「食い散らせ!」
俺達が到着したときには、既に戦場は混乱の坩堝と化していた。正面の大艦隊だけでも手に余るだろうにそこへ加えてシーマ艦隊の裏切り、更に横合いから殴り掛かられればこうもなるというものだ。尤も手心を加えてやるつもりは微塵もないが。
『オラオラァ!ガンダム様のお通りだぜぃ!』
景気よくビームライフルをぶっ放しつつ、モンシア中尉がそう叫びながら敵中を飛び回る。命中こそ少ないがその攻撃は敵の警戒を誘うには十分効果的だ、何せ一年戦争を経験しているジオン兵にとってビーム兵器は最も注意しなければならない武装だし、それを使うガンダムは正に恐怖の代名詞だからだ。それこそ経験豊富な海兵隊ならばまだしも真面に実戦へ参加していない親衛隊では動きも鈍るというものだ。そしてそんな隙を俺達の前で晒せば待っている結論は一つしか無い。
『素人かよ!』
グリーンリバー少尉が吐き捨てる様に毒づきながら同時に3機の敵機を撃墜する。その向こうではチベ級がジムキャノンⅡによる集中砲火を受けて爆発した。恐怖に駆られたのか逃げ出すリックドムも現れるが、背後からジム・スナイパーⅡによって容赦なく撃ち抜かれた。良く訓練されているのに実戦経験が不足しているなんてちぐはぐな戦力は恐らく連中にとって本当の意味での中核戦力だろう。
「つまり更生の余地無しってな!」
デラーズフリートでの生活ははっきり言って過酷だ。唯一の拠点だった茨の園は破損したコロニーを再利用したものだが、当然その機能の大半は死んでいたから大多数は逃亡時に使用した母艦で生活していた。問題はその母艦の多くを占めているムサイやパゾク、パプアといった輸送艦の居住性だ。ジオンの艦艇は元々短期決戦を前提に生産性と戦闘能力を重視して設計されているからこっち方面の性能が妥協されている。端的に言えば年単位で生活をするような設計にはなっていないのだ。まあごく一部は月なんかに潜伏して羽を伸ばしていたようだが、そんな事が出来るのは相応に地位が高い人間だけだ。つまりここで今MSに乗っているような下っ端はそんな環境にもめげず、デラーズの掲げた大義のために3年もそんな生活に耐えられた筋金入りのテロリストなのである。
「次!」
ザクの腹をビームライフルで撃ち抜きながら素早く機体を上昇させる。MSでの戦いで重要なのは動きを止めない事だ、MSは人類が保有する兵器の中で最も攻撃時の自由度が高くそれでいて加速性能は平凡なのだ。現実はゲームやアニメの様に撃たれた攻撃を華麗に回避するなんて事は先ずあり得ない。だから撃たれる前に外れるよう動き回って攻撃を絞らせない必要がある。
「正気かい!?」
だから射撃に集中して乱戦の中で動きを止めるなんてのは、一番やっちゃならない動きの一つだ。モンシア中尉の動きに翻弄され、マシンガンを止まって乱射しているリックドムを背後から切りつける。推進剤が誘爆した敵機は独楽のように回転しながら吹っ飛び、ベイト中尉とアデル少尉が放ったマシンガンによって蜂の巣にされた。その間にウラキ少尉の3号機が旋回を完了し、敵艦へ砲撃を開始する。そうしてまた1隻のムサイが爆沈した所で、カメラが友軍艦隊方向に爆発を捉えた。
「味方がやられたのか!?」
『MAだ!アクシズが持ってきたヤツだよ!』
俺の声に応えたのはパーソナルカラーに塗られた指揮官用のゲルググMだった。その相手を察して俺は思わず息を呑む。だがそれよりも重要な発言に質問を優先する。
「アクシズだと!?詳細はわかるか!?」
『Iフィールド持ちってくらいしか解んないね!』
十分な情報だよシーマ・ガラハウ。
「ジョブ中尉とテイラー少尉、それとエリス中尉はついてこい!怪獣退治だ!」
『『了解!』』
「エド!」
『おう、行け!』
その言葉と同時に接近してきたGファイターへと腕を伸ばす。既に上部のグリップには2機のガンキャノンが掴まって待機していた。
「相手はIフィールド持ちだ!弾種徹甲!突入と同時にかましてやれ!」
『怪獣退治も慣れたものですよ!』
『了解です』
ジョブ中尉は些か上擦った声で、テイラー少尉はいつも通りの落ち着いた声音でそう返事をしてくる。機体が引っ張られる様に加速して見る間に敵MA、ノイエ・ジールへと近付いていく。
『MkⅣで抑え切れていない!?』
エリス中尉が驚いているがこれはある程度予測出来た事だった。MkⅣは拠点防衛用MSと銘打たれているだけあって、火力と防御力に重点を置いた機体設計だ。拠点への攻撃をMkⅣが受け止めつつその火力でなぎ払うというコンセプトなのではっきり言ってデカいくせに高機動なノイエ・ジールとの相性はあまり良くない。普通に単独で戦うならば。
「レイチェル少尉聞こえるか!?ビームマシンガンだ!撃ちまくれ!!」
俺の言葉に対して真っ先に動いたのはMkⅣではなく俺達が掴まっていたGファイターだった。元々MAへ向かって居た事もあって直ぐに撃てる態勢だったのもあって、機首のメガ粒子砲がMSの持つライフルよりも遙かに強力なビームを吐き出す。それは敵MAにとって真後ろからの攻撃だった事もあり難なく直撃、する事なくIフィールドに散らされた。
『っ!』
それを見てレイチェル少尉は直ぐに理解したのだろう、ビームマシンガンを構えると直ぐに射撃を開始する。その大半はIフィールドによって防がれるが、何発かは強引な機動で回避される。それを見て俺は思った通りである事を確信し頬を歪ませた。
「奴も同じだ!」
Iフィールドはビームに対して極めて強力な防御手段だが、同時に幾つかの問題も抱えている。最も広く知られているのは実弾兵器に対しては意味を成さない事であるが、その他にもエネルギーを大量消費する事や装置自体が巨大なため搭載には制限があるなども有名だろう。だがそれよりも問題な点としてIフィールドがメガ粒子に干渉する性質を利用しているため、使用時は自機もビーム兵器が運用出来ないという問題がある。ガンダム3号機なんかが無駄に長い砲身を持っているのは、このIフィールドの効果範囲から砲口を外に出して影響を受けなくするためだ。それに対して目の前の機体、ノイエ・ジールはそうした砲身を持ち合わせていない。つまりそれは、
「Iフィールドを展開している間、奴は攻撃する手段が殆ど無い」
Gファイターから手を離すと俺もビームライフルで射撃に加わる。ノイエ・ジールはMAとしては確かに高機動ではあるが、あくまでそれはあの巨躯に対してという但書がつく。加速性能ではGファイターに及ぶべくもないし、一年戦争時の機体ならともかく現行の高級機なら十分追いつける速度だ。当然そんな機体へ命中させる事を前提としているMSのビームライフルが避けられる筈が無い。
『ええい!』
そしてIフィールド無しにビームを無視出来るほどの防御力をノイエ・ジールは恐らく備えていない。故にこの状況で奴が取れる手段はごく僅かで、
「やっぱりそうだよなぁ!」
想定通り射出された有線式クローアームに向けてビームを放つ。奴がIフィールドを維持しつつ敵機を迎撃出来る手段はこれとミサイルくらいしか無いからだ。そしてNTがマニュアル制御している誘導システムならばまだしも、コンピューター制御による擬似的なオールレンジ攻撃ではオーガスタで調整された俺達の機体に対抗する事なんて不可能だ。
『なんだと!?』
Iフィールドから出た瞬間、クローアームは複数の火線に絡め取られて爆発する。当然だ、何せこっちは当代最強のNT二人からサンプリングされたデータ相手に延々と経験を積んだ教育コンピューターとパイロットなのである。まあ、俺のは偉そうにしているが掠っただけで終わってしまったが。
「終わりだな」
俺達が稼いだほんの僅かな時間で第1連合艦隊のMS部隊が態勢を立て直し、ノイエ・ジールへの攻撃に加わり始める。実弾兵器に換装していた彼等の射撃は確実に奴へダメージを蓄積させ、遂にはメインバーニアの一つが派手な爆発を起こした。
『投降しろ、MAのパイロット!』
余裕の表れだろう、味方からそんな通信がノイエ・ジールへ向けて送られる。そんな中、腹に巨大なコンテナを抱えたパブリクの改良型らしき機体が複数、艦隊からコロニーへ向けて飛んでいった。それを見て俺は小さく息を吐く、星の屑作戦は潰えたのだと実感したからだ。
「これが…連邦」
戦いている年若い士官達を見て、ユーリー・ハスラー少将は内心安堵の溜息を吐きつつ、口を開いた。
「そうだ、アレが地球連邦軍。我々の戦う相手だ」
そう口にしながらもハスラーは、そうなってはお終いであると強く再認識していた。正面から迎え撃つ様に見せかけつつ、精鋭部隊による側面からの襲撃。たった3隻の艦隊から展開した部隊によって行われた蹂躙は、最早戦闘と呼んで良いかと言うほどに一方的なものだった。それは非常に刺激的な光景であったがそんなものは極めて表面的な内容である。それよりも注目するべきは、そんな部隊を別働隊として運用できるだけの戦力を連邦軍は既に整えており、更には内通による離反者も発生させているのだ。総戦力と言う意味では最早話にならない程の差が連邦軍とアクシズには生まれていて、更に諜報面でも大きく後れを取っていると見た方が良い。
「ノイエ・ジールが、ああもあっさりと…」
グワンザンの艦橋から戦況を観測していた技術試験部隊の技術中尉が呻く様にそう漏らす。何しろあのMAはアクシズが連邦に対抗する際、中核となるべく建造されていた機体なのだ。ハスラーにしてみれば寡兵の不利を超兵器で補うなどというのは典型的な敗戦国の発想なのだが、アクシズが戦おうとするならばそれしか選択肢が無い事も事実である。だからこそ戦ってはならないのだ。
「この結果は正しくお伝えする必要があるだろう。記録は取れているかね?」
「あ、は、はい。全て記録済みであります!」
その言葉に彼は一度頷くと口を開いた。
「全艦反転、これより艦隊はアクシズへ帰還する」
「お、お待ちください!少将!?」
ハスラーの命令に参謀の一人が慌てた様子で割って入った。彼は視線をハスラーとモニターの間で行き来させながら翻意を促してくる。
「我々が撤退してしまえば彼等は逃げ道を失います!」
その言葉にハスラーは軽い頭痛を覚えた。どうやら目の前の人物は参謀であるにもかかわらずそれが何を意味するのか理解出来ていないらしい。密かに周囲へ視線を送れば、同様の表情を浮かべている者達が過半数を占めているのが見て取れた。故に彼は教育を施すべく丁寧に説明を始めた。
「大尉、現在我々がここにいられるのは、連邦軍への捕虜返還が理由である事は理解しているな?」
「は、はい。しかしまだ退去時間までは猶予が…」
何も解っていない反論に彼は小さく溜息を吐きながら言葉を続ける。
「確かにこの場に居るだけならば連邦は手出しをしないだろう。そういう約束だからな。だが彼等を受け入れれば話は別だ」
デラーズフリートは明確な敵対行動を起こした武装集団、連邦軍からすればテロリストである。それらの逃亡を受け入れれば、その瞬間アクシズ艦隊はデラーズフリートの友軍艦隊と見なされるのは間違いない。
「MSの1機でも収容すれば連中は嬉々として我々を攻撃してくるぞ。寧ろあの布陣はそれを狙ってのものだろう」
デラーズフリートとアクシズ艦隊の間には逃亡を妨げる様な部隊が存在せず、それでいてアクシズ艦隊が離脱する際には直ぐさま追撃に移れる位置に戦力が配置されている。それを説明してやれば、大尉は声を震わせながら呟いた。
「そんな、それでは約束が違います」
帰還したなら先ず士官教育の見直しを提案しようと心に決めながら、ハスラーは再度口を開く。
「我々が許されているのは捕虜の返還とジオン共和国からの物資買付のみだ。繰り返すが彼等を一人でも受け入れれば我々はデラーズフリートの別動部隊として然るべき対応をされるだろう」
言いながら彼はモニターを操作し、連邦軍の白いMAを拡大して映す。あれの矛先が自らに向けばどうなるかを想像したのかブリッジには重苦しい沈黙が降りる。
「私はアクシズ先遣隊の総指揮官でもある。私にはこの艦隊を無事アクシズへ連れ帰る責任があるのだ。もし諸君らが彼等を助けたいと言うならば、連邦の追撃を退けつつ艦隊を無事に連れ帰る策を提示したまえ」
彼の言葉に対する反論は存在せず、アクシズ艦隊は粛々と撤退を始めるのだった。
以下作者の自慰設定
ガンキャノン0083
一年戦争中に製造された通称量産型と呼称されたガンキャノンD型をアップデートした機体、ホワイトベース隊にて運用されているカスタム機であり型番としてはD型のままである。しかし手を入れられている部分はほぼ全身であり、元型機から残っているのはキャノンと頭部センサーのみとなっている。高速化し続ける前衛機体に随伴出来る運動性と火力支援能力の維持を目的に設計されており、外観は後継機に当たるジムキャノンⅡに近くなっている。当初はキャノンをビーム砲に置き換える案も出ていたのだが、Iフィールドの実用性が高まるにつれ、実弾兵器も一定数配備したいという現場の意見を取り入れた結果据置となっている。この為機内に弾薬スペースを設ける必要があり、単純なMSとしての性能はジムキャノンⅡよりも低く、特に格闘能力は同世代としては最低クラスになっている。
Gファイター(エリス・クロード機)
Gファイター宇宙用簡易量産型をオーガスタ基地の開発チームがエリス・クロード中尉向けに改良した機体。外観上の差異は殆ど存在しないが推進器及びジェネレーターが試作機のものに置き換えられている他、教育型コンピューターに換装する事で単座での運用を可能としている。また機体上部に展開式のグリップが増設されており、宇宙空間ならばこれにより最大3機のMSを運搬可能としている。