「可変機の速度に惑わされるな!相対距離へ常に気を配れ!!」
『はい!』
ドミンゴの後を強引に追おうとする新入りの少尉へ注意を促す。彼等のMkⅡは高機動パックを装備しているが、流石に可変機の速度に追随出来るものではない。
『ジョイス、タイミングを合わせて!!』
『解った!!』
『させんよ!』
ロザミア特務少尉と交戦していた二人がそう言って火力を集中しようとするが甘い。MSへ変形を終えていたゲーツ特務少尉がミサイルを放ち、二人は回避に追われてしまう。その間に旋回を終えたロザミア特務少尉がキョウ特務少尉と交戦していた1機へ接近しながらビームを撃つ。通常のビームライフルよりも高速かつ高サイクルで撃ち込まれたそれに対応しきれず、アッシュ少尉のMkⅡは被弾判定を受ける。
『アッシュ!?』
『人の心配とは余裕だな!』
友軍機の被弾に注意が逸れたエイミア少尉に対しゲーツ特務少尉がビームサーベルを振るう。いや、ドミンゴで接近戦を挑んでいる辺りお前さんも大概余裕をかましているぞ?まあ、残念ながらその位の技量差はあるのだが。
「空間戦闘だけで手一杯って感じですね」
「高機動パックに振り回されてないだけ優秀でしょう。そもそもベテラン部隊でも彼等の連携は手を焼きます」
モニター越しに模擬戦を見ていたジョブ・ジョン中尉とクラーク大尉がそんな事を口にする。実際問題ドミンゴに乗ったあの3人を撃墜するのは俺達でも難しい。しかし今後を考えれば手も足も出ないでは不味いのだ。
「だが最低限身を守れる位までは鍛えんとな」
マーズジオンの主力機は見る限りガザシリーズ、つまり可変機だ。戦闘データから一応のスペックは算出されているが何せ2年近く前のデータであるし、何より収集出来たデータが少なすぎて仮想敵としてエミュレーションも出来ていない。なので現状最も特性が近いだろうゲーツ達にアグレッサーを務めて貰っているのだ。
「それにしても、せめて小隊長くらいベテランを送ってくれないかしら?」
「宇宙方面部隊がかき集めちゃってますからね、増員されるだけマシですよ」
不平を口にするクリス大尉に苦笑しながらハヤト少尉が応えた。だがそれにアムロ中尉が異議を唱える。
「それは手数に数えられてだろう?今の様子じゃ寧ろ足手纏いになるかもしれない」
UGに選抜されるくらいだから彼等も腕が良い方なんだけどな。如何せんオーガスタ組は自分達が判断の基準になっているからどうしても評価が辛くなる。
「まだ4日だ、そう焦らんでも良いだろう」
本音を言えばクリス大尉やアムロ中尉と同意見なのだが、隊長としてそんな事を言えば新人組を萎縮させてしまいかねない。
「でももうかなり近くまで来ているんでしょう?」
「まあな」
これまでのような長距離探査用の物ではない標準的な要塞の監視システムでフォボスは監視されている。とは言え艦隊が出撃しても1週間はかかる距離だが。
「じれったいですね」
アムロ中尉が顔を顰めつつそう口にする。実際連中は近づく程減速するから見え始めてからは中々距離が縮まらない。UGとしては早急に治安活動に移りたい所であるが、この距離は絶妙に厄介だ。何せこちらが確認出来ている以上連中だってこちらを監視しているだろう。その中で出撃するとなれば当然迎撃は万全になるだろうし、こちらは要塞の火力が使いにくい。
「対要塞兵器もあの距離だとな」
コンペイ島に第1軌道艦隊から増援が派遣されたと言うから恐らくソーラーシステムの準備は進んでいる。けれどあくまであれはデカい凹鏡なのだ。コロニーレーザーに比べて運用コストは断然低いが距離が離れると威力が激減する。また隕石ミサイルなども準備しているだろうが、こちらも精密誘導が難しい為長距離で命中させるのは難しい。大量に打ち込めば被害は出せるだろうが、残念ながらMSや艦隊の整備に金を食われている宇宙軍はこれらの防衛装置があまり準備されていなかったりする。バスク大佐が大人しくしているのもそのせいだろう。
「政府はまだ揉めているのかしら?」
苛立ちを含んだ声音でマッケンジー大尉がそう零す。UGは連邦軍内で多くの権限を付与されている組織だ。しかしあくまで治安維持組織である事から一つだけどうしても与えられていない権限がある。それは先制攻撃の権限だ。厳密に言えば既にテロ組織や犯罪者と連邦政府が認定している対象に対しては問題なく行使出来るが、連邦政府が認めていない相手にはまず治安維持活動として警告を行わねばならない。そして現在の政府は移動中の組織を敵対勢力と認定するかどうかで真っ二つに別れている。反対している連中の意見としてはまだ移動しているだけだから敵と決まった訳じゃない、寧ろここで攻撃すれば明確に敵対される。故に最初は対話を持つべきだそうだ。彼等の中で2年前の一件は不幸な行き違いによる事故ということになっているらしい。頭お花畑かよ。
「政府が軍の都合を考えないのはいつもの事ですけどね」
「仕方がない、それが民主国家の軍隊だ」
寧ろ軍の都合で政府が動く方が大問題だ。そう考えれば原作よりも現状は随分マシな状況と言えるだろう。83年のコロニー落としが阻止できた事と、あの一件が大々的にジオン過激派によるものだと報道されたのが良い方向に作用した。復興中の各サイド、それこそジオン共和国まで彼等に対し非難声明を発表したおかげでアースノイドにあれがスペースノイドの総意ではないと印象付けられたし、続くコロニー復興に対する連邦政府のプロパガンダで多くの義援金が復興支援に充てられた事でスペースノイド側の態度も軟化している。皮肉にもジオンが起こした大量虐殺によってスペースノイドとアースノイドは互いに手を取り合わねば元の生活を取り戻せない状況になり、相手を一時的にでもパートナーとして扱っているのだ。更に地球環境が悪化した事から宇宙移民が小規模ながら再開している。このまま上手くいけば地球連邦政府が力を持ったままに宇宙が主導の生活圏が構築されそうなんだが。
「連中が攻撃してこないなんて有り得るんでしょうか?」
「向こうの要求を全て連邦政府が無条件で呑めばそうなるんじゃないか?」
ジョブ中尉の疑問に俺はそう答える。つまり絶対にあり得ないって事だな。
「余計な事をしてくれます」
溜息交じりにクラーク大尉がそう評した。既に生産系の企業は安価な労働力を求めて生産拠点を宇宙へ移動しつつある。以前は規制を受けていた業種なんかも随分緩和されている。まあそうしないと需要を全く満たせなくてインフレ一直線だという切実な問題があるからだが、ともかくおかげでコロニーにも金を持った連中が増えてきている。そしてその金で連邦議員は動かせる。つまりどういう事かと言えば、間接的ではあるがスペースノイドは自分達の言うことを聞く代表を連邦政府に送り込み始めているのだ。既に水面下ではコロニー出身の議員をどう受け入れていくかという動きもあるらしい。エルラン中将に言わせれば一年戦争のおかげでこの辺りは50年は遅れたらしいが。
まあ何が言いたいかといえば、ここで戦争を起こすなんてのは地球圏の人間、それも融和方向で進んでいる者達にとって迷惑でしかないと言う事だ。本当に組織にジオンを付ける連中は碌な事をしないな。
「恐らくこちらから本格的に動くのはフォボスが月軌道に定着してからだろう。まあそれまでに前哨戦くらいはあるかもしれんがな」
「先遣隊を出すくらいは当然するでしょうね」
「ああ、それも一番可能性が高いのがこの方面だ」
サイド3と月面都市、どちらもジオンと縁の深い場所だ。現在の上層部はどちらも連邦寄りだが、民間の意識もそうだとは言い切れない。率直に言って以前のオービルの様な潜伏しているシンパは存在するだろう。そしてその規模も覚悟の度合いも未知数なのだ。最悪少し突かれただけで暴走する可能性だってある。特に共和国軍の新兵だ。戦争を経験したベテランはある程度信用出来るだろうが、連邦を敵国として教育を受けて育ちその上でジオン共和国の軍人としての生き方を選んだ連中はマーズジオンに唆されても不思議ではない。
「最悪アルビオン隊とゲーツ達は残して動くことになるかな」
今後本格的に交戦状態となるならスノーフレークの駐留部隊にも可変機を経験しておいて欲しいし、ジェリド達も宇宙での経験が少なすぎる。できる限り大勢のベテランと模擬戦を経験させておきたい事を考えればシーマ中佐達は願ってもない相手だ。
『オラァ!カクリコン!連携の意味を考えやがれ!』
そう考えながら視線を別のモニターに移せば、ジェリド少尉達新人組と模擬戦をしているモンシア大尉の怒声が響いてきた。全天周囲モニターは従来のモニターに比べ遙かに視界が確保されているが、操っているパイロットの目玉は二つだけだ。特に交戦中は敵機に集中する分視野は狭まりがちであり、どうしても見落としは出る。
『俺達ぁ後ろに目玉を付けるなんて器用な真似は出来ねぇんだ!その分は数と連携で補うって何度言やあ解るんでい!?』
宇宙では地上よりも空間把握能力の差が如実に表れるから、やはり新人組はそこで苦戦している。
「正直あれ相手にお守りは厳しいものね」
マッケンジー大尉が少しばかり辛辣な評価を下すが残念ながらその通りだ。アムロ中尉やララァ大尉ほどでは無いものの敵機の動きは間違いなくそれに類するパイロットの動きであり、少なくとも確認出来た全機がそうなのだ。アムロ達との模擬戦に慣れている俺達は1対1なら問題ないだろうが、それは逆に数的劣勢や護衛対象が居る状態では厳しいという意味でもある。
「それにしてもどんな手段を使ったのでしょうか?あれ程の数のNTを揃えるなど容易な話ではありません」
連邦軍は一年戦争の経験から強化人間の研究が原作に比べて緩やかだ。特にNT能力の強化については大幅に遅れていると言えるだろう。まああの大戦で実戦投入された強化人間の大半が錯乱や精神衰弱による戦闘不能を起こしているから早すぎる技術だと判断されるのは当然のことである。そして戦後はNT研究をオークランド研究所、つまりは俺達の下に纏めた為に、素養のある人間を早期に英才教育しつつ軽度の身体強化で長く使うという方向にシフトしている。だからクラーク大尉にとっては当たり前の疑問になるのだろう。連邦軍においてNTや強化人間は、それなりに人権が配慮されているのだから。
「それ程難しい話じゃないだろうさ」
「…どう言う意味?」
「そのままだよマッケンジー大尉。NTの人権を考慮しなければ方法はある」
例えば連邦でも重病人の為に臓器の培養は法的に許可されている。つまりクローニングは当たり前に用いる事が出来る技術なのだ。実際俺達の仲間にはその実例が居るしな。俺の言葉で察したのだろう、皆が一様に顔を顰める。まあそりゃそうだろな。
「戦う為に、NTを増やしたって事ですか?そんなのって…」
ジョブ中尉が呻く様にそう漏らす。彼の気持ちは解らないでもないが、それは俺達があの大戦の勝者で恵まれた環境にいるからにすぎない。
「それ程人事でも無いんだぞ?」
「へ?」
不思議そうな顔をしているジョブに俺は残酷な現実を突きつける。
「同じ部隊の上司と部下なのに、なんで俺とララァが除隊もせずに結婚出来たと思う?ついでにお前らに大量の見合い話が持ち込まれるのもだ」
因みにアムロとカイなんて悲惨だぞ、行く先々で子種を狙った連邦軍からのハニートラップを仕掛けられているからな。幸い両方とも意中の相手が居るらしくスキャンダラスな事には発展していないが。それを教えてやるとジョブは顔を青くして口元を手で覆う。そういやここに来る前もお前ら合コンに誘われてたもんな。
「まあつまり人的資源が不足している連中なら何をしてもおかしくないって事だ。…けれど手心を加えようなんて思い上がるなよ?」
俺の注意に返事をする者は居なかった。
皆ノースリーブ大好きだなぁ(すっとぼけ