WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今年も有り難うございました。


136.0087/01/30

「宇宙人共が。随分調子に乗ってくれたな」

 

バーミンガム級2番艦、リヨンの艦橋でバスク・オム大佐は嗜虐的な笑みを浮かべた。根拠地であるコンペイ島を出発して4日、彼の指揮する艦隊は月軌道に接近しつつあるフォボスの進路上に展開し、迎撃の準備を整えていた。

 

「警告は?」

 

「次で3度目です」

 

「終了次第全艦一斉攻撃」

 

「はっ!」

 

バスクの命令に異論を挟む者は居ない。十分な選抜によって編成された彼の直轄部隊はジオン残党に情けを掛けるような愚者は存在しないからだ。

 

「警告文、送信完了!」

 

「撃て」

 

報告と同時に攻撃命令が下され、眩しい噴射炎を発しながら夥しい数のミサイルがフォボスへ向かって放たれた。

 

「着弾予想時間は?」

 

「5分後です」

 

「ミサイルを撃ち尽くした艦は後退しMSを展開、艦隊の直掩に回れ」

 

「はっ、…直掩でありますか?」

 

バスクの指示に副官のジャマイカン・ダニンガン少佐が初めて戸惑った声音を発する。発射したミサイルの数は500を超えその大半が対要塞用弾頭である。更に内50発はMk82戦術核を使用する念の入れようであったから、ジャマイカン少佐は先制攻撃で敵の戦闘能力を十分に奪えると考えていたようだった。しかしそんな楽観をバスクは一言で切って捨てる。

 

「相手が格下だからと無礼て掛かるのは馬鹿のすることだ」

 

バスクはスペースノイドを劣等種だと本気で思っているし、ジオンは皆殺しにしてもまだ足りない程憎んでいるがそれで相手を過小評価する程無能ではなかった。まして連中には3年前に辛酸を舐めさせられているのだから、慎重に慎重を重ねるくらいでは全く足りていないとすら彼は考えていた。

 

「それから艦隊周辺にビーム攪乱幕を展開。連中の機体は速いが武装はビームだ、MS隊に上手く使うよう伝えろ。宇宙人共にしっかりと身の程を弁えさせてやれ」

 

コロニーを植民地だと考え、スペースノイドはそこに住まう劣った人々であるという考えを持つ人間が居ることは事実だ。それは何故かと問われれば、そもそも宇宙世紀における宇宙移民の始まりが原因である。自由主義の下で進められた資本主義経済は途方も無い経済格差と莫大な資源の消費を引き起こした。そして同時にそれは貧困層の人口爆発を誘発する。金が無いのに子供を作るのか?と思えたのならその人物は幸運だ、何故なら子供が簡単に死ぬ存在だなどと考えもして居ないからだ。足りない食糧、不衛生な環境、十分な教育を受けぬままに行う就労は容易に若い命を刈り取っていく。彼等にとって幸運であり人類にとって不幸だったのは、技術の発展と富裕層の気まぐれで死んでしまうはずだった命の多くが繋がれた事だろう。そして同時に与えられた資本主義経済による消費を覚えた彼等を養うには地球は些か狭すぎた。

 

「このままでは我々も連中と共倒れだ」

 

最初に考えたのは誰だったのか、だがその危機感は多くの富裕層に共感される事となる。

 

「じゃあ出て行って貰おう。なに、住む場所くらいは用意してやるさ」

 

こうして国際連合は地球存続と言う大義名分を掲げ宇宙移民を推進することとなり、それを行えるだけの権限を与えられた組織、地球連邦政府へとその身を変える。少なくない反発を受けながらもこの発足が支持されたのは、既に所謂発展途上国の多くが経済的に行き詰まっていたことに加え、宇宙移民は地球連邦政府に帰属した全ての国家で平等に割り振られたからだった。尤も先進国はその割り当てを経済支援の一環として発展途上国に押しつけられるという抜け道がしっかりと用意されていた訳だが。

 

「住む場所も仕事もくれてやる、共に大いに発展しようじゃないか。勿論自由経済に則ってね!」

 

宇宙移民を棄民・植民地政策だと批判する声は根強いが、地球に残る事が出来た富裕層からすれば的外れな僻みだとしか思えなかった。何故なら宇宙へ送られた人間の大半はこのまま地球に残っていたなら遠からず飢えて死ぬ筈だったのだから。そんな連中に態々コロニーという多額の税金を投じた新天地を用意してやり、剰え食べていくための仕事まで用意してやったのだ。感謝される事はあっても恨み言を吐かれる所以など何処にも無いと言うのがアースノイドの偽らざる本心であった。だからこそコロニーへの移民が順調に進んだ所で新しいコロニー建設の費用を食えるようになったスペースノイドにも負担させようと言う意見が出るのも彼等にとっては当然の事で、それが大きな反発を生み出すなど想定外の事だったのだ。

 

「ミサイル着弾まで残り30びょ――」

 

オペレーターの報告が終わるよりも早く、その光景はモニター越しに艦橋へと伝えられた。フォボスへ向けて放たれたミサイル群が次々と火球へ変じたのである。

 

「迎撃されたのか!?観測班何をしていた!」

 

「ミサイル攻撃は継続!兎に角撃ち込め!MS隊には警戒を怠らないよう厳命しろ!」

 

動揺するジャマイカン少佐を尻目にアームレストを強く握りながらバスクはそう叫ぶ。火星での一件で連中がNTと呼称するサイキッカーを組織的に運用していることは経験していたし、何より連邦の抱える同様の部隊が83年の観艦式襲撃において同様に核ミサイルを迎撃して見せたことは前線に身を置く指揮官にとって周知の事実だった。故にバスクの理想はミサイルによる敵戦力の漸減であったが、本命は戦力の拘束である。モニターを睨み付けながらバスクは素早くこの後の展開を予測し、矢継ぎ早に指示を出した。

 

「後退しつつ艦隊の陣形を組み直す。ビーム攪乱幕とミサイルを絶やすな!監視班は全周囲索敵!MS隊は攪乱幕の効果範囲に注意――」

 

そこまで彼が口にした所で、艦隊の外縁に展開していたMSの一機が突如として爆ぜた。

 

「攻撃!?何処からだ!」

 

「ふ、不明です!それらしい兆候報告されておりません!」

 

ジャマイカン少佐が悲鳴混じりの確認を行う間にも更にもう一機、同じ様に外縁に居た機体が撃墜される。それを忌々しげに見ていたバスクはアームレストを一度強く殴り付け、そして屈辱的な決断を下す。

 

「全隊、攻撃を継続しつつ全速後退!MS隊もだ、フォボスに向かって兎に角何でも撃ち込め!」

 

「大佐!?」

 

明らかに失点となる命令にジャマイカン少佐が驚きの声を上げる。無論そんな事はバスク自身も承知の上である。だがジャマイカン少佐と彼には決定的な違いがあった。それは指揮官としての才覚だ、漸く戦力の充足を済ませたばかりなのだからここで無意味に戦力を損耗する方が失点として大きいのは明白である。

 

「観測班は索敵を継続!敵の攻撃方法を見つけ出せ!」

 

そう叫び大きく深呼吸を繰り返したバスクは冷えた頭で状況を精査する。そうして現状というパズルにピースがはまる度に彼の口角がつり上がる。

 

「見えない敵、正体不明の攻撃、沈黙を続ける敵要塞…。成る程な」

 

非常によく似た状況を思い出し彼は最後のピースをはめ込む。艦隊は安全圏まで下がったのか敵からの攻撃も止んだ。

 

「MS隊を回収後全艦反転、コンペイ島へ戻る」

 

落ち着きを取り戻した彼の命令に艦橋要員達は困惑する。そんな彼等に向かってバスクは不敵な笑みのまま口を開いた。

 

「特殊能力者には特殊能力者だ。スペースノイドが進化した人類だ等という幻想を先ず打ち砕いてやる」

 

 

 

 

「我々に合流せよと?」

 

UG宇宙方面隊の敗走、そんな凶報にもかかわらずグリーン・ワイアット大将は欠片も動揺していない様子で命令を告げてきた。

 

『うん、どうやら連中はNT部隊を投入しているようでね。是非専門家の助力を、とのことだよ』

 

地上方面部隊はエルラン中将旗下の戦力であるが、その彼が懇意にしているのがワイアット大将である。その為UG内の派閥としてはワイアット派と目されている。尤も現場の彼等にしてみればUGの最高責任者はワイアット大将なのだから、彼の決定に従うのが当然なのだが。

 

『それでは月への抑えは如何するのですか?』

 

『そちらはフォン・ブラウンで再編された部隊を充てるそうだよ』

 

不明瞭な物言いにブライト・ノア中佐は表情筋が動くのを必死で抑えた。ワイアット大将の言葉に強い派閥闘争の匂いを感じたからだ。

 

『ジャミトフ少将の所の部隊でね、先日偶然救助された連邦兵を再編した部隊だそうだ。技量の方は保障する、とのことだよ』

 

胡散臭いを通り越してあからさまに怪しい部隊の出自を口にされ、通信に参加していた全員が我慢しきれずに顔を顰めた。MIA認定された兵士が奇跡的に救助されて復帰することが無いわけではない。しかしそれが部隊規模になるなど先ずあり得ないし、そんな連中がルナツーではなくフォン・ブラウンで再編される事など絶対にない。

 

『君達が留守にしている間くらいは代わりを務められるだろうとのことだ。任務後はそのままそちらの部隊の戦力として合流させて構わないとも言っている』

 

成る程そう言う事かとブライトは納得した。バスク大佐が敗走した相手を旗下の部隊が撃退したとなれば泣き付かれたワイアット大将の評価は上がるし、その上隠し球の戦力まで差し出されたのだから笑いが止まらないだろう。

 

『私の都合も否定はしない、だが現実的にNT部隊を相手取るならばこちらも相応の戦力を投入しないわけにはいかん。それは承知して欲しい』

 

そう言われてはブライト達に反論の余地は無かった。NT部隊を運用している彼等だからこそ、その脅威と相対した一般部隊の悲惨さは十分過ぎる程理解出来ているからだ。

 

『議会の野党連中がまた騒ぎ出す前に片付けてしまいたい。バスク大佐の艦隊も君達の出撃に合わせて――』

 

そうワイアット大将が言葉を続けようとした矢先、通信にノイズが混じる。オペレーターへ視線を向けると慌てた様子で担当の曹長が口を開いた。

 

「電波ジャックです!軍の帯域まで使っている強力なものが!」

 

「合わせられるか!?」

 

ブライトは嫌な確信と共にそう問い返す。直ぐに通信に使っていた物とは別のモニターに映像が映し出された。

 

『我々の望郷の願いは連邦軍の手によって阻まれようとしています。しかしこれが連邦市民の総意だとは思えません。心ある皆様にお願いしたい、どうか我々を受け入れては頂けませんでしょうか?』

 

幼い少女がそう切々と訴える。まるで争いを望まぬかのように、あたかも自らが被害者であると言うかのように。

 

『私の名はミネバ・ラオ・ザビ。マーズジオンの代表者です。どうか地球の皆さん、共に手を取り合う未来を目指しては頂けないでしょうか』

 

少女は赤い軍服に身を包みながら、そう訴え続けていた。




皆さん良いお年を。
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