかね?いつもの悲観的観測の最悪を引いたってヤツ」
『そんな予測を出来る方がよっぽど普通じゃないと思いますけどね』
故に彼等はこの後少佐が事態はまだ収束していないと言い出しても驚くことは無かったのだった。
「観艦式の襲撃は失敗か、まあ妥当な所だろうさ」
粛々とコロニー強奪を進めながらシーマ・ガラハウ中佐は受け取った報告にそう評した。元々が寡兵で行う無茶な作戦なのだ。直属として動いていたソロモン戦以来のベテランはともかく、途中で合流したような連中の装備と練度は期待出来ない上に、襲撃がある事を事前に密告されているのだから、寧ろ成功した場合の方がシーマは頭を抱えただろう。
「その、シーマ様。準備が出来ましたが」
作業中だった部下からの合図にオペレーターがそう促してくる。モニターではなく艦橋の窓越しにコロニーを見つめ、シーマは目を細めた。
「……」
彼女は黙って手に握っていた扇子を振って砲撃の指示を出す。艦長も務めているデトローフ・コッセル大尉がそれに頷き砲撃指示を出した。即座に僚艦も含め数隻分の主砲がコロニーへと向けられ、ビームの光が宇宙を照らした。
「命中!対象のミラー、破断します!」
宇宙世紀における一般的なコロニーは開放型と密閉型と呼ばれる2種類だ。彼女達の故郷であるマハルの様に全周を完全に外殻で覆われている密閉型に対し、目の前の2基のコロニーは開放型と呼ばれる構造だ。こちらは外殻の3ヵ所が大きく開き、装備されたミラーからコロニー内に光を取り込む構造となっている。内部の温度調整や日照などを太陽に任せる事が出来るこの開放型コロニーは密閉型に比べ敷地面積が凡そ半分になってしまうと言うデメリットがあったものの、太陽光をそのままエネルギーとして用いることが出来るためライフサイクルコストに優れたコロニーとして多くのサイドで居住用コロニーとして利用されていた。今彼女達はその特徴的な3枚のミラーの内1枚をそれぞれのコロニーからもぎ取ったのである。
「予定時間は?」
「凡そ2時間後です!」
「信号弾を上げな」
シーマの言葉に即座に応じたオペレーターが機器を操作し、事前に決められた符丁の信号弾を打ち上げる。
「シーマ様…」
「黙ってな、デトローフ」
コロニーの強奪はシーマ艦隊のみで実行している。そして観艦式への襲撃にもデラーズの本隊は参加していない。先程の信号弾を確認した連絡員が報告に行き、初めて姿を現すという念の入れようだ。勿論茨の園を脱出した後の潜伏先はシーマには伝えられていない。その行動の一々が自分の保身のためにシーマ達を切り捨てた上官に重なり彼女の苛立ちを助長する。
「もう少し、もう少しの辛抱さね」
星の屑作戦の本命、即ちコロニー落としの段階となれば連中もコロニー護衛のために巣穴から出てくる。後はその首を手土産に渡りを付けてある連邦軍に寝返るだけだ。元々シーマ達はそのつもりでデラーズフリートへ参加したのである。その意味ではこちらを警戒していたアナベル・ガトー少佐の懸念は正しいと言えるし、正確な情報を自分に伝えないエギーユ・デラーズ中将もそれなりに注意は払っていると言えた。
「最後に笑うのは私達だ。だからお前達、気を抜くんじゃないよ!」
彼女はそう自らへ言い聞かせる様に部下を叱咤するのだった。
「…星の屑?」
「はい、通信記録を見て頂ければ解るのですが、アナベル・ガトーは交戦中にその様な事を言っていました」
『少佐、それは観艦式襲撃を指したものではないのか?』
ローランド大佐の疑問に俺は頭を振って否定する。
「奴は俺の観艦式の襲撃で何が変わるのか、と言う問いかけに星の屑成就の暁には己の不明を恥じろ、と言ってきました。観艦式の襲撃が目的ならばこの返事は不自然だと思いませんか?」
何せこっちは観艦式の襲撃では問題が悪化するだけだと先に述べているのだ。それに対して結果を見て判断しろという返しは会話が成り立っていない。
「因みに少佐は、どんな懸念をしているのかな?」
「…水天の涙作戦」
「何?」
「81年に発生したジオン残党による月から地球へ向けた質量弾攻撃作戦です。防衛していたマスドライバー施設を残党ごときに占拠されたという不祥事を隠す為に事故として処理されましたがね」
「つまり再び月が狙われると?」
シナプス艦長の答えに俺は再び頭を振ると、星の屑の本命を切り出した。
「重要なのは内容ではなく、作戦名です。水天の涙と言うのは地球にあった国家の言葉で流星を指したものだったそうなのです。そして今回の言葉、星の屑です」
『まて、少佐。連中はまさか!』
星屑ではなく星の屑。
「隕石というのは星になり損なった残り屑だそうですね。正に星の屑と言うわけです」
「いや、しかし隕石となれば相応の大きさだろう?そんなものが移動すれば連邦の監視に引っかからないはずが…」
「ええ、ですから連中はもっと手軽に落とせる物で代用するんじゃないでしょうか。既に移動手段が備えられていて、相応の質量を持つ物。我々はそれを既に知っています」
「…コロニー?」
俺の言葉にオペレーターのジャクリーヌ・シモン軍曹がそう呟く。その声は実に良く艦橋内に響いた。そして事態は更に加速していく。
「こ、コンペイ島司令部より通信です!デラーズフリートが移送中のコロニーを襲撃し奪取したとの事です!」
もう一人のオペレーターであるピーター・スコット軍曹の悲鳴のような報告に、俺はこの巫山戯た騒動がいよいよ佳境に突入したのだと実感するのだった。
どいつもこいつも運命の分かれ道。
以下作者の自慰設定
ガンダムMkⅢ
83年に実施されたガンダム開発計画の競作として設計開発されたMS、アナハイム側が○号機と呼称するのに対し、こちらはガンダムを受け継ぐ機体としてMkの呼称を用いている。本機は開発プランにおける敵拠点強襲用MSに該当する機体であり、ガンダム試作2号機の競作機である。同機はオーガスタ基地の研究開発チームに所属するM・ナガノ少尉を中心に開発が進められた。アナハイムが仕様要求に基づき戦術核の運用に特化したMSを完成させた一方で、MkⅢは同等の戦果を上げうる火砲を装備する事で解決を図っている。これは旧来の連邦系企業を抱き込んだことでビーム兵器開発においてアナハイムに先んじていたことによる選択であったが、開発は難航し結局試作段階での達成は叶わなかった。また大出力のビーム兵器を運用する都合上必然的に機材の大型化が避けられず、機体そのものも25mと既存艦艇で運用しうる限界に近いサイズとなっている。また特徴として両肩に装備されたフレキシブルバインダーと砲戦能力を確保する為に大型化したセンサー類を収めたことで大型化した頭部が上げられる。特にコック帽のように延長された頭部は印象的だったためか正式名よりもシェフハットのあだ名の方が有名になった。加えてビーム兵器の台頭に伴い装甲で耐えるという設計思想そのものが破綻しつつあったため、従来のモノコック構造とは異なる新機軸の機体構造をMkⅡ同様に採用している。可動域ではMkⅡに劣る一方剛性では勝ることから極めて拡張性が高く、ガンダムの名を持つ機体としては最も長期間にわたって第一線で運用の続けられた機体となった。後に恐竜進化したMSの始点にして頂点と呼ばれる事となる。
バスターランチャー
MkⅢの主兵装として設計された大出力ビーム砲。初期・中期・後期の3モデルが存在し後期モデルはコロニーレーザーの1/5というMSの搭載火器としては規格外の火力を誇っている。実戦においては83年に行われた連邦宇宙軍観艦式襲撃事件において初期型が使用され、合計2回の射撃が行われた。このモデルは戦中に製造されたメガ・ビーム・ランチャーの収束率を向上させ出力の安定を図ったタイプであり、侵入した敵MSを撃墜している。中期以降のモデルでは高出力化によって腕部にエネルギー供給回路を修める事が困難となった事に加え、武装そのものが大型化した事もあり、機体股間部にエネルギー供給バイパスを内蔵した専用のサブアームを接続して運用されるため、このシステムを持たない機種では運用が不可能となってしまい、実質MkⅢの専用装備となってしまった。
しかしこの頃になると技術の普及によって運用母体であるMkⅢの調達コストが低下しており、母機共々数十機が製造され連邦軍各部隊に配備されている。
デザインイメージは勿論M・ナガノ先生の傑作、エル○イムMkⅡ。