WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


139.0087/02/02

「風見鶏共が!!」

 

信号弾を放つ命令を下した後、ジャマイカン・ダニンガン少佐は罵りの言葉と同時にアームレストを思い切り殴り付ける。彼にしてみてもこの命令はあまりにも不本意なものだったからだ。

 

「今更連中の言葉を信じるだと?白々しい!」

 

表向きは彼等の言葉を信じるなどという綺麗事で取り繕っているが、その内実が全く異なる事であるのは明白だ。何しろ今の連邦政府を構成している議員には経済基盤をスペースノイドに頼っている者も少なくない。そして幾人かの有力な議員の中には、ジオン共和国から政治献金を受けている者もいる。尤も複数の企業を経由して送られているそれは、表向き地球連邦の企業からのものにロンダリングされているが。

 

「連中は7年前に起こった事をもう忘れているらしいな?羨ましい記憶力だ」

 

苛立ちを皮肉に変換しジャマイカンは口から吐き出す。軍人としては政治家寄りの思考をしている彼から見ても、今回の命令はあまりにも危機感の欠如したものだったからだ。

 

「連中の言い分を受け入れて、サイド3への帰属を認めるだと?馬鹿共がっ!」

 

しかも武装解除はジオン共和国で行わせるとの通達である。度しがたい命令に思わずジャマイカンは命令書を二度見したほどだ。

 

「馬鹿が、馬鹿共がっ。二虎競食でも気取ったつもりか?連中は全く以て何も解っていない!」

 

現在のジオン共和国はダルシア・バハロ首相の下極めて順調に経済成長を続けている。結果、彼等から資金提供を受けている議員の発言力は伸び続けており、派閥の鞍替えを行う議員まで出る始末だ。大方それにより自派閥の縮小を懸念した議員がジオン共和国内での内紛を期待してザビ家の遺児を掲げる連中を投げ込もうとしているのだろうと彼は予想する。同時にそれがあまりにも近視眼的な行動であるとも察していた。

 

「馬鹿共が、袂を別ったと本気で信じているのか?…連中はどちらもジオンなのだぞ!」

 

MSを引き、L2宙域へと移動を開始するフォボスをモニター越しに睨みながら、ジャマイカンは呻く様にそう漏らすのだった。

 

 

 

 

「何があったんです?」

 

着艦と同時に俺は艦橋への回線を開きワッツ少佐に問いかけた。不自然なタイミングでの戦闘中止、しかも追撃してきていた敵の部隊はそれを見てあっさりと引き下がった。つまり連中はこうなることをある程度予想していたと言う事だ。

 

『議会からだよ、詳細は今確認中』

 

「マジかぁー」

 

積極的な宇宙移民政策の成功がここに来て仇になったな。コロニーの再建や新造においてサイド3は重要な役割を担ったのだが、それが彼等に特需として金を握らせる事になってしまった。ここで忘れてはならないのが、サイド3の議会は終戦後一新されるなんて事も無く戦時中の議員が殆どそのまま続投していることだ。そもそも首相であるダルシア・バハロからして公職から追放されていないのだからそれより下の議員がそんな目に遭うわけがないのであるが、それはつまりサイド3の独立を望んでいる人間の多くがそのまま残っている訳である。そんな連中に金を握らせればどうなるか?その端的な解答が今の状況である。

 

「聞かなかった事にとか出来ませんかね?」

 

『今の発言は聞かなかった事にしておくよ』

 

だよな。フォボスの連中がどういう訳か高い技術力を持っているのは間違いない。そして今なら数の暴力で強引に磨り潰せるだろう。だがもしここでサイド3の生産力が加わったら?コロニーレーザーとダークコロニーこそ解体処分したものの、この7年でジオン共和国は規制緩和の下順調にコロニーを増やしているし、他サイドから出稼ぎを積極的に受け入れている。水や空気は相変わらず地球からの輸入であるが、戦前に就役した独自の木星船団の運用継続まで認められている。こちらは半分近くが復興支援の名目で地球連邦側に卸されているが、船団の管理は共和国に丸投げな上に碌に監査すらされていない。はっきり言おう、ジオン共和国はその気になれば木星圏やアステロイドベルトを極秘に開拓し、水資源を確保出来る状況になっている。無論ジュピトリスクラスの大型輸送船でも一回に持ち帰れるのはコロニー1基にも満たない量だろうが、重要なのは地球以外の供給源を持つ事が出来るという事自体なのだ。

 

「議員先生方は忘れてるんですかね?連中は一度戦争を仕掛けて来てるんですが」

 

ジオン国民はザビ家に騙された?冗談じゃねえよ、自分に都合の良い話にこれ幸いと乗っかっただけじゃねえか。望まない結果が出たら騙されました被害者ですなんて信じられる訳がない。

 

「今度は勝てると思えば、連中は絶対またやりますよ?」

 

『アレン少佐、それでも僕達は地球連邦軍の士官だ。そうだろ?』

 

常日頃から皆に吹聴している言葉をワッツ少佐に言われ、俺は奥歯を噛みしめる。俺達は地球連邦政府の暴力装置、自分の正義のために武器を振るえばそれはもうテロリスト。俺の言葉だ、俺が言い聞かせてきた言葉だ。だがその考えが俺の中で揺らぐのを感じる。今ここで連中を殺せば、後の大戦を防げるかもしれない。多くの死者を出し、再び地球へコロニーが落ちるあの悪夢を止められるかもしれない。そんな考えが俺の思考を支配する。そうだ、今この瞬間、このタイミングなら。命令を不服とした大馬鹿一人の命で、あの未来を変えられるんじゃないか?

 

『アレン少佐?』

 

ワッツ少佐の呼び掛けに答えず、俺は機体の状態を確認する。切り離してしまったバックパック以外ほぼ全て正常。推進剤が心許ないが、フォボスに突っ込むくらいはありそうだ。装備したままのビームライフルもまだ残弾があるし、ビームサーベルも残っている。

 

「…やっちまうか」

 

この世界に転生したと解った瞬間、俺は何とか生き延びる事を考えた。その結果俺は原作より4年も長く生き延びた。けれどその4年の為に、どうやら俺は自分の命より大事な物が出来てしまったらしい。何とも間抜けな話であるが、そうなってしまったのだからしょうがないだろう。俺が覚悟を決めてコントロールスティックに手を掛けた瞬間、コックピットハッチが強制開放されるとヘルメット内に怒声が響いた。

 

『とっとと降りてこいこの馬鹿少佐!!整備が始められないでしょう!』

 

言いながらコックピット内に滑り込んできたロスマン大尉が俺の襟首を掴み機外へと放り出す。

 

『オプションは無限にある訳じゃないんですよ!?気楽にポンポン捨ててくるな!』

 

意表を突かれ空中を漂う俺に向かって彼女はそうまくし立てる。そんないつも通りの態度に俺は折角決めた覚悟が鈍るのを感じた。畜生、やっぱ死にたくねえな。

 

『…ちょっとは頭が冷えた顔ですね』

 

コックピットから出てきたロスマン大尉が仁王立ちでつまらなそうにそう言ってくる。機付きの整備長はパイロットのコンディションや緊急時の為にパイロットの通信を聞く権限を持っているから、おそらく俺とワッツ少佐の話を聞いていたのだろう。そして降りてこない俺が良からぬ事を考えていると行動したのだ。降参の意味を込めて俺がヘルメットを取ると、一度頷いた彼女がキャットウォークを蹴って俺に近付いてきてにやりと笑いヘルメットのバイザーを上げた。

 

「私の整備した機体で死ぬとか止めて下さいよ、奥さんに恨まれます」

 

「そいつは考えてなかったな。今後も善処はさせてもらうよ」

 

そう返すと彼女は頷き俺を通路の方へ押す。質量差があるから本来彼女が弾かれるのだが、ウェイトコントロールが巧みなのだろう。上手くその場に留まって、ロスマン大尉は声を掛けてきた。

 

「宜しい、そんじゃとっとと報告に行って下さい。機体の方は次の出撃に間に合わせておいてあげます」

 

彼女の言葉に手を上げて答えると、背中からもう一度声が掛けられた。

 

「本当の英雄なんて少佐には似合いませんよ!軍人をしているのが相応ってヤツです!」

 

俺はその言葉に送られながら艦橋へと急いだのだった。

 

 

 

 

「では我々は一度スノーフレークへ帰還ですか?」

 

『ああ、そこで増強戦力と合流後に地球へ戻れとの事だ』

 

伝えられた命令にブライト・ノア中佐は一瞬顔を顰めた。地球まで戻ってしまえば万一の場合に即応する事は絶望的であるし、制宙権が不確かな状況での大気圏離脱など好き好んでやりたい事では無かったからだ。

 

『政府としては我々を下げることで誠意を示しているつもりなのだろう。伝わるとは思えんがね』

 

それでも部隊の一部を地球まで下げたというのは解りやすいパフォーマンスであり、国民へのアピールになるだろう。そしてペガサス級で構成された第13独立部隊が最も低リスクで大気圏離脱が行えるのも事実だった。

 

「政府が決定した以上、後手に回らざるを得ませんか」

 

『あまり悲観し過ぎるな、中佐。UGの宇宙方面部隊はそのまま監視を続けるし、何より連中の行先がサイド3ならばこちらの取れる手段だって多い』

 

戦争終結後も宇宙軍にとって主となる仮想敵はジオン、つまりサイド3だった。故に宇宙軍の保有する各要塞はサイド3本国を直接攻撃可能な戦略兵器が配備されているし、武装蜂起された場合を想定した行動マニュアルも策定されている。しかしそれは人類が再び二つに分かれて争う事を意味していた。

 

「どちらにせよ気乗りしない状況になりそうですね」

 

『我々が意気揚々と職務に励める状況よりはよっぽどマシさ。だろう?』

 

ローランド大佐の皮肉に笑って応じながら、ブライトは思考を切り替えて口を開いた。

 

「それで、合流する部隊も同道するとのことですが」

 

『ああ、形式上は我々の部隊に編入される事になる。戦力としては艦艇1隻にMS隊が2個小隊だそうだ』

 

「艦艇、地球に降ろせるのですか?」

 

『なんでもアナハイムの試作艦らしい。例のアイリッシュ級のテストベッドという話だが、ミノフスキークラフトを装備しているから問題ないそうだ』

 

「試作艦ですか、どうにも我が隊はそうしたものと縁深いですね」

 

『それだけ信頼されているという事にしておこう、我々の精神衛生の為にね』

 

二人の苦笑と共に通信が切れると、タイミングを見計らったように入り口のドアが開きディック・アレン少佐が艦橋へと入ってくる。

 

「どうした、少佐?」

 

彼の表情からブライトは少し身構えて尋ねる。するとアレン少佐は真面目くさった表情で言い放つ。

 

「例の正体不明の攻撃ですが、何なのか解りました」

 

彼がいる限りこの部隊に厄介事は舞い込み続けるだろう。ブライトはそんな確信を溜息と共に痛感するのだった。

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