「基本となるフレームは最早MSですらない。コロニー建設に使用された作業用ポッド辺りだな」
「訳が解りませんよ、確かに理論的には映像通りのスペックを発揮出来ますが、とても人間が行える所業じゃありません」
武装解除したマーズジオンのMSが共和国経由で運ばれてきたのが2日前、その機体の解析結果が出たと会議室に集められた俺達の前でロスマン大尉がそう嘆いている。因みに機体について説明してくれたのはテム・レイ少佐だ。スクリーンに映し出されているのは最早マーズジオンの代名詞となった可変型MS、ガザCだ。
「基本設計が民生品だけあって生産性は極めて高い。また極力部品を省いた構造だな、極論ジム3機分の材料でコイツは4機造れるだろう」
「制御データの吸い出しが終わり次第シミュレーションに反映します。アレン少佐、すみませんが実際に乗って確かめて頂けますか?」
「了解した」
「技術部の見解としては火力以外の性能はザク以下になるだろうと結論づけた。つけたが」
「実際には我が隊のMSと十分に渡り合ってみせていた。どう考えるね?」
ローランド・ブライリー大佐がそんな事を言いながらこちらを見る。いや、見たところでありきたりな事しか言えませんよ?
「技術部の解析が間違っているなんてのは有り得んのですから、答えは一つでしょう。相手のパイロットが人間以上だったと言う事でしょうね」
「人間以上?」
「連邦でも研究はしたでしょう?有人機の性能を引き出す上で一番脆弱な部品は人間だ、ならその人間を強化するか、あるいは…そう、あるいは人間を完全に代替する何かに操縦させればいい」
前者は強化人間、そして後者はEXAMとして連邦軍でも研究が進められていた。まあ今ではその大元をウチが握った上で安定したNT兵士の育成という実績を出し続けているから限りなく凍結に近い扱いだ。後者に至っては全容を知っていた研究者が戦死している上に残った関係者では損壊したデータの復元もままならないため廃品回収の様な扱いで我が技術部に放り込まれているのだが。
「…EXAMは元々ジオンの技術だ、残されたデータから再現される可能性はあるな」
「ですがアレの生産にはNTの犠牲が必要不可欠と言うことだったのでは?あれだけの数となれば相当ですよ?」
俺の発言にレイ少佐が顎に手を当てつつそう考察し、それに対してロスマン大尉が眉を顰めつつそう応じる。だが彼女の疑問にペッシェ・モンターニュ少尉が暗い表情で答える。
「…ジオンは大戦末期にNTクローン兵を実戦投入しています。技術的には可能なように思います」
しかし更にその言葉はクワトロ・バジーナ大尉の発言で否定された。
「いや、それはどうだろうか。技術が確立していたとしても、火星を拠点とする彼等の基盤が極めて貧弱であることは想像に難くない。その様な環境でサイド3と同等の生産設備を整えられるとは思えない」
「だが連中は1年戦争中から火星への入植を始めていたのだろう?ならば可能性はあるんじゃないか?」
どこか落ち着かない様子でヘンケン・ベッケナー中佐がそう聞き返す。それに対しクワトロ大尉は持論を述べる。
「公国に連邦と同等の経済力があり、宇宙移民計画と同じだけの資本がつぎ込めていれば可能かもしれませんが」
規模が違うのだ。前大戦の開戦時でサイド3の総人口は約12億程だった。その内火星開拓が計画されたとされるのは最初期であり、軍部が主導している。これが意味するのは火星開拓に投入された人員はコロニー1基分にも満たない人数で、しかも総力戦の片手間で行っていたと言う事である。そもそもこの火星開拓は資源確保を目的としたもので入植を前提とした移民では無い。つまり彼等は本国から支援を受けるどころか本国への物資供出を期待される立場だったのである。それこそ生活の基盤は最低限であり、優先されたのは鉱山開発や資源調査だっただろう。そこに戦後流入したのは軍人崩れと工業系技術者だ、食糧や水の管理責任者が悲鳴を上げたであろう事は想像に難くない。
「つまりNTの量産なんて不可能だと?ではこの状況はどう説明するんだ?」
…これ言うと絶対引かれるから言いたくないんだけどなぁ…
「あー、宜しいですか?」
「何だろうか、少佐」
「恐らくなんだが、最悪は皆の予想を遙かに超えていると俺は思う」
「もったいぶった言い方だな。はっきり言ってくれ、覚悟は出来ている」
俺の迂遠な物言いにブライト中佐が顔を顰めてそう言った。そうか、覚悟してるのか。なら言うぞ?
「つまりこうなる。生活基盤の貧弱な組織でNTが量産出来て、かつそいつらへ機体性能を限界まで酷使できる能力を付与出来れば現状に説明が付く訳だが」
「そうだな、そんな方法があればだが」
あるんだなあ、これが。
「普通に育てるならそうでしょう」
「普通に?」
怪訝そうな顔になったブライト中佐に俺は言葉を続ける。
「パイロットの技量差ってのは3つの要因から生まれていると俺は考えてます。一つが肉体の限界、それから経験や学習といった知識。そして最後がこれを機体動作に反映する技能です」
「何が言いたい?」
「肉体の限界について克服する方法は幾つか考案されていますが、最も簡単な方法は耐えられない部品を外してしまうことです。これだけで簡単に人間の限界を超えられる」
「おい、少佐」
「技能の克服も同時に行えます。最適化したそれに直接操作させたらいい、正に人機一体と言うヤツですね」
ここまで口にした時点で幾人かが顔を青くする。何だお前ら、もしかして人ってもっと優しい生き物だと思ってたのか?
「学習させるのも簡単です、直接書き込んでやればいい。ああ、最後の問題である製造コストですが、最適化すれば必然一人当たりに必要なカロリーも少なくなります。取り払った余計な部品をリサイクルすれば更に低コストで済ませられるでしょう。…そしてジオンは既に取得している技術でこれらを実行可能だ」
NT研究の副産物として記憶操作といった情報を脳へ書き込む方法は確立しているし、脳をMSへ直結して操作させる技術も連中は持っている。そしてベースとなる脳の培養はクローン技術を応用すれば困難な話ではない。
「そんなのって…」
クリスチーナ・マッケンジー大尉が呻く様にそう声を漏らす。人の善性を信じている彼女にしてみれば受け入れがたい内容だからだろう。だが同時にそうした技術に関わってきた軍人としての部分が俺の言葉を実現可能だと肯定してしまっているのだ。
「あの機体のパイロットからは、凄く歪な意志を感じました。でも少佐の言っている通りならそれも納得出来ます」
そう発言したのはアムロ中尉だった。
「普通、攻撃をしようとすればそこには悪意がまとわりついて来るんです。でも彼等からはそうしたものが酷く希薄で、まるで自分の意志なんて無いみたいだったんです」
寧ろフォボスから放たれたと思われるビットの方が余程悪意に満ちていたと彼は続け、近くに座っていたララァ大尉も肯定する様に頷いている。
「連中にはモラルってもんが無いのかよ」
「けっ、そんなもん持ってりゃコロニーを落とそうなんて思いつきやしねえよ」
カクリコン少尉の呻きにモンシア大尉が吐き捨てる。そんな中で腕組みをして成り行きを見守っていたシナプス大佐が溜息を吐きつつ口を開く。
「アレン少佐の言う通りだとして、問題は今後だ。共和国がその兵士を受け入れるとすれば相当に厄介な事になる」
作業機であの動きだ、戦闘用のMSに転用されればさぞ厄介な事になるだろう。だがその懸念は残念ながら少しだけ遅かったと言わざるを得ない。
「恐らくですが、既に共和国内で量産を始めているでしょう」
「馬鹿な!共和国には査察を行っているのだぞ!?その様な設備が見逃される訳がない!」
そらそのまんま培養設備なんてあればそうだろうけどね。
「簡単な話です。何処か適当な場所で量産NT兵同士でひたすらシミュレーションでもさせておけば莫大な戦闘データが集まります。後はコイツをOSに組み込んでやれば良い」
「そりゃ簡単な話なんですか?」
俺の発言に今度はカイ少尉がそう聞いてくる。だがこれも解決策が連中にはあるのだ。
「EXAMだよ。あの技術を使えばコンピューターへ兵士をコピー出来る。仮に兵士がまっさらになっちまってもまた入力してやればいい、それこそ物理的に壊れるまでな?」
「つまり、つまりだ。こう言いたいのか少佐?連中は既にNTに匹敵する兵隊を量産しつつあると」
いや、それだけじゃ足りないね。
「付け加えるなら専用のMSも準備しているというところですか。あの可変型を大人しく差し出したのが証拠です。連中は既にアレを戦力として当てにしなくて良いと考えているんでしょう」
「…少佐は彼等の目標が何処にあるとお考えですか?」
俺の発言に皆が絶句する中、クラーク大尉がそう聞いてくる。はっはっは、そんなの決まっているじゃないか。
「連中が軍備を整える理由なんて一つしかないだろう?もう一度やる気なのさ、人類を真っ二つにしての大戦ってヤツをな」
言葉に苛立ちが混ざることを、俺は止めることが出来なかった。