「そうか、コロニーは再加速をしたのだな?」
『はっ!閣下の想定した通りでありました』
真面目くさった表情でそう報告してくるステファン・ヘボン少将に対し、グリーン・ワイアット大将は一度頷くと口を開く。
「追撃部隊の補給状況は?」
『ご命令通り改良型マゼラン級より実施しております。後30分程で参加しております10隻全てが完了するかと』
改良型マゼラン級は戦中に計画のあったMS運用能力を追加した設計案を見直した艦だ。戦艦としての戦闘能力を優先したため、搭載機数は4機と元の案に比べれば質素であるが、連邦軍自慢の物量をもってすれば戦場に10個小隊のMSを戦艦による支援の下投入出来る。敵艦隊の後背を突くには十分な別動部隊である。
「宜しい。では艦隊を二つに分けて任務を再開せよ」
『はっ!了解しました!』
シーマ達からは大艦隊に見えた追撃艦隊であるが、実のところこれは観艦式に参加した戦力の半分にも満たない数であった。本命であるバーミンガムを含む第一連合艦隊はルナツーへと戻る偽装航路をとりつつ地球へ針路を変えたコロニーの鼻先を押さえる位置へと移動している。そして月への追撃部隊はと言えば、補給を済ませた新鋭部隊以外は強奪されたもう一基のコロニー、アイランド・ブレイドの回収へと向かわせる事になっている。
「報告!第3地球軌道艦隊が接近!本艦隊と合流します!」
「第1地球軌道艦隊は動かずか、コリニー大将は腰が重いね」
そう揶揄したもののコリニー大将の思惑をワイアットは大凡理解していた。普段は派閥争いをしている間柄ではあるが、地球にコロニーが落下するかもしれないという事態において脚を引っ張り合うなどという愚は犯さない。恐らく今頃第1地球軌道艦隊は大急ぎで最終防衛ラインの構築を進めている事だろう。ルナツーに置かれていた特殊工作艦が出撃したとの連絡があった事からも間違いはない。
「第3地球軌道艦隊より通信です」
「繋いでくれ」
笑いながらその様に考えていると、オペレーターが更にそう告げてきたのでワイアットは居住まいを正して返事をした、直ぐにモニターへ特徴的な容貌の男が映し出される。
『第3地球軌道艦隊を預かっております、バスク・オム大佐であります』
「第1連合艦隊司令のワイアットだ、助力感謝する」
『はい、いいえワイアット大将閣下。コロニー落としなどという蛮行を前に行動を起こさぬなど連邦軍人の風上にもおけません。是非とも我々に先鋒を務めさせて頂きたく』
バスク大佐は真面目な表情でそう提案をしてくる。彼は一年戦争末期の戦いにおいて巧みな部隊運用を見せその功績から弱冠30という若さで大佐に昇進、更には第3地球軌道艦隊の司令代理を拝命する英俊である。その積極性はワイアットにも好ましく映った。
「うん、コロニーへの強襲を担当して貰うアルビオン隊もそちらの所属だし、そちらの方が都合が良いかな。頼めるかね?」
『お任せ下さい!ジオン共は一匹残らず殲滅して見せます!』
そう意気揚々と宣言する彼に、ワイアットは頷きつつも注意を促した。
「その意気は買いたいのだがね、大佐。これは多分に政治も含むデリケートな話なのだ、故に目につくものは皆殺しでは困る」
そう言って彼は種明かしを始めた。
「現在コロニーの防衛を担っている艦隊の凡そ半数に当たる部隊はこちらに寝返る事になっている。当然ながら彼等への攻撃は厳禁だ。それと首謀者であるエギーユ・デラーズの身柄は生きたまま手に入れたい。愚かな残党共がどの様な最期を迎えるのか、身を以て示して貰わねばならないからね。断じて作戦に殉じて散った指導者などにしてはならない」
『…寝返る部隊の見分けはつくのですか?』
「勿論だとも、彼等だけは別の色の艦艇を使っているからね、それと旗艦はあの艦隊唯一のザンジバル級だそうだ。それさえ避ければいい。MSの方は肩をオレンジに染めるよう指示しておいた。こちらもそれ以外は墜として良しだ」
塗装が間に合わぬ機体もあるだろうが、それはワイアットの関知する所ではない。事前にそれ以外は敵と見なすと宣言しているのだから、それでも出したならそう言う事になるのは当然である。
「そろそろジオンの連中には夢から覚めて貰わねばな」
彼等の信じる正義をワイアットはここで徹底的に叩き潰すつもりだった。
『承知しました、では先行致します』
「頼んだよ」
その言葉を最後に通信が切れ、合流していた第3地球軌道艦隊の艦艇が増速していく。その中にあって一際目を引く機体を見て、ワイアットは思わず目を見開いた。
「あれが例のオーガスタの機体か」
コロニー奪還の増援としてオーガスタから追加で試作機を送る旨は伝えられていたが、実物を目の当たりにしてワイアットは笑いを堪える事が出来なかった。
「ふふふ、エルラン中将も中々人の心理を突くのが上手い。ジオンにとってあれほど嫌な相手もそうそう居るまい」
マゼラン2隻に曳航されている巨大なガンダムを見て驚愕に静まりかえる艦橋に彼の笑い声が響くのだった。
「それでは作戦内容の説明を行う」
作戦室に集合した主要メンバーを前にシナプス大佐がそう口を開いた。
「デラーズフリートによって強奪されたコロニーがフォン・ブラウン市の協力により月の引力圏を脱出、現在地球への落下コースへ乗った。敵はコロニー周辺に残存戦力を集結、これを護衛している」
正面のモニターには地球とコロニーの位置、そしてコロニーの移動コースを示すラインが表示されている。そこへ新たに一本のラインが足された。
「このラインは阻止限界点だ。ここを突破された場合コロニーの地球落下は確実となり、残る手段はコロニーの完全破壊以外なくなる。我々の目的はこれより前にコロニー周辺の敵勢力を排除し、コロニー奪還部隊の安全を確保する事だ」
突入時の最終調整が残っているからコロニーの制御システムは生きているし、推進器も破壊されていないからエネルギーさえ充填できれば再加速で落下コースから外す事が出来る。だが当然その作業は戦闘と並行して行えるようなものじゃない。
「阻止限界点突破予想時刻は本日2147時、奪還部隊の作業時間を考慮した場合、我々はその2時間前までに周囲の敵を掃討する必要がある」
そこで再びモニターに新たなマークが追加される、見慣れた青い二等辺三角形の群れがコロニーの進路を妨害するように陣取る。
「既に第1連合艦隊及び第3地球軌道艦隊からなる部隊が前衛として展開、敵部隊の進路を塞ぐ形で展開を進めている。我々は敵の注意が友軍艦隊に引き付けられている間に横合いから殴り付ける事になる。また月へ向かった追撃艦隊からも補給を済ませた部隊が敵後背を突く予定だ」
過剰に思える戦力であるが、恐らくここに加えて最後の手段を携えた第1地球軌道艦隊も控えている筈だ。そりゃそうだろう、コロニー落としは連中にとっては大戦果程度の意味合いだろうが、地球を故郷にしている連邦軍人にしてみれば絶対に許す事の出来ない蛮行だ。死と隣り合わせの世界で耐え忍んでいると言いながら、相手の頭上に逃れられない死を落とす。そんな事をしても憎悪を撒き散らすだけだと理解出来ない時点で、連中の展望が如何に杜撰であるかが解ると言うものだ。そうしてモニターを睨み付けていると、一拍おいたシナプス大佐が最後の言葉を口にする。
「最後に、この作戦において敵部隊から離反者が発生している。識別出来る様MSは肩にオレンジの塗装が施されている。また艦艇はカーキ色のものとザンジバル級は離反者の母艦であるため攻撃しないように。以上だが何か質問は?」
離反者の部分で一瞬顔を顰めた連中がいたが、誰も口は開かない。
「宜しい、では作戦を開始する。総員戦闘配置につけ!」
シナプス大佐の号令に全員が敬礼の後作戦室から飛び出す。直ぐにパイロットへ俺は声を掛けた。
「ウラキ少尉の直掩にはキースとペッシェがつけ!ウラキ、貴様が現着した時点で既に乱戦が発生していることが予想される。クラスターミサイルは使えないから敵艦の排除を優先しろ。第1小隊はホワイトベース及びグレイファントムのMS部隊と協同して敵MSの排除だ!」
「艦の護衛は残さないのですか?」
アデル少尉がそう聞いてくるので俺は不敵に笑う。
「艦隊の護衛はあいつらだけで十分だよ」
既にホワイトベースの甲板で待機しているだろう二人を想像し俺はそう口にした。あの二人とMkⅢ、そして俺達と散々襲撃演習を繰り返したホワイトベースとグレイファントムのクルー達。これを沈めようとするなら精鋭の一個師団は必要だろう。はっきり言ってそれでも沈むか怪しいが。
「そんな訳で俺達は何も気にせずジオン野郎共をぶっ殺せば良いだけだ。簡単だろう?」
そう告げると俺達は二手に分かれる。相変わらずペガサス級の格納庫は左右に分割されているから面倒でたまらないのだが、ここで活躍すればまだまだ現役で運用され続けるだろう。個人的にはアレキサンドリア級とかが好みなんだが。
「出せるか!?」
「誰に物言ってんです!後は少佐が乗るだけですよ!」
格納庫に入りそう叫べば、打てば響くとばかりにロスマン中尉が言い返してくる。俺はそれに笑って手を上げるとコックピットへと滑り込んだ。
「短い付き合いだったが最後まで頼むぜ、相棒」
コンソールを一度軽く小突き、俺はパワード・ジムにそう語りかける。思えばこいつは原作における俺の死亡フラグみたいな機体だ。けれどこの機体に乗る事に不思議と嫌悪感や忌避感は感じない。その出自や性能をテム・レイ少佐に酷評されてもだ。これも世界の修正力とかそんなものが関係しているのだろうか?
「パワード・ジム、出すぞ!」
宣言と共に俺は機体をエレベーターへと移動させる。既にキースとペッシェはウラキの3号機に取り付いて先行している。彼等がかき乱した戦場を食い荒らすのが俺達の仕事だ。エレベーターがせり上がり機体が外に晒される。モニターを確認すればホワイトベースとグレイファントムからも次々と機体が発進していた。
『アレン少佐!発進どうぞ!』
「おう、行くぜ!」
スコット軍曹の声に応じて俺はカタパルトを起動、機体を発進させる。
「さあ、ショウダウンの時間だぜ」
漆黒の宇宙を睨み付けながら、俺はそう呟いた。
以下作者の自慰設定
マゼラン0083
グリーン・ワイアット大将の下で計画された82・83年艦隊整備計画にて建造された新型マゼラン。
一年戦争の戦訓から艦隊防衛には対空砲・ミサイルだけでは不十分であり、MSの直掩が必須であるという結論に達していたが、当初は各艦による分業が想定されていた。
しかし終戦に伴う予算の縮小と非対称戦を前提とした艦隊の小規模化に伴い個艦多能化が求められる事になった結果。同艦はMS運用能力を獲得することになる。艦底側の2番砲塔及び突入艇を撤去し格納庫及びカタパルトを増設、2番砲塔は上甲板のVLSベイが撤去されそちらに移されている。この他対空機銃が16基から24基に増強、側面の対艦ミサイルが撤去され、代わりに対空ミサイル用のVLSが設置されている。
MS搭載数は3+1の4機で、一隻あたり1個小隊の運用が想定されている。(但し緊急時には露天駐機も可能であるため、運搬のみならば更に追加で6機まで可能)
MkⅣの説明だと思った?残念それは次回以降だ。(する気があれば