WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


144.0087/02/20

時間が経つのは早いもので、アーガマ隊が合流してから2週間以上が過ぎていた。赤い彗星とその子飼いの部隊と言う事で事情を知っている一部の人間が緊張していたのだが、カミーユ達と楽しくシミュレーションをする姿に毒気を抜かれてしまいすっかり放置している。我が隊の誇るNT様達曰く。

 

「全く邪気を感じません。思い切り楽しんでますよ」

 

「私達の置かれている状況に猜疑心があったようですけど、ここが特別なんだって気持ちを整理したみたいです」

 

「偶に自罰的な思考に落ちてるみたいですけど、少なくともこちらへ害意は無いですね」

 

とのことである。クワトロ良い空気吸ってんな。

 

「あ、でもカイさんに狙撃されるとすっごい複雑な感情を向けますよ」

 

そらな?でも表だってカイに絡むことも無ければ皆が言っている様に悪意を向ける事は無いらしい。まああれは戦争の中でのことだし、ガルマ・ザビを殺さなければあの時死んでいたのは俺達の方だ。それにあの戦闘で奴自身も俺達の戦友を殺している。それについて恨み言やそうした感情を持つこと自体が筋違いである事と、そう自制するくらいにはちゃんと軍人をしているらしい。それから案外年下に慕われるのは嫌いじゃないようで、NT研組からの模擬戦のお誘いは全部受けているそうだ。まあ俺達の場合、基地での基本業務が割と余裕があるし、元々能力も高いから振られている程度の仕事ならあっさり終えているようだ。はっきり言って報告書の内容は部隊内で1・2を争うくらいには読みやすい。

 

「よう、大尉。今日もシミュレーションか?」

 

「アレン少佐。ええ、カミーユにゼータは宇宙で使えるか試して欲しいと」

 

「おー、あれな。おかげで最近ドミンゴの開発チームが凄い顔してるぞ」

 

安価であるがドミンゴよりも遙かにピーキーで乗り手を選ぶ失敗MS。正式採用も勝ち取っていたから当初そんな上から目線でゼータを見ていた開発チームだったが、クワトロ・バジーナ大尉の登場でその状況が大きく変わりつつある。何せこの大尉殿はセイラ少尉やウラキ中尉、それにジェリド少尉と比べても頭一つ所ではないくらいMSの操縦が上手い。そんな彼から動きを学習した教育型コンピューターのデータがフィードバックされることで、ゼータの扱いにくさが大幅に緩和されつつあるのだ。その上前述の元教育係達が目の前で自分の上を行く操縦を見せられた事で色々と着火。シミュレータールームでは今密かにゼータブームが到来していたりする。

 

「贔屓目ではありますが、私としてはゼータの方が良い機体に思えます」

 

「はっはっは、すっかり惚れ込んでるな!」

 

まあ気持ちは解らんでもない。ドミンゴは元々高高度迎撃機、つまり運動性よりも上昇性能を重視して設計された機体をベースに設計されているから、加速性や重武装に対応出来る一方で小回りは利きにくい。更に大気圏内での高速運用が前提だったためにフレーム剛性が高く取られていてその分余裕のない設計になってしまっている。ムーバブルフレームを採用し出力や武装の強化を外付けで対応しやすい分従来の機体に比べれば大分ましなのだが、量産とアップデートを前提に設計されたMkⅡとⅢのパーツを流用しているゼータの方が拡張余裕があったりする。更に誰が教えたのか知らないが、初期案では標準搭載されていた長距離センサー類などをオプション化する事で機体の調達コストをドミンゴの半分近くまで下げている。これで一般パイロットも十分扱えるレベルまで教育型コンピューターが成長すれば、量産の可能性すら出てくるだろう。

 

「まあ熱心になるなとは言わんが、あまり入れ込み過ぎるなよ?テストパイロットの大尉に言うのは釈迦に説法だろうが、試作機なんてのは採用される方が稀なんだからな。不採用を惜しんでアナハイムにデータを持ち込むなんて事はせんでくれよ?」

 

「…まさか。これでも私は連邦の軍人ですよ」

 

俺が笑いながらそう釘を刺すと、クワトロ大尉は一瞬驚いた顔をした後にそう返事をした。なんだ、そんな事を思いつかないほど浮かれてたのか?まあいいや、これで万一の場合もちょっとした保険くらいにはなるだろう。

 

「はは、そうだったな。失言だった、忘れてくれ」

 

俺はそう言って彼と別れると会議室へ向かう。目的の部屋に入ると、そこにはアーガマ隊を除く第13独立部隊の指揮官クラスが揃っていた。

 

「穏やかじゃありませんな?」

 

ブライト中佐へそう話し掛けると彼は肩を竦めて視線をローランド大佐へ向ける。視線を受け止めたローランド大佐は小さく溜息を吐いて口を開く。

 

「バスク大佐からの要請でコンペイ島の駐留部隊へMkⅣを貸し出す事になった。勿論例の装備も含めてだ」

 

「そいつは少しばかり穏やかじゃないですな。まあバスク大佐にしてみれば当然の対応でしょうが」

 

83年のコンペに勝利したMkシリーズは当然ながらMkⅣも含まれている。とは言え運用が極めて特殊な上に維持費も馬鹿にならないこの機体は87年現在でもこのオーガスタでテストベッドとなっている試作機と正規生産された1機がルナツーに配備されるのみに留まっている。しかも2号機の方は軌道艦隊に所属しているから、UGが好きに使えるのはウチにある1号機だけだったりする。配備先としては俺もコンペイ島に置く方が効果的だと思うし実際バスク大佐も熱望していたのだが、コンペイ島には修復されたジービッグ・ザッムが割り当てられることになり、2機は過剰との事でルナツー行きとなった。まあこれは軍閥政治も絡んだ事柄なので中立を気取っている我々オーガスタとしては言われたとおりにするだけである。

 

「人員についてはあちらで用意するので機材だけで良いとのことだ」

 

「輸送はどの様に?」

 

「ケネディポートのマスドライバーを使う」

 

ケネディポートは宇宙移民計画の再始動によって新たに建造されたマスドライバーだ。連邦政府の本気を見せる意味合いもあって、現在地球に存在するマスドライバーとしてはジブラルタルの物を超えて最大である。まあ軍での運用も視野に入れているから当然と言えば当然なんだが。

 

「追加装備については先にHLVで基地から打ち上げることになる。こちらは分割できるからな」

 

ムーバブルフレームはMSの運動性能を飛躍的に向上させることになったが、一方でちょっとしたデメリットもある。それが一年戦争時代のモノコックやセミモノコックと呼ばれる方式に比べ分解がしにくい事だ。フレームそのものにも可動部を設ける構造は関節などの接合点を複雑化させ、単純な分割が難しくなっているのだ。尤もこれについて問題視する声は少なかった。交換が不可能になった訳ではないし、そもそもMSは組み立てられた状態で輸送させるのが普通だ。不平を漏らすのは戦場であり合わせのパーツでキメラみたいなMSを造り出す変態くらいだったのである。…そう、件のMSが従来通りの大きさなら。

 

「やはりMkⅣを地上に置いておくのは効率が悪すぎませんか?最悪置くにしてもダカールかラサに引き取って貰えないものですかね?」

 

軍閥政治をやるなとまでは言わんが、せめてこっちの迷惑にならん範囲にして欲しい。俺の愚痴に皆苦笑しつつ話を続ける。

 

「武装は現地で取り付けと調整を行うのでパープルトン少尉に同行して貰う。それから量産型MkⅣの件だが、正式に許可が下りたので建造を開始するとのことだ」

 

「思い切りましたね?」

 

量産型MkⅣははっきり言えば名前を騙った新型機だ。お題目は運用が限定的で高コストなMkⅣを扱いやすく低コストにブラッシュアップするというものだが、内実は強化人間専用の高性能MSである。NTに比べれば確保が容易な彼等へ高性能機を宛がうことで、NTに対抗するというコンセプトである。何しろエルラン中将の前任に当たるオーガスタ基地司令が一年戦争中にやらかしてくれたおかげで、連邦にはあちこち弄くり回された特務兵がゴロゴロいるのだ。折角投資したのだからそれらを有効活用しようと賛同してくれる糞野郎はそれなりの数になった。

 

「ワイアット大将も最悪には備えておくべきだと考えているんだろう。まあ例のブレイクスルーがあったからこそでもあるだろうが」

 

マイクロハニカム構造材の製造コスト低下は正に劇的と言えた。何せ今まで量産機に用いていたチタンセラミック複合材とほぼ同程度のコストでルナチタニウム合金以上の性能を確保出来るのである。おかげで調達価格が30%近く落ちるというのだからとんでもない話だ。因みにこの30%で一般部隊が運用しているジム改が6機は買えると言えばその重大さが理解して貰えるだろうか?

 

「後はアーガマ隊ですか」

 

「うん、最初に看破した少佐に聞きたい。クワトロ・バジーナ大尉、いや、シャア・アズナブルは信用出来るかね?」

 

信用ねぇ。

 

「前提として地球連邦軍への忠誠は期待出来ないでしょう、あくまで彼の帰属意識は別の所…恐らくアクシズにあると思われます」

 

「それはマーズジオンではないのかね?」

 

シナプス大佐の問いに俺は頭を振る。

 

「確証はありませんが、違うとした方が行動に説明が付きます。もし彼がマーズジオンの人間なら、連邦の情報を探るために潜入したとするのが妥当です。しかしだとしたらあまりにも人選が杜撰でしょう、あんな有名人を使うなど正体を看破してくれと言っているようなものです」

 

「むう…」

 

俺の言葉にシナプス大佐が唸る。実際ここに来て正体が発覚するまで1週間かからんかったからな。ついでに言えば本人に隠す気がさらさらないのも潜入という言葉と一致しない。

 

「つまり彼はシャア・アズナブルとして我々に看破される事も目的の一つであると考えるのが妥当です。その意図は恐らく地球連邦へ敵対意思の無い事のアピールでしょう、そして勢力と呼べるような、シャア・アズナブルを遣いとして使えるような人的余裕のある残党が残っているとすればアクシズです」

 

「マーズジオンとは別だと?」

 

「マーズジオンが本気で平和と和平を望んでいたならサイド3に戻る必要なんて無いんですよ。それこそ再建中のコロニーを望んだって良いし、そもそも我々と交戦してまでサイド3を目指す必要が無い。経済的な支援や保証は地球連邦の方が圧倒的に充実していますしね」

 

そうしないって事は、地球連邦政府に取り込まれる気は無いと言うことだ。それはつまり、もう一度連邦から独立するつもりである事の証明に他ならない。

 

「それらを踏まえると、少なくともマーズジオンと連邦が対立している間はクワトロ・バジーナを信用しても大丈夫ではないか、と言うのが私の意見です」

 

後はパイロット以上の重責を与えないことだろう。アイツは存外自分のことで手一杯のヤツだから、スペースノイドの未来だなんて重荷に耐えられるようには出来ていないのだ。幸い俺達はそうした思想集団では無いし、組織を引張っている立場でもない。

 

「…解った。少佐がそう言うのなら、彼等の扱いは今まで通りとしよう。今後を考えれば頼りになる戦力は多い方がいい」

 

ああ、だったらもうついでだ。

 

「でしたら彼用に機体を用意出来ませんかね?丁度執心の機体があるんですが」

 

俺の言葉に大佐達は顔を見合わせた後、小さく溜息を吐いたのだった。解せぬ。


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