WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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スレッタちゃんが可愛いので初投稿です。


2.0079/09/16

悲鳴、怒号、大気を断続的に震わせる砲声がコロニー内に木霊し、そして僅か後に爆発音が続く。史実通り、俺の知る通りの光景が目の前で繰り広げられる。まるで俺の努力など無駄な足掻きだとあざ笑うかの様に。

 

「2号機、援護する!」

 

攻撃を受けたのは正に完璧と言って良いタイミングだった。ホワイトベースから入港完了の連絡が届き、施設を引き払う為に移動準備に入ってから30分後、直後でなかったのがまたいやらしい。人間の緊張感なんてものは持続させるのは難しい、本当に来るかどうかも解らないなんて状況では特にそうだ。初めは俺の意見に賛同してくれていた他のテストパイロット達も、20分を過ぎた辺りで杞憂だったと結論を出していた。

それを見て俺は自分の失敗を理解する。普段から俺は警戒を怠らないよう、そして万一に備えるように度々進言していた。それこそ部隊内で浮くほどに。だからこの日、最も重要な絶対に警戒していなければならない日であっても、俺が騒いだせいで皆は警戒を緩めてしまった。アレン少尉の心配性がまた空回りしたのだと。

 

『に、二機目ぇ!?』

 

不幸というのはどうにも重なる性質があるらしい。パイロットの待機室は格納庫に隣接していた。正直に言えば、俺はここにテストパイロット全員を集められた時点で何処か安心していた。原作においてガンダムのテストを行っていたパイロットは全滅している、そう全滅だ。結果、最も経験のある人員でもパイロット候補生という笑えない練度で彼等はこの戦争を生き延びる訳だが、問題は何故パイロットが全滅してしまったのかだと俺は考えた。そして思い当たったのが、移動のために何処かに集合していて不幸にもそこに攻撃が当たってしまったのだろうと言うものだ。軍事施設とはいっても、どこもかしこも堅牢に造られているわけではない。特に建設済みの施設を流用したような兵舎などは当然民間の設計基準に則ったものだから、砲撃に耐えるなんて事は望むべくもない。だからパイロットを保護するためにシェルター並みの防御を持つここへ誘導しておけばその様な事にはならないだろうと。何と言うことはない、俺自身も楽観していたのだ。反吐が出る。

 

『く、くるなぁ!』

 

オープンチャンネルで喚くジオン兵に対して怒りが湧くのを自覚する。原作においても無思慮な攻撃を放ったザクのパイロット。

この世界においても彼は同じように引き金を引き、そして放たれた砲弾は格納庫へと飛び込んだ。それは偶然か、それとも歴史の修正力とでも言うのだろうか。それは移動のために丁度待機室の扉が開けられた瞬間だった。飛散した金属片がまず扉を開けた少尉、ガンキャノンの1号機を担当していた彼女の頭部を吹き飛ばした。欠片とは言えその重さは数キロになる。当然その程度で力を失うわけがなく、次の獲物を求めるように近くに座っていたパイロット達に襲いかかった。なぎ倒される仲間達、飛び散る血と肉片。目の前で起きた惨状から、真っ先に立ち直ったのはテストパイロット達のリーダーを務めていたキタモト中尉だった。確実に怪我をしていない俺に救護班を呼ぶ指示を出すと、彼は自分の機体である1号機へ向けて走り出す。俺は間抜けにも見送りながら内線を使って救護班を呼ぶ。俺自身も軍人として最低限の応急処置は学んでいる。そしてその中には無駄な治療を施さない為の知識も含まれていた。だがそんな知識など無くても、今の彼等を見れば助からない事くらい解るだろう。辛うじて命だけは助かりそうな二名の止血を行っていると再び格納庫が揺れ、頭から血を流したロスマン少尉が部屋に駆け込んできた。

 

「誰か無事なパイロットは!?」

 

見れば解るであろう状況で、それでも彼女はそう言った。だから俺は治療の手を止めずに聞き返す。

 

「無事なのは俺だけだ!キタモト中尉は!?迎撃の為に機体へ向かった筈だぞ!?」

 

「一号機の格納庫が兵舎の倒壊に巻き込まれたの!ガレキを撤去しなきゃ乗りこめすらしない!中尉も、多分一緒に巻き込まれてる!」

 

思わず舌打ちをしながらロスマン少尉を呼ぶ。ガンタンク3号機のドライバー、彼は胸元を大きく切り裂かれていた、圧迫止血を止めるわけにはいかない。

 

「代わってくれ!3号機は使えるんだな!?」

 

「注文通りの装備もしといたわよ!行って!」

 

処置した内容を手短に伝え、機体へと走る。格納庫の中も酷い有様だ、ロスマン少尉もどうやら俺と同じ運が良い側だったらしい。

 

「死ねよジオン野郎!」

 

手にした100ミリマシンガンが火を噴き、吐き出された砲弾がザクを襲う。慌てた相手はスラスターを噴かせて後退、喫緊の問題を回避した俺は少しだけ安堵しつつ、2号機に向かって叫んだ。

 

「ビームサーベルなんかコロニーで使うんじゃない!ザクを誘爆させたら大穴が開くぞ!」

 

言いながら俺はマシンガンで牽制する。MS用の武器として最初期に開発されたこの100ミリマシンガンは威力こそ十分であるものの、装弾数や集弾率は悪い。特にまだ十分に学習の済んでいない未熟な制御系で動いているガンダムでは尚のことだ。それでも無防備な姿や、丸腰相手とは異なるプレッシャーを与えるには十分だ。あのジオンのパイロットは馬鹿そうだが、それでも今自分が安全に手柄を挙げられるから命がけで戦果を挙げるか選ぶに状況が変わっているくらいは理解出来るだろう。事実先ほどまでの無鉄砲な動きは無くなり、寧ろ味方の所までどう逃げるかを思案しているような仕草になっている。

 

(機体にそんな物が読み取れる動きが交じるとか、素人じゃねえか!)

 

俺は怒りで叫び出したくなるのを堪えながら、2号機の前に出て盾を構える。ガンダムの装甲は極めて堅牢だ、少なくとも対航空機用にジオンが用いている榴弾では至近距離でも無効化出来る。連中は偵察、それも本当にそれだけのために来ていたはずだから、こうしてしまえばこちらへ有効な手段が接近しての格闘以外選択肢が無くなる。そしてそこまで出来る度胸が目の前のパイロットにあるとは思えなかった。

 

『逃げる!?』

 

案の定と言うべきか、バックアップのもう一機がこちらを牽制する内に背中を見せて飛び去っていく。追いかけようとする2号機を制止しながら、もう一機も飛び去るのを俺は見送り、完全に射程外となったところで漸く問いかけた。

 

「それで、2号機のパイロット。お前は誰だ?」

 

 

 

 

「敵は引いたか、基地の被害状況は?」

 

ホワイトベースのブリッジでパオロ・カシアス中佐はそうオペレーターに問いかけた。艦を守る為にミノフスキー粒子を散布したが、早計であったと彼は密かに後悔する。接岸している艦など恰好の的でしか無い。誘導弾に対する防御は必須であったとは言え、結果として基地との連絡を有線回線のみに限定してしまう結果となってしまった。

 

「搭載予定のMSは何機か損傷したとのことです。ですが軽微であり運用に問題は無いそうですが…」

 

「どうした?」

 

「パイロットが、全滅だそうです」

 

オペレーターの言葉にパオロは眉を顰める。

 

「全滅?ではあのガンダムを動かしているのは誰だ?」

 

外部の映像はモニターである程度確認が出来ていた。侵入してきたジオンのザクに対して、2機のガンダムが応戦、これを退けている。最初の丸腰だった方は少々危うさを感じたが、続いて出てきた武装した方は熟れた動きをしていた。あれが素人の動きとは考え難かった。

 

「はい、3号機にはテストパイロットのディック・アレン少尉が搭乗しているそうです。ですが、その、2号機は」

 

「何だ、はっきり言ってくれ」

 

「は、はい。その、2号機には民間人が乗り込んでいたそうです。現在基地の方で拘束するべく準備を進めているとの事ですが」

 

余りにも暢気な行動にパオロは頭を抱えたくなった。

 

「それは基地司令が言っているのかね?」

 

「はい、いいえ中佐。既にベッケウワー司令は戦死されております。現在は警備部のイグチ大尉が指揮を執っておられます」

 

「…2号機の搭乗者は私が要請した民間協力者だ、拘束の必要は無い。それよりもアレン少尉と協力して一刻も早く救助と物資の搬入を行わせるよう伝えたまえ」

 

無論民間協力者などでっち上げである。しかし今の彼等にはそんなことに構っている時間が余りにも惜しかった。何しろ敵は殆ど無傷で後退しているのだ。何時連中の気が変わり、再襲撃を受けても不思議では無い。ならば使える物は最大限利用すべきだとパオロは考えた。

 

(確認出来たザクは2機、偵察だとしても、サイド7までMS単独でなどという事はあるまい。ならば少なくとも母艦となる艦が1隻は居る筈だ)

 

1月に元サイド5宙域で発生した海戦、通称ルウム戦役で両軍はかなりの数の艦艇を喪失し、未だ回復していない。損害自体はジオン側が少なかったものの、元々の工業力や人的資源の差が出ている形だ。先ほどの敵の行動から、これが偶発的な接触であると考えたパオロは、敵の数は決して多くは無いと推測した。尤も、例え少数であろうとも熟練の駆るMSが相手となれば、連邦軍の最新鋭艦でも心許ないと言うのが彼の本音だったが。

 

「コロニー外の警戒を厳とする。敵は少なくとも1隻以上の艦艇を伴う戦力である。最悪一戦交える事になるだろう」

 

最悪とは言ったものの、パオロは確実に発生するだろうと確信していた。MSの性能を調べた以上、艦の方も調べないわけが無いからだ。そしてその予想は程なく齎される敵艦発見の報により確信へと変わる。

 

「不味いな」

 

MSのサポートを受けている事で被害に比べ作業自体は順調と言える。しかし敵の動きの方が明らかに早い。このまままでは再襲撃を許すのは火を見るより明らかだった。

 

「確か、このベイには掃海艇があったな?」

 

制帽を深く被り直し、パオロはそう確認した。

 

「え?あ、はい。記録上デブリ処理用のものが1隻係留されていますが」

 

「確かパイロット課程上がりの候補生がいたな、彼を呼んでくれ」

 

そう言うとパオロは床を蹴って出口へと向かう。

 

「回収が済むまで、何としても敵の足を止めねばならん」




でもエアリアル君ちゃんのクソ重感情も大好きです。

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