WBクルーで一年戦争   作:Reppu

14 / 152
14.0079/09/23

「やあ、久しぶりだ。士官学校以来かな?どうした、赤い彗星?」

 

久しぶりに見た友人に対しガルマ・ザビは気安げに話し掛けた。司令部として接収した高級ホテルの一室はその名に恥じぬ設備を有しており、大きな不満は無い。強いて挙げるとすれば窓から眺める景観の殆どが瓦礫に変わっている事だろう。それも軍の支援の下で再建が進んでいるから近い内に改善される。

 

「その名は返上しなければならないようだよ、ガルマ。いや、地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐、と言うべきかな?」

 

らしい物言いを聞いてガルマは少し安堵する。パトロール艦隊の一つが壊滅した事は既に宇宙攻撃軍経由で聞き及んでいた。艦艇3隻にMSを12機喪失。シャアの乗艦が辛うじて残りは拾い上げたとは言え、この損害は軽視出来るものではない。立案した友人も流石に落ち込んでいるかと考えたが、彼はガルマの想定以上にタフらしい。

 

「士官学校と同じガルマでいい。しかし、護衛がいたとは言え君が出てこの有様とは」

 

「木馬も強力な艦だが、それよりも搭載されているMSだ。特に白いMSは完全に我が方のザクを圧倒している。私も愛機を失う羽目になった」

 

「それ程か」

 

そう言ってガルマは唸る。シャアがジオン軍全体で見ても指折りのエースである事は疑うべくもない。その彼が機体を失ってでも仕留められなかったMS。その価値は極めて高いと言わざるを得ない。

 

「…可能ならば鹵獲したいが」

 

「加減をして戦えるような相手ではないよ。ジャブローへの直行を阻止して君の軍管区へ降下させられたのは僥倖だった」

 

「よく覚えておこう。連戦続きの君に休めと言ってやりたいが、状況を考えれば難しいな」

 

そう言うとシャアは肩を竦めて見せる。

 

「大佐殿は人使いがお荒いようだ」

 

「名誉挽回の機会を与えると言っているんだ、励みたまえ少佐。迎えを出すからこちらへ合流してくれ」

 

「了解した、よろしく頼む」

 

通信が切れたのは確認しガルマは素早くコンソールを操作する。程なくして副官に通信が繋がる。

 

「私だ、宇宙攻撃軍のコムサイが一機降下してくる、迎えのガウを出せ。それから木馬の位置は確認出来ているな?」

 

『はい、ドップの出撃準備も整っております』

 

副官の言葉にガルマは頷く。

 

「ではドップ隊は即時発進し木馬と接触しろ。ただし目視のみで良い、攻撃はするなと伝えろ」

 

『宜しいのですか?』

 

そう聞き返してくる副官にガルマは真剣な表情で応じた。

 

「相手はザク一個中隊以上を退ける艦だ、それも赤い彗星を含めてな。軽々しく当たれば徒に戦力を消耗するだけだ。今はこちらが位置を把握しているとプレッシャーを掛けるだけでいい」

 

戦力の逐次投入が下策である事は地球降下後に痛いほど経験しているし、兵士が休息無しに真面な力を発揮出来ない事は自分自身が士官学校時代に経験済みである。

 

「戦力を削ぐのは何も直接殴りつけるだけではない」

 

ガルマは微笑みながらそう口にした。

 

 

 

 

「塗装は大分剥げちゃったけど、装甲自体は問題無し。各部のアクチュエーターも損傷していない。何より赤い彗星とやり合って生きて帰ってきてるのよ?それだけで大金星だわ」

 

ロスマン少尉の言葉が耳朶を打つ。けれど俺は何も返す気になれなかった。そんな俺の様子が気に入らないのだろう、ロスマン少尉は更に言葉を続ける。

 

「貴方はテストパイロットでしょう?機体を無事持ち帰る義務がある。それを果たしたのだから――」

 

「胸を張っていろ、かい?」

 

堪えていない、こんなのは全然堪えちゃいないさ。だってそうだろう?キタモト中尉は原作に出てこなかった。つまり彼は本来ならサイド7で死んでいたんだ。だから本来死んでいた人間が死んだだけ。予定も何も狂っちゃいない、ジャブローに降りられはしなかったが、降下したのは北米だ。つまり原作通りの展開じゃないか、ホワイトベースはここからだってちゃんとジャブローへたどり着く。

 

「勘違いだよ、ロスマン少尉。俺は落ち込んでなんかいないさ、最善を尽くした結果だからな」

 

そう言って俺は笑う。そうだ、落ち込んでなんかいない。だから慰めるなんて事は止めてくれ。

 

『ディック・アレン少尉、ブリッジまで出頭下さい。繰り返します、ディック・アレン少尉――』

 

立ち上がりそうロスマン少尉に告げると同時に呼び出しが入った。重力によって移動が制限される事を煩わしく感じながら、俺は格納庫を出てブリッジへと向かう。途中で通った食堂から子供の泣き声が響いていたが、俺はそのまま気にせずブリッジへと向かった。

 

「先ほどの戦闘でキタモト中尉がKIAになった。よって最先任である君にMS隊の部隊長を任せる」

 

「了解であります」

 

心労を隠せていない表情でそう告げてくるブライト・ノア大尉に向かって敬礼で応じる。ブリッジの雰囲気も随分悪い。無理もないか、サイド7を出港して以来初めての戦死者だ。新人や素人ばかりの集団で不安や悲しみを制御しろと言うのが無理な注文なのだ。

 

「パイロットの人選にご意見はありますでしょうか?」

 

「…?いや、特にはない。その辺りも含めて少尉に任せる」

 

俺がそう聞くと、一瞬怪訝そうな顔をするもブライト大尉はそう答えた。そうか、意見は無いのか。

 

「了解しました。申し訳ありません、早速部下を掌握したいと思います」

 

「ああ、頼む」

 

俺は再び敬礼をするとオペレーターに話し掛ける。

 

「すまないがパイロット全員に右舷待機室に集まるよう連絡してくれ、それから試験を受けた候補者も頼む」

 

「了解です」

 

「助かる」

 

礼を言うと俺はブリッジから退出して右舷待機室に向かう。ホワイトベースは左右の格納庫にそれぞれMSを収容しているから、緊急時の事を考えるとどちらかの格納庫のパイロット待機室に人員を集めた方が効率が良い。理想を言わせて貰えば格納庫は1ヵ所に纏めてくれた方が良いがそれが叶うのはまだ先になるだろう。再度食堂の前を通るが、既に子供の泣き声は聞こえなかった。泣き止んだのか、それともただ単に移動したのか、確認する勇気を持っていない俺はそのまま待機室へと向かう。

 

「…あっ、アレン少尉」

 

部屋には既に右舷格納庫組、ガンダムとキャノンのパイロットが集まっていた。何か言いたげなアムロ伍長がそう俺を呼んだ、左舷組が来るまではまだ時間があるだろう、世間話をするには丁度良い。

 

「なんだ?アムロ伍長」

 

「その、すみませんでした」

 

そう言って頭を下げるアムロ伍長。それを見る俺ははっきり言って困惑していた。彼に謝罪されるような事は何もされていないからだ。

 

「いきなりどうした?」

 

問い返すとアムロ伍長は悲しげに目を伏せながら口を開く。

 

「あの時、僕は後部格納庫に居たんです。他の皆はそれぞれの格納庫に戻ってて、だから」

 

ああ、成程ね。

 

「キタモト中尉が出撃するのを、止められませんでした。それで、中尉が…」

 

自分が止めなかったから中尉が死んだ、か。馬鹿な話だ。

 

「アムロ伍長、君の階級は?」

 

「え?」

 

「階級だ、君の階級。覚えているだろう?」

 

「は、はい。伍長です」

 

そうだ、伍長。これから先伝説になるであろう、歴史に名を絶対に刻むであろうこの少年。だが彼は、今はただの伍長に過ぎない。

 

「キタモト中尉は中尉だ、解るか?君より5つも階級が上だ。軍においてこの階級差は絶対と言って良い」

 

俺の言葉を同じ部屋に居るジョブ曹長もカイ一等兵も黙って聞いている。

 

「君が中尉を止める権利があるとすれば、彼が明らかな軍規違反を犯そうとしている時くらいのものだ。中尉はホワイトベースのMS部隊長、当然その中には自身の出撃に対する権限だって含まれる。まあつまりだ」

 

そう言って俺は彼の肩を叩く。

 

「彼は自己の判断で出撃し、君にはそれを止める権限なんて無かった。結果は残念な事になったが、それを君が気に病む事など何一つ無い。これは彼の責任において完結している話なんだからな」

 

先の作戦でMSの全体指揮を執っていたのはキタモト中尉だ。変化する状況に対応し采配する権利が彼にはあり、その結果を負う義務があった。ならばその先に発生した彼の戦死は彼の責任である。それ以上に責任を負うべき人など居ないのだ。

 

「中尉が死んじまったのは中尉の自己責任だって言いたいのかい、少尉さん?」

 

カイ一等兵が据わった目でそう問うてくる。

 

「薄情なこったね、アンタブリッジまで行ったよな?じゃあ、食堂の前も通ったはずだ。聞こえなかったかよ?キッカの泣く声がよ!」

 

聞こえたさ、だがそれがどうした?

 

「だからなんだ?アムロ伍長が中尉を止めて、皆仲良くくたばった方が良かったか?それともその子を泣かせない為に、他の誰かが死ねば良かったのか?」

 

「あの時アンタはまだ外に居たじゃねえか!アンタなら何とか出来たんじゃねえのか!?誰も死ななくても良いような、そんな――」

 

どいつもこいつも、好き放題言いやがって!

 

「随分と買ってくれているようだがな、カイ一等兵。これが俺だ、仲間の危機を颯爽と救うなんて事も、それが出来なかった事を俺のせいだと言い張る事も出来ない!その程度の人間なんだよ!」

 

慰められて、罵倒され、自信なんてありゃしないのに今度は部隊の面倒まで任される。しかもあっさりと丸投げだ。

 

「俺がスーパーヒーローにでも見えたか?残念だが俺は凡人だ、神算鬼謀も超絶技巧も持っちゃいない。そして」

 

そう、そして。

 

「今日から俺が部隊長だ。恨むなら己の不幸か、俺に死ねと命じず自分が死ぬ事を選んだ中尉にしてくれ」

 

何でも良いから殴りつけたくなる衝動を拳を固く握りしめる事で堪える。これがどんな感情に起因するものなのか、俺自身にも解らない。けれどキタモト中尉なら、少なくとも何かに当たるような事はしないだろう。彼の死に対して責任を負うつもりなんて無いが、部隊長の責任を果たすだけの義務が今の俺にはある。一度大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。拳をゆっくりとほどき、胸の前で腕を組む。

 

「世間話はこれで終わりだ。全員が揃ったら今後についてミーティングを行う。ただしここは敵の勢力圏だ。突発的な状況もあり得るから、休める時は休んでおけ」

 

そう言って俺は椅子に座ると目を閉じる。呼び出された面々が全員集まるまで、部屋には沈黙が訪れた。




エロイ話ばっかり書いていたら友人にお前本業を疎かにしてんじゃねえ!ちゃんとガンダム書けって叱られてしまいました。反省。
…あれ?本業?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。