WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


135.0087/01/26

「ほう、これが」

 

「はい、我々が精製に成功しました、γ合金です」

 

アタッシュケースに並ぶインゴットを前に、メラニー・ヒュー・カーバインは目を細めた。同時に差し出されたタブレットにはγ合金とよばれたものの物性値が並んでいる。その値はどれもが既存の合金を上回るものだった。

 

「成る程、興味深い。しかしこれで私に一体何を望むのかな?」

 

彼がそう尋ねると、目の前に座る金髪の男は微笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「商人を相手に言葉で勝てると思うほど私は傲慢ではありません。単刀直入に申し上げる、γ合金の精製技術をお渡しする代わりに我々を支援して頂きたい」

 

「連邦と事を構えるつもりかね?」

 

その可能性は極めて低いと考えつつも敢えて彼は口にした。何しろ少なくない金塊を使って態々連邦軍の高官と接触を図ったのだ。対決を安易に望む短絡的な思考の持ち主ならもっと別のことに使うだろう。案の定金髪の男は頭を横に振る。

 

「その様な大それた夢は見ておりません。ですが我々は只在るだけでも力が必要だ」

 

「力ならもう持っているだろう、地球圏へ戻ろうとするほどに」

 

メラニーがそう切り込むと金髪の男は苦笑しつつそれを否定する。

 

「残念ですが彼等は我々と袂を分かちました。だからこそ私がここに居るのです」

 

「…ほう、それは詳しく聞ける話かな?」

 

「情報は時として物質以上の金銭的価値を生むと考えております」

 

食えない返事にメラニーは鼻を鳴らすと口を開いた。

 

「詳細が話せぬならこの商談は受けられん。我が社は地球連邦政府の庇護を受ける企業だからね」

 

そんな心にも無い事を言ってやれば、相手は小さく溜息を吐き口を開く。成る程、交渉に向いていないという自己評価は正しいようだとメラニーは思った。

 

「我々が地球圏を離れた時点で、アクシズが収容限界を迎えるのは明白でした。その為戦前から行われていた火星調査部隊と合流し、火星にも居住地を設けようと言う話になったのです」

 

計画の当初は順調だったのだと男は言う。穏健派はもとより武闘派も現実を見た事で今の国力では到底連邦に抗えないと自覚した事から、先ず国力の増強という目標に向かって一応の意思統一が成されていたらしい。

 

「事態が動いたのは84年以降です」

 

地球における治安維持部隊。事実上のジオン狩り部隊の手から逃れるために多くの残党がアクシズに流入した。問題はその多くが逃亡しなければ危ないと自覚している過激派だったことだ。

 

「政治的対立を避けるため、我々は二つに分かれたのです」

 

少数派だった穏健派はそのままアクシズに残留、そして過激派を糾合した武闘派は火星支部を拠点としてミネバ・ラオ・ザビを旗頭にマーズジオンを名乗りだしたのだそうだ。

 

「ミネバ。ああ、ザビ家の遺児だったかな?しかし彼女は…」

 

以前見た資料にそうした人物が居る事をメラニーは思い出す。だが彼女は戦中に生まれたと記録されている。つまり7歳の子供だと言う事だ。

 

「現在は母君であらせられるゼナ様が後見人として取り仕切っていることになっております」

 

「傀儡か」

 

「仕方の無い事だったのです」

 

地球圏から逃れてきた者達の証言で近くアクシズへ連邦の艦隊が派遣される事も聞き及んでいた為に、徒に戦力を消耗する訳にはいかなかったのだ。そうやって穏便に分かれた後に更なる問題が降りかかる。

 

「そこにあの事件か」

 

火星調査に向かった連邦艦隊との戦い。憎き連邦を打ち破った事実はマーズジオンに所属する者達の戦意を大きく向上させ、肥大した自信は行きすぎた行動に繋がった。即ち地球圏への帰還、連邦との対決である。

 

「現在穏健派である我々にも協力要請が来ております。尤も内容は前線基地として使うためにアクシズを寄こせというものですが」

 

今の所はアクシズまでの物理的な距離とまだ同胞であるという自制心から直接的な武力行使にまでは至っていないが、それも時間の問題だろうと彼は言う。

 

「つまり君達はマーズジオンから身を守る為に戦力を欲していると」

 

「地球圏にとっても悪い話ではない筈です。何せ圏外でジオン残党同士が勝手に争うのですから」

 

「だが君達が取り込まれれば我が社の兵器が地球圏に牙を剥く事になる」

 

「そのリスクが無いとは申せません。だからこそMSを頂きたいと言っております」

 

メラニーの白々しい物言いにも感情を高ぶらせる事無く男は答えた。その様子にメラニーはアナハイムエレクトロニクスの会長ではなく、一個人としての計算を始める。状況からして彼の言葉に偽りはない。メラニーの口にした懸念を目論んでいるならば、連邦軍へ接触する必要は無いからだ。そして生産設備ではなくMSという完成品の要求は戦力の把握を容易にする事で胸襟を開いているつもりだろうし、何より鹵獲されても増産は困難だ。そして何より彼の言う通り地球圏外でジオン同士が争う事は彼等にとって歓迎すべき状況だ。

 

「良いだろう、君達が良い客である限り支援を約束しよう」

 

連邦軍の技術開発部門が革新的な構造材の開発に成功したとの報告も受けている。それを考えればこのγ合金は非常に得難いカードだ。83年の一件以来、連邦軍がアナハイムへと向ける視線は厳しく、特にMS関連の技術に関しては開示情報に極端な制限がかけられている。旧ジオン系の技術やガンダム開発計画時に開示された情報から独自に技術研究を進めてはいるものの、確実に技術格差が進行している。そして今後を見据えるメラニーにしてみれば、連邦軍が技術面で独走することは許容しがたい事態である。

 

「有り難うございます」

 

「礼を言うのはまだ早いな。今の所約束できる支援は私個人としてのものだ。それ以上となれば相応の相手を納得させる必要がある。当然不介入よりも遙かに勝ち取るのは難しい」

 

「理解しているつもりです」

 

その返事に頷くと、メラニーは椅子へ体重を預けて目を閉じる。そして自らの考えを吐露した。

 

「君達の掲げるであろう圏外における自主独立は恐らく叶わないだろう。考えてもみたまえ?経済の中心がコロニーへと移りつつあり、あらゆる物が宇宙で賄われつつある。もしここで地球連邦政府が君達を認め、スペースノイドの手綱を緩めたらどうなる?」

 

「……」

 

金髪の男は沈黙で応じる。それを気にせずにメラニーは口を動かす。

 

「スペースノイドが一致団結するなどと言うのは絵空事だ、それはあの戦争が証明してみせた。ならば起こるのはサイド同士の経済格差を背景としたスペースノイド同士の戦争だよ」

 

「…地球を巣立った人類でもですか?」

 

「宇宙へ上がった程度で人の業が薄れるものか。完全に平等な社会が実現しない以上、人間は争う事を止められん。つまり人類は人類である限り永劫戦い続けると言う事だ」

 

そう言って彼は小さく息を吐く。結局の所、長期に渡って人類が平和を謳歌しようというのなら外交を必要としない単一の統治機構は必要不可欠なのだ。

 

「我々が火星の先へ進むには今暫くの時間が必要になるだろう。しかしその時は必ず訪れる。地球を離れる以上、それ以外の場所へ広がる外無いのだから」

 

「我々に争う意志が無くてもですか」

 

「言っただろう?君達の考えや在り方などこの場合何も関係ないのだ。君達が存在すること自体が火種となる」

 

「……」

 

「寧ろ私としては君達がそこまで自主独立に拘る理由が知りたいね。連邦政府の支援を受けた方が遙かに生活は安定するだろう。それを拒んでまで何を欲するのかね?」

 

メラニー・ヒュー・カーバインは商人である。その思考は利益の追求に始終している。故に彼等の行動にメラニーは疑問を覚える。敢えて自らの利益を捨ててまで自主独立に何を求めているかと。

 

「自らの生き方を自ら決めたい、そう思うことが不思議でしょうか?」

 

「その気持ちは解る。だがそれは未来の可能性を潰してまで求めるものなのかね?」

 

「私達の選択がそうだと?」

 

「他にどう聞こえるかね?自主独立、成る程耳心地の良い言葉だ。だがそれは地球連邦政府の庇護を振り払うという意味でもある」

 

一年戦争と呼ばれる7年前の戦争によって人類は総人口の32%を失った。宇宙世紀開始以来開拓され人類第2の故郷となっていたコロニー群のうち4つが壊滅的な被害を受け、経済においても莫大な損失が発生した。だがそれは80年という宇宙開拓の結果、停滞を起こしつつあった生産活動を再燃させる事となる。コロニー落としによる地球環境の悪化とそれに伴う環境税の増額は所謂中流層と呼ばれる人々の宇宙移民を促す事となり、更に皮肉にも地球至上主義者やスペースノイド独立論者の多くが大戦で旗頭を失った事で両者の軋轢は宇宙世紀開始以来最も緩和されている。加えて中流層の宇宙移民は無視しがたい量の資本を宇宙へ移動させる事となり、その資本を背景に議席を得ていた地球連邦議員はスペースノイド寄りの政策を提案するという、スペースノイドにとって好循環とでも言うべき環境が整いつつある。だからこそメラニーはここで更なる一手を欲した。

 

「君達は良いだろう、それを自ら望んだ世代だ。乏しい資源にも儘ならぬ生活にも納得出来るだろう、何故なら自分で望んだからだ。だがその子供達はどうかね?」

 

メラニーの言葉に男は表情を硬くする。

 

「生きるのに精一杯の生活に不満を覚えぬ者など居ない、そんな彼等に君達はどう告げるのだ?自分達で自分の事を決められるのだから、不自由な生活を甘んじて受け入れるべきだと?それで本当に自ら望まずその環境に置かれた者達が納得すると?」

 

テーブルの上に置かれたグラスを持ち上げてメラニーはライトに中身を翳す。なんの変哲も無いミネラルウォーター、だがそれも地球連邦政府の築き上げたインフラと地球という資源があって初めて成り立つものだ。

 

「物的に満たされた上で自らの行動に誰かの意思が介在する人生と、自らの意志で行動出来ようと貧困から制限を求められる人生。果たして人はどちらが幸せなのだろうな」

 

メラニーの言葉に男は黙ったままだった。




世間話回、メラニーと話してるのは一体何トロ・バジーナなんだ…。
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