スノーフレーク、かつてジオン残党であるデラーズフリートによって建設された拠点は連邦軍に接収された後、表向きL1宙域の掃海拠点という名目で整備されてきた。尤も実際にはそれだけではなく幾つかの役割があるのだが。
「ようこそスノーフレークへ、基地司令を任されておりますシーマ・ガラハウ中佐であります」
「出迎え感謝する、中佐」
最先任と言う事でローランド大佐がそう答礼をしつつ笑ってみせる。ブライト中佐はともかくシナプス大佐の方は非常に複雑な表情だ。
「…おい、アレン。シーマってぇと」
「ああ、例の事件の際にこちらへ寝返った海兵隊だな」
小声で確認してくるエドワード少佐に俺はそう返事をする。そんな俺達の横でベイト大尉が彼女を値踏みするように眺めている。
「モニターで見たよりいい女だな」
「同意であります、少佐殿」
「お前ら彼女を口説こうなんて思うなよ?」
何やら不穏な意見交換を始める二人に釘を刺す。馬鹿な事をしてここの連中の逆鱗に触れでもしたらたまったものじゃない。そんな理由で仲間がMIAにでもなったら笑うに笑えないと言うものだ。
「既に連絡はなされていると思うが、暫くこちらに厄介になる。それとその間君達には色々と協力を頼むことになるだろう」
「はい、その様に承っております。とは言え旧式艦にロートルばかりですから、何処までご期待に応えられますか」
「はっはっは、中佐達がロートルならば我々など骨董品だよ。なあシナプス大佐?」
「そうですな。いい加減艦長の肩書きにも肩が凝る思いです」
上官達の小粋なジョークを聞き流しながら俺は今後について考える。既にフォボスは月外縁艦隊に捕捉されていて、位置情報は宇宙軍で共有されている。問題は主力として動くUGの宇宙部隊が準備を整えられていないことだろう。艦やMSの数は戻っているものの、練度についてバスク大佐はまだ不満を覚えているらしい。まああのベテラン揃いでボコボコにされれば慎重にもなるだろうが。
兎に角現状俺達はあくまで補助的な立場であり、積極的に攻撃しろとの命令は受けていない。精々月軌道まで来た連中を追い払うくらいだろう。そんな事へ意識を飛ばしていると、真剣な表情のシナプス大佐がシーマ中佐へ向かって問いかけた。
「背中を預ける身として聞いておきたい。君達は連中をどう考えているのかね?」
「どう、とは?」
「連中は火星に逃れた元ジオンだ。彼等が心を入れ替え、君達の功績に報いたいと言ってきたらどうする?」
シナプス大佐の言葉に緊張が走る。シーマ中佐達はジオン公国を糾弾するためのプロパガンダに利用されたからその経歴も広く連邦軍内に伝わっている。その仕打ちに裏切るのも当然と比較的好意的に受け止められているものの、裏切ったという事実が否定されるわけではない。そして寝返った後も腫れ物の様にへき地へ隔離されている今を考えれば、連邦に不満を覚えていてもおかしくないだろう。
「確かに私達はジオンからの寝返り者、その様な不安を抱かれるのも仕方の無い事でしょう。そしてそのご質問には如何なる答えを以てしても満足は頂けないかと。なにせ裏切り者の口から出る言葉です、何を根拠に信じられるというのでありましょう」
「……」
「ですから行動で示させて頂く。先鋒は我々にお任せ下さい、後ろからなら安心して戦えましょう」
因みに彼等の装備はMS搭載能力を追加したサラミスと戦中に簡易空母として改造されたコロンブス、そしてMSはジム改だ。流石にアップデートはされているだろうが2年前の段階ですら負けているのだ、現段階で応戦すれば苦戦することは必至だろう。そして真面目な彼女なら本当にやる。
「失礼します、発言宜しいでしょうか?」
「何かな、少佐」
俺が声を発すると、即座にローランド大佐がそう聞き返してくれる。なので躊躇う事無く俺は意見を口にした。
「シナプス大佐の御懸念はもっともでありますが、小官はその様な事態は起こり得ないと愚考します」
「理由を聞きたいな」
ブライト中佐がそう促してくれるので俺は言葉を続ける。
「はい、想定されうる敵はジオン公国の残党、それも特に先鋭化した連中です。つまり逃亡の際に中佐達を受け入れなかった者達ですが、その連中が地球へ向けて侵攻を開始した、というのが現状です。つまり敵は保有する戦力のみで連邦と渡り合えると計算して行動を起こしていると考えるのが妥当です」
一度シーマ中佐へ視線を送り、表情を確認する。うん、大分驚いているな、あれが演技だったらもう俺にはどうしようもないわ。そんな事を考えつつも俺は持論を展開する。
「拠点を確保していると言っても中佐の指揮する戦力は大隊規模、それも装備は皆旧式です。その程度の戦力を真剣に重用しなければならない規模の組織なら侵攻などという博打は打てません。つまり内応を打診してきていたとしても過去の行いを清算するつもりなど毛頭無く、体よく使い潰すでしょう。何しろ連中は一度裏切られているのですから」
「…今更なのですよ。今更過去の清算などと言われても、あまりにも遅すぎる。そして解ってしまうのです、そんな口約束を私達相手に連中が守るはずがない。何しろ私達はジオンの面汚しなのですから」
意図的に差別階級を生み出し、それを攻撃させることで同族意識や選民思想を植え付けるなんて方法は中世以前から行われている使い古された統治方法だ。だから選ばれたジオン公国の国民達は彼女達に約束を守るなんて考えすら浮かばないだろう。その意味では自分の価値観だけで測っていたとはいえ、同胞であるとまでは認識していたエギーユ・デラーズの方がまだマシだったのかもしれない。
「私達を受け入れてくれたのは連邦だけだった。信じて頂けるとは思いませんが、これだけは言わせて頂く。ここが私達の帰る場所で、ここが私達の死に場所です」
「…良く解った」
シーマ中佐の言葉にシナプス大佐は一度短く応えると制帽を目深に被り直す。そして再度口を開いた。
「中佐、先程は大変失礼な物言いをした。謝罪する、申し訳ない」
「よし、わだかまりも解けたところで今後について話すとしよう、宜しいかな?」
頭を下げたシナプス大佐を見て、ローランド大佐が即座にそう口を挟む。少しだけ和らいだ空気の中で俺達は今後についてを話し合うのだった。
「いやぁ、どっちを向いてもガンダムばっかだなぁ」
「ガンダムじゃねーす、アクセル少尉。あっちはドミンゴっす」
彼の言葉に反応したのは機付き長のナオエ・カンノ少尉だ。元々彼女はピクシーと呼ばれる陸戦型ガンダムの開発チームに所属しており、その縁で一時期ホワイトベースに乗っていた事もある。大戦末期には機体そのものがジャブローで降ろされたため彼女も降りたのだが、UG結成時の人事にて再びホワイトベース隊へと呼び戻されている。
「設計者がナガノ中尉で開発責任者がレイ少佐だろ?もうそんなのガンダムじゃねーか」
「そう簡単な話じゃねーす、あの事件もあって今じゃガンダムはブランド品っす。ブランドにはそれに見合った実力が求められるっす。幾らカタログスペックが優秀でも実績の無い新機軸の機体においそれと付けられる名前じゃねーってことっす」
「まあ確かにトンデモ機体ではあるわな。可変型MSってカートゥーンかよって話だもんな」
ドミンゴはオーガスタ基地で試作された高高度迎撃用戦闘機を原型とした連邦軍史上初の可変型MSである。火星事件の際にマーズジオンが運用していた可変型MSの性能に危機感を抱いたUG上層部が独自に開発を命じたのだ。性能は概ね良好ではあったが、カンノ少尉の言葉通り既存のMSからはかけ離れた機体となったためにガンダムの名は付けられなかったという経緯を持つ。
「ま、それも少しの間だと思うっすけどね。使えるとなれば喜んでガンダム呼ばわりするんじゃないっすか?」
高速での一撃離脱と格闘性能を両立させたドミンゴは攻撃力においては非常に優秀な機体と言える。その一方で装甲の細分化による防御性能の低下や変形機構による整備性の悪化という問題も抱えているが、ビーム兵器の発達に伴いあまり問題視されなくなっている。
「あー、まあ実戦でも間違いなく活躍はするだろうけどな?」
その点についてはアクセルも同意する所ではあるのだが一方でその性能を発揮するためには相応のパイロットが必要である事も認識していた。
「現状乗り熟せてるって言えるのが専属のゲーツにロザミア、後はアレン少佐にMSギークのウラキだろ?正直量産しても持て余すと思うんだよなぁ」
「セイラ少尉やジェリド少尉もシミュレーションはいい線いってるっすが、あっちも大概適応力オバケっすからね。まあジムの替わりにゃならねーっすな」
「変形しなきゃオイラだって使えるけどもな」
「可変機の利点皆無じゃねーっすか。アクセル少尉にゃMkⅡがお似合いってことっす」
カンノ少尉が横目でアクセルのMkⅡを見ながら笑う。現状ホワイトベース隊の機体はアムロ中尉とカイ少尉、そしてドミンゴを与えられているエリス中尉とゲーツ特務少尉達を除く全員が量産型MkⅡに乗り換えていた。
「まあコイツはコイツでいい機体だしな。てか量産するなら間違いなくこっちだろ」
自分用にカスタムされたMkⅡを見上げてアクセルは言う。以前から量産の計画自体は進んでいたが、火星の一件でジム改の上位互換というだけでは不足ではないかという意見が出始める。それを聞いた何処かの少佐がまた思いつきで妙な事を口走り、レイ少佐達が全力で応えた結果、現在の量産型MkⅡは中々に愉快な機能を有している。
「ミッションパックは実際ムーバブルフレームを良く活かした思いつきだったっすね」
装甲の脱着が容易なら、そこに強化パーツを盛り込んでカスタム出来る様にしたらどうか?前例としてGP-01が似たことをしていたじゃないか。そんな一言でMkⅡは目的に応じた追加装備を戦場で付け替える事を前提とした機体に調整される。それは勿論今までのような専門に特化した機体に比べれば性能面では劣ったが、一方でパイロットにしてみれば各機種の乗換えが極めて容易になったし、整備班にしてみれば外装はともかく内装は全て同一であるため部品管理や整備の煩雑さが大幅に改善される事となったのである。それは物量を最大の強みとする地球連邦軍に最も適したMSと言えた。
「やれやれ、いつの間にかオイラも立派なウォーモンガーだな」
そんな事を自然に考え、次の戦争に備える思考をしていたことにアクセルは気付き溜息を吐く。
「人はいつになったら戦争を止められるのかね?」
彼の言葉に答える者は居なかった。
以下作者の自慰設定
ドミンゴ
オーガスタ基地において開発された連邦軍初の可変型MS。当機は火星事件における武装勢力(仮称:マーズジオン)が運用していた可変型MSの性能に危機感を抱いたUG上層部が対抗出来る機体を求めて開発されたものである。
元型は維持費が問題となっていたコア・ブースターの代替として開発が進められていた高高度迎撃機であり、オーガスタ基地の先進技術開発班がこれに変形機構を盛り込むことで完成させている。同機は脚部及び背面に大出力の熱核ロケット・ジェットエンジンを搭載し、更にフレキシブルバインダーを装備する事で長大な航続性能と運動性能を両立させている。一方で可変構造を採用した事でフレームの剛性などは同時期に開発された機体に劣り、MS形態時にもウェイトバランスが独特であるため癖の強い機体となってしまった。但しこの問題はあらゆる可変機体が克服できなかった問題であることから、本機というよりは可変機の宿命とも言える。
またドミンゴはマイクロハニカム構造材を装甲に用いた始めての機体である。フレームは依然としてガンダリウム合金を用いたものだが、この装甲の採用によって大幅な軽量化を実現、同機の運動性能を支える一因となっている。
量産が想定されていたことからオーガスタでは試作段階から通常よりも多い数の機体が組立てられており、その内NT研究所に出向していた特務少尉3名が運用していた1号機から3号機までがホワイトベースに搭載され運用されている。
元ネタはご存知ギャプラン、但し頭部形状はガンダムに寄せたフライルーに近く更に目元はジム系のバイザーになっています。