「確信したぜ!アンタやっぱ馬鹿だろう!?」
「黙ってないと舌噛むぞ!」
「いっぱい来るよ!?」
コックピットの中で姦しく言い合いながら、俺はコントロールスティックを操作する。俺の乱暴な入力に対し機体は驚く程滑らかに、そして最小限の動きでレーザーを回避する。
「気持ち悪いなこの機体!?」
〈〈怒〉〉
「アリスが怒ってるよ、アレン謝って!」
「オイオイオイ!前からも来てやがるぞ!?」
「大丈夫そっちは味方…」
言い切る前に鳴り響くロックアラートに、今度は信じられない程乱暴な動きで機体が鋭角に軌道を変える。ほほう、AIのくせにやるじゃないか。
「きゃん!?」
「んが!?」
リニアシートが殺しきれなかった慣性に導かれ、プルとリョウが頭をぶつける。ヘルメットは大事だと良くわかる光景だ。
『所属不明機に告ぐ、本宙域は現在連邦軍が演習中である、即刻退去せよ。警告に従わない場合実力行使に移行する。繰り返す―』
「ほんとに味方なのかよ!?」
「味方だよっ!」
でなければとっくに無力化されているわ。ウチのエース達を甘く見るなよ?警告を無視して俺は宙域へと飛び込んで行き、その俺を追うように3機の可変MS、クワトロ大尉達が続く。その後方から追撃してきていた共和国軍の部隊に対し、連邦軍のMSが行く手を阻む様に展開した。
『こちらは共和国防衛隊503大隊所属機である。ゼブラゾーンに侵入した不明機は共和国の機密情報を強奪した疑いがある。捕獲の為侵入許可を乞う!』
『こちらは地球連邦宇宙軍所属第13独立大隊所属機、当該宙域は現在我々の管理下にある。不明機についてはこちらで対応する、共和国軍機の侵入は許可できない』
『不明機を庇うつもりか!?』
『そちらこそ不明機捕獲を名目にこちらの機密情報を得ようとしているのではないか?違うならここは我々に任せて貰おう』
エドワード少佐が事務的な物言いでジオン機の申し入れを却下する。その間に俺達の機体を追うように2機のMSが接近してきた。
「発光信号?」
「言ったろ、味方だって―」
次の瞬間俺たちの乗る機体を掠める様にビームが通過し、先にあったデブリを撃ち抜く。ただの残骸であるはずのそれは何故か推進剤を誘爆させて派手な閃光を発する。ファンネルが入り込んでいやがるのか?
〈〈承認〉〉
そんなメッセージがポップアップしたかと思うと機体が勝手に急制動を掛ける。
「ぬわ!?畜生やっぱりやりづれえな!」
こちらのコントロールを離れた機体が勝手にビームライフルを連射、周辺のデブリに紛れたファンネルを次々と撃墜する。
「これでおしまい!」
プルが叫び同時に放たれたビームが最後の爆発を引き起こす。それと同時にロックアラートが鳴り響いた。
『所属不明機に告ぐ、武装解除しこちらの指示に従え。どうなっているんです少佐、それさっきから勝手に動いていませんか?』
聞きなれた声に俺は溜息を吐きながら手に持っていたビームライフルを放り捨てる。固定武装については大目に見てもらうしかないな。
「いろいろあるんだよ、アムロ中尉」
潜入任務の成功を確信し、俺は笑いながらそう答えたのだった。
「最初に見た時は何の冗談かと思ったよ。立ち入り制限の掛かった区域を堂々と歩いているだけでもイカレてるのに、それが連邦の英雄様だぜ?正気を疑ったね」
置かれたハンバーガーを胃袋に収めながら、リョウ・ルーツは目の前に座る連邦士官に向かってそう言い放った。
「んでこっちを見て驚いたかと思ったら滅茶苦茶気安い態度で寄ってきて、開口一番MSの所へ案内しろと来たもんだ。確信したね、コイツはやべえ奴だって」
「それで、君は素直に案内したのかい?」
「経験上あーいうのは反抗すると一番やべえ、笑いながら次の瞬間にはナイフを相手の腹に突き刺すタイプだね。俺ぁ命を張ってやる程ジオンに恩は感じてねえよ」
4個目のハンバーガーに手を伸ばしつつリョウは鼻で笑った。都合5年近く世話になった相手であったが、愛着を持つにはあまりにも無味乾燥な関係だったからだ。無理もない。ジオンにとって重要だったのは彼の母親の方であり彼はあくまでそこにくっついてきただけの存在だ。最低限衣食住こそ保障されたがそれ以外は殆ど放置である。尤もその様な扱いだったからこそ、それなりに自由を謳歌していたとも言えるが。
「一緒にいた少女の事は知っている?」
「研究所の近くにしょっちゅういるガキ、後は名前くらいしか知らねえな。俺と同じであの機体の関係者の家族だと思ってた」
彼の回答に連邦士官は手を止めて溜息を吐いた。
「リョウ・ルーツ君。君の母親、アガサ・ルーツ博士が研究していたのは何か知っているかい?」
「…MSのコンピューターだかなんかだろ?話なんかしねえから知らねえよ」
そう答えるリョウに彼は知らなかった真実を告げてくる。
「アガサ博士が研究していたのはMSの完全自律制御システム、要はパイロットの代わりを務めるAIの開発だね。元は連邦で行っていたんだけれど、戦後彼女はジオンに移籍した」
「……」
「連邦軍内では自律型MSの開発を危険視する声があってね、結果は君の知る通りだ。さて、ところがジオンでも彼女の研究は上手くいっていなかった。システムはともかく、入れ物である量子コンピューターをジオンはMSに搭載出来る程小型化も量産も出来ていなかったんだ。そんな中である技術が火星のジオン残党から齎された、彼等は気取ってバイオ・コンピューターなんて呼んでいたようだよ」
「バイオ?」
「そんなに小難しいものじゃないよ、自我が生まれる前の乳幼児から脳を取り出して量子コンピューターの代わりをさせようって話さ。…彼女、エルピー・プルはその素体候補だった一人だよ」
その言葉にリョウはハンバーガーを不機嫌そうに齧る。その様子を見ながら連邦士官は溜息を一度挟んで再び口を開いた。
「幸い君の乗ってきた機体には使われていなかったみたいだけどね。まあだからこそあの一機だけだったんだろう」
「…それで、俺とプルはどうなるんだ?」
そう問い返すと連邦士官は困った顔で手を組み合わせた。
「実はプル君に関してはそれ程難しい話じゃないんだ。何せ彼女は存在していないからね。存在していない人間だからどこに連れて行こうと問題ない。ただ君は違う」
リョウ・ルーツはれっきとしたジオン共和国の国民である。少なくとも地球連邦から移籍した記録が残っているし、共和国側のデータベースにも登録されているだろう。
「方法としては幾つかあるけれど、先に確認だ。リョウ・ルーツ君、君はジオンと連邦どちらに付く?」
突然旗色を決めろと言われ、流石のルーツも手を止める。そして連邦士官を睨み付けて問い掛けた。
「どっちにも付かないってのはねえのかよ?」
「あるけれどお勧めしないかな。連邦軍は君に関心が無いけれど、ジオンからすれば君は機密を盗んで敵国に流した罪人だ。無関係を気取れば殺しに来るし、その時連邦は君を助けない」
「…ジオンに戻ったら?」
「出戻った君の話を全て真実だと信じてくれる人が尋問官に付くのを祈るって所かな?」
実質存在しない選択を提示されリョウは唸り声を上げる。ジオンを内部から見ていた彼には、その言葉が十分有り得るものであると理解出来たからだ。
「個人的には連邦に来るのをオススメするよ。あの子の今後も気掛かりだろう?どうせなら近くで見ていた方が良いんじゃないか――」
そう連邦士官が口説き落とそうとした矢先、ドアが開き小柄な影が飛び込んでくる。
「リョウ!!」
「うぐえ」
衝撃と共に鳩尾から甲高い声が響く、痛みに目尻へ涙を浮かべながら視線を落とせば、そこにはオレンジ色の頭が擦り付けられていた。
「ちょっと少佐、まだ説得中だよ」
「すまんね、ワッツ少佐。でもこれが一番効く気がしてな」
そう笑いながら大柄の男が部屋に入ってくる。そこには英雄と呼ばれた男が立っていた。
大変お待たせしました。
相変わらずの状況なので次はいつになるか解りません。
すみません。