WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


142.0087/02/13

「へー、じゃああのクワトロ大尉はセイラさんのお兄さんって訳かい?」

 

クワトロ・バジーナとエドワウ・マスが同一人物かもしれない。深刻な表情でそう口にしたセイラ・マス少尉はクリスチーナ大尉と共にNT組と模擬戦を行っている。因みにアムロとカイは模擬戦をした直後からクワトロ大尉がシャアじゃないかと俺に聞いてきていた。てか何で俺に聞く?まあ知ってるけどさ。

 

「なんだか複雑ですね」

 

スポーツドリンクを飲みながらカイの横でモニターを眺めていたアムロがそう漏らす。そこには言葉と裏腹に原作のような感情は見えてこない。まあ一年戦争で幾度か戦ったが因縁らしいものは生まれなかったからな。

 

「父親がジオンの政争に巻き込まれて亡くなったそうでな。どうもザビ家へ復讐するためにジオンへ潜り込んだらしい」

 

信じられない奇跡の積み重ねによってエドワウ・マスとキャスバル・レム・ダイクンが同一人物である事を知っているのはこの世界で今や俺とセイラ・マスだけだ。キャスバルは公式には既に死んでいる事になっている上に、エドワウはドン・テアボロの実子となっているからだ。ドン・テアボロの政治的手腕と戦後の混乱による各種データの欠損に助けられた形である。俺としてもヤツに今更キャスバルを名乗って貰っても困るので、クワトロとして大人しくしている内は黙っているつもりだ。セイラ少尉も巻き込んでしまうしな。

 

「行動的だねえ。んで今度は連邦軍に潜り込んで何しようっていうのかね?」

 

何をするね。

 

「多分何もしたくないからここに来たんじゃないか?」

 

「へ?」

 

「ジオンが選民思想をこじらせていたのは知っているだろ?一部の優秀な人間が人類を導くってヤツだ。そんでクワトロ大尉は一年戦争で赫々たる戦果を挙げた部隊指揮官な訳だ」

 

正直彼の能力はそれ程指導者に向いているとは思えないんだがな。小隊指揮を見ていても単騎駆けをしている時の方が生き生きしているし。それでいて能力自体は全く無い訳ではないから神輿として担ぐには重すぎる。俺は腕を組むと溜息を吐いて話を続ける。

 

「そんな彼が逃げた先は無い無い尽くしのアステロイドベルトだ。大歓迎だったろうな、誰からも解りやすい形で優秀さを示した奴がのこのこやって来たんだ。面倒事は全部ひっくるめて押しつけようなんて考えた馬鹿が居ても不思議じゃない」

 

「じゃあシャアはアクシズの責任者という立場を嫌って逃げてきたと?」

 

目を細めながらアムロがそう口にする。シャアって言っちゃったよこの子。

 

「客観的に自分を見ることが出来ているんだろうさ。クワトロ大尉はどう見ても指揮官止まりで指導者の器じゃない」

 

ぶっちゃければ指揮官としても適性は低いと思う。彼は間違いなく優秀だし自分より劣った人間が居ることも理解しているが、そんな自分より下の人間が解るように行動出来る程には優れていない。簡単に言えば人を使うのが下手なのだ。

 

「そんな奴が指導者になれば遠からず破綻するのは間違いない、余裕がなければ特にな」

 

「随分少佐はクワトロ大尉を買ってるんだな。殺し合った相手なのにさ」

 

「お前達と違って俺は最初から軍人だったからな」

 

苦楽を共にしたテストパイロットの友人達や試験部隊の同僚、俺なんかのことを買ってくれていたキタモト中尉。キム兵長なんて直接奴に殺されているし、ホワイトベースの艦橋要員だってそうだ。だが彼がそうしたように俺もシャアの親しい人間を殺しているだろうし、軍人はそれを受け入れる事を納得した上で職務に就いている。だからその過程で起きた死の責任や奪われたことに対する怒りを奪った相手にぶつけてはならないのだ。

 

「まあ、俺はそうだがお前達までそうでなきゃならんとは言わん。だがコイツに袖を通し続けるなら、その間だけは胸に留めて外には出すな」

 

「やれやれ、とんでもねえ仕事を選んじまったよ」

 

そう言って溜息を吐くカイの肩を叩く。察しの良い彼のことだ、もう今更他の生き方が選べないのは解っているだろう。

 

「そんな訳で今は心配しなくて良いし、クワトロ大尉として扱って構わない。セイラ少尉もそれで一応納得してくれた」

 

「そうですね、家族で殺し合うのなんて見たくありません」

 

アムロの何気ないその呟きは、いつまでも俺の耳から離れなかった。

 

 

 

 

「失礼を承知で言わせて貰えば、NTなんて呼ばれている子達より少佐の方がよっぽど不気味ですね」

 

「おい、ヒルダ」

 

遠慮の無い本心を吐露するヒルダ・ビダン少尉をフランクリン・ビダン中尉が慌てた様子で窘める。だがそれを聞いたテム・レイ少佐は寧ろ笑いながらヒルダ少尉の意見を肯定した。

 

「最近はめっきり予言の回数も減っていたからな。一年戦争の時なんて酷いものだったぞ?それこそ戦争を始まりから終わりまでを全部知っていた様だったよ。もし彼が居なかったらホワイトベースは今頃スペースデブリにでもなっていたかもしれない」

 

「予言、と言うヤツですか。与太話の類いだと思っていましたが」

 

ここに君達が呼ばれたのも本当は彼の進言があったからだと告げたら彼等はどんな顔をするのかと一瞬興味が湧いたが、それを口にするほどテムは分別の無い男では無かった。故に話題の軌道を修正する。

 

「ともあれアナハイムから提供された技術のおかげでボトルネックは解決するだろう。これでMkⅤの実用化に目処が立つ」

 

「はい、それにムーバブルフレームの改善も見込めますから、MkⅡやⅢも性能向上が見込めるでしょう」

 

アナハイムエレクトロニクスから齎されたガンダリウムγ合金の精製技術。これにより構造材業界はパラダイムシフトを起こしつつある。これまで主流だった超硬スチールやチタンセラミック複合材に変わってガンダリウム合金や超軽量な部材としてマイクロハニカム構造材が十分採用できる価格帯に下りてきたからだ。

 

「ヤシマ重工としては歯がゆいだろうけどね」

 

製造工程の基幹技術に他社の特許が関わるとなれば当然利益率は下がるから、それは無理のないことである。尤もこのままでは概念実証機やワンオフ紛いの超高級機にしか採用できない状態であったし、市場の拡大を考慮すれば受け入れるだろう。何せ拒否すればその市場をガンダリウムγに奪われてしまうのだから。

 

「それで、例の新フレームですが」

 

「ああ、どうだね?」

 

「検討してみましたが、恐らく可能であろうとの事でしたので、試料の製作を依頼しています。恐らく今週中には提出出来るだろうとの事です」

 

「うん、とは言え機能的には既に確立されているものだからね。検証が済み次第フレームの製造も依頼する事にしよう」

 

会話を続けながらも釈然としない表情のヒルダ少尉を見て、テムは無理もないかと内心苦笑する。彼女は構造材に関するプロフェッショナルであり、若いながらその才覚を示している人物だ。そんな彼女からしてまだ使えるかも解らない技術だったマイクロハニカム技術が少佐の進言で軍民協同開発となり、開発が難航すればボトルネックの解決策を少佐が持ち込んでくるのだ。これで彼が自らと同様のプロだと言うならまだ納得のしようもあるが、あくまでその知識は多少話の通じる程度のものでしかない。

ここに止めの様に既存の概念から逸した構造材の提案に加えて実用化の道筋まで提示されたとなれば、出鱈目を通り越して恐怖すら覚えても不思議では無い。そしてそれにテム自身ある程度共感出来るからこそ冒頭の発言も流したのだ。

 

「性急ではありませんか?確かにサイコミュは実用化された技術ではありますが、今回の試みは未知の部分も多い。十分に検証を重ねるべきではありませんか?」

 

そうフランクリン中尉が慎重論を口にするが、残念ながらテムは聞き入れるつもりは無い。

 

「君達は戦後からの付き合いだから無理はないのだけれどね。アレン少佐達は戻ってきてから一般シフトに戻っていないだろう?」

 

即応部隊だとは言っても兵士とて人である。平時であれば訓練や基地内での任務もある程度考慮され軽いものになるのだが、宇宙から戻って来た第13独立部隊の面々はそのまま戦闘シフトを続けている。新たに加わった人員の教育と説明されているがそうで無い事など彼等と共に戦い続けているテムにはお見通しだった。

 

「アレン少佐は今回の一件がまだ全く終息していないと考えているんだろう。そしてこと戦争中に出る彼の予言はとても良く当たる」

 

そこでマグカップを手に取り中身を飲み干す。温くなったコーヒーの不味さに頬を吊り上げながらテムは言葉を続ける。

 

「その上でだ、開発が進んでいない機体のボトルネックを解消するような技術を彼が持ち込んできた。しかも進捗を確認するおまけ付きでね。つまりあれは、次の戦いに機体は間に合うかと聞いているのだよ」

 

「いや、しかしそれは…」

 

「フランクリン中尉、君の懸念も理解している。自分が保証出来ない半端な機体を前線に送るなど技術者として恥以外の何物でもないからな。だが連中の機体を見ただろう?」

 

試料として提出されたマーズジオンとの交戦映像、その動きはこちらの主力であるMkⅡの動きに匹敵し、一部であれば凌駕すらしていた。

 

「MkⅡであれなのだ。サイド3で本格的な量産が始まれば一般部隊では対処出来んだろう」

 

MkⅡを主力として配備出来ている部隊はUGを含む一部の特務部隊だけだ。その他の部隊では近代化改修を施したジム改ならば良い方で、下手をすれば未改修の機体も多く運用されている。

 

「一年戦争はまだ数の暴力が機能した戦いだった。だが今はどうだろうか?」

 

数と言う要素が無力になったとは思えない。だが同時に絶対的な優位を保証するものであると言い切れなくなっているのも事実だ。

 

「数倍、数十倍という数を覆す戦闘能力を持ったMS、しかも製造されたのは外宇宙だ。ならばそのスケールに合致した性能も有している可能性は高い」

 

単独での長距離航行能力にサバイバビリティ、これに先程の性能が加わればどうなるか?

 

「監視の目を掻い潜ってほんの数機地球に降下させるだけで連中は我々に致命的な打撃を与えられる可能性がある。だから少佐はこう言っているんだ、それを上回る高性能機を準備しておく必要があるとね」

 

テムの言葉に今度こそ反論は返ってこなかった。

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