WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


18.0079/09/27

「キャリフォルニアには20以上のガウが配備されているだろう!それが3機しか出せないとはどう言う事か!?」

 

グレートフォールズの仮設基地に進出していたガルマ・ザビ大佐はモニター越しの男に対しそう叫んだ。

 

『そのガウ攻撃隊は連日ジャブローへの爆撃へ投入されております。これ以上の抽出は如何ともし難く』

 

「あの何も戦果を挙げていない、攻撃と称した何かがそれ程大事か?」

 

皮肉気にガルマがそう言うと、ガルシア大佐はそれを否定する。

 

『戦果を挙げていないとは、経験のお浅いガルマ大佐には目に見えぬ戦果がお解り頂けないようだ』

 

そう言って彼は悲しげに首を振ると、真剣な表情で訴えてきた。

 

『宜しいですか?ガウによる戦略爆撃を連日行っているからこそ中米の戦線は安定しているのです。この手を緩めれば連中はたちまちのうちに戦力を整え前線へ殺到してくるでしょう。ジャブローが攻撃に晒されていると言う事実が後方に戦力を拘束し、大規模な車両輸送による兵站線構築を防いでいるのです』

 

そこまで言った上で、ガルシア大佐はどこか小馬鹿にした表情を浮かべ言葉を続ける。

 

『第一、入り込んだネズミはたかが1隻だそうではないですか。ガルマ大佐旗下の戦力だけでも十分対処出来るのでは?』

 

ニューヤークを管区とするガルマが今回連れてこれたのは、ガウ3機とそれに搭載可能なドップ及びMSだった。大型爆撃機3機にMS9機、航空機24機という戦力は確かにたった1隻の敵艦に対して過剰とも言える戦力に思える。だが、たった一事をもってガルマは敵がその程度の戦力で当たるには危険な相手であると認識していた。

 

「ガルシア大佐。そのたかが1隻の敵艦は我が軍の精鋭艦隊を打ち破り、赤い彗星を振り切って地球に降りたのだ。侮れる相手ではない」

 

『確かに、宇宙攻撃軍の連中は負けたようですな。全く哨戒すら満足に行えないとは嘆かわしい。兎に角、これ以上の戦力をお出しする事は不可能です。…どうしても戦力に不安がお有りでしたら、不肖私めが指揮を預からせて頂きますが?』

 

「…いや、ガルシア大佐はジャブローへの攻撃で忙しいようだからな。手を煩わす訳にはいかない。戦力の提供、感謝する」

 

そう言ってガルマは通信を切る。そうすると漸くカメラに映り込まない位置に座っていた友人が口を開いた。

 

「成程、大した御仁のようだな。まあ取り逃がした事は事実だから耳の痛い言葉ではあるが」

 

「あくまでガルシア大佐の私的な言葉だ。地球方面軍、もっと言えば突撃機動軍の総意だなんて思わないでくれよ?」

 

「私はそこまで視野の狭窄した人間ではないよ、ガルマ。しかし、ガウが3機か」

 

「しかもMSはザクのC型が3機だけ、航空機隊こそ揃ってはいるが、連邦のMS相手には心許ないな」

 

「あの戦車モドキですら、航空機では相手にするには骨が折れるだろう」

 

ドップには対地攻撃を想定したミサイルランチャーが装備されてはいるものの、あくまで制空用の戦闘機であるためその性能は低かった。何しろ連邦軍の61式戦車ですら撃破するには複数発が必要で、対策が施されたモデルでは逆に戦車を狙った航空隊が敵の防御砲火に墜とされるという事態まで発生している。モドキなどと揶揄していても、あの機体が61式戦車などより遙かに強力な敵である事は疑うべくもない。

 

「こちらの包囲を突破する際にも随分暴れていた。ここにビーム兵器を装備したMSが更に4機。本音を言えば5倍は戦力を揃えたい所だな」

 

「逃げ込む先はシアトルで間違い無いのか?」

 

「更に北上する、という可能性は否定できん。だが連中がジャブローを目指すなら北に逃げても時間を浪費するだけだ。余力があるうちに洋上へ出て、こちらの地上部隊を振り切ってしまいたいと考えればシアトルがギリギリだろう。そこから先の大きな都市となればバンクーバーくらいのものだし、それ以降は地形が峻厳で身を潜められる場所は少ない」

 

「ならば先行して罠を張るか?」

 

木馬が消息を絶った位置からすれば、シアトルより北側の森林地帯を経由している。ガウの全速ならば位置的にシアトルへ先に着く事も不可能では確かに無かった。しかしシャア・アズナブル少佐の進言にガルマは頭を振った。

 

「魅力的な案だが、待ち伏せができるほどシアトル市の詳細なデータが無い。ガウを隠しておく事も出来ないし、何よりキャリフォルニアの部隊とタイミングがずれれば我々だけで相手をする事になってしまう。その様なリスクは避けるべきだと思う」

 

そうガルマが告げると、シャア少佐は真剣な表情から、見慣れた余裕のある笑顔になりその意見を肯定してきた。

 

「…冷静な様で安心したよ。ここでそうするなどと言われたら諫めねばならなかった」

 

友人の言葉にガルマは笑う。

 

「兵の見ている前では勘弁してくれよ?さて、ひとまずは攻撃の準備を整えるとしよう。MS部隊の方は任せるぞ、シャア」

 

「解った。勝利の栄光を君に」

 

そう気障に振る舞う友人にガルマは笑いながら頷いた。

 

 

 

 

「シアトルに入ったら、時間が欲しいと言うのは?」

 

機関長の言葉にブライト・ノア大尉は眉を顰めながら聞き返した。

 

『シアトルを抜ければ後は目的地までずっと海の上でしょう?となれば外回りを補修出来る最後の機会です。ミノフスキークラフトの方も一度ちゃんと点検をしておきたいのです』

 

暢気な事を言うな、と思わず出かけた言葉をブライトは呑み込む。ホワイトベースが無事動いているのは彼の力によるところが大きく、その彼が本格的に調べねば不味いと感じていると言う事は、このまま飛び続ければ致命的な場所で動けなくなる可能性もあるからだ。

 

「どの位時間が必要か?」

 

『欲を言えばちゃんとした設備のある場所で1週間みっちり見たい所ですが。まあ無い物ねだりは出来ませんからな。それでも最低3日は欲しいですね』

 

3日という言葉にブライトは唸る。敵航空機による追跡は無くなったものの、防衛線を突破した事でこちらの意図はある程度露見したと考えて良い。だとしたらシアトルに留まる事は危険に思えたのだ。だからといってここで悠長に留まろうものなら、折角突破した防衛ラインを再びシアトルに構築されかねない。

 

「意見、宜しいでしょうかブライト大尉」

 

「なんだろう、アレン少尉」

 

悩ましい現状に唸っていると、横で聞いていたディック・アレン少尉が口を開いた。

 

「既に我々の移動ルートは看破されていると考えます。であるならば欺瞞航路を捨て、最大速力でシアトルへ向かっては如何でしょうか?」

 

「そんな事をすれば位置がばれてしまうじゃないか!」

 

「現段階で位置が露見しても、シアトル市内にこちらが身を潜めるまでに追いつけるのは航空戦力のみです。その中でもホワイトベースにとって脅威となりうるのはガウくらいですから、それを退けられれば問題ありません。それに」

 

「それに、なんだ?」

 

「今後の進路を考慮すれば、今の内に出来るだけ敵のガウを削っておく方が得策に思えます」

 

完調ならばホワイトベースの方が速力に優れるためガウを振り切る事が出来る。だが現状ではこちらが低速であり、追撃されれば確実に追いつかれてしまう状況だった。

 

「洋上での戦いとなるとMSも大幅に動きが制限されます。タンク隊が戦力に数えられる内に余裕を作っておくべきだと考えます」

 

その言葉はブライトにとって非常に大きな問題だった。ホワイトベースは強襲揚陸艦に分類される艦艇であるが、その為か構造に色々と問題があった。その最たるものが後方に対する火力の低さである。MS母艦としての機能を優先されたために、ホワイトベースは敵艦と殴り合う場合は正面を向き立って行うように設計されていて、後方はMSの回収、展開に重点の置かれた構造となっている。特に後方上部に対する火砲はメガ粒子砲がウイングによって射角を制限される都合上対空砲のみという貧相具合だ。尤も設計の段階で現在のような単独で敵部隊から逃げ回るなどという運用は想定されていなかったであろうから、責める訳にもいかないが。

 

「ホワイトベースを整備する間、MS部隊が市街に展開し敵を迎撃すれば、何とか3日は稼げるでしょう」

 

「楽観的すぎる発想だ。第一北米に何機のガウがあるかも解らないんだぞ?」

 

そうブライトが言い返すが、アレン少尉は平然と言い返してくる。

 

「確かに総数は不明ですが、こちらへ来るのは多くとも10には届きません」

 

「そう言い切る根拠は?」

 

「ジャブローへの攻撃に投入しているガウの数です。最大規模でも12機ですから、連中がジャブローヘの攻撃を諦めない限りこの数は出せません。そしてホワイトベースは最新鋭の艦と言っても、たかが一隻です」

 

ジャブローに対する定期便はブライトも良く知っていた。連日行われるそれが二交替制のローテーションで行われている事は周知の事実であったし、その一日分を引き抜くと言う行為が極めて大きな負担になる事も軍事を学んだ人間からすれば常識である。

 

「だが他の地域から引き抜けばその限りではないだろう?」

 

「それが出来るならとっくの昔にジャブローへの攻撃が増しています。つまり連中が自由に使えるガウの数は決して多くないのです」

 

「…仮に相応の数をこちらに誘引したとしても、敵の制空に綻びを生じさせる事が出来る。そうなれば救援の目も出てくるか?」

 

「どちらにせよ迎え撃つならば遮蔽物の多い市街地の方がMSにとって都合が良いでしょう。如何でしょうか?」

 

アレン少尉の言葉を聞きブライトは考える。防衛線を突破した事でホワイトベースに戦う力が十分に有ると証明できたため、避難民も今は落ち着いている。そしてシアトル市の惨状を見れば北米がどの様な状況下にあるか、ある程度理解して貰えるだろう。更にオマケ程度に考えていたガンタンクが戦闘に十分耐えうる戦力であると確認出来た事が、ブライトの中の許容出来るリスクの範囲を広げていた。

 

「…解った。アレン少尉の意見を採用しよう。機関長、シアトルで着陸次第直に作業に入ってくれ。基本的に3日を想定するが、万一の場合はその限りではない事を留意してなるだけ迅速な対応を頼む」

 

こうして両軍の思惑は絡まり合いつつシアトルへと向かうのだった。


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