WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


131.0087/01/02

「ドミンゴの作業マニュアルはアップロードしておいた。プロトの方は一部専用のマニュアルになるから注意してくれ」

 

「解りました」

 

少し緊張した面持ちで頷くロスマン大尉に対してテム・レイ少佐は笑いながら言葉を続けた。

 

「そこまで緊張する事はないよ、大尉」

 

それに対しロスマン大尉は困った笑顔になりつつ口を開く。

 

「無茶言わないで下さいよ。少佐の後任なんて緊張して当たり前じゃないですか」

 

「これまでだって事実上大尉が仕切っていたじゃないか。そう変わるものではないだろう?」

 

ホワイトベースがUGへ所属して以降、テム・レイは整備班長の任を解かれオーガスタのMS開発チームに移籍していた。以来整備班長は目の前のロスマン大尉が務めており、これまでの出撃でも問題なくその任務を熟していたのである。だからこそ何故今になってそんな顔をするのかが彼は不思議だったのだが。

 

「…今度の派遣は宇宙じゃないですか」

 

技術が発展し人類が宇宙に住む様になって既に1世紀近い時間が過ぎている。それでも絶対的な距離が変わる事はない。確かに地球内であれば何かトラブルがあってもテムが短時間で駆け付ける事が出来ただろう、だが宇宙となるとそう簡単ではない。そして今度の相手はこれまでの残党とは規模が違う。

 

「大尉、一ついいかね?」

 

「はい?」

 

だからこそ余計な心配をしている彼女へテムは説く。

 

「確かに大尉は私の後任だ、だがそれは私と同じにやれという事では無い」

 

自分達にとって大規模な戦いとは一年戦争だ。装備も物資も不十分な中での整備は正しく激戦だったと彼も思う。同時にあの状況は極めて異常であったこともテムは認識していた。

 

「根拠地をもってそこから出撃して戦う以上根本的にはここでの仕事と大差無いよ。それにあんなことは本来するべきではないのだ」

 

MSはその構造上拡張性の高い兵器である。一年戦争では両軍共に数え切れない程の現地改修機やバリエーション機体を生み出せた事からもそれが解る。しかし設計者からしてみれば付けられる事と付けて平気である事には大きな隔たりがあるのだ。それは勝手な現地改修を行った機体の損耗率が証明している。

 

「大尉、君はいつもパイロットが無事帰ってくる事を念頭に置いて行動している。それこそパイロットと衝突する程だ。だがそれでいい、そんな君だから班長を任せられる」

 

機体について理解の浅いパイロットほど自分なら乗り熟せると無茶なチューニングや装備の追加を要求してくる。特にムーバブルフレームの実用化がそうした改造の閾を大きく下げた事でそうした頻度が高くなっているのが現状だ。その中にあってロスマン大尉は安易に要求を呑まず、それこそパイロットと口論になってでもそれらを止めてきた。

 

「パイロットの安全を守るためです。当然じゃないですか」

 

「そうだな、当然だ。だがその当然を続けるのはとても難しい事なのだよ」

 

他の整備員であっても新人達の言葉なら拒絶は難しくないだろう。だがそれをアレン少佐やクリス大尉が言えばどうだろうか?階級が上でかつ経験も豊富な彼等の要求を突っぱねる事が出来る人間は極めて少ない。その点だけでもロスマン大尉は班長に足る資格を持っていると言えるだろう。

 

「何よりあの少佐が大人しく言う事を聞く相手は希有だからな」

 

「言う事聞いてますかね、あれ」

 

そこは比率の問題だと言いかけ、テムは苦笑で誤魔化した。

 

 

 

 

「何故僕は駄目なんですか!?」

 

宇宙へ向かうための準備を進めていたらカミーユにそう食ってかかられた。いや、何でもなにもないんだが。

 

「カミーユはウチの所属じゃないだろう?」

 

「だってキョウやロザミィは行くんでしょう!?」

 

いや、だからな?

 

「キョウ少尉とロザミア少尉、それにゲーツ少尉はホワイトベース隊からNT研究所に出向していたメンバーだ。お前さんやヨナ達とは扱いが違うんだよ」

 

「そんなの不公平じゃないですか、僕の方がシミュレーター成績だって良いのに」

 

またそういう誤解されそうな物言いをしおってからに。

 

「なんだカミーユ、お前戦争行きたいの?」

 

そんな俺達に声を掛けてきたのはカイ・シデン少尉だった。カイは軽薄な笑顔でこちらへ近付くと再び口を開く。

 

「気持ちは解らんでもないが、止めといた方がいいぜ?特にお前さんみたいな勘の良い奴は特にな」

 

「でもそんなところへキョウ達は行くんでしょう?」

 

そんなカミーユの返事にカイは大仰な仕草で溜息を吐いた。

 

「別に俺達は連れて行きたい訳じゃないが、命令だからな」

 

その様子にカミーユは眦を吊り上げて言い返す。

 

「命令されればなんだってやるって言うんですか!?」

 

「おう、それが軍人だからな」

 

カイはその言葉に笑顔を引っ込めると真剣な声音で応じる。普段見せないその姿にカミーユが戸惑っているが、カイは構わず口を開いた。

 

「そんでキョウ特務少尉達も俺達と同じ軍人だ」

 

「…じゃあ、彼女達が戦場に出るのは正しいとでも言うんですか?」

 

「いや?そんな事は一欠片も思ってないぜ?だからお前さんが戦場に出たいってのも止めてるだろ」

 

「え?」

 

「軍人ってのはな、カミーユ。命令に従っているから軍人なんだ。命令に従うから人が持つにゃ不相応な武器を持つことが許されてる。そんな連中が自分の正しい事をやり始めたらどうなるか、お前もよーく知ってる筈だぜ」

 

カイの言葉にカミーユは悔しそうに押し黙る。俺達は4年前にそうした人間達が起こした事件に直接関わっているからだ。

 

「ま、つまりだ。軍人なんて碌な飯の食い方じゃないってこったな。…だからよカミーユ、キョウ達を本当に守りたいってんなら、お前がすることは戦場に出る事じゃない。もっと別の方法だぜ」

 

「別の方法ですか。なんですそれは?」

 

「わかんね、解ってたら俺も軍人なんて辞めてるさ」

 

聞き返してくるカミーユにカイはそう笑いながら言葉を返す。全くだな、俺も他の食い扶持を見つけたいのだが、如何せんまだまだ地球圏は安定とはほど遠い状況だ。少なくともアクシズ落としの回避が確定的にならない限り軍を離れるわけにはいかないだろう。あんなつまらない事でアムロが死ぬなんて俺には耐えられない。

 

「カミーユ!見送りに来てくれたの?」

 

「心配性な奴だな」

 

「もう!ゲーツはすぐそうやって!」

 

そんな具合に野郎三人で辛気くさい話をしていると、後ろからそんな声が掛かった。振り返るとそこにはバッグを手にしたキョウ特務少尉達の姿があった。

 

「キョウ!」

 

キョウ・ムラサメ特務少尉、連邦軍内のNT研究統合の際にムラサメ研究所からホワイトベース隊に引き抜かれた人物だ。残る二人はオークランドで候補生となっていたゲーツ・キャパとロザミア・バダムだ。一年戦争に投入されたレイチェル達の戦訓から身体的な強化は施されているものの、臓器や骨格の置き換えや脳に対する処置は施されていない。おかげで原作に比べると遙かに能力は低くなっているが、精神的な不安定さは見られない。寧ろララァ達のような先任やカミーユ達といった同じ感覚を持つ人間と生活することで普通の子供よりも成熟しているようにすら見える。というか俺が17の頃に比べれば遙かに大人な思考をしていると思う。

 

「その、なんて言ったらいいか」

 

笑っている彼女達を見てカミーユは歯切れ悪くそう口にする。そんな彼の様子にキョウ特務少尉は笑みを深くすると優しく語りかけた。

 

「任務だもの」

 

「でも、こんなの不公平じゃないか!」

 

カミーユの訴えにゲーツが喉を鳴らす様に笑うと、カミーユに近付いて肩を叩いた。

 

「カミーユ、お前本当に良い奴だな。でもそれはちょっと世間知らず過ぎるぞ?」

 

「なにがだよ!?」

 

「世の中皆が公平でなきゃおかしいって思ってることさ。そんな幸せな世界なら戦争なんて起きてないし、俺達が兵隊になんてなってないだろ?」

 

ゲーツの言葉にカミーユは息を呑む。そんな彼にゲーツはシニカルに笑うと言葉を続けた。

 

「お前のそういう所嫌いじゃないぜ。けどあんまり無茶して少佐達を困らせるなよ、俺達が人間をしていられるのはここだけなんだからさ」

 

ゲーツは三人の中でも比較的早い段階からNT研究に関わっている。だから研究者達が本来であれば自分達をどの様に扱いたいかを肌で感じているのだろう。無論そんな事は俺達の仲間である限り絶対にさせないが、研究所そのものを取り上げられてしまえばどうにもならない。そして今後才能を見出されて送られてくる後進達が同じ様に扱われる為には俺達のやり方でしっかりと成果が上げられる事を証明しなくちゃならない。

 

「安心しろよ、カミーユ。ララァ大尉もアムロ中尉も居るし俺らの機体はドミンゴだ。ジオンの連中になんかには負けねえよ」

 

そうゲーツが言い、再度強くカミーユの肩を叩く。だが俺達がホワイトベースへ乗り込み、宇宙へ上がる間際までカミーユの表情が晴れる事はなかった。

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