「懐かしいですねぇ、あの戦争を思い出す光景です」
次々と運び込まれる機体を前にして、俺の横でそれを眺めていたエディータ・ロスマン大尉が大変味のある顔で口を開いた。そうだね、正直悪かったとは思っている。
「最新鋭機どころか概念実証機まで、これ本当に大丈夫なんですか?」
同じ様にタラップで搬入作業を見ていたコウ・ウラキ中尉がそう若干引いた声音で聞いてくる。おお、あのMS馬鹿も成長したな。珍しいMSに無邪気に燥がなくなるとか、おいちゃんちょっと感動しちゃうよ。
「大丈夫だ、前は何とかした」
だから今回も何とかなると良いなぁ。
「またジムに出戻りかよ!?」
「けれどMkⅡより性能は良いみたいですよ」
「顔なんざ何だって構わねえだろ」
アルビオンに搬入されているジムⅢを見てモンシア大尉がそんな悲鳴を上げ、それをアデル中尉とベイト大尉が窘める。仕方ないんだモンシア大尉、ガンダムフェイスってセンサーが無駄に高くなるから量産には向いてねえのよ。
「おい見ろよカクリコン!俺達の専用機だぞ!」
「揺らすなジェリド、昨日詰め込んだ操作マニュアルが頭からこぼれちまう」
不穏な空気を感じているベテラン組に対して新人組は随分とテンションが上がっている。特に試作機を任されたジェリド・メサ少尉などは興奮でカクリコン・カクーラー少尉の肩を叩きまくっていた。因みに叩かれている当人は連日の慣熟訓練で青い顔になっている。
「子供じゃないのよ!燥がないの!」
そんな事を言っているがエマ・シーン少尉も自分の機体が気になるのだろう、普段は見に来ないような搬入作業の場に来ている。
「モンターニュ中尉にはサイコミュ機よりもゼータタイプの方が合っているように思えるが」
「心配ありませんよ、この機体に積まれているのは殆ど負担が無いモデルですから」
別の方向へ視線を移せば、搬入待ちをしているペッシェ・モンターニュ中尉の機体に対しクワトロ大尉が苦言を呈して、それをペッシェ中尉が苦笑しつつ宥めている。…どうやらジオン側のNT技術はこちらに追いついていないようだな。
「何とかMkⅣ改は1機だけ間に合ったが、MkⅤは駄目だ。こんな事ならパープルトン少尉を出向させなければ良かったよ」
「改はアムロ中尉に任せます。アムロのMkⅢはハヤト、お前さんに任せる。いけるな?」
「はい、任せて下さい」
近付いてきたテム・レイ少佐からの報告に俺は近くで見ていたハヤト・コバヤシ少尉へ向けてそう言った。ハヤトは笑みを浮かべながら力強くそう応じる。
「それで、英雄殿の作戦目標はどんなだね?」
「それ程大仰な話じゃありません。言わば今回は時間稼ぎですよ」
マーズジオンがこちらへ喧嘩を売ってこなかったのはまだ準備が整っていない、つまり今の連邦軍でも連中はまだ勝てないと判断していると言う事だ。ならば先ずは連中の準備を妨害してやればいい。
「生体部品の培養なんてのはデリケートで不安定です。大量生産を前提とするなら必ず工業部品に置き換えるでしょう。ですがコイツの代わりとなれば相応のモノが必要です」
言いながら俺は自分のこめかみを人差し指で叩く。栄養さえ与えていれば勝手に出来上がってくれる反面、俺達の頭に詰まった生体部品は電子的な工業品に比べ生産スピードに劣るし、品質も安定しない。短期間で戦力を増やそうとする場合に最適とは言い難い選択だ。
「何故そう言い切れるね?既に連中は大量配備を済ませているだろう?」
「あれは多分見せ金に近いブラフですよ。尤もあの数が既に揃っている事自体は厄介ですがね」
本当に量産出来る状況になっているのなら連中はサイド3を頼ったりせず、即座に制圧していただろう。態々2頭体制なんかにすれば意志決定に時間を要し、それだけ地球連邦に準備の時間を与えることになるからだ。
「つまり?」
「理想は連中の尻尾を掴む事ですが、最悪は工業用コロニーへの破壊工作ですね」
出来ればこういうことは本職の特殊部隊にやって欲しいんだが、そっちもまだ動かせないらしい。よって俺達が訓練中の事故に見せかけてあちらのコロニーへ侵入、物的証拠を掴むか、それが無理な場合コロニー自体を破壊する事になる。
「失敗すれば社会的な批難は免れんな」
「コロニーをまた落とされるよりはマシでしょう」
俺の返事に周囲が静まりかえる。お、どしたん?
「…失礼、少佐殿。今の発言をもう一回伺っても宜しいかしら?」
額に手を当てながらそんな事を聞いてくるクリスチーナ・マッケンジー大尉を見て、そういえばこれは伝えていなかったことを思いだした。
「ああ、言ってなかったな。もう一回戦争となれば連中は必ずコロニーを落とすぞ」
現在のサイド3は水と空気を地球に頼っている。当然戦争になればこれらの供給は絶たれるので連邦に頼らない供給元が必要になるのだが、サイド3全てを賄いきれる程の供給元は地球以外存在しない。つまり連中は開戦すれば必ず地球へ侵攻しなければならないのだ。そう告げるとチャック・キース中尉が口を開く。
「その、他のサイドへの輸送分を略奪すれば良いのでは?」
「そうしてくれた方が連邦としては有り難いんだ、だから恐らくやらんだろう」
そんな事をすれば一年戦争と同じくジオンは再び孤立する。無論そうして入手した物資を交渉材料に従属を迫る事だって出来るだろうが、他のサイドを寝返らせれば今度はそのサイドへの連邦からの供給は止まる上にジオンがそれらの面倒を見る事になる。だから遅かれ早かれ独自の供給元が必要になるのだ。
「そもそも一年戦争と違って今回は奇襲が難しい。その上強力な新兵器を用意したと言っても連中が寡兵なのは相変わらずだし、何より短期決戦なんて事は絶対に不可能だと連中は思い知っている。加えてサイド3には修理中のコロニーが何基もあるんだ、二つ三つ弾頭に仕立てて投げつけてきても何ら不思議じゃない」
「でもそれは条約違反です!」
エマ・シーン少尉がそう叫ぶ。真面目な彼女には少しばかり刺激の強すぎる内容だったようだ。
「エマ少尉、君の言う条約は地球連邦政府とジオン共和国との間で結ばれたものだ。また戦争をしようなんて連中がそれを律儀に守ると思うか?」
「しかし現実的な問題として条約を無視すればこちらもサイド3への核攻撃が可能になります」
「残念ながら連中がNTを量産している時点で核攻撃は成功の見込みが無い」
クラーク大尉の言葉に俺はアムロ・レイ中尉を見ながらそう答える。視線に気付いた中尉が頷き、それを見た大尉は表情を硬くする。83年の観艦式で起きた一幕を思い出しているのだろう。
「でもよ少佐、連邦の核は10や20じゃないだろ?一斉に使えば防ぎきれないんじゃないの?」
「かき集めりゃそれこそ万にだって届くだろうがな、集めて一斉にとなりゃかなり時間が掛かる。それまで連中が大人しく待っていると思うか?」
かといって逐次投入では間違いなく迎撃される。
「故に今回の任務で確実に証拠を掴む必要がある。連中の準備が整わない内に叩き潰す、これが最善だ」
「だから見つけられなければ犯罪者になってでも連中を止める、ですか」
「そうだ、ただし実行は俺の命令を待て」
「……」
そう俺が口にすると察しの良い連中が睨んでくる。けれどこればかりは譲れないため俺はにらみ返しつつ再度口にする。
「言っておくがこれも上官命令だからな?従えないって奴は命令不服従で謹慎処分だ」
更に視線を厳しくする彼等に、俺は一転して意地の悪い笑みを浮かべて言葉を続ける。
「安心しろ、お前等のために人身御供になるなんて殊勝な事は考えてねえよ。俺ぁこう見えて連邦軍の英雄様だぞ?多少の醜聞なんざ組織の体裁のためにもみ消して貰えるのさ」
「ほっ!さっすが一年戦争の大英雄!俺達とは格が違わぁ。な、キース!」
「うぇ!?あ、ええ、あの、そうですね?」
そんな俺の台詞に陽気な声音でモンシア大尉が合いの手を入れながらキース中尉の肩を叩く。そしてその何とも間の抜けた遣り取りに緊張していた空気が少しだけ緩んだ。
「まあ、とは言うものの成功するに越したことはない。そんな訳でパイロット諸君、出発前に最終確認と行こうじゃないか」
俺は一度大きく手を叩くと皆に向かってそう告げる。すると大半は真剣な、そして幾人かは苦笑しつつ頷いた。本当、俺は仲間に恵まれたな。
「そいつは結構ですが少佐殿、困難な任務に当たるには覚悟だけでは足りないと小官は愚考する次第であります」
「ほう、何か腹案がありそうな物言いだ。いいぞベイト大尉、発言を許可する」
悪い顔をしているベイト大尉に敢えてそう言えば、彼はしたり顔で口を開く。
「古来より兵士の士気を高めるのは食う、飲む、遊ぶと相場が決まっております。とは言え時間的に最後は難しい。そして宇宙へ上がれば暫くは我慢が続きますな?」
こういう時やはりベテランの存在は有り難い。軍隊というものに慣れている彼等は不条理や理不尽と上手く付き合えるし、場の空気をほぐす手助けもしてくれる。戦歴で言えばホワイトベース隊も大したものだが、やはりこうした部分ではまだ本職には及ばない部分がある。
「宜しい、部下の慰労も上官の務めだ。今日の夕食は俺が奢ってやる!」
そう宣言してやれば若い奴らも歓声を上げる。そんな彼等を見て、俺は改めて決意を固める、再び地獄の蓋を開かぬ為に。