「危険です、閣下自ら出撃なさるなど!」
「だからだよ、交渉には誠意が必要だ。我々はそれを示す必要がある」
「相手はジオンなのですぞ!?」
バスク・オム大佐の反論にグリーン・ワイアット大将は小さく溜息を吐いた。バスク大佐は戦時の指揮官として有能であるが、政治には不向きだった。加えてジオンに対しては一年戦争の苦い経験から人一倍の嫌悪と嗜虐性を見せており、それを隠す素振りもない。
「大佐、戦争は終わったのだ。今のジオンは敵ではない」
「では我々は何のために存在するのですか!?」
「次の戦争を起こさぬ為にだよ大佐。武力というカードは振うだけのものではない、そして今は振うべき時でもない」
ジオン共和国の首相であるダルシア・バハロは計算の出来る男であるとワイアットは考えている。事実あのような絶望的な状況から自治権を獲得した手腕は敵であろうとも賞賛されるものだ。それを考慮するならば武力による示威行為は要らぬ暴発を生むと彼は判断した。
「ダルシア首相は馬鹿ではないが、その周りも同じとは限らない。窮鼠とすればジオンがどう動くか、それは君も十分承知している筈だ」
「だからこそです。ジオンは必ずや将来の禍根となりましょう、鼠であるうちに駆除してしまうべきです!」
「大佐」
顔を顰めつつワイアットは短くそう警句を発した。未来の禍根を絶つために、今意図的に相手の暴発を誘え。戦略として正しくとも、それは人類の守護者が発してよい言葉ではなかったし、軍人が判断し実行してよい範疇を超えている。
「君はルナツーで待機だ。オーガスタから借りていた機体のテストがまだ済んでいないだろう?そちらの確認を済ませてくれたまえ」
「せめて即応部隊をゼダンの門に駐留させるべきです」
「くどいぞ、大佐。我々は地球連邦軍人、それも特別権限を与えられた特殊部隊なのだぞ」
力と権力を併せ持つからこそ慎重に動かねばならない。何しろ彼等の権勢を危惧しているのは敵だけではないのだから。
「なに、ここで掣肘すれば連中は身動き一つとれなくなる。後はゆっくりと自治権返還を待てばいい」
ジオン共和国の自治権は宇宙世紀100年に返還される事が決められている。十分な監視と生産設備の放棄を行えば、10年とかからずに連邦と彼等の戦力比は致命的なまでに開くだろう、そのための布石も既に済ませているワイアットは表情を和らげて口を開いた。
「心配せずとも私が前に出るなどこれが最後だ。安心して吉報を待っていたまえ」
彼の言葉にバスク大佐の表情が動くことはなかった。
「相変わらずだな、彼女は」
そう口にするテム・レイ少佐の顔は複雑なものだった。
「教育型コンピューターを使用した人工知能。それもMSの操縦が可能な、ですか。博士は以前から研究を?」
アガサ・ルーツ博士は教育型コンピューターのプログラミングを担当した技術者であり、その道の第一人者だ。同時に戦後の混乱期に連邦から姿を消し、そして見つけられなかった人物でもある。
「開発中から提唱はしていたね。…彼女はルウムで夫を亡くしていたからな」
「なんでこんなすごいものが実用化されなかったんですか?」
目の前のモニターを眺めながらハヤト・コバヤシ中尉がそう首を傾げた。モニターの中では件の人工知能、ALICEの駆るザクⅢがグレイファントム隊のMSを翻弄している。そして同じ経験をホワイトベース隊の面々も経験した故の言葉だろう。
「表向きの理由はコストとAIの信頼性の低さ、だな」
「信頼性の低さ、ですか?」
「プログラムは容易に書き換え可能であり、人間の様な忠誠心は持たない。故に人よりも信頼性に劣る…だったかな?」
「ふざけた話だよ」
俺の言葉にそうテム少佐が吐き捨てる。
「私に言わせればAIの方が余程高い忠誠心を示してくれるさ、何しろ彼等は書き換え以外の方法が一切通用しないのだからね」
「つまりだな、私兵を作りたい連中にとっては人間の方が都合良かったのさ、何せAIの忠誠心は軍にしか向かないからな」
「そんな理由で!?」
理解の追いつかない顔をしているハヤトにそう告げれば、彼は露骨に顔を顰めた。相変わらず正義感の強いやつである。
「まあ同時に雇用の確保もあるわな、AI導入にはコストがかかる。だから入れ替えるなら不要になった奴らは軍から追い出しちまった方が財布に優しいだろう?かといって世の中には無限に仕事がある訳じゃない。そして貧すれば鈍するのが人間ってもんだ」
真面な職にありつけなかった軍人の先なんてのはどんなものか想像に難くない。そして気楽に放り出すには連邦軍のパイロットは些か多すぎた。
「特に厄介なのが戦中世代だ。速成のせいでパイロット以外の能力は軒並み低いから、放り出したら確実に反社会的勢力に目を付けられちまう。連邦軍は治安維持の為にもパイロットを囲っておきたいのさ」
「だがそれはロジックであって感情ではない。大切な者を失い、もう失いたくないという人間には響かん言葉だよ」
だからアガサ博士は姿を消し、そして自らを欲するジオンに身を寄せた。
「解りません、だってジオンに無人機の技術を渡したら、それこそまた戦争が起きるかもしれないじゃないですか!?」
「その起きるかもしれないという危機感を抱かせるのも彼女の狙いだろう。あの機体には連邦へ亡命する準備が整えられていた」
「賢いのか馬鹿なのか」
無人機が量産されれば有人機で対応し続けるのは難しい、パイロットという資源は生産に時間が掛るからだ。だから戦力の拮抗を望めば自ずと無人機を配備せざるを得ない。
「人の死を忌避している点は共感出来ますけどね」
「それで、テム少佐としてはどうお考えです?」
「勝手に動く、と言うのは彼女の経験と相互理解の不足によるものだ。パイロットを守ろうという意志と行動力は間違いなくプラスに働くだろうな」
「となると後は彼女が承知するかどうかですか」
乗った感想からすれば、AIの支援は是非とも欲しい。何せ勝手に動くと言う事はパイロットの思考と切り離された状態で戦えるのだ。これはNT相手に大きな武器になる。
「なあアレン少佐、聞いてもいいかね」
「なんでしょう?」
「起きるかね?」
「起きますね」
宇宙世紀0087年。それはグリプス戦役、第一次ネオジオン紛争が勃発した年だ。原作とは状況の変わった部分が多々存在する一方、一致する符号も見受けられる。連邦軍内に発足した治安維持組織、ジオン残党が擁する衛星が地球圏へ到達、加えてクワトロ・バジーナと来た。歴史の修正力、なんて嫌な言葉を嫌でも意識してしまう。
「でもUGから査察が入ったでしょう?だったら不穏な事を考えている連中なんて、摘発されて終わりじゃないんですか?」
楽観的な言葉に俺は小さく溜息を吐く。モニターの中ではALICEのザクがジョイス少尉のMkⅡを撃墜していた。
「良い事を教えてやろうハヤト。世の中で起きた戦争の殆どはな、まさかこんな事でしないだろうや、どうしてこれでなるんだよってところから始まるんだ。何せ戦争しようなんて連中は普通じゃない。だから俺達の想像を超えて、やる」
確信に近い言葉を口にした瞬間、胸ポケットの端末が着信を告げる。見ればそこには緊急呼集の文字が躍っていた。
以下作者の自慰設定
ザクⅢ
マーズジオンがジオン共和国の強硬派と結託して建造していた次期主力MS。性能と生産性を両立するために既存の技術を多く用いた設計が採用されている。
ベースとなったのは火星に持ち込まれていたアクトザクで、これにゲルググで得られたノウハウを反映する形で設計された。このためムーバブルフレームを採用している連邦軍機に対して可動域及び運動性能は明確に劣っている。
一方セミモノコック構造を発展させ機体各部をブロック化したことで大規模な工場でなくてもパーツの生産が行える事や、パーツそのものを更新することで機体性能を向上させられるなどジオンの内情を充分考慮した量産機として設計されている。
また当機最大の特徴として無人機としての運用が可能であることが挙げられるが、生産性を確保する為にコックピットは有人機と共用となっている。この無人システムはマーズジオンがもたらした有機コンピューターが正規量産機には用いられる予定である。