WBクルーで一年戦争   作:Reppu

19 / 149
19.0079/10/01

ワシントン州シアトル。かつて栄えていたその街は、現在陰鬱な姿を俺達の前に晒している。コロニー落としの二次被害として太平洋沿岸の都市を襲った津波はこの都市にも到達しており、都市全体に甚大な被害をもたらした。更に運が悪かったのは立地条件だろう。キャリフォルニアから適度に離れていて、最前線となるであろう中南米から真逆に位置する港湾施設を有した都市。挟撃するための戦力を揚陸させるのに丁度良いこの街に対するジオンの答えは破壊だった。占領するには手間もコストもかかり過ぎる、ならば壊してしまえ。数度にわたって行われた爆撃で都市機能と軍が利用出来そうな建物は粗方破壊されてしまい。今ではガレキと廃墟の集合体となっている。

 

「おかげで民間人に気にせず軍事行動がとれる訳だ。ま、感謝など一ミリもせんがね」

 

俺達が都市に潜伏して2日が経過したが、幸運な事にまだ敵は現れていない。加えてシアトル市の惨状を目の当たりにした民間人が今ここで放り出されると言う意味を理解出来たようで、積極的に協力してくれている。中には幾つかの班を作って物資の探索まで行ってくれている程だ。現金だとは思う反面、正直に言って助かるので俺は沈黙を保っている。

 

『202より、定時報告。監視空域に異常ナシ』

 

「101了解、引き続き監視を継続せよ」

 

南方面の監視に当たっているカイ・シデン一等兵からの連絡にそう俺は応える。ホワイトベースの隠れるドーム球場から凡そ2キロ程南下した場所にある立体交差が彼の潜伏場所だ。

 

「キツイだろうがもう少し頑張ってくれ」

 

『良いもの食わせて貰っている分は頑張りますよ』

 

そう笑うカイ一等兵の声を聞いて、まだ余裕がある事に内心安堵する。やはり食事をパイロットの待機室で食べさせるのは正解だったな。食堂で自分達だけ豪勢な食事を取るなんてある意味罰ゲームに近い。小さい子供とかがいれば尚更だ。

 

『このまま何も来なければ…』

 

有線回線の中で誰かが呟く。けれどそんな事はあり得ないと俺は確信していた。そしてその時はそろそろだろうとも。

 

「そろそろ払暁だ、仕掛けて来るとしたらこの時間だろう。全員警戒を厳にせよ」

 

航空戦力で攻撃してくる以上相手はこちらから丸見えだ。ならば視界的不利を少しでも補う為に日の出ている時間に攻撃は行うだろう。特に明け方は夜から環境が大きく変わるから、対応にも手間取りやすい。襲撃の定番とも言える時間だ。

 

『さ、303より緊急、市街西部方向より複数の飛行体を確認!が、ガウです!』

 

「303、キム兵長落ち着け。数は?」

 

敵が来るとすれば南と西、想定通りというやつだ。どうやら敵は堅実である分あまり柔軟性はないらしい。

 

『ガウ、ガウが3機です。それから航空機がっ、目視範囲で20は居ます!』

 

確かガウ1機につきドップの搭載数は8機だったか、となれば搭載機を発進させている可能性が高いな。

 

「予定通りというヤツだ。タンク隊は敵が規定ラインを越え次第射撃を開始、201及び202は引き続き監視を怠るな。102、アムロ伍長聞こえるか?」

 

『はい、聞こえてます』

 

「タンク隊の直掩に回ってくれ、こちらは――」

 

『こ、こちら202!南からもガウだ!こっちも3機!けど戦闘機はいねぇ!』

 

護衛がいない?

 

「先発させて東側を塞ぎにかかっているのかもしれない。ホワイトベース、聞こえるか?敵部隊と会敵した。これよりMS隊は戦闘行動に移行する。また未確認であるが東側からの敵機襲来が予想される、警戒されたし」

 

そう伝えると機体の出力を上げる。既にホワイトベースがミノフスキー粒子をこれでもかと散布しているから、シアトル市街はレーダーも無線も碌に使えなくなっている。だが、こちらはこの2日で最低限の出迎え準備はしているんだ。

 

「悪いがここで死んで貰うぞ」

 

俺はそう言って機体を南へと向かわせた。

 

 

 

 

「こう言う時は、焦ったら負けなのよね」

 

呟いてカイ・シデンは乾いた唇を舐めた。狙撃兵の才能がある。本人は全く自覚が無かったが、少なくとも周囲からはそう見えるらしい。あっという間に搭乗しているガンキャノンは狙撃仕様に仕立て直され、それ用の訓練を何度か行った。結果が良かったのか悪かったのかは解らないが、まだ彼がこの機体を任されている現実は変わらなかった。

 

「狙うなら、丸い腹」

 

部隊長であるアレン少尉から受けたアドバイスを呟く。コックピットを狙えれば理想的だが、長距離射撃で小さいそれも動く的に当てるのは難しい。だから確実に当てられて、かつ被害が大きい所と言うのが少尉の言葉の意味だった。何せガウの腹にはMSと爆弾が積み込まれている。

 

「冷却系問題なし、ジェネレーター正常作動、…よしっ」

 

距離にして30キロ。精密射撃の出来るギリギリに侵入したガウに向けてカイは銃口を合わせ、そしてトリガーを引いた。銃口からガンダムやガンキャノンのビームライフルとは比べものにならないメガ粒子の光が放たれ、暢気に浮かんでいた3機のガウのうち、真ん中に位置していた機の腹へ突き刺さると、

 

「マジかよ」

 

そのまま突き抜けて後方へと光条を輝かせる。カイが傷口を広げるように銃身を操作すると、腹を割かれたガウが火を噴いたかと思った次の瞬間大爆発を起した。どうやら格納庫内のMSにでも直撃し、大当たりを引いたらしい。爆発に煽られつつ残ったガウが慌てて回避行動に移るが、それはあまりにも遅すぎた。

 

「このままっ」

 

トリガーを引いたままカイは銃身を大きく振るう。左に旋回しつつあった右側のガウを捉えたその射撃はまず垂直尾翼を半ばから断ち切り、更に右翼を撃ち抜く。本来の航空機であれば、この程度の損害ならばまだ十分飛行が可能であったが。残念ながら撃たれたのはガウだった。多機能を強引に詰め込んだこの機体は飛行の際推力の30%を下方へ振り分けなければ飛行できないという問題を抱えていた。翼に損傷を受けると同時にエンジンの半数近くを機能停止に追い込まれたガウは急速に揚力を失い墜落、地面に盛大な火球を生み出す。

 

「ラストって…ここでかよ!?」

 

興奮のままに最後の1機に対し銃口を向けようとした瞬間、警告音が鳴り響き砲身の強制冷却が始まる。機体側の冷却システムが十分でなかったために起きた問題だった。尤もこれを問題と言えるかは微妙な所だ。何しろ元々このビームスナイパーライフルは艦艇に搭載されたジェネレーターや冷却システムに接続して初めて最大出力で運用出来る設計なのだから。むしろ短時間であってもMSが携行した状態で使用できるようにした事の方が異常なのである。

 

「くそっ、早く終わ…へ?」

 

冷却終了までのカウントダウンを焦れながら見ていたカイは、モニターに映る状況に間抜けな声を漏らした。残るガウが反転し逃亡を始めたからだ。銃口は向けられたままだったが、冷却終了を伝える文字がディスプレイに表示される頃にはガウは射程外へと逃げてしまっていた。

 

 

 

 

南側から進入したガウが迎撃されている頃、西側から進入する部隊も激しい迎撃を受けていた。敵はたった3機でありながら高い連射性能と高精度でガウに次々と命中弾を与えてくる。発見を遅らせる為とMSを降ろすために高度と速度を下げていたのも災いした。次々と撃ち込まれる砲弾に動揺した3番機がMSを降ろすために前部ハッチを開き始める。

 

「待て!ハッチを開くな!?」

 

1番機の艦橋からそれを見たガルマが思わず通信機に向かって叫ぶ、しかしそれは残念ながら遅かった。ハッチを開放した事で更に減速してしまった3番機に砲火が集中。開口部に立っていたザクに次々と砲弾が突き刺さる。衝撃に耐えきれなかったザクは後ろに並んだ僚機を巻き込んで転倒すると盛大に爆発する。そしてそれは格納庫下に存在する爆弾倉にも飛び火した。

 

「ミストレディ、墜落します!」

 

オペレーターの報告を聞くまでも無く目の前で盛大に火を噴きながら落下していく3番機を見ながらガルマは拳を机に叩き付ける。

 

「メガ粒子砲で牽制しろ!それと2番機にはハッチを開けるなと――」

 

「ガルマ大佐!格納庫のシャア少佐からです通信です!」

 

そう言われ、ガルマは手で2番機に伝えるよう指示しつつ回線を切り替える。

 

『ガルマ大佐、MSを降下させるべきだ』

 

「バカを言うなシャア!敵はそれを狙っているんだぞ!?」

 

真剣な声音でそう言ってくる友人に向かって思わず怒鳴ってしまう。南側から進入するはずだった友軍が敵機を見る事すらままならずに撃墜されてしまった事もガルマから冷静さを奪っていた。

 

『落ち着けガルマ!現状でガウは的にしかなっていない!連中をMSで排除しなければ爆撃もままならん』

 

「そんな事は解っている!しかし」

 

『後部ハッチだ、そちらからMSで降りる。速度は下げるなよ?降ろしたら全速で北へ抜けろ。敵を排除次第信号弾で合図する』

 

危険だ、そう出かけた言葉をガルマは呑み込んだ。態々口にするまでもなく、そんな事はシャア少佐とて理解している。だがそのリスクを負わなければ現状を打開できそうにない事も事実だった。

 

「…頼んだぞ、シャア」

 

『任された』

 

唇を噛みしめながらガルマはそう友人に告げる。時間を与えたくない。その一心で航空戦力とMSのみで攻撃を仕掛けてしまった。そこに焦りが無かったかと言われれば、否と答えざるを得ないだろう。開戦以降実力で少佐の地位に就いた友人に対する劣等感、その彼が取り逃がした敵を自らの手で仕留めると言う手柄に、心底から冷静であれた自信がガルマには無かった。

 

「MSが降下次第最大戦速!北に抜ける!南には例のビーム持ちが居る、警戒を怠るな!」

 

前方を睨み付けながらガルマは指示を出す。彼の手は固く握り絞められていた。




MSが直立したまま飛び降りられるのがそんなに大事ですか?(ガウへの皮肉
設定だと後ろから収容したコムサイをもう一回打ち上げられるから多分格納庫が全通なんですよね。じゃあ後ろから降ろせよと作者は思ってしまうのです。

以下今回の自慰設定

ガンキャノン202号機
ホワイトベース隊に所属するガンキャノンの2号機。パイロットは主にカイ・シデン一等兵が務めている。当初は機体のほぼ全面を赤色で塗装するという兵器として正気を疑う配色であったが、北米にて逃亡中にダークグレーを基調とした都市迷彩色にリペイントされた。同時にパイロットの特性に合わせた改修が施されてシアトル市の戦闘に投入された。
最大の変更点は両肩に装備されていたキャノンを撤去した事である。同時に機内に存在した弾薬庫も撤去され、代わりにジェネレーターと冷却剤用タンクが追加された。これによりビームスナイパーライフルを最大出力で運用可能としている。更に左肩側にはスプレーミサイルランチャーを2基連結したものを装備しており、瞬間的な火力も担保されている。
また、懸念された近接戦闘能力に対する保険として左腕に固定式のビームサーベルを追加している。ただしあくまで現地改修の域であるため抜本的な運動性の解決などはされておらず、初期のザクならばともかく、それ以降の新型MSやザクであっても後期型のものを相手どるには不十分な性能となっている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。