『あんなものは時間稼ぎだよ!融和だ共栄だと言うなら何故最初からこちらの呼び掛けに答えなかったと言うんだ!?』
『軍の対応に問題があったのでは?UGは治安維持部隊を名乗っていますが、その実ジオン狩り部隊だとの噂も流れています。実際に地球では――』
暢気な言い合いを続けるワイドショーを見ていたら、横から伸びた手がリモコンを取ってテレビを消してしまう。手の持ち主へと視線を向ければ、不機嫌そうなクリスチーナ・マッケンジー大尉がこちらを睨んでいた。
「良い所だったのに」
「TPOを弁えなさいよ」
んなこと言われましても。
「ワイドショーが何を言おうが俺達の仕事は変わらないんだ。そう割り切れば中々愉快なコメディーだよ」
火星での一件を事故と処理したのが裏目に出たな。おかげでUGが先に手を出した様な論調が生まれている。そのせいで連邦議会では再び野党が融和と対話、なんて言葉で政権批判をしている始末だ。たった7年で人は随分と忘れることが出来るらしい。まあ彼等にしてみれば政府を批判出来れば理由は何でも良いのだろう。何しろ目的は正しい政治をする事ではなく、自分が権力を握りたいだけなのだから。
「アンタはそうでも周りは違うと言っているのよ」
マッケンジー大尉の言葉に周囲を見回せば、アムロ・レイ中尉を筆頭に幾人かが苦笑していた。なので首を回して彼女にぼやく。
「ウチには正義の怒りをぶつけているお花畑なんて居ないと思うがね?」
そりゃあ俺だって故郷を滅茶苦茶にしてくれたジオンなんざ皆死ねば良いと思っているが、それと任務は全く別の問題だ。兵士が自分の感情と判断によって相手を殺したら、それはもう戦争じゃない。
「ええそうね。でも貴方は自分の影響をもっと考慮すべきよ、ここからは私達だけではないでしょう?」
その言葉に思わず溜息が漏れる。第13独立部隊は随分と大所帯になった。その内訳も原作を知っている人間ならチートと言いたくなる精鋭である。問題はそのトップエースの一角に俺が数えられていて、軍としては最も推しだしている存在だという事だ。結婚式にエルラン中将どころかワイアット大将まで参列しやがったし、TV局まで来やがったからな。UGに従軍記者は流石に居ないが、何処で誰から俺の噂が売られるか解ったもんじゃない。流石にホワイトベース内では無いとは思うが。
「マッケンジー大尉の懸念もごもっともってヤツでしょ、少佐。あのワイドショーを面白がって見ていた。なんて話が出れば、尾びれや背びれどころか手や髭まで生えて魚がドラゴンになって伝わるかもよ?」
「そう言った方向の想像力は凄くたくましいですしね」
確かにな。
「その内シーマ中佐達と行動しているだけで親ジオンにでもされちまいそうだ」
カイとアムロの意見に苦笑しながらそう答えた。別に俺は彼等を許したわけではないし、殊更友好に接しているつもりもない。だが裏切り者の元ジオン兵を区別せずに扱うだけでも許せない人間や、それを拡大解釈して勝手な英雄像を俺に押しつけたい奴だって居るだろう。面倒な話だと思いつつ、俺はシューズのマグネットを切って体を浮かせる。
「ちょっと!何処に行くの!?」
「格納庫、機体の調子を見てくる」
マッケンジー大尉の不機嫌な問いかけにそう答え、俺は部屋を後にした。
「それでこっちに逃げてきたと」
「戦略的撤退は賢い選択だろ?」
コックピットに収まったディック・アレン少佐は開き直ったかのようにそう答えた。
「ま、部屋に引き籠もるよりは健全ですかね?」
「一応待機中だからトレーニングって訳にもいかんしな」
想定されている接敵地点までは凡そ1日程の距離である。既にパイロットには警戒態勢が言い渡されていて、常時1小隊が即応待機している状態だ。従来の想定からすれば随分と早すぎる移行だったがこれには訳があった。
「ドミンゴの航続距離とアムロ達の索敵能力が合わされば十分襲撃可能な距離だ」
可変機構によって高い機動力を獲得したドミンゴの作戦行動範囲は従来のMSを遙かに上回るものであり、ミノフスキー粒子下で問題となる索敵能力の低下もNTパイロットの搭乗で克服出来てしまう。オーガスタ基地ではこの状況を極めて憂慮すべき問題として報告しているのだが、連邦軍上層部の動きは芳しくない。UG内で徹底されているのだけはせめてもの救いだ。
「コンペイ島の一件が変な方向で自信を付けさせちまったな」
十分なMSと艦艇があればMS単独の特攻など十分対処出来る。それが連邦軍における共通認識だった。仕方の無い事だろう、傑出した個人による襲撃を防いだのが居合わせた部隊の力ではなく、同じく理不尽な技量を持った個人によって成されたなど知られては、巨大な組織を維持する予算を獲得出来ない。それは既得権益を獲得している上層部にとって都合の悪い真実だったのだ。結果圧倒的な個人という存在は多数の凡人に勝ち得ないという誤った認識が蔓延する事になる。
「実際の所、少佐はどう考えているんです?」
「メガ粒子砲の技術はこっちが先行しているからな。同じ火力が出せるとは思いたくないが、正直希望的観測って所だろう。それにそこまでの火力が無くたって十分脅威だ」
オーガスタで研究が続けられているバスターランチャーは、技術発展に伴い当初予定されていた火力をMSに携行させる事に成功している。即ち小規模な艦隊ならば一撃で殲滅しうる火力を単独のMSが獲得しているのだ。しかも核ミサイルと異なりこの装備は使い切りでは無い。
「唯一の救いは、実行するにはパイロットに高い技量とNT能力が必要って事だが。これだってアレを見る限り何処まで期待出来るかって話だ」
マーズジオンはNT兵士の実用化に成功している。その事実はNTの脅威を正しく認識している人間に少なくない動揺を与えていた。当然連邦軍における唯一の研究機関に対する圧力も高まっていて、既存のやり方は手ぬるいのではないか等という意見まで出ているそうだ。尤もその研究を優先するという題目によってカミーユやリタ、ヨナ達を戦場に連れ出さずに済んだのだからマイナスばかりではないのだが。
「…実際の所、どう見ます?」
「んー、連中の主力機相手ならまあ問題ねえよ、ウチの連中はそんなにヤワじゃないからな。問題はそれより厄介なのが出てきた場合だ」
「厄介なのって」
聞きたくない言葉にロスマンは思わず顔を顰めた。だが少佐の言葉は止まらない。
「あの量産機、動きは良いようだがNT用の機体としちゃ物足りないと思わなかったか?」
「それは、連中がNTを通常戦力として扱えているからでは?」
ロスマンの希望的観測に対しアレン少佐は頭を振ると言葉を続ける。
「その考えがそもそも間違ってる。そもそも連中が何故NTを通常戦力に置きたいと考えているかって事だ」
「それは、兵士個人が強力な方が都合が良いからでしょう?」
当たり前すぎる事を指摘され、ロスマンは思わずそう言い返す。するとアレン少佐は眉を寄せながら再び口を開いた。
「強い方が都合が良いのは何故か。簡単だよな、強い方が生きて帰ってくる可能性が高いからだ。つまり連中は態々手間を掛けてでも優秀な兵士を育てて戦力の消耗を抑えようとしている。その筈なのにあのMSは明らかに間に合わせの機体だ。つまりパイロットに対する前提と食い違っているんだよ。恐らくあれは数合わせの為の間に合わせだろう」
そう言って少佐は嗤う。
「今頃フォボスの中でせっせと専用機を用意していることだろうさ、俺ならそうする」
少佐の言葉にロスマンは顔を引きつらせた、それを否定する言葉が見つからなかったからだ。
「ゼナ、君がいながらなんというっ!…いや、そんな事が言える身ではないか」
ドリンクのボトルを握り潰しながらクワトロ・バジーナはそう自嘲する。穏健派にとって火種でしかないとは言え、ザビ家の遺児だからと武闘派が連れて行くのを自分達は承知したのだ。ならばその扱いに義憤する権利など持ち合わせていないだろう。
「…しかし、解せんな」
フォボスは率直に言ってそれ程大きな天体では無い。何しろ彼等の拠点であるアクシズと比較しても更に小さいのだ。軍事拠点としての設備や防衛機構を考慮すれば生活空間はコロニー1基にも満たないだろうし、当然そうなれば駐留できる戦力も限られる。とてもではないが各サイドに加えルナツー、そして旧ジオンの保有していた宇宙要塞を保有する地球連邦に対抗出来るとは彼には思えなかった。
「そもそもだからこそ連中はアクシズを求めていたのではなかったのですか?」
「事情が変わったのでしょうが、一体どんな手を使ったんだ?」
彼の言葉にロベルト中尉とアポリー中尉が疑問を口にした。そんな二人にクワトロは小さく溜息を吐くと口を開く。
「現段階では情報が少なすぎる。当面はメラニー氏の思惑に乗るしかないだろう。他に頼る伝手も無い」
「まさかあの木馬と肩を並べる日が来るとは思いませんでしたよ」
「それも連中が無事帰ってくればだけどな」
「…帰ってくるさ、連中ならな」
確信めいた声音でクワトロは呟く。その表情はサングラスに隠れてどの様なものなのかは解らなかった。
明けましておめでとうございます。
本年も細々とやっていきますのでよろしくお願いいたします。