130.0086/12/25
「おい!急げヨナ!カミーユ!!」
「待ちなさいジェリド!ヨナとカミーユも!!」
休憩コーナーで駄弁っていると、慌ただしい足音と共にそんな声が聞こえてくる。追いかけているのはエマ少尉だ。
「おーおー、元気だねぇ」
コーヒーのボトルに口を付けながらベイト大尉がそう笑う。その横ではキース中尉とウラキ中尉、それにカクリコン少尉が気まずそうに体を揺らした。それを見たアデル中尉が小さく溜息を吐くと三人へ向けて口を開く。
「後で謝罪しておきなさい。女性の怒りは根深いですよ」
「ったく、盗み食いとかガキじゃねぇんだからよ」
そう口を挟んだのはモンシア大尉だ。それに対して俺は目を細めながら言ってやる。
「そうだな、だが誤飲もあまり褒められた行為じゃないぞ。大佐がブチ切れる前に補充しとけよ」
ベイトとモンシアが笑顔のまま一瞬固まりアイコンタクトを取る。だから続けて言ってやる。
「現在鋭意調査中ってことにしてある。程々にな」
「そこは飲むなじゃないんですか?」
横で聞いていたカクリコンが苦笑しつつそう口にする。
「レクリエーションの一環だな。適度なガス抜きくらいなら目を瞑るさ」
「瞑るんじゃないわよ」
唐突に後ろから声がして後頭部をしばかれる。振り返ればマッケンジー大尉が女性陣を引き連れて腕を組んでいた。
「今夜のパーティーに使うクリームを食い荒らした馬鹿を探しているの、素直に教えるなら見逃してあげる」
大尉の言葉に俺達は迷いなくキース達を指さす。同時に三人は全速で休憩所から駆け出した。うむ、良い反応速度だ。悪手だがな。
「あ、コラ待て!!」
「燥いじまってまあ」
それを見送ってベイト大尉が笑う。俺は手にしていたボトルをゴミ箱に放り込むと溜息を吐きつつ口を開く。
「来年は忙しそうだからな、今のうちに騒いでおいた方がいい」
「やっぱりありますかい?」
「フォボスが移動したって話は聞いているだろう?距離を考えればそろそろの筈だ」
2年前に行われたUGによる火星調査は連邦軍の敗退という形で失敗に終わった。旗艦であったバーミンガム級2番艦のリヨンこそ帰還したものの、他の艦は全て撃沈されMS隊も大損害を受けていた。帰還したバスク大佐は火星に逃亡している残党の危険性と軍備の増強を訴えたが、その意見は政治的な理由で却下された上に火星での損害は不幸な事故によるものとして無かったことにされた。
わからない話では無い。現在連邦政府は宇宙移民を再開し順調に進んでいる。来年度からはコロニーの新造も始まるのだ。だと言うのにここでジオンの脅威が残存し、オマケに連邦軍が敗退したなどと知られれば間違いなく移民は鈍化してしまう。そして富裕層は今度こそ地球から離れることを拒否するようになるに違いない。
「政府は独立を承認してやれば大人しくなるなんて思っているんだろうが、そう簡単にはいかんだろう。連中だって地球は欲しいだろうからな」
鉱物資源はまだしも、水や空気といった人類の生存にとって必須となる資源の確保において地球ほど魅力な天体は無い。そんな場所を自分達よりも弱い連中が好きにしていて許せるような奴ならばそもそも火星に逃げてなどいないだろう。
「解らないのは連中がどうやってあれ程の戦力を用意したかだ」
UG内では持ち帰られた戦闘データが極秘裏に共有されている。それを見る限り連中の機体はガザシリーズ、つまり作業用MSを改造した急造品だ。カタログスペックで言うならUGが運用していたジム改の方が上だったろうし、艦隊に配属されていたパイロットは宇宙軍でも腕利きの連中だ。しかし現実は敵のMSがこちらを性能で凌駕し、パイロットはそれを十全に扱ってみせていた。
「アムロ中尉やカミーユ達程じゃありませんが、あの動きは近いもんに見えます。…連中NTの量産に成功したんじゃ?」
「それだけじゃあの動きには説明がつかんだろう。幾ら先読みが出来てもそれをMSの操縦に反映するには相応の時間が掛かる」
モンシアとベイトが眉を顰めながらそう評する。実際NT能力の高さとパイロットとしての優秀さは現状必ずしもイコールではない。ベイトが言う通り受け取った情報を操縦としてアウトプットする点で差異が生まれるからだ。だから経験の浅いNTならばオールドタイプなんて呼ばれる俺達でもそれなりに対応出来るのだが、そんな俺達と同じパイロット達が一方的に火星で墜とされたのである。
「何か仕掛けがあるのは間違いないだろう。尤も解った所で連中を相手にせにゃならんという事実は変わらないがな」
俺の言葉に三人が小さく溜息を吐いた。カミーユを筆頭にヨナやリタ、ミシェル達は既に特務少尉として軍籍を与えられている。所属自体はオークランドのニュータイプ研究所という事になっているから即時投入なんて事にはならないだろうが、それだって戦局が怪しくなれば保障なんてない。
「…今から除隊と言うわけには?」
「難しいな。カミーユはともかくヨナ達は養子縁組さえしていない。寧ろこの状況で放り出せば最悪の事態だって有り得る」
連邦におけるNT研究はオークランドとオーガスタに集約されているが、かといって他が全く手を出していないかと言えば否だ。大抵の派閥は懇意にしている医療機関があるし、そこに私的な出資もしている。単純な善意や医学の発展のために投資しているなんて考えるのは楽観が過ぎるだろう。
「ジオンの野郎共、一体いつまでこんな事を続けやがる!」
「とにかく今は備えるしかないな」
原作と違いサイド7の軍用化は進められていないし、本来アナハイムが秘匿しているはずだった茨の園――連邦軍名はスノーフレーク――は連邦の軍事拠点として稼働している。UGの設立によってティターンズは組織されず、エゥーゴの名も聞かない。つまり俺の知識とは全くと言って良い程状況は異なっている、それでもこの年に戦乱が起ころうとしている事に俺は言い知れない恐怖を感じながらそう口にするのだった。
「ホワイトベース隊を宇宙へ、ですか」
『うん、地上における残党の掃討はほぼ終わっているだろう?連中が何かをしてくる前に迎撃態勢は取っておきたい』
「宇宙方面部隊だけでは不足ですか」
『彼等も努力しているさ。だが現場の努力に胡座をかいて何もしないのは無能の証明だよ』
「でしょうな」
ワイアット大将の言葉にエルラン中将は素早く脳内の算盤を弾く。以前に比べアレン少佐の予言は頻度が減るだけでなく精度も落ちている。一方でこれまでに整えた環境によって戦力としては未だ連邦軍有数の価値を持っていた。
(売るならば高く買われる内がいい)
事態が逼迫してからでは恩よりも恨みを買うリスクが高まるし、最悪適当な罪状による更迭で指揮権を取り上げられる可能性すらある。それならば今が売り時であると彼は判断した。
「承知しました。向かう先はコンペイ島で宜しいか?」
『いや、向かうのはスノーフレークで頼む』
大将の言葉にエルランは眉を顰める。UGが根拠地として使っているのはコンペイ島だ、スノーフレークはワイアット大将の派閥が管理しているものの位置や規模の関係からそれ程重視されている拠点ではない。そんなエルランの表情を見たワイアット大将が笑いながら続けた。
『ホワイトベース隊は自由に動けた方が都合が良いだろう?それに君の所の指揮官はバスク大佐と相性が悪そうだからね』
全く否定の出来ない言葉にエルランは溜息を吐く。事実部下達の中で彼寄りの思考を持っているのはアレン少佐のみで、艦長を務めている大佐達はどちらかと言えば軍の事情よりも軍の正義を重んじる気質である。どんな手を使ってでも勝利するという人間とは相性が悪いのは明白だ。
「お心遣い感謝します。しかしスノーフレークでは即応が難しいのでは?」
『宇宙方面部隊の面子も立ててやらねばなるまい?それに正面だけに備えるのは能無しのする事だ』
そう言われエルランは改めて頭の中で地図を開き納得する。スノーフレークは旧サイド5宙域に存在している。デブリの除去は続けられているが、サイド6に隣接していたサイド2とコンペイ島を付近に擁するサイド1の復旧が優先されたため、未だ復旧はしておらず僅かな連邦軍が駐留しているのみである。しかし戦略的な価値で言えばこの地には大きな意味がある。何しろラグランジュ1はフォン・ブラウン市の直ぐ側なのだ。
「火星からの遠征となれば現地で拠点を確保せねばならんでしょうな」
その意味で月面都市は極めて魅力的な橋頭堡だ。既に十分な資源と工業力を備えつつ、地球連邦との関係も良好とは言えない。何より連中は自分達が最も儲かることが重要な商人である。敵との接触を許せばどの様な結果になるかは明らかだ。
『頼んだよ』
その言葉を最後に通信が切れる。暗転したモニターを眺めながらエルランは溜息を吐いた。
「まったく、私は安全に甘い汁を吸いたいだけだと言うのに」
不平を口にしながら彼は手早く手続きを進める。尤も元から即応性の高い部隊であるから提出するべき書類は全てフォーマットが完成していて、彼がすることと言えば後は場所と日付、それから自身のサインを書き込むくらいである。準備開始から5分と掛からずに準備を終えたエルランは厄介事を呼び込む元凶に対して頬を歪ませて呟いた。
「この分は後でしっかり取り立てる。だからこんな所でくたばるなよ、少佐」
申し訳ありませんが本格的に週1投稿になりそうです。
後殆どオリジナル展開になってしまうためΖ見てもあまり意味ないなって気が付きました。