WBクルーで一年戦争   作:Reppu

16 / 152
今月分です。


16.0079/09/23

「全員準備は出来たな?では作戦を再確認する」

 

コックピットに収まった俺は、通信を開くとそう口にした。

 

「敵はドップを中心に構成された飛行部隊。少数のルッグン偵察機を随伴させているが、その他は確認されていない。このことから近隣の航空基地から発進した先遣隊だと思われる。任務はホワイトベースの監視及び拘束と考えられる。距離を取っている事から交戦の意思は薄いと思われるが、こちらが移動を始めればその限りでは無いだろう」

 

言いながら俺は舌打ちを堪えた。伝えられた情報が確かなら、あの飛行部隊の隊長は随分と慎重な性格だ。ならば友人に煽てられて飛び出してきたジオンの地球方面軍司令である可能性は極めて低いだろう。ここで仕留められれば随分と楽が出来ると思ったんだが。

 

「既に発見された以上ホワイトベースは早急に移動する必要がある。その前に邪魔な目を潰すのが今回の目的だ。移動前にルッグンを始末して敵の通信を妨害、その後可能な限り損害を与えつつホワイトベースの援護を行う。ジョブ曹長、カイ一等兵。君達にはルッグンの処理を頼む。スナイパーライフルの説明は受けたな?」

 

『はい』

 

『…おう』

 

返事をする二人に頷いて、俺は説明を続ける。

 

「理想は撃墜だが、最悪当てさえすれば敵は後退するだろう。だから気負わず行け。ポジションは後部中央甲板に201号機、前部中央甲板が202号機だ。101号機と102号機はそれぞれのバックアップ、今回タンクの援軍は期待出来ない。くれぐれも無茶はするな」

 

『『了解』』

 

返事に頷き、まず俺が機体を発進させる。案の定敵はこちらの動きに対して反応を見せなかった。

 

(チャンスだな、まだ連中の陸上戦力は展開出来ていないようだ)

 

「クリアっ」

 

俺の宣言を聞いて次々とガンダムとガンキャノンが飛び出し、ホワイトベースの甲板へと降り立つ。キャノンは二機とも指定された通りに試作のビームスナイパーライフルを装備していた。

 

『こんな役目、俺に任せて良いのかよ?』

 

俺の横で射撃姿勢に入った202号機からそんな通信が入る。既にミノフスキー粒子の散布が始まっているせいでモニターにはノイズが混じり始めているが、カイ一等兵の顔が決まり悪そうに歪んでいるのは十分解る。

 

「センサー周りはキャノンの方が性能が良い。狙撃ならそっちの方が適任だ」

 

『少尉さんが乗ったって良いじゃねえかよ』

 

いかんな、カイの奴随分緊張している。

 

「ロスマン少尉に聞かされなかったか?そのライフルの性能はピカイチだ。教育型コンピューター様のサポートがあれば、後は目標指定をして、射撃指示に従ってトリガーを引くだけだよ」

 

『それで外れたらどうすんだよ。これ、4発しか撃てないんだろ?』

 

彼に使わせているスナイパーライフルは射程・精度・威力の全てに優れているが、その性能を完全に使うには大型の冷却ユニットと極めて強力なジェネレーターが必要という問題を抱えていた。当然MSにそんな物は積めないので、発射回数と威力を大幅に抑える事で運用を可能としていた。つまり4発撃てば本当に撃てなくなるのだ。それがプレッシャーなのだろう。だから俺は鼻で笑った。

 

「外れんよ。そう言う一丁前の台詞はアシストに頼らなくなってからにしろ。今のお前さんが外すならそれは機体の問題だ。それにこう言っちゃなんだが、お前さんは才能がある。だからそんなにびびるこたぁない」

 

『へっ、煽てて上手く使おうなんて狡っ辛いこと』

 

まあ、そう思うよな。

 

「ちゃんと的に当てるのは訓練すれば大抵の奴が出来るようになるが、自分をコントロールしてどんなコンディションでも射撃を行わなきゃいけないスナイパーになれる奴はほんの一握りだ。何故なら射撃の腕なんかより、自己のコントロールの方が余程得がたい才能だからだよ。カイ一等兵、貴様は臆病で物事に関して悲観的だ。だがその事をお前自身は自覚していて上手く付き合っている。つまりそれは、自己を制御出来ているって事だ」

 

『お、俺ぁ、別に』

 

「俺の事なんざ信用出来なくて構わない、だがお前はお前を信じてやれ。大体、信用出来ない奴に預けられる程キャノンのシートは軽くないさ。さて、そろそろやるぞ」

 

返事は無かったがキャノンが狙撃の体勢をとる。僅かな間を置いて夜空を二筋のビームが走り、夜空に火球を生み出す。

 

『や、やった!』

 

通信にカイ一等兵の喝采が入り遅れて爆発音が響いてくる。こちらとの相対距離が近過ぎた事に今更気付いた敵機が慌てて退避行動に移るが遅い。一撃目で自信を付けたのだろうカイ一等兵とジョブ曹長の射撃が再び彼等を襲い、火線に絡め取られたルッグンとドップが纏めて墜ちる。しかしビームが放たれたのはそこまでだった。

 

『良し、敵機の後退を確認した!ミノフスキークラフト起動!現地より離脱する!』

 

ブライト大尉の命令が下りホワイトベースがその体を震わせた。僅かな揺れと共に離昇した艦はその進路を北にとり、静かに進み出す。

 

「良くやってくれた、キャノンは二機とも今の内に換装と補給を済ませろ。その後は緊急を除き3時間後まで休息待機。アムロ伍長、君は悪いが俺とこのまま周辺警戒だ」

 

『了解です、アレン少尉!』

 

極度の緊張からだろう、ジョブ曹長とカイ一等兵は小さく返事をすると忙しなく艦内へと戻っていく。それをモニター越しに確認しつつ小さく溜息を吐いた。北米脱出まで補給は期待出来ない。更に今回の采配に俺は嫌な予感がしたからだ。

 

「敵の動きが、随分と慎重だった」

 

『どうしたんですか、アレン少尉?』

 

俺の呟きを聞き取ったアムロ伍長がそう聞いて来る。昔の軍なら彼の行為は叱責されていたかもしれない。兵士は必要な事だけ知り戦う、と言うのが常識だったからだ。知りすぎていれば判断に迷ったり、何より捕虜となった際に情報が漏洩しかねないからだ。だが今はミノフスキー粒子が戦場を覆ったせいで俺達パイロットは個別に高度な判断が要求されるようになった。だから仲間とは積極的に情報交換をするし、交流を密にして相互理解を高めておく必要がある。

 

「確か北米の軍を指揮しているのはガルマ・ザビだったと思う。コイツはザビ家の末弟で年齢で言えば俺と大差無い筈だ」

 

『それは、凄いですね』

 

素直すぎる反応に思わず俺は苦笑しながら応じる。

 

「いや、彼が凄いと言う話は一度たりとも聞いたためしがない。つまりザビ家だから不相応な地位に就いていると見る方が恐らく正しい、と思っていたんだが」

 

先ほどの部隊の動きはこちらの戦力を把握するまで不用意な戦闘、つまり戦力の消耗を控える動きだった。本人が考えたなら指揮官として常識的な思考を持っているという事だし、部下からの進言を聞き入れたなら、少なくとも真面な部下の意見が採用される環境が出来ているという事だ。どちらにせよ慢心せず数で押すような戦術を取るならば、俺達にとって厄介極まりない相手という事だ。

 

「こちらが寡兵である以上、一番厄介なのは堅実に正攻法で戦ってくる奴だ。厳しくなるかもな」

 

そうならない事を俺は祈るしかなかった。

 

 

 

 

「そうか、被害は軽微なのだな?いや、良くやってくれた。その情報だけでも十分な価値がある」

 

ドップを送らせた基地司令からの緊急連絡に対応しつつ、ガルマ・ザビ大佐は難しい表情を作った。部屋に据えられてた応接セットに座っていたシャア・アズナブル少佐はそれを見て真剣な表情で声を掛ける。

 

「木馬は逃げたか?」

 

「ああ、距離15キロ程で監視をしていたが迎撃されたそうだ。それもMSの携行ビーム兵器にな」

 

その言葉にシャアは表情を強張らせる。宇宙空間のMSに比べれば動きが制限されるとは言え、飛行中の航空機を15キロ先から撃ち墜とせるビーム兵器が陸戦においても極めて脅威である事は明白だからだ。

 

「解析結果待ちだが、パイロット達の証言によれば撃って来たのは白い方ではなく、赤い方だったそうだ。キャノンを担いでいるようだし、支援機か?」

 

「そう判断するのは軽率だろう。手持ちならどの機体でも使い回せるのは我が軍のザクが証明しているところだ。白いのも同様の火器を運用出来ると見ておいた方が良い」

 

そうシャアが忠告すると、ガルマ大佐は顎に手を当てて唸る。

 

「こちらのMSでその距離で撃ち合えるのはザクキャノン位だな。つまりMS同士での戦いは考えるだけ馬鹿らしいと言う事か。厄介すぎるな」

 

「直接やり合わんとなれば、艦砲で仕留めるか?」

 

「そちらも難しい。北米は前線の陣地構築がほぼ終わっているから、ギャロップを他方面に回してしまっている。陸上艦艇はキャリフォルニアのダブデ3両とここにある2両だけだ。当然ながら宇宙艦を追撃出来るような速度は出ない。となれば後はガウくらいだが」

 

「殴り合えば勝てるだろう、問題は木馬が墜ちるまでにガウが果たして残っているかということだな」

 

「キャリフォルニアのガウ部隊を指揮しているガルシア大佐は、勇敢ではあるが小細工が出来ん。最悪キャリフォルニアのガウ全てが生け贄にされかねん」

 

「だが悠長にしていれば逃げられるぞ?」

 

シャアの言葉にガルマ大佐は顔を顰めた。

 

「そう急かさないでくれ、相手は赤い彗星が仕留め損なった艦だぞ?次席としては慎重にもなる」

 

「士官学校の首席は君だろう?」

 

「ザビ家の末弟への忖度が無ければ間違い無く君が首席だったさ。それを認めるくらいのプライドは持ち合わせている。取敢えずは追加で航空隊を派遣し情報収集と進路の限定だな」

 

その言葉にシャアも頷く。

 

「ああ、連中にとって北米への降下は予定外の事態だ。真面な指揮官なら消耗を嫌って戦力を展開している場所は忌避するだろう」

 

「決まりだな、後はこちらの切り札を用意しておくとしようか」

 

そう言ってガルマ大佐はシャアへ笑顔を向けてくる。そして前髪を弄りながらこう口にした。

 

「そろそろ君もザクには飽きただろう?」




シャア=サンの凄い所
どんなMSも速攻で慣熟出来る事、ザクからズゴックに乗り換えとか正直コイツマジかよレベルの所業だと思うんですよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。